『タリア視点』
カーテンに閉ざされた窓外から明かりが漏れる。
朝日が昇り、もう既に翌朝だ。
マナナは昨晩のエロ疲れが今頃に滲み出たらしい…。
起床が遅く、布団に潜ったままだ。
俺の方が既に覚醒して畳へ座り、暇だから隙間時間を持て余し…スマホでNEWSを仕方なしに読んでる。
マナナは…朝9時を回るが、ベッドでスヤスヤ熟睡してる。
「タリア・・ちょっと待って。
そろそろ…私、起きて。
朝食の用意をするから…。
朝はパンにバターと…。
あと、牛乳で良いかしら?」
『うん…』
このマナナに用意をしてもらう一瞬もまた良いわけで…。
マナナは根性で体躯を動かし、起床しようとする。
「駄目よ。
もう、起き上がれないわ‥。
タリア…ちょっと私の手を引っ張ってちょうだい」
マナナが布団へ寝転がったまま、手をこちらへ差し出す。
油の足りないロボットのようだ。
近寄って、腕を引っ張ってみると…下着のみなマナナが布団からノソリ…と飛び出て、床へ直立した。
上は桃色水玉ブラジャー、下は白いスケスケレースパンツ…あと、腰が括れてる。
肩揃えな黒髪は振り乱れてる。
「ふわああ…。
眠いわ、ああ…動かなきゃ」
マナナは…唇へ掌を当てて、大きな欠伸をした。
そのまま…寝惚け眼で下着姿で…台所へ向かい、パンにバターを塗って…トースターへ入れてるらしい。
俺は、机前に備えられた椅子へ腰かけて…待機するだけだ。
机目前のテレビNEWSを眺めた。
5分程度すれば…マナナが台所からコンガリ焼けた食パンを2人分、運んで来た。
「洗いものだけお願いね…。
パンが焼けたわよ」
『…』
「じゃ、食べるわよ」
マナナは嬉しそうに焼けたパンを頬張ってる。
狐色の食パンから香ばしい匂いがフワアと広がる。
口に含めば…バターがしみ込みシットリした味わいだ。
桃色水玉模様のブラから乳房の白い谷間がコンモリしてる。
朝だが…お互い下着姿で椅子に座り、朝食中だ。
その下にある腹には脂肪がない…。
白いレースな紐パンは尻に食い込んで、ムチムチしてる。
ヤッテル時に叩き甲斐がある。
肩揃えな黒髪は頬に張り付き・…背後からは首元、うなじが目に付いた…首は細い。
二の腕は結構ムチムチしてる、揉むと胸同様に柔らかい。
椅子へ腰かけて揃えてるふくらはぎも…スベスベしてる。
脚の隙間は…触るとムニっとする。
隣に座ってる女体へ視線が一瞬、行く。
『…』
テレビではいろいろな特集ニュースがやってる。
「これだけじゃ、少ないかしら?
大丈夫?
足りてる?
ミルクティーでもつくろうか?
砂糖入れたい?」
『別に…』
「そう…」
朝食が終了した後、マナナに洗いものだけ促される。
食事後すぐ行動するのは大変だが…力を振り絞って、台所へ向かう。
俺も今、ボクサーパンツしか履いてない…ココへ来たら、毎回恒例だ。
普段、下着で寝る習慣がないから不思議な感覚だ。
「ありがとう…タリア。
助かるわ。
適当で良いわよ。
パンだけだから。
水洗いぐらいで良いわ」
『…』
マナナは下着姿のまま、椅子へ腰かけ…TV−NEWSを鑑賞してる。
適当に台所で皿洗いを済ませ…すぐに戻れば…。
マナナは・・同じ体制を保ってる。
TV画面先へ意識が集中してるらしい。
視線をそちらへ動かせば・・変な特集番組が放送されてる。
それにマナナは釘付けになってる。
=さて…男の浮気調査ですが…。
今回は男の浮気を発見した秘訣特集を流します…。
匿名・…Aさんの話です=
〜昔、付き合ってた彼氏の話なんですが…誰にでも優しい人で・・。
私の友達にも優しかったんですね…。
すると、後日…知ったんですが…私の友達と交際してたみたいで…。
信じられないことに振られたんです。
それ以来、誰彼なしに優しすぎる男性は警戒しますね…〜
マナナはテレビに視線が止まってる。
=今回はゾロゾロ、他にも視聴者の体験談を寄せました。
匿名…Bさんの話です=
〜昔、付き合っていた彼氏の話です。
付き合う前から結婚しようと言ってくれて…もうこっちとしては本気になってたんですね?
