アナタノコトガスキデス

萌え妄想のまま走るいろいろ創作小説の予定。苦情無断転載禁止。

輪廻地獄を巡る



ーーここはどこなの?
どこの国?
ーー平屋のボロ木の日本家屋が並び、まるで映画村。

行灯もない暗がりを私はずっと、風のように…さ迷っている。
どこへ足を動かせば…良いのやら。

そこへ…突然。
私の背後から…銃声が…バァン!
と…音響が爆発する。

「おい、逃げるな、そこの者!」

ドスの効いた声色で…命令され、首を後ろへ、まわしてみれば…。
後方にいる…その兵隊の男性は。
闇に潜む美丈夫で…壮絶なほど。

体躯から黒い粒子を拡散し…。
長身に絵から浮き出てきたような渋味と…。
絵にも表せない色気がある。

その特徴はその深みのある瞳孔にある。
切っ先を向けた刃のように冷たい漆黒の黒目は…針状の睫毛に縁取られ…。
シャープな顎は彫刻のよう。
髪は鋭く刺さりそうな直毛が…空気中に棚引く。

私は気がつけば…赤い小花柄の振り袖で。
それから下駄で走り出す。

心臓がドクドク鳴って叫びそう…。

ゲタがバタバタ鳴り渡る。
道に反射してリズムを作る。
逃げても逃げても…。
迫りくる。

ーー私はあの人が怖い。
あの兵隊は誰なの?
見逃して欲しい。

長い黒髪を背中に這わせて…。
着物の袖を翻して、疾走した…。
街角越えても…。
日本家屋が続き…。
どこまで眺めても…地道が続く。

蛇行された害路地を…。
息も絶え絶え、逃げて逃げまくる。
行き止まりすらない薄暗い迷路の世界を…。
死ぬほど走って…。

後ろを向けば…。
それでもヤツはノソノソ近付いてくる。

私は慌てて、下駄鳴らして、煌めく星見上げて…前進し続ける。
空の星は青色、赤色、黄色が入り交じって、粒子を放つ。
星が空から落ちてきて、隕石となる。

ほとんど明かりのない霧の混じりかけた町並みを…。
薄暗さゆえに…月影と星明りを便りに…。
走り進んで…。
道路の真ん中で…こけてしまった…。

ーーここは、どこなの?
ーーどこの時代?

最後に息も絶え絶え、胸を抑えて倒れ込んだ。
もう無理だ。
後ろからアイツが私の肩を持った。

ーー私は終わりなのか?
ーーここで殺されるのか?

兵隊はグスリと笑う。

しかし、射殺されず…そのまま、手錠はめられて…。
連行される。

☆☆

捕獲された私は小学校の…運動場で。
そこで縄を縛られ、収容された。

人がいる。
大勢いる。
私以外にも何人の着物を着た人々が…。
そこで捕獲されて呻いてる。

みんなの顔には苦悶が現れ、私の背中には汗が流れる。

ここは…。
人でひしめいて。
ご飯と言えば…シャブシャブの味噌汁だけ。
それは…。
まるで…。
囚人施設のよう。

ーーここは苦しい。
ーー私は脱出したい。

しかし、この黒い締縄が…私の自由を邪魔をして…身動き一つ出来ないのだ。

そこで…。
先程の兵隊に
「逃げれば殺す…」と銃を顔につけられ…脅されて…。
逃げることすらできないが…。

白い電話の子機を突然、兵隊から…。
耳に近付けられて…。
手渡されて。
仕方なしに、対応した。

電話の外では…。

「お前のことを見逃してやる。
今から校門へ走れ。
今すぐだ!」
と渋い男の声がする。

隣で…兵隊が見張ってる。
私は死ぬかもしれない…。
でも今しかない…。
チャンスを逃すなと…。
私は縄に縛られたまま…一生懸命、校門を目指す。

運動場の外には…。
先程の日本家屋の町並みが広がっている。
背景には赤、黄、青の流星群。

元の世界に戻るため、駆け巡ったら…。

そこで私は兵隊に追いかけられて、
銃で撃たれて…。気絶した…。

瞼のなかで…。渦を巻いた光が広がり始める……。

次の瞬間。
今度は…サバンナにいる。


☆☆

ーーどうしてなの?
ーー何が起きたの?

私は大きく目を開けて、口許へ手を当てる。

ここは緑の草原で…向こうからライオンが何びきもガルルルと迫り来る。
雄のライオンが2、3匹はいる。
涎を垂らし、私を睨んでる。
背中の毛を逆立ちし狙われてる。
私は段々、頭がついていけず。
頭がグルグル混乱する。

下を向いて…自分の体を見れば…灰色の軍服だ。
いつの間に着替えたのか?

ここは昼間で、太陽が真上に煌めいている。
異様に巨大な太陽で覆われた空は…淡い水の色。
草木は濃い緑。
木々には赤い林檎の実。
ここの視界は眩しすぎるくらいで…瞼が開けれず、目が痛い。


私の3メートル眼前には兵隊がいる。
先程の美丈夫の兵隊は迷彩柄の服で。
「よくも先程逃げたな」
と私に怒り狂って…迫り来た。

ーー何なの?

