ターシャ泉の巫女H
『良いでしょう。 終わったら帰って下さりますか? 』
「はい……。えと……」
マナナの…手を握った。マナナの手は身長に相応しく、紅葉のように小さく…プニッと肉厚がある。 力を与えるのは高校入試以来だ。毎回、マナナは神頼みだ。
『目を瞑って下さい。そのあとに手を出してください』
「目を瞑るのですか? 」
『その方が私が集中しやすいので力を送る時に』
確かに……前、女子大生が来た時も目を瞑ってくれた方が集中できた。
「分かりました。お願いします。泉の巫女様」
マナナが目を閉じて手を出して来る。マナナの手を握って。それから俺も目を閉じて力を送るイメージをする。 結構集中がいる…。 暖かい力がこみ上げてくるようだ。 今日は成功したのかもしれない。手が熱い気がする。
「何か手が暖かいですね。これが力なんですね……」
マナナへも伝わったらしい。疲れたから数秒、休みをもらった。数秒の沈黙のあと、マナナへ声を掛けた。
『それでは終わりです。目を開いて下さい』
「泉の巫女様……」
マナナはコチラを見てる。
「コレ、祈祷料です」
『……』
祈祷料は一回1000タ$。これは一応、受け取る。そう言う仕事だ。
「あの……力が沸きました……」
『……』
それは友達になるパワーが沸いたということか? どう反応すればいいのか。 瞬きをした。
「お願いです。私は何でもします。泉の巫女様を崇拝してます。こんなに綺麗な妖精さんを見たのは初めてです。今も、後光が光ってる……。どこの世界から来たんですか? 」
―――実際、体全身が今も光ってる。赤紫光りだ。
「何でもするので友達になって下さい。昨日は足も舐めたし、キスも出来ました。何でもします。もう、私……綺麗なものに弱くて」
やはりそうなのか……。本気でまさか。
『貴女はレズなのですか? 』
ドン引きもある。
「違います。私は純粋に綺麗なものに弱いだけです。アナタを最初に見た時からこんなに美しい人間がいるなんてって。どこの世界の人なんですか……」
こういうセリフは違う客にもよく言われるが……。なぜか……マナナに言われると……。変なふうにしか俺は解釈できない。異常を感じてしまう。これはどうしてなのか?
「アナタを崇拝してます。私も神様の仲間にして欲しいです」
よく村人にも世界中の人間にも神童として……。この時間は村の守り人として崇拝されてる。 しかし……。何故なのか? 知り合いに言われると……ドン引きレベルの台詞だ、これは。
「これは私が泉の妖精さんへの友情の証として……。つくったクッキーです。どうか、食べてください……」
『……』
マナナからのクッキーだ。意外に前、貰ったが食べれた。 毒は入ってなかった……。
「私はアナタのことが好きです。こんなに綺麗な女神様を見たことありません。私の家族もターシャ教でターシャ神を崇拝して……。ターシャ泉で行われるターシャ祭では毎年、幹部をしてますわ。お願いです。私を何としてでもアナタの友達に……」
『……』
やはり……熱烈だと思ったら……。熱狂的な……ターシャ教の信者だったらしい。 どう反応すればいいのか……。
「どこまでもついていきます。毎日、10年通って。確かに成績は上がりました。高校に入れました。まだ成績は良くないですが……。ここでお祈りしてもらったことは叶うと信じてます。お願いです。友達になって下さい」
マナナが手を握ったまま、頼み込んでる……。 友達になどなる気はないというのに……。
「生き神様を見た気になれたんです。初めて……泉の妖精さんを見た時に……。どうか……お友達に……。もうずっと、頼んでますが……」
『……』
この役目、来年で下ろされると言うのに。 ――溜息を吐いた。
「ダメなんですか? 何故なんですか? どんな命令にだって猛烈なのだって私は従います。殺人や自殺の強要以外なら何でも……。私を従者にしてください」
『……』
いろいろ遠い目だ。
「あと……もう一度、泉の妖精さんの髪に触らせてください。星のように輝いてて。とても触り心地が良くて。さすが妖精さんは違いますね。髪の毛、一本持って帰っても良いですか? 」
それはダメだ。ターシャ泉1kmを越えれば男の髪に変わる。良くない。ダメだ。
『それは許しません……』
「ええ? 触るのだめなんですか? 私、感動したのに……」
マナナの顔が赤い。よほど興奮してるらしい。
『貴女は綺麗なモノなら男でも女でもどちらでも好きになる性癖なんですか? 』
「え? 」
毎日、学校でキセキをイケメンと崇拝してるのに似てる気がしたからだ。
「それは……」
