ターシャ泉の巫女I
「私は確かに彼氏の容姿を気に入っています。クラス男子では一番、美しい。しかし、アナタほど綺麗な人間なんて私は見たこともないです。神々しくてまる で………神仏そのものです。彼氏を捨てることでアナタが手に入るなら。私は手段を選びません。彼氏はそれぐらいです。きっと私と別れても私の彼氏はすぐに恋 人ぐらいできますから。アナタの美しさは……宝石並みです」
『……』
マナナは顔が真っ赤だ。それから黒い瞳は照れたように潤んでいる。 嘘だろ? 本当なのか? おい……。
「私は綺麗な人に弱いんです。あなたが最高です。私の人生で。初めて会った時からもうドキドキして」
どう反応すれば良い。俺は悪いがノーマルだ。キセキも不憫に感じる、マナナに騙されて……レズと共に生きる人生を選ぶのかもしれない。
『貴女が善人になれたら友達になることを考えましょう』
しかし……。クラスは確かにつまらない。キセキも少しはこたえれば良い、アイツ……ちょっと、モテ過ぎだ。他の男子からも苦情が数多来てる。…… それから俺は毎日、中傷されるのも嫌がってる。命令することにした。
「良いんですか? 嬉しい……」
マナナは顔を真っ赤にして涙を流して……。それから手で顔を拭ってる。 どういう場面なんだ?
『友達ですよ。それぐらいなら……。 貴女が善人になれたら考えても良いでしょう。もう、ミサも終了しました。私は帰ります。貴女も夜道、気を付けて』
今日はなぜか……心配して労う言葉が出た。確かに……マナナのことは……将来が心配にはなった……。今日一瞬で。
「泉の巫女様。ありがとうございます。これからは頑張ります。泉の巫女様はどこへ帰るんですか? やっぱり泉の底ですか? 夜、泉の底は暗いですか? この泉…中心部は沼地ですが……底はどうなってるんですか? いろいろ聞かせてください……」
マナナから背を向けて歩き出した…。禁断の”関係者以外立入禁止区域”の白い架け橋だ。橋の下にターシャ泉が流れる。月が水面に映ってる。
返事はしない……。言葉すら見つからないレベルに…。頭が止まってる。
「今日も泉の巫女様の髪が…夜に輝いてる。とっても綺麗。私達、お友達になれると良いですね……」
後ろからマナナの声だ。もうそろそろ帰った方が良いと思う。マナナも一応、ああ見えて見た目は女だ。夜は危険だろう。 というか混乱してる。
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翌朝も学校へ通う。木曜日になる。もう最近、ずっと家では溜息ばかり続いてる。それはまあ、そうもなるだろう……。
教室へ到着すれば……。
腰まで伸びた茶髪をクネクネと動かせ、眼鏡を光らせて―――ミルルが、常の通り、キセキへアタックしてる。キセキは自分の茶髪を手で掻き毟り、茶目を右や左へ動かして忙しい。
≪キセキさん、付き合ってくれないかしら? ミルルとよ! ≫
Uキセキくん、マナナと別れたんやって? ウチにしてや、てへ♪ U
||キセキ君…あたしは…純情だから。マナナみたいに優柔不断じゃないわよ……? ||
「まさか……マナナから……昨日……メールで振られるとは僕も思わなかった……。確かに……僕も塾へ夜は通って、マナナはつまらなかったかもしれない……」
キセキは少しは凹んでるのか……どうか……。二人は両親公認の仲、許婚らしい……。振られたことを少しは反省してるのかもしれない。 まあ、復讐は成功なのかもしれない。 キセキもモテすぎだとは感じていた。 マナナは……自分の席に座って……真面目に勉強をしてる。こんなことは初めてだ。
マナナが座る席の方向を観察した。 茶眼茶髪長身の体躯・……我が友、キセキは…自分の教室内指定席へ着座してる。
そこで…。学ラン着たキセキが俺の元、教室の扉付近へ走り寄る。
「タリア。おはよう。聞いてくれよ……」
『ああ。何があったんだ? キセキ、おはよう』
さっきの会話で……聞こえてはいたが……。
「僕は……マナナに昨日、メールで振られた」
『そうか……』
マナナの方角を眺めた。マナナは…真面目に勉強してる。全然進んでないのか。分からないらしく。 肩揃えな黒髪を呻きながら左右へ揺らし、首を振り…頭を抱えて、マナナはすぐに……机で……寝込んだ。いつもは……キセキから宿題のノートをねだっては 奪っていた。 一瞬、ボーっとなった……。全然、違うことを考えてしまってた。
アイツがレズだと言うどうしようもない事実だ……。誰もが混乱する。キセキにも言いにく過ぎる……。
「僕も確かに塾ばかりだった。塾でそれを知った……」