私はハの字眉になり、とても怯える。
ここにいてはダメだと。
バタバタ恐怖で手足痙攣しながら逃げ出した。

…隣に見える白い砂漠へと心臓高鳴らせて、走り狂う…。

右手に見えた水のオアシスを捨てて、苦し紛れに、左へ…もがき歩く。

そうして…目前に広がる…白い広大な…砂漠の入り口に足を踏み入れたなら…。

サソリが一匹出迎えた。
砂漠の砂には白い貝殻が広がり、地平線まで続いてる。

海の香りが漂い、蛸が地上の砂漠に現れたなら…。

突然、空から強風が舞い降りて、私の瞳に大量の黄色の砂が入りまくる…。

ーーギャァ!

混乱して、暴れて身を揺るがせた。

花の香りの風が私を責め立てた。
私は体を庇い転倒して…そのまま視界が突然、白く消えて…。
今は暗闇だ。

ーーここで倒れては…。
ダメ…。
ーー捕まってしまう。
ーーヤツに囚われる。

私は寒気で内心怯えてる。
頭を抱えて絶叫する。
ムンクの叫びのポーズになる。
絶望が襲い咲く。

あの人は何なの?
どうして、私だけを追い掛けてくるの?
私の昔の恋人だったの?
どういう理由なの?
何が目的なの?

私は頭の中がおかしくなる。

☆☆

そのあと、意識を戻せば…。
ここは元の映画村。

私は赤いベベを、着ていて。
何かの罪を抱えた罪人で…。
やはり先程の軍服を着た兵隊が…。

「覚えてろよ」と私を…嘲笑い責め始めた。

そこで…。
やっと気がついた。

ーーこれは変だ。
ーー夢だ。

ーー私は夢の中にずっといるのだ…。
ーー早く目覚めなければ。


暴れ、焦り出す。

しかし突然、兵隊はギャハハと狂い咲く。

「お前はココから抜け出せない。
永劫の輪廻地獄へ落ちればよい。
お前の罪は重いのだ。
それを悟らなければなるまいに…」

私はそれでも根性で逃亡して、傷だらけになりながら竹藪を走り抜けて…。
それはさながら…。…かぐや姫。

砂に倒れても…。
手脚が傷で血が出ようとも…。
構いなく、逃げ狂う。
月を目指して走り鳴いて。

だいぶ遠くに行けたつもりなのだが…。
やはり後ろから先程の兵隊が迫り来る。

兵隊は突然、不気味な笑いを浮かべる。
私は恐怖と憎しみがワナワナと溢れ出す。

「どうして?
目覚めたいのだ?」
尋ねられる。

私は…。

言葉を紡ごうと必死だ。
頭が衝撃で動かない。
涙の結晶が両目から溢れだした…。
頬を伝い、空気中に消えていく。

反撃しようと、脳に圧力を込める。

時間がたつ。
言葉が出ない。
それは金縛り。

ここはきっと夢の中。
それなのに…もがいても目が覚めない。
私は現実に戻れなくなったのだ。
帰りたい。
早くあの世界へ行きたい。
私の平和な日常へ。

☆☆

そこで、また最初の映画村。
周囲に平屋が並んでる。
まだここは黄昏の夕暮れで。
紅に空は染まってる。

兵隊の服も夕日に染まり、血塗り色に染まってる。

「私は…。
会いたい人がいる」
やっと宣言できた。

「誰なのだ?」
「私は…」

この兵隊は…。

この世界に入り込んでから3年はこのように毎日、私を追い詰め、追い掛ける。

私には未練がある…。

それがあまり思い出せない。

たが、今日、尋ねられて…初めて思い出した。

それを口にしなければならない…。

それこそヤツの弱点だ。

兵隊が銃口を私に狙いを定める。
私は橙の着物を翻して、
ヤツを睨んで…恐喝する…。

「私は…。
親に会いたい。
兄弟に会いたい。
恋人に会いたい…」

思い出したのだ。
この兵隊は私の恋人ではない。
私にはすれ違いにより、喧嘩をした恋人がいる。
親兄弟がいる。

ここで死ぬわけにはいかない。
現実に戻らなくては。
あの人に会いたい。
私の人生でかけがえのない存在。
大切な人達に。

突然、兵隊の眉が歪んで。
悔しそうな寂しそうな瞳になって。

「思い出したのか…。
遅かったな」
と呟いて。


銃をアスファルトにポイッと投げ捨てた。

「俺の負けだ」
「降参する…」

私はその瞬間を見計らって、
日没めがけて、地平線へと走りだす。

後ろを振り返るのはとても怖い。

私の家はどこだろう?
どこへ帰ればいいのだろう?

どうすれば喧嘩別れした恋人ともう一度仲直り出来るのか?
どうすれば親兄弟に一目会えるのか。
胸が振動する。

ただ巡り巡って走った先には…。

白い光が見えた。
エイッとそちらに飛び込んだ。

瞼を開ける。
ここはどこだ?
また映画村か?

☆☆

しかし、そこは…私は日常の中。

空は明るく。
いつもの布団の中。
服を見ればいつもの服。
ここは私の部屋で。
いつもの世界。

私は今日から生まれ変わるのだ。
再生するのだ。

今日から…この世界のために生存するのだ。
たくさんの未練を背負ってる。
私には会いたい人間が何人もいるから。



目次

【短編】囚人男の手記



















 

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