『貴女の崇拝は異常です。連日ココへ通う方もいらっしゃいますが……。その中でもひときわ目立って、いつも来ますよね? 』
マナナ以外にもスピチュアルに嵌まってる女子大生も週に1回程度は来るが……。マナナが一番多い。 拝観料を払い、力を授かりに来るわけでもないのに……。
「えと……。あの……。私は……その……」
『……』
考えてみれば…ここでマナナと友達にならないと…。 力を授けたのに…叶わなかったと悪い噂が村に流れる。商売上がったりだ。
「えと……。あの……」
『はっきり言ってください。いつも何故、そこで言いよどむのですか? 成績アップの願い事については叶えた筈です。高校受験の時に』
あの頃は中学で……キセキと同じ高校へ通うと言ってうるさかった。その次は……キセキと付き合うために成績上がりたいと学校でうるさかった。でも……そ れも昨日で終わってる筈だ。まだ、どうして通ってくる? 聞いてみたい。コイツの思考回路は本当に変だからだ。学校でもそれを感じ続けてる。 コイツぐらいなものだ、ハッキリと「醜い」と言う人間は。普通は思ってもあそこまで言わない。どこまで躾がなってないヤツなのか分からない。 コイツの考えは全く読めない。 勉強もここで頼んでる暇があれば……。家ですれば良い。誰もが思うことだ。どこまで馬鹿なのか……。
「あの……」
『答えられないなら友達にはなれませんね。残念ですが……』
「あ……と……」
何故か。マナナの顔が赤い。モジモジしてる。照れる理由なのか……? 何だ? ココへ通う理由は…キセキならもう叶えただろ? 何か知らないが…とりあえず、交際は出来たみたいだし。いつの間にか許婚にまで発展してたらしいし……他 に何を願うのか? というか、他にあるのか? 願い事が……。
「えっと……。泉の巫女様、ドン引きしないでくださりますか? 」
『……』
今まで何回もマナナにはドン引きの連続だ。すぐに『そうです』とは承諾できなかった……。
「やっぱり良いです……。えと……」
『黙って聞きます。私はなんびとのも平等な泉の巫女……。ターシャ泉の精霊ですから』
これで良い。と言うか。何なんだ? 本気で……。
「私、実は……」
『……』
「男が無理で女しか好きになれないんです」
『え……』
沈黙した。
『あの……どういう意味なのでしょうか? それは……』
パニックになった。と言うか。マナナは学校でキセキと付き合っている。あれはどういうことなのか……。しかも、幼稚園時代から親交のある俺ですら知らなかったが……キセキと許婚 にまでなれたらしい……。これは俺を騙すための嘘なのか……。
『あの……貴女には好きな方がいると以前、私に話してたこともありましたね……。あれは……えと……』
「私は本当は泉の巫女様が大好きなんです。お願いです。私を友達にしてください」
『……。レズなんですか……』
「はい。大好きです」
『次のお客様がもうすぐ来ますので……。あとにしてください。空気が汚れます……』
「えと……」
『来ましたわ。私は仕事が忙しいので……』
「あの……」
☆「泉の巫女様……。いつ見ても美人ですわね? あの……私の大学でテストが……。もうすぐあるのですが……良い成績が取れるように祈ってくれないかしら? 」☆
『お安い御用です』
来たのは…俺の常連客の一人、スピチュアルに嵌まってる女子大生だ。
『目を瞑って下さい。汝に私は力を与えます……』
そこからまた何人か並んでる。仕事に頭を切り替えることにした。 マナナは俺の隣で座り込んでる。 ……悪いが混乱してる。物凄くドン引きしてる。俺は悪いがノーマルだ。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
今日はそのあと10名も捌いた。と言うか……今日は16名か。体もくたくただ。お腹も減ってる。 ギリギリの閉店時間間際9時にまで来た。 評判が上がってる証拠だ。 ココは喜ぶ。営業スマイルは出来てると思う。
『今日はこれでミサは終わりですが……』
[お願いですわ、忙しくて間に合わなくてね…それで…]
最後にお婆さんはギリギリだが入れてあげた。これも合して今日は16名。 終わった後に……。 ずっと沈黙が続いた。
――俺の隣に座り込んでるのはマナナだ。 あれからずっと大人しい。 何て会話すればいいのか分からないレベルにある。 こういうのをカミングアウトとか言うと……テレビでは流れてたが……。 学校にいるキセキはあれは……どうなるんだ? 彼氏で許婚なんだろ? どうなるんだ? レズなことを……キセキは知っているのか?