それが・・付き合ってから知ったんですが、他の人間にも同じことを言ってたみたいで・・。
数か月もしないうちに私と付き合っているのにも関わらず、違う方と結婚するから別れようと…。
後で知ったのですが同時進行だったみたいで…〜
=その他、Cさんの話です=
〜昔、付き合ってた彼氏の話です。
彼氏とのデート待合場所へ…その日はいつもより早めに来たんです・・。
すると、信じられないことに…道端で歩いてる子へナンパをしていて・・。
その彼氏の家に最近、見知らぬ女性の髪が明らかにあることがあって、不審に思ってたんですが・・。
ふとしたタイミングで…スマホを見たら、女性とデートのやりとりをしてることが発覚したんです。
それで、問い詰めて・・土下座して謝らせて…今、その彼氏と結婚してます。
=いや…浮気を許して、結婚したんですね…。
いろいろなことがあるんですね=
面白い番組か理解に苦しむが…マナナは興味ありげにTVを凝視してる。
これって、面白い番組なのか?
と首を傾げそうになるレベルだ。
そこで…マナナが肩ラインな黒髪を揺らし…振り返って、俺を注視した。
「タリアは…浮気…してないの?」
『は?』
「してたら…ダメよ?
してないよね?」
『してるわけない』
「そう…」
マナナはテレビを眺め・・少し寂しげに目を細めた。
こういう瞬間、割りと癒される。
殆ど、心配されるようなことが全く…今のところない。
キセキのように一度はモテてみたい。
もっと、心配をされてみたくてたまらないような気分になる。
どうすれば、もっとそうなるのか…?
『…』
マナナへ接近をして、マナナのブラジャーから突き出てる乳房を後ろから揉んでみた。
マナナは椅子に座ったまま、ビックリした表情で振り返った。
「何なの?
朝から…」
『えっと、朝食したら・・元気が出て』
「いやん!
エロするの?」
『…』
このあと…通常通り、なし崩しにエロへ向かった。
マナナはとてもエロが大好きそうだ。
☆☆☆
実は…本気で情けないことに、マナナの感情が未だに不明だ。
まず、レズは完全に治ってるのか?
それから…大昔、俺へもう誹謗中傷も良いところだったが…今、何を考えてるのか?
過去を完全に許した訳でもなく…。
貶された言葉も未だに覚えてるし、机を離された日々や…究極的に挨拶もなく無視された事件の数々…。
その全てが…レズが原因だとは今では判明してるが…まだ、全部を許してる訳もなく…。
シコリのまま渦を巻き…自分の中では溝になってる。
あの悪行三昧を忘れる筈もない…。
3年前に「エロが好き過ぎて…タリアが好きか、エロが好きなのか…もう分からないわ。
私ってもしかして…性依存症なのかしら?
どうすれば…」とハッキリ告げられた言葉も…しっかりと覚えてる。
確かに、コミュニケーションスキルが、皆無な自覚はあるが…。
時々、まさかエロしかないのか…とそんなふうに感じる瞬間があるわけで。
特に、マナナからは結果的に最終的な話…金を巻き上げられてばかりだったりする…。
ただ・・悪利用されてるだけじゃないかと時々、懐疑心が猛烈に沸き起こって来る。
最近、猫を被ったかのように可愛く豹変してるが…昔の素行を考慮すれば、完全に和解とも言い難い。
何をどうすれば…確かめられるのか?
いろいろ策を練り続けてる。
少しぐらいマナナにも試練があっても良いんじゃないか?
ちょっとぐらい痛い目に遭っても良いんじゃないか?
そんなふうに感じてしまう。
例えば…今、逃げれば…マナナはどういう反応をするのだろうか?
少しは懲りるのだろうか?
今、何を考えてるのか……?
☆☆☆
情事後は…静かになる。
「エロ、気持ち良かったね。
夜までもたなかったね」
『…』
こんなふうに裸で布団へ寝転がり、まどろむ瞬間は…幸せではあるが。
時々、マナナが過去に犯した悪行が胸に込み上げて来る。
現在、エロだけなのか…。
時々、そこら辺が謎だったりする訳で。
しかし、どういう訳か…『エロだけなのか?』とは直接、聞きにくい性格だ。
適当に流しながら、年月が経過してる。
「今回の宿泊、伸ばせないの?
タリアはエロ、したくないの?