『そうか……。それなら……おまえは今、一人なのか……』
「それがまた……塾でも告白された。そのときすぐにだ。僕はどうすれば良いんだろう。付き合うべきなのか……。それとも受験までは控えるべきか……」
モテ男は心配しなくても次から次へと来るらしい。信じられない世界だ。
『おまえ……。マナナに未練はあるのか? 』
「別にないと言えば嘘かもしれない。しかし……塾にも気になる子がいるし……。僕はクラス中の女の子、全員好きだ。一人に固められないのが本音だ。この世には素敵な女性で溢れすぎてる。僕が迷うのも仕方のない話だ」
いつもこう言ってる。キセキは……。
『おまえ…まさか…。塾ばかり行くが…。塾に気になる子がいるのか…? 』
キセキの台詞を借りて反復しただけだ。
「塾にいるのかもしれない……。塾にいるバイトの子も好みかもしれない。しかし、毎日……決めかねてる。選択肢を一人へ絞れない……。それぞれの花に良いところが有り過ぎる……」
『そおか……。3人トリオは不憫ではある……』
「マナナにそれがバレタのかもしれない。確かに僕は塾に通ってばかりで……構ってあげられず……」
『マナナのことは忘れろ』
マナナはレズらしい、ドン引きだ……。
「タリア、君がマナナのことをぼろ糞に貶さないのは珍しいな。いつもならここで。マナナは売女とでも批判するのかと思った。それか優柔不断な股の緩い恋愛脳女とでも……。貶しまくって、僕の傷心を慰めてくれるとばかり思ってた……」
『俺は……おまえの味方ではない。自分の味方だ。お前はモテすぎだ、一度ぐらい、痛い目にあえ。俺もモテたい』
「君も冷たい人間だな。まあ、頑張って三人トリオ……ミルルを落とせよ」
『……』
「ミルルは残念だが僕にうるさい。僕は塾にいるバイトの子だけだ。あとの希望の光は……。それか……喫茶店のバイトの子だ。僕はミルルだけは好みではない」
確かにマナナはモデル体型ではない。
「それ以外にもよくバス停でバッタリ会う……名前の知らない子も。僕のストライクだ。僕は割りとストライク……多いのかもしれない……。貧乳から巨乳まで平等に好きだが……何故か、ミルルだけが……ピーンと来ない」
キセキはこんな調子で俺といる時は女の話ばかりだ。どれだけ女が好きか分からない……。普通の男はそうだし、普通の女もそうだと思っていた……。マナナはアブノーマルだったらしい。
『まあ。キセキならすぐに女が出来るだろう。 慰める気にすらならない。お前はモテすぎだと前から思ってた……。 自慢にしか聞こえなかった、ずっと……』
「そうなのか……。しかし……。僕はマナナは割りとストライクだった。それなのに……。一瞬、塾にいるバイトの子に目移りしたばかりに……。僕が塾に行ってマナナに構わなかったから……。僕はとうとう見捨てられたらしい……。帰って来てくれるだろうか? 」
『…………』
キセキが女好きすぎることを知ってる。だから一人に決められないと言うことも。まあ、マナナもキセキと付き合えばすぐに肉体関係を迫られそうではあっ た。俺達二人はそんな”SF小説”しか読んでないからだ。マナナの性癖があれだ。キセキも忘れるしかないだろう。 キセキには伝える気には全然なれない。今日は平和な1日かもしれない。俺も今のところ…マナナから一度も容姿を貶されてもない。
マナナは必死で勉強はしてるが……進んでないらしい。 全問、末尾ページにある模範解答をノートに書いてる。相変わらず、成長のない奴でもある。 俺の幼馴染は変わってるらしい。――― 今日はモテ男、キセキが…初めて挫折を味わった日だ。機嫌は良い。仕方ないから、マナナもキセキも俺の幼馴染と認めてやろう。キセキは…ずっと、俺とマナ ナが揃って、幼馴染と思っているらしいからだ。
『まあ。この”SF小説”貸すから機嫌直せよ……。キセキ』
鞄に入ってたものを渡した。と言うかここで渡すとも思わなかった。これでも読んで慰めにしておけと言う意味だ。
「僕の好みのキャラがいるか? 」
『何人か女性キャラならいる。お前なら喜ぶだろう』
俺は…本音を話せば、この小説の初期話が最高傑作で、一番好きかもしれない……。まあ、ミステリー調に段々、展開してはいるが……。キセキならこういう話の方が好きそうだ。
核を防ぐレベルの防空壕な挿絵が今期の小説ではある……。女性キャラが一気に増えたなあという感想だ。キセキなら女性キャラが増えれば増えるほど、無限大に喜びそうだ。
何か……突然、スクール水着とか……。チアガール……。ナースや警察官に女子大生など、レオタードを着た新体操の女性……。それから、スチュワーデスとか増えまくってる。