「ミサ……終わりましたよね」
最初に沈黙を破ったのはマナナだ。
『そうですわ。今日も大勢、神を頼って迷える子羊たちが……』
これは決まり文句だ。 神父口調になってしまった。
「今日はたくさん、お客様が訪れてましたよね? 泉の巫女様」
『……』
なんなんだ? このノリ。もう俺の友達になった気分でいるのだろうか? コチラの方がどちらかと言えば頭が付いていってない。学校にいるキセキは……。アレは何なんだ?? 今日、交際がめでたく開始された筈だ……。
「泉の巫女様。もう私も秘密を語った訳ですし……。私達は親友ですよね? これを話したのは私、アナタだけです」
『……』
悪いが全然、納得いってない。今日、俺がいる目の前で二人の交際が…開始されてる。
『私は……。不思議な力を持ってます』
「え? あの……」
『力を授ける以外にも持ってます。少しぐらいなら来ているお客様が生きてきた境遇が見えます』
「え? えっと……」
悪いがハッタリだ。こうでも言わないと……何故、知ってるのかと尋ねられる。さっき、仕事している間にもどういうふうに聞こうかとは頭を働かせてはいた。
『貴女は嘘を言ってます。私には分かります』
「何の話でしょうか? 泉の巫女様……」
『私は貴女の性格を知ってます。貴女は学校に既に彼氏がいます。それから…醜いモノに対して非難轟轟。私は心の狭い人間は従者として迎える気 にはなれません。神仏に仕える身ですから。貴女の性癖に関してはドン引きしないと言う約束で聞きいれました。しかし……貴女は嘘吐きでしかも……心が狭い 人間です。そんな貴女を私は友達としてみることは無理です』
「えええ……。泉の巫女様。信じて下さい。私は……確かに……。分かりました、これからは変わります。私は心を入れ替えて善人になり、人を見た目で判断せず……。それから……嘘も止めます。私は……自分の彼氏より泉の巫女様を崇拝してます」
いろいろやっぱりビックリ発言ばかりだ。キセキが不憫だ、許婚なのに……まさか、レズと……あいつ、一緒になるのか? 困惑しかない。
『貴女は……彼氏を騙したのですか? 私を騙してるのですか? どちらなんですか? 』
「え? どういう意味でしょうか? 」
『貴女は自ら私を崇拝してると宣言しました。しかし……彼氏がいる。別にそれは良いです。ただ、さっき、貴女は自らをレズだと貶しました。その事実とは矛 盾しています。他に理由があるんではないんですか? ココへ通う理由が……。私には嘘まで吐いて……何を隠そうとしてるのか……わかりません』
「え……」
『貴女には彼氏がいる。それが私の瞳に映りました。貴女は大嘘吐きですね。それから……心が狭い人間みたいです。そんな映像が一瞬、流れました』
素性がばれない様に話すのは割りと大変だ。
「違うんです……。私、どうしても……そんな自分が認められなくて……。とりあえず、彼氏さえ強引に作れば変われるのかと……。でも、本命は…ずっと泉の巫女様だけです。信じて下さい」
どう反応すれば良いのだろうか? パニックでもある。というか…キセキはどうなるんだ? 俺は悪いが来年にはこの役目、下ろされる。
『貴女は自分の彼氏を私利私欲のために騙していると? 』
「ごめんなさい。自分を認めるのが怖くて……。お願いです。心を入れ替えるので。私を友達に……」
『……』
本当なのか? 今、言われてもあの…学校や…それ以外も外での10年間が……。全く嘘だったなんて信じられるわけもない。ずっとキセキにアタックしてた 癖に。あり得なさすぎる……。そりゃ、ずっとミサへも通い詰めていたが。宗教が激化しすぎたせいで危険思考に陥ってるのではないか? しかも、お前ら許婚 なんだろ……。 突っ込みどころしか、今ない……。
『……』
「彼氏とは別れます。もう醜い人間を見ても文句は言いません。善人になります。だから……私を女神様のお友達に……」
『……』
悪いが本気で信じられない。キセキへ今日もアタックしてた。 しっかり目撃してる。
「信じて下さい。私を神の従者に。ターシャ泉の妖精様の仲間に入れて下さい。長年、アナタに憧れていたんです」
『彼氏のことは……。貴女は……嘘をついていたと……』
頭がこんがらがって来た。
←『G』
小説目次
→『I』
「はい……。えと……」
マナナの…手を握った。マナナの手は身長に相応しく、紅葉のように小さく…プニッと肉厚がある。 力を与えるのは高校入試以来だ。毎回、マナナは神頼みだ。
