ターシャ泉の巫女J
月神家は……突然変異で……。昔、人間に文明もなかった頃。もっと文明の先を進んでいた”神様”が…空から雷を当てて……毎日、科学実験したが……。失敗して生まれた血筋だという伝説すらある。
元々……この泉に生息してたクラゲみたいに蛍光するクマノミに似た魚をとても気に入っていた”神様”は……。自分より低脳な人間がその魚を乱獲することに対して、腹を立てたらしい。
その後…その魚と人間を掛けあわせて……。”神様”は人面魚を造ろうとしたが……。てんでダメで、失敗したから捨てた人間が…月神家の発端だとすら言われてる。
もうその時代に生きてた魚は…太古に絶滅したらしい……。だから……”神様”が気に入ってた魚の遺伝子がある”月神家血縁者”がココへ訪れば……。”神様”の怒りが収まる……。――――これが月神家に伝わる昔話でもある。
聖書では”ミサ儀式神殿から続く場所に異世界への扉があって、泉の妖精様は異世界から生まれた……”神様”が作成した半漁人”となっている。―――まあ、寓話だろう。
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この青いテントも……かなり頑丈な造りだ。テントと言っても……鉄筋だ。お蔭で……長年、耐久してる。村が重要文化財に指定して……補修はしてるらしい。昔ながらの造りをしてるテントでもある。
そこで白いドレスとベールに着替える。そこに全身鏡がある。緑の光に覆われた浮世絵離れした人間味が少ない神話的生物がいる。草飾りの髪輪をしたら……ミロのビーナスに若干近い。
そこから、湖にかかる……細くて白い橋がある。”関係者以外立入区域”と表示された看板先にだ。
これを渡れば……連日、出勤する仕事場だ。夜道、自分の周囲が緑光に覆われてる。村の守り人として、赤いテントへ今日も出向く。――三日月月が天井に出てる。
湖は透き通るように清い水で満たされてる。空に浮かぶ三日月を鏡反射して映し出してる。白い橋を渡って、赤いテントに辿り着けば……。――――まだ今日は6時30分だ。
少し早いが…。玄関前で、マナナが…待ってる。鍵を閉めてる。赤いテントにある玄関扉前で、俺は立ち止まる。首に掛けられたネックレスに吊るされた鍵で……開ける。
「こんばんは。泉の巫女様」
相変わらず、夏服水色セーラー服だ。
『……』
扉を開けて……それから十字架前にある机前に設置された椅子へ座り込んだ。机上には…ステンドグラス模様な絨毯が敷いてる。
床は……木目調だ。それから天井は鉄筋だ。ここも重要文化財に指定はされてる。今日も日課で、この椅子にいなければならない。手洗い場も一応、右手にはあるが……。あまり、使用してない。
2時間程度なら耐えられる。夏は冷暖房もついてる。村から施された御厚意でもある。
逆を言えばここまで……この施設に力を入れる理由は……。やはり本気で祟り神がいるとでも言うのだろうか?
平和ボケして全くピンと来ない。
女体化を既に済ませてる。自分の長い金髪が……机へかかる・……。白いドレスは……ノースリーブだ。
確かに。ミロのビーナス誕生絵図によく似てると評されるが……。美人で得なことは、ターシャ祭で男性客から絡まれる事だけかと思ってた。あれは……実は嫌がってる……。
ここの村の信者達は、意外に……泉の妖精と言われる美女に対して、優しすぎる……。これは喜ばしきことだ。
「えと……。私、今日は……。彼氏とは別れました。それから……一日、大人しくいました。あと……勉強も頑張りました。嫌いな体育の時間も真面目にサボらず、しました。これで私も泉の巫女様と友達になれますか? 」
マナナは顔がウットリと赤い。今日はオカッパな黒髪が落ち着いてる、時々、アホ毛が出てるが……整えて来たらしい。めかしこんでる。いろいろ突っ込みどころはある。
『……』
現場が……緑からオレンジの光に包まれる。女体化の時は、全身が発光ダイオード状態だ。常日頃、まるで見世物小屋の様に……女性客はそれを携帯電話で撮影をするが。……今、本気で言葉すら出てこない。
「無視なのですか? 私の目を見て下さってはいるのに……。どうして、何も話しかけて下さらないのですか? 私は従者にはなれないのですか?」
『私は…』
何と返答すれば良いのか。数秒以上経過して沈黙を破ったのはマナナだ。