もっと」
『…一回いけば、限界が…』
「もお、いっぱい栄養付けて頑張ってね」
『…』
まあ、割りと癒されてる。
多くは求めないように言い聞かせてるが。
「ねえ、明日なんでしょう?
帰宅は」
『そうだ』
「じゃ、今回は…。
1週間いない分、食費が半額で済んだでしょ?
私もターシャ村へ電車で帰るから…私の分の電車賃もお願いね」
『・…』
「駄目なの?
ねえ?」
『分かった』
こんな感じで好きなように絞られてる。
「今日の夜も元気が出ると良いね。
今、賢者タイムなんでしょう?
ねえ?」
『…』
「もう賢者タイムになったら、反応してくれないんだから・…。
やっぱり朝に出すのは間違いだったかしらね?
でも、タリアが何故か…朝ごはん食べたら突然、襲って来るんだもの…。
夜まで待てなかったわ…」
マナナは力果てた男性器を手で触り、寂しそうな瞳になった。
今、精を搾り取られてグッタリしてる。
確かに、言うとおり…朝食を済ませたら、突然…何故かムラムラして反応したのも嘘でもない。
弁解の余地もない。
『…』
隣で…マナナが膣へ指を入れてる…・。
「ああ…2日目の精子は薄い匂いね。
中で出されると量がどれぐらいか分かりにくいけど…匂いで分かるわ。
はあん」
この調子でマナナは四六時中、下ネタオンリーだったりする。
「昨日は溜まってたの・・?」
『…』
「もう…。
エロが終わると…いつもにも増して、構ってくれないんだから。
電車賃の件、怒ってるの?
その代り、次は米か調味料辺り、こっちで仕入れてあげるから。
あれ?
違うの?」
『…』
「そろそろ珈琲が足りないわね・…。
それに変えてあげるわよ?」
『…』
「あ、またスマホ鳴ってたみたい。
ええ…?
キセキ?
どうする?
LINEが来てるわ?」
『別に良いんじゃないか?
今じゃなくても』
「そうよね?
さすがに裸の時はね…。
下着すら今…履いてない訳だし」
『…』
「キセキもSP試験で切羽詰まってるのね。
理解はしてるのよ。
それにしても…キセキの話題って、女性の話ばかりよ。
どれだけ、キセキってモテるのかしら?
私、やっぱり…そういうの無理だわ。
別れて正解だったわ。
タリアにしてよかったわ」
『…』
まず、この言われ方が…余り嬉しくもない。
もう少し他に言い方があるだろう?
節々でカチンと来る瞬間がある。
「キセキの彼女になる人って絶対、大変だわ。
タリアで良かったわ。
私、今…心の底からそう思うわ?
タリア、浮気してないんでしょう?
そこは嬉しいわ?
しちゃ、駄目よ。
絶対に」
『…』
マナナは勝手に裸で俺へ密着して微睡んでくる。
実は…時々…少しぐらい、モテてみたいし…心配されてみたいと願ってる。
マナナに泣いて心配されてみたいと求めてるが…ダメなのだろうか…。
☆☆☆
翌朝、出発前にマナナへ電車賃を渡した。
「あと…ピル代もお願いね」
『…』
毎回、こんな感じに渡すことになる。
やはり時々、弄ばれてないか…とグルグルするが、黙ってる。
マナナは実母が援助交際やAV女優まで勤めてた性か…こういう面に関して、異常にシッカリしてる。
『…』
「さ、電車の時間でしょ?
行くわよ?
今日は帰宅の日だし、エロは駄目なんでしょう…?
今から、駄目なんでしょう?」
マナナは俺のボクサーパンツへ掌を伸ばし、布越しに股間を摩ってる。
それから、マナナは自分から俺へキスをした。
「あれ?
キスしたら…ここが…。
反応した?」
『…』
マナナは嬉しそうにパンツの上から反応した男性器を触ってる。
それから俺のパンツをずらして…反応したモノを眺め、微笑んだ。
『今から帰るんだろ・・』
「しょぼーん。
ねえ、もうちょっとだけ?
ね?」
『また電車の時刻を検索しなければならなくなる』
「ええ…ダメなの?」
『ダメだ』
「ええええええ・…」
『…』
俺は反応したモノをパンツへ収納した。
マナナは悲しげだが…構ってると、電車出発時刻に遅れる。
「ね、昨日のグラタン…美味しかった?