『目を瞑って下さい。そのあとに手を出してください』
「目を瞑るのですか? 」
『その方が私が集中しやすいので力を送る時に』
確かに……前、女子大生が来た時も目を瞑ってくれた方が集中できた。
「分かりました。お願いします。泉の巫女様」
マナナが目を閉じて手を出して来る。マナナの手を握って。それから俺も目を閉じて力を送るイメージをする。 結構集中がいる…。 暖かい力がこみ上げてくるようだ。 今日は成功したのかもしれない。手が熱い気がする。
「何か手が暖かいですね。これが力なんですね……」
マナナへも伝わったらしい。疲れたから数秒、休みをもらった。数秒の沈黙のあと、マナナへ声を掛けた。
『それでは終わりです。目を開いて下さい』
「泉の巫女様……」
マナナはコチラを見てる。
「コレ、祈祷料です」
『……』
祈祷料は一回1000タ$。これは一応、受け取る。そう言う仕事だ。
「あの……力が沸きました……」
『……』
それは友達になるパワーが沸いたということか? どう反応すればいいのか。 瞬きをした。
「お願いです。私は何でもします。泉の巫女様を崇拝してます。こんなに綺麗な妖精さんを見たのは初めてです。今も、後光が光ってる……。どこの世界から来たんですか? 」
―――実際、体全身が今も光ってる。赤紫光りだ。
「何でもするので友達になって下さい。昨日は足も舐めたし、キスも出来ました。何でもします。もう、私……綺麗なものに弱くて」
やはりそうなのか……。本気でまさか。
『貴女はレズなのですか? 』
ドン引きもある。
「違います。私は純粋に綺麗なものに弱いだけです。アナタを最初に見た時からこんなに美しい人間がいるなんてって。どこの世界の人なんですか……」
こういうセリフは違う客にもよく言われるが……。なぜか……マナナに言われると……。変なふうにしか俺は解釈できない。異常を感じてしまう。これはどうしてなのか?
「アナタを崇拝してます。私も神様の仲間にして欲しいです」
よく村人にも世界中の人間にも神童として……。この時間は村の守り人として崇拝されてる。 しかし……。何故なのか? 知り合いに言われると……ドン引きレベルの台詞だ、これは。
「これは私が泉の妖精さんへの友情の証として……。つくったクッキーです。どうか、食べてください……」
『……』
マナナからのクッキーだ。意外に前、貰ったが食べれた。 毒は入ってなかった……。
「私はアナタのことが好きです。こんなに綺麗な女神様を見たことありません。私の家族もターシャ教でターシャ神を崇拝して……。ターシャ泉で行われるターシャ祭では毎年、幹部をしてますわ。お願いです。私を何としてでもアナタの友達に……」
『……』
やはり……熱烈だと思ったら……。熱狂的な……ターシャ教の信者だったらしい。 どう反応すればいいのか……。
「どこまでもついていきます。毎日、10年通って。確かに成績は上がりました。高校に入れました。まだ成績は良くないですが……。ここでお祈りしてもらったことは叶うと信じてます。お願いです。友達になって下さい」
マナナが手を握ったまま、頼み込んでる……。 友達になどなる気はないというのに……。
「生き神様を見た気になれたんです。初めて……泉の妖精さんを見た時に……。どうか……お友達に……。もうずっと、頼んでますが……」
『……』
この役目、来年で下ろされると言うのに。 ――溜息を吐いた。
「ダメなんですか? 何故なんですか? どんな命令にだって猛烈なのだって私は従います。殺人や自殺の強要以外なら何でも……。私を従者にしてください」
『……』
いろいろ遠い目だ。
「あと……もう一度、泉の妖精さんの髪に触らせてください。星のように輝いてて。とても触り心地が良くて。さすが妖精さんは違いますね。髪の毛、一本持って帰っても良いですか? 」
それはダメだ。ターシャ泉1kmを越えれば男の髪に変わる。良くない。ダメだ。
『それは許しません……』
「ええ? 触るのだめなんですか? 私、感動したのに……」
マナナの顔が赤い。よほど興奮してるらしい。
『貴女は綺麗なモノなら男でも女でもどちらでも好きになる性癖なんですか? 』
「え? 」
毎日、学校でキセキをイケメンと崇拝してるのに似てる気がしたからだ。
「それは……」
『貴女の崇拝は異常です。連日ココへ通う方もいらっしゃいますが……。その中でもひときわ目立って、いつも来ますよね? 』
