アナタノコトガスキデス

萌え妄想のまま走るいろいろ創作小説の予定。苦情無断転載禁止。

マンマミーア。
笑顔で笑う人。



―――お前が殺したんだろう?
と警官から手帳を付き付けられ、灰色机しかない尋問室で責め立てられるところから…その日は始まる。
「殺してない!」と宣言するが…記憶が全くない。

☆☆☆

どうしてこんなことになったのだろうか?
長年付き合ってた女から離別を言い渡された場面までは覚えてる。

「今月のデートはなしにしましょう?」

意味が分からず声を裏返した。

「調子が悪いのよ。
これ以上は詮索しないでちょうだい…」

そこから先、何が起きたのか意味不明だ。
それは確か・・電話による別れ話だった。
理由を尋問したが…自分には理解出来ず、納得いかなかった。

「理由はなんでもいいでしょ?
これから先、会うことと電話とメールは止めましょう?」

奴は言い訳を何回もした…何度も携帯で聞き返した。
長いやり取りの末…。
要するに、まとめると”冷めた”。
この3文字の単語に尽きた。

突然、激動し…頭の温度が沸点へ飛び…何やら、世界がグルグルと天地が変わり動き始め…。
地響きが鳴り渡るような心地がした。
その後、心を正常へ戻すためにしたことと言えば…酒を飲んで、風呂へ浸かり。
頭の整理をして…そこから先…視界が真っ白だ。

自分の中では上手くいってる筈だったが…。
あの夢のような愛の灯火は幻だったのか?
まるでなかったようなノリだ…。
その時に何かが崩れる音がした。

☆☆☆

―――誰を殺したんだ?―――

灰色の尋問室で、警官から灰色机を叩かれて、目前へ写真を付き付けられたが…。
全員、面識すらない人間ばかりだ。
全く、記憶にないが…複数殺人を疑われてるらしい。
絶対、してるわけもない…。
その根拠は何なのか?

しかし、テレビニュースを付ければ・・・容疑者として、自分の険悪な写真が流れてる。
指名手配犯だと連日、報道されてる。
いつの間に罪を抱えたんだろうか?
警官に睨まれながら…尋問机へ頭を抱えて、回想する。

☆☆☆

ニュースで自分の顔と対面した途端…眼が点になり、絶句した。
咄嗟の機転で、慌てて…家中の手荷物をかき集め、夜逃げをすることを決意した。
必要な物など殆どない…携帯電話だけだが、未だに別れた奴の電話番号が入ってる。
消去すべきなのかとそれだけが心残りだった。
ココから去るべきだ、この町は危険だと察知して、本能のまま逃亡した。

街角、歩けば…電柱に貼ってるのは指名手配犯のポスター。
凶悪犯罪者に相応しい写真だ。
普段こんなに陰険な表情をしてたことに戦慄する。
いつの瞬間に撮影したものかすら分からない。

これでは素顔で外を歩けない…白いマスクと黒い帽子をして、逃げ廻る。
しかし、逃げても背後から警官が…追いかけてくる。
パトカーがサイレンを鳴らしながら、自分を追跡してくる。
威嚇のために、町中へ銃を乱射し…もがきながら、道を探す。

―――そこの容疑者!
罪を認め、足を止めろ!
お前が殺したんだろう?―――

「絶対にやってない」

―――認めろ―――


「覚えてない」

―――覚えてないなら…それなりの制裁を食らわす。
今この場で背中を鉄棒で叩こうか?
死ぬほど叩けば…目が覚めるだろう。
思い出せ!
自分の罪から逃げるな!―――

☆☆☆

数度、全身をボコボコに殴られた後…。
とうとう…泣き寝入りで認めて、手錠をかけられ連行された。
その日から牢屋に入ることになるが…。
長い尋問に負け、暴力に屈し頷いただけで…腹の底では納得がいかない。
やっぱり、記憶がそこだけない…。

急きょ、警官の隙を狙って、灰色の老施設を囚人服で脱出する。
全員が自分を付け狙うスパイのように感じて震え戦慄く。
群衆が自分を指差して、不幸を嘲笑ってるように感じて苛立った。
どこまで逃げても付け狙う聴衆の大群。
パパラッチに追われる日々。
いったい…ここはどこなのか?
これは何かの劇なのか?

