アナタノコトガスキデス

萌え妄想のまま走るいろいろ創作小説の予定。苦情無断転載禁止。



私は貝なの。いつから貝になったのか分からない。
生まれた時は違ってた。
私は生まれた時のことを忘れはしない。
視界に入った眩しい光。聞いたこともないような音。
私の姿はいつの間にか白い貝になってしまったみたい。

私の愛する恋人は宇宙旅行師。時々、違う世界へ行ってしまう。

宇宙旅行師の彼は時々、私へ語りかける。
私は貝だから…声が出にくいけど…。
貝の内側を利用して声帯のように調整して意思疎通を図ろうとする。

私は覚えている。
夜空の天体観測を海でしていた男性が…大昔、浜辺にいて…。
浜辺で溺れかけていた。
私は貝の姿のまま、根性で貝柱を動かして浜辺を移動して…。
浜辺に倒れてる彼の掌を噛んだ。
彼は意識を取り戻し…。
私を飼育用のプラスチックケースに入れて…そのまま、自宅の飾り棚の上に。
海水と砂利を敷き詰めて…私を飾った。
彼は時々…私へ語り出す。
プラスチック越しで、私は彼を見詰めてる…監視してる。
彼は貝の飼育本を片手に…私にあまり触れないようにしてるみたい。

私はすぐに自分が暮らしてる飼育用ケースを汚してしまう。
プラスチックケースを行ったり来たりする。
その度に彼が掃除してくる。
飼育ケースに入ってくる彼の掌へ乗るのは…私。
私は貝。
この飼育ケースもだんだん慣れつつあるけど…。
時々、故郷の海が懐かしくなる。

私は…海では何をしてたんだろう?
時々、不思議になる。
彼は人間。
私は貝。
そのはずなのに…。
何故かココで暮らし始めてから…自分に感情が芽生えて来てるみたいで…。
どうしてなのか…自分が貝と言う事が認められずにいる。

飼育ケースの中から彼を見詰めれば…。
彼はベッドに横になって…”貝の飼育本”という書物を読んでる。
図書館のシールが本に張ってある。
借りてきたみたい…。
私も彼と一緒に図書館に行ってみたい。
そんな衝動が沸く。
貝の飼育ケースを持ったまま、図書館へは入れないのかしら?
私は両方の貝殻をパクパクと開閉させて、彼へ知らせた。

「何かあったの?」

彼がそんなふうに尋ねる。

ーーパカパカパカーーー

貝殻を3回鳴らしてみた。

「ああ‥。
お腹が空いたのか?
今、餌をあげるから…」

違うと言う意味を込めて、貝殻を再度…鳴らしたけれど…。

私が暮らしてる飼育ケースが餌で濁っただけで…伝わらなかった。
やっぱり貝は嫌。
どうすれば…伝わるのかしら?
と思って…。
私は深夜を見計らって…暮らしてる飼育ケースからの脱出を図った。

この飼育ケース…天井に網がある。
これが邪魔。
私の力では…どうすることも出来ないくらい…固い。
何回も頭突きをしたら…馬鹿になっちゃう。

いろいろ周りを見渡して…私は良い案に気が付いた。
天井の真ん中…透明な蓋を空けるところ…。
ここを貝柱で吸引しながら…少しずつ移動すれば…スライドが出来るかも。
それに気が付いたときは私は天才だと思った。
これで脱出が出来る。
ここはつまらないし…彼のことは大好きだけど…海も恋しいし…。
私は根性で…天井の蓋をエイヤと移動させた。
蓋が開いたら…飼育用プラスチックケースからやっと脱出が出来た。
万歳。

そう思って、彼の部屋の飾り棚に着陸した。
部屋の電気が消えてて…真っ暗。
イビキが聞こえてくる。
どうも寝てるみたい。
少しイタズラもしたくなった。

寝てる彼のベッドに近付いて…私は掌に乗ってみた。
私は白い貝。
でも、起きない。
こういうイタズラも良いかもしれない。
ココから先、故郷の海へ帰ろうにも…この家の玄関ドアはさすがに開けられそうにない。

少しつまらないから…移動できる範囲でどこまでも動きまくってみた。
貝ってつまらない。
床をあちこち動いたけど…この部屋は綺麗。
私が暮らしてる飼育ケースの方が汚れてるかも…砂利と食べかすだらけ。
つまらないから…彼の顔を見に行った。
寝顔。

貝って予想以上につまらない。
だって思ってることが伝えられないでしょう?

私は何故か初対面から彼のことに関して自分のことのように心配してる。
だって、海で溺れかけていたんだもの。
別に助けなくても良かった訳だけど。
偶然、助けたばかりに…私は彼の部屋に飾られて、飼育ケースに収納されてしまった。

故郷の海では仲間たちは今頃…どうしているのかしら?
時々、不思議にも感じる。

☆☆☆

「君が喋れたら、楽しいだろうな…」

私の水槽を見詰め、切なげな表情で彼が呟く。
私は貝だし、人間になることは無理だけど。
この狭い水槽はつまらない…ちょっと冒険をしてみたい気分。
彼が寝てる時刻を見計らって、水槽から脱走することに決めた。
これで脱走は何回目だろう?
毎回、スリルを味わうけど…今回こそ成功したい。
その日、彼は寝息を立てて寝てる。
脱走は成功しても…外へ出るのが難しい。
家じゅうの床をグルリと回って…脱出口がないかしら?と探し回る。
手洗い場まで来て、そこの窓から風が通ってることに気が付いた。
もしかしたら…あそこまで行けたら、私は外へ出れるかもしれない。
ココはつまらないし…根性で窓へ上がろうとするけど…やっぱりそれは難しかったりする。