マナナ以外にもスピチュアルに嵌まってる女子大生も週に1回程度は来るが……。マナナが一番多い。 拝観料を払い、力を授かりに来るわけでもないのに……。
「えと……。あの……。私は……その……」
『……』
考えてみれば…ここでマナナと友達にならないと…。 力を授けたのに…叶わなかったと悪い噂が村に流れる。商売上がったりだ。
「えと……。あの……」
『はっきり言ってください。いつも何故、そこで言いよどむのですか? 成績アップの願い事については叶えた筈です。高校受験の時に』
あの頃は中学で……キセキと同じ高校へ通うと言ってうるさかった。その次は……キセキと付き合うために成績上がりたいと学校でうるさかった。でも……そ れも昨日で終わってる筈だ。まだ、どうして通ってくる? 聞いてみたい。コイツの思考回路は本当に変だからだ。学校でもそれを感じ続けてる。 コイツぐらいなものだ、ハッキリと「醜い」と言う人間は。普通は思ってもあそこまで言わない。どこまで躾がなってないヤツなのか分からない。 コイツの考えは全く読めない。 勉強もここで頼んでる暇があれば……。家ですれば良い。誰もが思うことだ。どこまで馬鹿なのか……。
「あの……」
『答えられないなら友達にはなれませんね。残念ですが……』
「あ……と……」
何故か。マナナの顔が赤い。モジモジしてる。照れる理由なのか……? 何だ? ココへ通う理由は…キセキならもう叶えただろ? 何か知らないが…とりあえず、交際は出来たみたいだし。いつの間にか許婚にまで発展してたらしいし……他 に何を願うのか? というか、他にあるのか? 願い事が……。
「えっと……。泉の巫女様、ドン引きしないでくださりますか? 」
『……』
今まで何回もマナナにはドン引きの連続だ。すぐに『そうです』とは承諾できなかった……。
「やっぱり良いです……。えと……」
『黙って聞きます。私はなんびとのも平等な泉の巫女……。ターシャ泉の精霊ですから』
これで良い。と言うか。何なんだ? 本気で……。
「私、実は……」
『……』
「男が無理で女しか好きになれないんです」
『え……』
沈黙した。
『あの……どういう意味なのでしょうか? それは……』
パニックになった。と言うか。マナナは学校でキセキと付き合っている。あれはどういうことなのか……。しかも、幼稚園時代から親交のある俺ですら知らなかったが……キセキと許婚 にまでなれたらしい……。これは俺を騙すための嘘なのか……。
『あの……貴女には好きな方がいると以前、私に話してたこともありましたね……。あれは……えと……』
「私は本当は泉の巫女様が大好きなんです。お願いです。私を友達にしてください」
『……。レズなんですか……』
「はい。大好きです」
『次のお客様がもうすぐ来ますので……。あとにしてください。空気が汚れます……』
「えと……」
『来ましたわ。私は仕事が忙しいので……』
「あの……」
☆「泉の巫女様……。いつ見ても美人ですわね? あの……私の大学でテストが……。もうすぐあるのですが……良い成績が取れるように祈ってくれないかしら? 」☆
『お安い御用です』
来たのは…俺の常連客の一人、スピチュアルに嵌まってる女子大生だ。
『目を瞑って下さい。汝に私は力を与えます……』
そこからまた何人か並んでる。仕事に頭を切り替えることにした。 マナナは俺の隣で座り込んでる。 ……悪いが混乱してる。物凄くドン引きしてる。俺は悪いがノーマルだ。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
今日はそのあと10名も捌いた。と言うか……今日は16名か。体もくたくただ。お腹も減ってる。 ギリギリの閉店時間間際9時にまで来た。 評判が上がってる証拠だ。 ココは喜ぶ。営業スマイルは出来てると思う。
『今日はこれでミサは終わりですが……』
[お願いですわ、忙しくて間に合わなくてね…それで…]
最後にお婆さんはギリギリだが入れてあげた。これも合して今日は16名。 終わった後に……。 ずっと沈黙が続いた。
――俺の隣に座り込んでるのはマナナだ。 あれからずっと大人しい。 何て会話すればいいのか分からないレベルにある。 こういうのをカミングアウトとか言うと……テレビでは流れてたが……。 学校にいるキセキはあれは……どうなるんだ? 彼氏で許婚なんだろ? どうなるんだ? レズなことを……キセキは知っているのか?