今回は何が一番、美味しかった?」
『肉もやし炒め』
「そう。
タリアとターシャ村に一緒に帰るなんて…。
嬉しいわ?」
『じゃ、服を着るぞ』
「うん」
冷房と扇風機を俺は消し、床に置いてた服を着込む。
マナナも服を着て、二人して…鞄手荷物を肩へ下げて…・・下宿先から出る用意をする。
「あ…ついでに、ゴミ出しするわよ?
部屋に生ごみとか置かないから。
持ってくれる?」
『…』
おとなしく、3日分のゴミ袋を半分、持つ。
玄関扉を開き…部屋の外へ出て、マンション共有部分廊下に立つ。
「鍵を閉めなきゃ…。
見ていてくれる?
えっと…クーラーと扇風機は消したかしら?
えっと」
『俺が消した』
「ありがとう。
鍵、閉めてるの…ちゃんと、見ておいてね。
私、時々…記憶が弱くて飛ぶから」
『…』
黙って、マナナが施錠する姿を確認してる。
マナナは記憶力が昔から弱い。
暗記するほど苦手なことはない。
☆☆☆
下宿先のマンション、エレベーターを降下して、フロントへ到着する。
お互い、片手に荷物とゴミ袋を持ってる。
フロントに設置された自動ドアを通過すれば、頭上に水滴が落下する…。
灰色の空から小雨がぱらついている。
「あ、一昨日も雨だったけど…今日もなのね。
私って雨女なのかしら?
それともタリアが雨男なのかしら?
降水確率は30%だったのに…」
『…』
「傘は持ってるよね?
初日も使ってたし」
『…』
黙って、鞄から黒い折りたたみ傘を出した。
マナナも既に同じような折り畳み傘を差してる。
「その折り畳み傘、便利ね?
私のよりも大きくない?
どこで買ったの?」
『昔からある』
「そうなの?
私の折り畳み傘は日傘としても使えて…雨天兼用なのよ?
便利でしょう?」
『…。
この傘も実は…最近、締まりにくくて…。
そろそろ…買い換えようかと…』
「ふうん…」
マナナが目をパチクリとしてる。
何とか会話を繋ごうと、喋った。
『…』
「一列に並んで歩いた方が良いかしら?
ココ、意外に車が多いのよね?
ゴミ捨て場までもうすぐだわ?
外の方が涼しいのね?
家の中の方が暑くない?」
『…』
「タリア、道を覚えたでしょう?
先に歩いてくれるかしら?
ね?」
『…』
こんな感じで歩き進む。
我ながら寡黙なのも生まれつきで…。
これで相当、喋ってる方だ。
朝は特に喋る気にならない。
「駅までもうすぐね?
ココは田舎で山道だし…凸凹でしょ?
道が…。
駅から下宿へ行くときは、猛烈に登り坂だけど…。
帰りは下り坂なのが幸いだけど…雨の日は、滑りそうになるわね?」
『・・』
「よし、ゴミ捨て場に到着したわ?
さ、捨てなくっちゃ!」
『…』
下宿先から少し離れた場所に住民がゴミを捨てるスペースがある。
一応、ゴミの分別は済ませてある。
マナナに続いて、俺もゴミ袋を…指定された箱へ捨てる。
片手が開いて、楽になる。
それにしても…今日は雨か。
「それにしても・・今日は3時間強な旅なのね?
今から大変なのは目に浮かぶわ?
今、どんな心境よ?
私が付いて来て嬉しい?」
『少しは…』
「そう!
それにしても。
キセキの前では全く喋らないんだから。
私の前の方がタリアって喋ってるわね?
家ではどうなの?
お母さんやお父さんとも喋ってたりするの?
私レベルには」
『家でもあまり…。
今の方が喋ってると思う』
「そうなの・・」
『…』
「私はまあ、家にいる時もお母さんともお父さんともこんな感じよ?
で、今回…3日間の宿泊に関して…タリアの家は何か言ってた?」
『なにも・・』
「そう。
それなら良かったわ?
前回は1週間で、その前も1週間だったでしょう?
出掛ける前に親には伝えといたの?
私のこと」
『一応…』
「そう。
それなら、安心ね?」
説明が面倒な箇所は嘘を吐いておいた。
心配させるに及ばないだろう。
母親が怒り狂う姿が瞼に浮かんだ。
逆に黙秘を貫く方が…スムーズに進んでる。
「タリアは…私のこと、両親へ伝えてくれてるの?」
『一応・・』
「そうなの!