「やっぱり私のことを嫌いになりましたか? しかし、私は……本気でアナタのことが好きです」
『……』
放つ光がオレンジから赤へと変貌する。地面を見た。この空気は重い。破りたい。真面目に暴れそうでもある。
「私はずっとアナタしか見てません。泉の巫女様を我が神のように崇拝してます。命令ならどうか何なりと言って下さりませ」
逆に崇拝されてると言われた方がまだ顔も見れる。マナナの顔へ視線を移した。マナナは黒目が潤んでる。俺はまた机にあるステンドガラスな紋様な絨毯を眺めた。
俺には無理かもしれない…この勤め。今、赤いテントから逃げ出してみたい。こういうのに対応するのが一番、苦手だったりする……。
「ダメなのですか…? お友達は…。従者でも。下僕でも良いです。何なりと私をつかって下さい。愛してます」
机を見詰めて目を瞑った。頭が狂いそうでもある。今、レズから猛烈に言い寄られてる……。どうすべきなのだろうか? 二択が頭に浮かんだ……。
「私は……。泉の巫女様が最初に見た時から神々しくて尊敬の情すら沸きました。ずっと隠していてごめんなさい。でも……本当は」
『黙って下さい』
「え? 」
溜息を吐いた。
『今日も仕事です。貴女は黙るべきです』
「えと…」
『うるさいです』
もう本気で対応すら出来てない。いろんな意味でマナナは痛い女だ。
「私は…」
『それ以上、喋ると。私は貴女が大嫌いになります』
他に言いようもなかった。しかし……。効いたらしい。マナナは泣きそうな表情でもある。俺はもう困り過ぎてる。
『少し頭の整理をさせて下さい。今日も仕事ですから。私は。神仏に身を捧げる……そんな人間です。恋愛とは無関係な定めにいる人間です。理解して下さい』
「ごめんなさい……」
マナナは泣いてる。そこまでショックなのか? もういろいろ困り過ぎて、眉を潜めた。
それから机上へ肘を付き、両手で頭を抱えた……。長髪で自分の顔を隠した……。視界を遮った。目はつぶった。
―――見ない、聞かない。整理したい―――と言う意味だ。
「集中するんですね。私、待ってます……」
まだ喋ってる。何も返事など、する気にならない。
『……』
こちらも辛い状況だ。これはどうすれば良い? 真面目にマナナは…いろいろ酷い女でもある。溜息ばかり最近、出てる気がする……。今も吐いた。――溜息を吐けば幸せが逃げるとは……昔、聞いたことがあるのに。しないとスッキリ出来ない。
俺はノーマルだ。マナナはアブノーマルだ。それを昨日、知った。
俺は女が大好きだし、ノーマルだ。これはまたとないチャンスなのかもしれないが。来年、18歳の誕生日を境に……。誕生した時間を瞬間として……この役目からやっと解放される。
昆虫が変体するが如く、不思議な能力を失う。先代に同じ役目を勤めてた俺の叔母さんもそうだったらしい。
いろいろ酷い状況でもあるが。普段、全然……モテない。今しか利用が出来ないのか? コッチはノーマルだ。何故、この姿でいる時にしかモテない?
――瞬きをした。俺もモテたい。キセキが憎すぎる。決意はした。意外にアッサリしてた。しかし、少し……かなり迷いもあった。黙っていれば、バレナイ自信もあるが……。
『良いでしょう。貴女が望むなら友達とは言わず。交際しても』
悔しいが……男でいる瞬間、モテない。今を逃せば、絶対後悔する。それが分かる。そう言う回答だ。
顔を上げて、マナナを見た。マナナは目が点になってる……。口が小さくあいてる。
「え? 」
『貴女の性癖には悪いですけど……。私、死ぬほどドン引きはしました。貴女にはしないとは約束しましたが……』
嘘は一つも言ってない。流れるように言えた。
「では、どうして……。許して下さったんですか? 私が善人になれたからですか? とても嬉しいです。ありがとうございます」
マナナの頬が赤い。微笑んでる。照れてるらしい。
俺はモテない。手段なんて選ぶ暇もない、女がいればそれで良い。男の時、モテなさすぎる。どうせ、この役目が終われば……もう女すら無縁になりそうだ。レズなんて嫌に決まってる。
だが……花がない人生は疲れた。人生にはエロや癒しも必要だ。
『その代り。私の命令にはとことん、付き合って下さい。貴女はまさか……私の体を狙ってるのですか? 』
もうハッキリ聞いた。悪いが下心しかない。やっと女が手に入るということぐらいだ。