「ミサ……終わりましたよね」
最初に沈黙を破ったのはマナナだ。
『そうですわ。今日も大勢、神を頼って迷える子羊たちが……』
これは決まり文句だ。 神父口調になってしまった。
「今日はたくさん、お客様が訪れてましたよね? 泉の巫女様」
『……』
なんなんだ? このノリ。もう俺の友達になった気分でいるのだろうか? コチラの方がどちらかと言えば頭が付いていってない。学校にいるキセキは……。アレは何なんだ?? 今日、交際がめでたく開始された筈だ……。
「泉の巫女様。もう私も秘密を語った訳ですし……。私達は親友ですよね? これを話したのは私、アナタだけです」
『……』
悪いが全然、納得いってない。今日、俺がいる目の前で二人の交際が…開始されてる。
『私は……。不思議な力を持ってます』
「え? あの……」
『力を授ける以外にも持ってます。少しぐらいなら来ているお客様が生きてきた境遇が見えます』
「え? えっと……」
悪いがハッタリだ。こうでも言わないと……何故、知ってるのかと尋ねられる。さっき、仕事している間にもどういうふうに聞こうかとは頭を働かせてはいた。
『貴女は嘘を言ってます。私には分かります』
「何の話でしょうか? 泉の巫女様……」
『私は貴女の性格を知ってます。貴女は学校に既に彼氏がいます。それから…醜いモノに対して非難轟轟。私は心の狭い人間は従者として迎える気 にはなれません。神仏に仕える身ですから。貴女の性癖に関してはドン引きしないと言う約束で聞きいれました。しかし……貴女は嘘吐きでしかも……心が狭い 人間です。そんな貴女を私は友達としてみることは無理です』
「えええ……。泉の巫女様。信じて下さい。私は……確かに……。分かりました、これからは変わります。私は心を入れ替えて善人になり、人を見た目で判断せず……。それから……嘘も止めます。私は……自分の彼氏より泉の巫女様を崇拝してます」
いろいろやっぱりビックリ発言ばかりだ。キセキが不憫だ、許婚なのに……まさか、レズと……あいつ、一緒になるのか? 困惑しかない。
『貴女は……彼氏を騙したのですか? 私を騙してるのですか? どちらなんですか? 』
「え? どういう意味でしょうか? 」
『貴女は自ら私を崇拝してると宣言しました。しかし……彼氏がいる。別にそれは良いです。ただ、さっき、貴女は自らをレズだと貶しました。その事実とは矛 盾しています。他に理由があるんではないんですか? ココへ通う理由が……。私には嘘まで吐いて……何を隠そうとしてるのか……わかりません』
「え……」
『貴女には彼氏がいる。それが私の瞳に映りました。貴女は大嘘吐きですね。それから……心が狭い人間みたいです。そんな映像が一瞬、流れました』
素性がばれない様に話すのは割りと大変だ。
「違うんです……。私、どうしても……そんな自分が認められなくて……。とりあえず、彼氏さえ強引に作れば変われるのかと……。でも、本命は…ずっと泉の巫女様だけです。信じて下さい」
どう反応すれば良いのだろうか? パニックでもある。というか…キセキはどうなるんだ? 俺は悪いが来年にはこの役目、下ろされる。
『貴女は自分の彼氏を私利私欲のために騙していると? 』
「ごめんなさい。自分を認めるのが怖くて……。お願いです。心を入れ替えるので。私を友達に……」
『……』
本当なのか? 今、言われてもあの…学校や…それ以外も外での10年間が……。全く嘘だったなんて信じられるわけもない。ずっとキセキにアタックしてた 癖に。あり得なさすぎる……。そりゃ、ずっとミサへも通い詰めていたが。宗教が激化しすぎたせいで危険思考に陥ってるのではないか? しかも、お前ら許婚 なんだろ……。 突っ込みどころしか、今ない……。
『……』
「彼氏とは別れます。もう醜い人間を見ても文句は言いません。善人になります。だから……私を女神様のお友達に……」
『……』
悪いが本気で信じられない。キセキへ今日もアタックしてた。 しっかり目撃してる。
「信じて下さい。私を神の従者に。ターシャ泉の妖精様の仲間に入れて下さい。長年、アナタに憧れていたんです」
『彼氏のことは……。貴女は……嘘をついていたと……』
頭がこんがらがって来た。
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