エイヤって力んでも…ちょっと、無理すぎる。
そこで、背後から足音がした。
彼が起きて来たみたいで…ビックリ仰天して、私は逃げようとした。

「仕方ないな…」

掴まれて水槽へ戻される、それはつまらない。
貝殻をパカパカ鳴らして抗議をした。

「どうしたんだ?」

そこは悩み、沈黙した。

「僕のこと…どう思ってるの?
餌が欲しいだけか?」

彼は溜息を吐き、私を水槽へ入れた。
私はパカパカ動いて水槽を右往左往する。
つまらない。

なんで、こんなことになったんだろう?
心に胸を当てて考えてみた。
時々、夢を見る。
夢の内容は色彩に溢れてる、音が流れる。
私は夢の中では人間で、物静かで本当のことがなかなか言えない性格だったりする。
秘密主義が徹底した天邪鬼。
私は遠目に好きな人を見詰めてるだけの女性で。
照れるとまず会話が出来ないみたいで…黙って、チャンスを伺い待つだけの人間。
そんな夢。


あれは…夢なのかしら?

水槽の中ってつまらない。
でもあの夢が現実なら、これも良いのかもしれない。
この場所から幾らでも彼を観察できる。
私にとって観察は生き甲斐だから。

☆☆☆

私にとっては幸福な日々。
彼の日常生活をバレないように見れる。
この水槽の中なら安心。
彼はそのことには全く気が付いてないみたい。
心が浮き立ってる。

最初の頃は私へ愛情を注ぎ、貝の飼育雑誌を見詰めてた彼も…。
いつの間にか、興味をなくしたのか…餌をくれなくなった。
私は水槽の壁に生えた藻を食べて生きてる。
シダが生えた水槽は餌やりがなくても食べ物に溢れてる。
青水で視界が濁ってる。
ちょっと不満かもしれない。
でも、観察が出来るのは嬉しいところ。

夢の中では相変わらず、進展もなく…別に知人と言うポテンシャルですらなく悟られないように見詰める陰湿ファン。
代わり映えのない日常が夢の中で続いてる。
勇気が沸くこともなく、好きな男性達が幸せの階段を昇る姿を何名か見送ってる。

なんで、私は貝になったのかしら?
それがいまいち…思い出せなくて。
あの夢、まさか・・現実だったのかしら?
そんな訳ないと思うけど。
もし、夢で何か言えたら…変わったのかしら?
そこが不思議だったりするのよね?
でも、私にはコッチの方が合ってるわ?
どうせ何かアクションしたとこで、駄目なものは駄目よ。
自分でもわかってるの。

好きな処からコッソリ観察が出来る、これほど喜ばしいことはないわよ?
私にとってはね?
私は冒険はしないし、慎重派で賢い人間なの、度胸はないわよ。

それにしても、私の呪いが解けるには…どうすれば良いのかしら?
私はまさか、一生このままなのかしら?
ちょっと、焦り出すわよ?

パカパカパカ…。

読書しながら、椅子に腰かけてる彼へ貝殻を開閉させて音を出した。
伝わったかしら?
つまらないわ…最近、構ってくれないでしょう?

「餌なのか?
青藻が発生しただろ?
そのプランクトンを食べれば大丈夫だって思うけど。
病気か?
どうしたんだ?」

彼って、今まで出会った男性の中で一番…優しい。
私はココが心地良いかもしれない。

パカパカパカ…。
音を鳴らしてみた。

「困ったな。
何を言ってるんだろう?
また貝の生態図鑑でも読んでみるか…」

彼は溜息を吐いた。
私はパカパカパカと音を鳴らした。

彼が私へ近付いて、久しぶりに水槽を覗いた。

私は有頂天に舞い上がり、水槽の砂へ貝殻を移動させて…砂文字を作成した。

―― スキ ―――

彼は水槽を凝視し、驚いた表情へ変わった。

「何だろう?
まさか…スキって書いてるの?」

私は貝ガラをパカパカとカスタネットのように合唱した。

彼は嫌がることもなく、微笑を漏らした。

「そんな訳ないか…。
偶然かな?
それにしても…嬉しいな。
スキって書かれて悪い気はしないよ。
ちょっとテンションが上がったかな?」

私は黙り込んだ。
貝ではやっぱり伝えにくいみたい。

「それにしても青藻が発生して、見えにくいな。
そろそろ君が大好きな餌でも与えてあげようか?
君が喋れたら、僕は楽しいだろうな…。
今日は機嫌が良いから、構ってあげようか?」

彼は笑みを浮かべてる、私は彼の日常を観察してる…現状に不満はない。
パカパカパカ…と貝合わせをして、意思表示した。

彼はもし、私が彼を慕ってるって知ったら…もっと嬉しがってくれるかしら?
そうだと良いんだけど。
そんなふうに思えば、体が火照った。
貝も悪くないけど、人間に戻れたらな。
偶然が重なって彼の窮地を助けた過去がある訳だし、今回こそ点数稼ぎが出来た筈。
諦めてたけど、もしかしたら…今度こそ振り向いてくれるのかもしれない。

彼は優しい人。
私の心を溶かす存在。
叶えば良いな、願い事が。















【短編】囚人男の手記

目次

















こういう雰囲気の小説も好きだったりして…幼少期はよく愛読してました。
ワンパターンにならないように気を付けて綴ってみました。
たまには本篇と全然、違うジャンルを書きたくなったので・…。
こういう話は衝動的ですね。
短いのでサクッとオチまで書けるのが嬉しいところです。


 

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