私も親には言ってるわ。
キセキからタリアへ行った時は・・私の親がキセキの母と疎遠になって…猛烈に悲しんでたけど。
最近は放置主義だわ?
タリアのお母さんってどんな性格なの?」
『少し愚痴っぽく多弁だと思う。
父は寡黙だ』
「そうなの。
じゃ、タリアはお父さんに性格が似てるのね」
『…』
「私のことに関して…お義母さん、何か言ってなかった?
ねえ?」
『なにも…別に…』
「そう。
それは良かったわ」
マナナは嬉しそうだ。
でも…真実を伝える勇気がまだ沸かない。
そのうち、バレそうだが…。
☆☆☆
電車に飛び乗れば…隣で座るマナナは、子供同然…はしゃいでる。
『長旅だから電車では寝るから』
「え?
寝るの?
そうよね?
長いものね?」
マナナって常に表情がクルクル変わる。
見ていて飽きない。
生き生きしてる。
実際、何考えてるか…。
今でも不明な点もある。
だが、あまり苛めない様にしようとしてる。
最近では、マナナも可愛いげがあるし、昔を責めても仕方ないのかもしれない。
☆☆☆
電車は2回も乗り換えた。
ターシャ駅へ到着すれば、5時近くになっていた。
雨空が薄暗くなりつつある、秋はつるべ落としだ。
途中、私鉄から国鉄へ乗り換える道で…コンビニでインスタント珈琲を買い込み、飲んで時間をとられた。
「久しぶりだわ!
故郷!
ターシャ村!
ターシャ祭の時にも一度、帰ったけどね」
『…』
外はシトシト…と、夜空から水滴が落ちてる。
「ね、タリアの実家に寄っても良い?
実家、確か…。
ターシャ神社でしょ?
キセキから聞いたわよ」
『神社は…。
行事ごとで忙しいから…』
「駄目なの?
参拝だけよ」
『またの機会で…』
家に鬼母が仁王立ちしてるだろう…。
溜め息を吐いた。
その時…。
駅向こう岸から見知った声が高らかに大きく聞こえた。
予想外な展開へ突入し、頭が困惑した。
灰色割烹着姿でスーパーレジ袋を吊り下げた中年女性は………。
本音を話せば、隠れる瞬間が欲しかった。
嫌がってる。
||「タリアちゃんじゃないの!
どこへ行ってたの?
今回の一人旅は!」||
『………』
「タリア…。
あの…おばさまは?
もしかして、タリアの?」
||「誰かしら?
タリアの隣にいるその女の子は…。
なんか見たことあるような…。
あ!
そうね。
キセキ君の
初めまして。
キセキ君は…タリアの大親友だから知ってるわよ。
キセキ君、最近…元気にしてるかしら?
よく神社へ遊びに来ては、タリアの情報を…キセキ君から聞いてたけど…」||
「あの…」
ここはターシャ駅前すぐの広場で…外は夜空で薄暗く、雨が続いてる。
駅付近にはスーパーがある。
電車から降り、駅の改札は抜け…市内循環バスのバス停へちょうど行く途中だった。
俺はオリーブ色の長袖Tシャツと黒いズボンにオリーブ色な鞄。
黒髪を肩で切り揃えた髪型なマナナは…紫色シンプルワンピースで胸元が開いて谷間が見えた服、肩から茶色いボストンバッグを掛けてる。
灰色割烹着を着た、手にスーパーレジ袋をぶら下げた…母親は俺へ暖かく…マナナには冷たい視線を向けた。
3人とも雨傘をしてる。
||「タリア、何も言ってくれなくて…。
勝手に一人旅へ出掛けてるみたいだけど。
キセキ君やミルルちゃんがいる平和国へ遊びに行ってるのかしら?
キセキ君の
何か知らないかしら?
キセキ君、平和国へ留学したみたいだけど…。
うまくいってるかしら?
マナナさん」||
「あの…。
その…。
話が…。
全然、見えないんですが…」
『…』
||「え?
それにしても…。
キセキ君の
どうしたのかしら?
まあ、同窓会かしらね?
さ、タリアちゃん…。
母さんと一緒に家へ帰るわよ。
無事で何よりだわ。
ほら、一人旅なんてしてる暇はないわよ。
タリアには、もうすぐしなきゃならないことがあるんだから」||
『…』
不味い空気になってきた。
背景は豪雨だ。
「あの…。
タリア…。
何も言ってませんか?
えっと…。
それと…タリアがしなきゃならないことって何なんですか?」
||「何の話かしら?