☆☆☆


深い山奥へ侵入し、獣が暮らしそうな洞窟の中…。
急に自分が可笑しくなってケラケラと笑い転げた。
毒キノコでも食べたのか・・。
夢に浮かされたように歌が唄いたくなり、大声で歌い出した。
頭の中がフワフワする心地だ。
頭の中に懐かしい音楽が流れてる。

これは夢なんじゃないかと思い始め、洞窟の壁へ頭突きする。
血が流れるが…不快ではない。
やはり夢なのだと安心し、笑い転げた。
頬をつねった、痛みは少し感じるがこれがまた快感だ。

洞窟には白骨がその辺に転がってる。
狼でも住んでいるのか?
しかし今はまだ帰宅してないらしい。

もっと愉快な処へ走ってみたい。
素足で凸凹した山道を歩き出し、月が出てる方角へ進んだ。
別に目的地はない、冒険へ走り出したい気持ちだ。
天井に浮かぶ満月を見詰める・・・。
今日は空から宇宙人が舞い降りて来て、人攫いをしそうな気がする。
月光を浴びて、その到来を待つが…何事も起きない。
発見して欲しい心地で、その場で踊り出した。
ジャンプをしてみた。

眼を閉じて瞑想した。
自分が何者か真剣に考え始めた。
今、ここで何が出来るのか?
何のために生まれたのか?
これから先、どうなるのか?
人類はどういうふうに進化するのか?
生命の起源は何なのか?
人間はいつ絶滅するのか?
論理がどんどん別の方向へ飛躍して行く。
現実逃避が開始される。

狼を待ってるが待てども来ない…。
自殺の前に別れた女へ宛てつけに携帯電話で連絡しようとしたが…。
メールはサーバーから送信できない事由が英文になって返信しただけだ。
電話もかけてみたが…ワン切りで繋がらない。
完全に切られたらしい。
奴は怖がってるらしい…。

カラカラと笑い出した。
色々、思考へ没頭してるうちに…太陽が到来し…眠気がやって来た。
感じるまま、眠りへつくと・・・。
体が痙攣して…深い奈落へ落とされる。

☆☆☆

衝撃に怯え、震えると・・その先に見えたのは。
数年前の日常。
ココはどこなの?
隣で目覚まし時計がけたたましく鳴り響いてる。
まるでパトカーのサイレンのように。
それを壊すぐらいの勢いで手で止めた。

最初から何も起きてなかったみたい。
それに気が付き…微笑した。
夢から覚めて、現実の中。
床に落ちてるのは… 囚人男の手記ーというフィクション小説。

ああ、最初から何もなかったみたい…。

そのことに胸を撫で下ろして安堵の息を吐いた。

こうやってね?
感覚だけ年老いて、お婆さんになっていくの。
耳年増よ…。
取り越し苦労だったわ。
それにしても…。
いったい…寝る前まで何に悩んでたのかしら?…。

本は不思議な世界へ誘う薬。
次はどこの時間枠へ旅行しようかしら?
もっと胸が熱くなるような美しい情景なら良いんだけど…。
私、どうしてこの本を手に取ったのかしら?
それだけ思い出せなくて…。


何もなかったみたい、何も起きてなかったの。
ココは平和な世界。

不思議な旅から帰ってきて…再度、その本を読んだ。
さきほど、見たことが文章になって…記されてる。
一字一句間違わず、そのことに…私は微笑みを浮かべ…。
次の本へと手を進めた。





【短編】輪廻地獄を駆け巡る

目次

【短編】貝















ホラーも好きなのでSSで書いてみました☆。
短編は不可思議な世界感を綴れたらなと思います。
ブラッドベリー辺りの毒がある比喩の多いSFチックな小説も好きだったりします。


 

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