まあ、読んでて楽しい。そこは認めよう。キセキなら死ぬほど喜ぶ展開だろう。
「そうか……。それでは借りるよ。ありがとう、タリア。僕、恩に切る」
俺が教室、扉付近で本を渡したところで……。3人トリオと……ミルルの会議が終わったのか……。俺の元へ……キセキ目当てに眼鏡系女子ミルルなど―――女子3人トリオが押し掛けてくる。
どうせここからまた色仕掛けでも……。キセキにするつもりなんだろう。キセキはモテすぎる。やはり、面白くはない。 しかし。まあ、キセキの挫折は俺にとって蜜の味だ。機嫌最悪とも言い難い。
腰まで伸びた茶髪を背中へしならせて、眼鏡系女子ミルルは必死に俺の前で…キセキにベッタリ引っ付いてる。CM女優としても活躍してるし、クラスで一番……美女だと男子たちが噂してるが。
キセキはミルルから苛められた幼児時代黒歴史のせいで、未だにトラウマがあるらしい……。
童子時代、ミルルから≪女々しい、女っぽい!ミルルより可憐なのは許せない!≫と……キセキは連日、足蹴りをされていた。
≪キセキさん、ミルルを好きになって……≫
「君は……。タリアが君を好きだから……。それに僕も他に好きな子が……」
≪月神さん? ミルルのこと好きらしいけど……。ミルルは月神さんには興味すら沸かないから……。嫌いとかじゃないけど……。ねえ、キセキさん、ミルルにして≫
あれが前まで、マナナが邪魔して出来なかったのを知ってる。キセキはミルルを好いてないのか……マナナを見てる。まだ未練があるらしい。
モテ男は本当に羨ましいとは思うが。挫折したのか表情が暗い。 キセキは……マナナに引っ付かれてた時の方が明るい顔だった。マナナとミルルは確かに正反対だな。
「はあ……。僕は塾でも昨日、告白されて……。その……ミルルよりは有力候補がいて……」
キセキも塾にも本命がいるらしい。固まれよ。とは思う。マナナは昨日知ったが……。アレは無理だろう。諦めた方が良いだろう。
Uウチにしてって。ウチ、幼児体型とか言われるけど…。尽くすから夜も。下ネタもするでU
||あたしは品のないことなんてしないわ? 手料理も凄いし……それから慎ましやかで……クラスでも好評だから……。えっと、その……キセキ君? あたしなんてどうかしら? ||
それにしてもキセキは本当にモテる。呆れてはいる。俺の机の前で…凄い光景だ……。女子3人が…キセキに猛烈に言い寄ってる……。ミルルも含めて女子3人トリオは……俺を無視して、ベタベタとキセキに構ってアピールをしてる……。
俺はクラスではミルルが好きと噂が流れているというのに。キセキも大胆でもある。 まあ、今日はキセキが挫折を味わった日だから最高に機嫌が良いが。
――一方、マナナは自分の机で寝てる。
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放課後……。俺は鞄を持って、ターシャ泉へ通う。もう何年もそうだ。俺が幼児時代は…母親に背中で抱かれたまま、3歳ぐらいまでそうだった。それから… 6歳程度までは母親と一緒に向かった。7歳から10歳を期に…母親も神事に忙しくなり、来なくなってる。何故なら……一応、俺と母親が行ってる時、母はカ ツラと白いターシャ教の面までして顔を隠してる。素性が俺はバレる訳にはいかないからだ。
ターシャ教公式な御面は右半分がオレンジ左半分が紫な鬼面だ。右半分は笑顔、左半分は泣き顔をモチーフにされてる。夜と昼を象徴する面らしい。 ターシャ祭の時にも、ターシャ教公式鬼面は売ってる。自宅で鬼門へ飾れば…魔除けにもなる。俺が暮らす実家――――”ターシャ神社”にもこれが飾られて る。 神社には十字架まである……。
ターシャ教が祀る神々へ祈りを父も母も毎朝そこで欠かさない……。
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夜、7時前になれば……。俺は必ず……ターシャ泉にいる……。もう生まれてからずっとだ。骨折など許される訳もない。そういう宿命にある。 ターシャ泉から半径1km離れた東側にある地には……”関係者以外立入禁止”と表示された看板と……。青いテントがある。ここら辺へ着けば……体が反応し て……性転換し始める。 体は透き通り……クラゲのように光り出す。
今日は緑色に光ってる。魚が…性転換を起こすが如く…この泉から出る波長はなぜか…体を狂わせる。これが月神家の血筋へ掛けられた呪いらしい。
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