伝わらないけど…。
タリアがするのは見合いよ?
もう決まった話なのよ?」||
「見合いですか!!?
えっとですね…。
確かに…。
私とキセキが
今は解消してます」
||「そうなの?
あ…。
そうよね?
キセキ君、平和国へ留学したものね?
そうなの…。
それは誤解だったわね。
もしかして、マナナさん…。
キセキ君に振られたのかしら…。
悪いことを言ったわね…」||
「えと…。
私は現在、タリアと交際をしてます…。
だから、その見合いはお断りしてください。
ちょっと、タリア…お義母さんに伝えてるって、さっき言った癖に…。
嘘だったの?
何も知らないみたいなんだけど…」
『…』
||「は?
マナナさん…。
ご冗談でしょ?
交際?」||
「タリアから何も聞いてませんか?
交際して3年目なんですが…」
|| 「タリアちゃん、帰るわよ!
母さんと一緒に…。
うちではすべきことが山積みなんだから。
貴方もそろそろ神社の跡取りとして、自覚してちょうだい」 ||
『…』
「あの?」
||「マナナさん、誤解をしてもらったら困るわ?
タリアには
タリアには黙ってたけど…。
歳は一歳下で、ターシャ王立女子大学にいるターシャ学園の幼稚舎から上がった実家が神社の申し分ない女性よ」||
「え…」
『…』
||「英子さんと言う方だけど…。
もうタリアが生まれる前から決まってた話なの、この見合い話は…」||
『…』
英子さんは…。
悪いが、知ってる…。
ターシャ泉付近ミサ施設へ出勤し、業務上…巫女姿へ変貌してる時、何回か祈祷儀式を施したが…。
確か…。
容姿がオカマにしか見えない人だった。
全く気乗りしてない。
「あの…。
お義母さん…。
私は?」
||「タリアには近日中に見合いをしてもらう予定よ。
だから遊び呆けてもらったら困るの。
さ、帰るわよ。
タリアちゃん。
貴女から「お義母さん」だなんて言われる筋合いはないわ…」||
『…』
「待ってください!
その見合い…。
いつなんですか?
お義母さん!
私は納得いきません」
||「マナナさん、目的はお金かしら?
うちのタリアの将来のために離れてくれないかしら?
タリアもこの通り、黙っているし。
うちのタリアは常に母さんの味方だから」||
『………』
「タリア…。
行かないよね?
断ってよ!
ねえ、どうして…。
黙ってるだけなの!
見合い、いつなの?
ねえ」
||「タリア…。
帰るわよ。
前から見合いがあるって説明してたでしょ…!」||
『4日後…。
ターシャ神社、昼3時…』
「そうなの!
タリア!
まさか…。
行かないよね?」
||「うちのタリアちゃんは行きます!
どうして、教えるの!
さ、行くわよ」||
スーパーレジ袋を手に掲げてる灰色割烹着な母親に…俺は服を強引に引っ張られ、駐車場まで連行された…。
俺の黒い大きな傘と…母親の桃色傘が並んでる。
大昔、以来だ…これは。
最強に母親は機嫌が悪い。
マナナが慌てて、黒い傘を差したまま…ついてくる。
「待って…。
タリア…。
えっと…」
母親が無理やり車へ入り、ドアを閉め…。
俺は助手席へ…、母親が運転席に座る。
自動車内窓、サイドミラーにマナナが映る。
肩揃えな黒髪を乱し、紫色ワンピから胸の谷間を揺らし…マナナが半泣きで、黒い傘を差したまま…走ってる姿が映った。
少し不憫で同情する。
外は大雨だ、車内窓にも水滴が付着する。
天気予報が外れてる。
||「タリアちゃん。
遊び呆けてるみたいだけど。
自分のつとめを忘れないでちょうだい。
神社の未来を考えて頂戴」||
『…』
一応、マナナへは日付と時間や待ち合わせ場所を伝言したが…。
撲滅しに来てくれるだろうか?
気乗りしてない…。
自動車窓外、景色が…ターシャ国立自然公園へ向かっていく。
駅から車なら…自宅へすぐ到着するだろう。
外は薄暗く、雨音が深まっていく…フロントライトが夜道を照らす。
車内で運転ハンドルを母親が握って、俺は助手席へ座り…窓から景色を眺めるだけ…。
今、2人きりな空間だ。
猛烈に気が重い。
タリアのマナナ躾帳A
目次
タリアのマナナ躾帳C