尋ねて赤面したのを自覚した。もう悪いが、俺はノーマルだ。マナナも釣られたのか頬が紅色だ。
「えと……。 私は……そのとおりです。アナタの肌、触れたいです。その発光してる肌、どういう仕組みなんですか? 」
逆に停止した。良いのだろうか? 本当にこれで…。展開がスムーズ過ぎる……。今、桃色光に覆われた神話の女神に変貌して…現実味の少ない天使だ。
瞬きをした。今、迷ってる。騙して触りまくっても良いのか? 犯罪にならないだろうか? 伝えなければバレナイ自信はある……。 しかし、念願の女体が目前にいる。
でも…早い気もする。確かに……来年、この役目は下ろされるが……。だが……どっちにすれば……。
「あの……。触っても良いですよね? いつか……。私のこと、好きですか? えと……いつか好きになってもらえたらな」
いろいろ止まってる。レズが女の体に欲情すると言う噂は本当だったらしい……。都市伝説かと思っていた……。何だか、体を狙われてるらしい……。
「この前のキス、心地よくて」
机を凝視した。目が泳いだ。やっぱり逃げたい。
時間を見た。もうすぐ開館だ。
『もうすぐミサの時間ですわ。貴女はどこかに行ってください』
相変わらず突き放してしまう。冷静にならないと仕事へ専念も出来ない。
「待ってます。終わるまで」
混乱して首は下を向き、机しか見てない。対して、マナナはコチラへ色目線を注いでる。
どこまでマナナは…レズなのか? 本気で驚きまくってどうしようもない境地でもある。良いのだろうか? これで?
―――そこで今日の客がやって来た。
[まあ。神々しく美しいターシャ神に愛されたと言う泉の妖精様。私の願いを叶えて下さりませ。フィアンセとの結婚がなかなか決まりませんの。私の言葉から逃げてばかりで……あんな奴! 結婚が早まるように私に力を……!]
結婚適齢期な女性か……。女性はこんな悩みも多い。マナナはあんな性癖だが……一生、結婚はしない気なのか? 突っ込みどころばかりだ。
『分かりましたわ。私は神に仕える身。汝に力を与えましょう』
いつもどおりな会話だ。
『瞳を閉じて下さりませ。それから、私の元へ手を差し出して下さりませ』
言ってる間もどうせ……後ろからじっとりマナナは見詰めてる。――――気が散る。目を閉じて…力を与える作業へ集中する。雑念は全部消す。その方が楽だ。今、オレンジ光に……周囲が覆われてる。
[何だか……。手が暖かい……。ああ。力が沸いて来るようです。さすが……見目麗しき神に愛されたターシャ神の化身…]
女性の手を握れば……。何か呻いてる。いつものことだ。
『終わりました……。これで力は入ったでしょう。汝の元へ』
[本当に夢のように美しき女性ですね。髪が桃色から橙に変貌して光っているわ……。全身、微細に光ってるのね。アナタ……本当に人間なのですか? ]
『……』
ターシャ教は国教で村では誰もが崇め奉るってる。宗教の力は絶大だ。
[確かにターシャ神話そのものだわ。さすが正統の血筋が流れる”泉の巫女様”は……凄いわ。えと……サインくれないでしょうか? 巫女様。私……ここにまた通いそうです。今度は……出産願いの祝いで……]
来る人来る人、初対面で崇拝される状況にある。これは神から送られた化身を認める類な褒め言葉だ。まさか……マナナみたいにレズとして誘ってはないと思い続けてる。普通、それはないだろう……。
[えっと……祈祷料以外に。どうしても叶えてもらいたい願いなので……。お布施も入れても良いですか? ]
『お好きにどうぞ。汝に神のご加護がありますように……』
決まり文句だ。
[あの……その代り、その光る長い髪に触れても……]
「ダメです。巫女様は嫌がってます」
視線が横に動いた。ミサ内部を覆う明かりがオレンジから赤になる……。マナナは…隣で机へ座ってる。これが一番、困る。
[アナタは…何なんですか? セーラー服を着てますが…]
『すいません。私のファンです。私がココでお祈りをしてれば……。今まで何名かの方がリピートして通って下さってます。皆様、私が与えた力で人生に活力が 沸いたみたいで……。願い事が叶う方が多いようです。それは……とても私としても嬉しいです。これからも私は神仏へ身を捧げたいです』
適当に誤魔化した。息が苦しい。
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