「キセキ視点」
平和国のヴァカンス島へ留学する3年前に、マナナやタリアと教室でした会話を思い出した。
「はあ…僕は平和国へ行くのか…。
実は、平和国で・…レイカさんの警備をするバイト求人があると知った。
しかし、最難関らしい。
僕が受かると思うか?
君たちは…」
『キセキ…。
ダメもとで頑張れ。
ダメならターシャ国へ帰って来い』
「そうよ、応援してるわよ。
ダメなら帰ってらっしゃいよ。
私、慰めるから」
「マナナ…君は天使だ。
タリア…君は僕の親友だ」
少し会話は省略したが…二人からは激励を受けている。
年に一度の試験が明日だ。
僕にとっては、これが3回目の試験になる。
☆☆☆
試験当日は晴れだった。
雨天もあるわけだが…。
面接と実技が僕は特に苦手かもしれない。
試験会場はレイカさんの自宅だ。
そこに今年、レイカさん専属の自宅でSPになりたい人が集まる。
レイカ御嬢様の一番の側近、SP…王族マモルは、ヤクザの御曹司から養子として迎えたザます。
大昔から教育が施されていて、警察試験は他…ターシャ国の臨時外交官も兼ねるザます。
女優眼鏡ミルルが邪神国から返還される際には…有能なレイカ御嬢様のSPが警備員としても駆り出されたザます。
あれは稀だザますが…レイカ御嬢様が頷けば、どこの警備にも回される運命な仕事ザますよ。
あのようなドスが効いた場面では、王族マモルぐらいしか…邪神国と太刀打ちが出来ないと、
レイカ御嬢様が判断を下して…。
出向くように命令をしたザます。
このレイカ御嬢様SP任務は…レイカ御嬢様がいる国に事件が起きた際にも出航するザます。
今、レイカ御嬢様は平和国にいるザますが…ターシャ国へ行けば、ターシャ国にも付いてくるザます。
それぐらいの意気込みが欲しいザます。
最近のSPは王族マモルと違って、生ぬるいザます!
レイカ御嬢様専属のSPで実力No.1は王族マモルザます!
王族マモルを越えるレベルの忠誠心があるSPを探してるザます!
命を懸けられるザますか!”
今日のテスト前にもいろいろ小話がレイカさんの自宅大広間でスピーカー越しから流れる。
この声は…レイカさんの側近、白い髪を頂点で結って腰が曲がった年配女中・…婆ヤさんだ。
性格が猛烈に怖い。
僕は婆ヤさん、苦手かもしれない…。
レイカさんの用心棒は…大変そうだ、レイカさんの一言で…まさか…そんな…。
レイカさんがいる国で起きた事件まで走るなんて僕には無理そうだ。
ビビりそうに毎年なることが流れて来る。
ヤクザぐらいの根性が欲しいザます!
王族マモルを見習うザますよ!
それでは…ペーパー試験、開始ザます!”
試験問題の方がまだマシかもしれない。
試験問題には…心理テストみたいな問題まである。
YES OR NO だ。
【Q】貴方はレイカさんのために命を張ってレイカさんがいる場所近辺を守れますか?
命懸けです!
→YES OR NO!
これは序の口だ、これをNOを選べば…絶対に落選すると去年の過去問にも乗っていた。
半分以上、嘘でも心理テストにも挑まなければならない・・。
心理テスト以外にも普通のテストもあるが、これはまだ難しいが…頑張れば解ける。
しかし、一番の問題は…実技試験にある。
僕はこれが毎年、苦手すぎる…。
☆☆☆
次は実技試験ザます!
寄ってくるザますよ!
開始ザます!”
この試験で…僕のまた最大関門が来た。
僕は毎年、実技試験が苦手すぎる…。
今年の実技は…この20メートルの塔からバンジージャンプをするザます!
だいたい…マンション5〜6階ザます!
命綱はあるし、下にレスキュー隊と巨大なトランポリンがあるざます!
網もあるザます!
度胸を見せるザます!
パラシュートを開くザますよ!”
今年もなのか?
去年は・・これが出来たら・・100万タ$という番組にそっくりな施設に向かわされて・…。
どこまで行けるか…競う試験だった…。
今年は更に酷い気がする。
僕は高所恐怖症だ。
ちゃんとチェックしてるザますよ!
落ちる時のスタイルフォームを見てるザます。
点数を付けるザます!
下にトランポリンがあるから大丈夫ざます!
レスキュー隊も待機してるザます!
幸運をいのるざますよ!”
レイカさんの庭園に突如、設置された…階段付きの施設…。
入試会場へ来た時から何だろうか?
去年はなかったと…不思議がってたが、理解した。
あの螺旋階段のマンション6階レベルから、庭に向けて落ちるだけの試験…。
僕には無理だ、投身自殺じゃあるまいし。
頭がパニックになりかけてる。
大丈夫ザます!
死ぬことはないザます!
命綱があるざます!
しかし、命を張るぐらいの気持ちで挑んでほしいザます!
試験開始ザます!
受験番号順に順次、飛んでいくザます!”
僕は…この時、後悔した…。
縁起担ぎに、受験番号を1番にしてしまったことをだ。
今年の願書を取りに行くのが早過ぎた…。
一番、最後に願書を取れば・・良かった。
まさか、昨日の段階でレイカさんはこの試験内容を知っていたのか?
全く教えてくれなかった…。
一番、まだざますか?
灯台キセキ!
来るザます!
根性を出すザます!”
「僕には無理だ。
今年は棄権する!」
僕は叫んだ。
やっぱり無理だ。
僕は高所恐怖症だ。
向こうの方で…ゆるフワ巻きミディアムヘアーの茶髪な水色御嬢様系ワンピを着たレイカさんが僕を見詰めてる。
それでも無理だ。
来年にするつもりだ。
その時、レイカさんが…珍しいことをした。
☆「キセキさん、頑張って!」
声を上げて、応援してくれてる…レイカさんがいつになく嬉しそうに微笑んでる。
しかし・・やっぱり無理だった。
「申し訳ない…。
僕には無理だ。
今年は…」
そこでレイカさんは豹変した、叱りつけたような黒い瞳だ。
☆「そうなの?
じゃ…永久にキセキさんのことは振るから。
みっともないわ。
飛びなさいよ」
レイカ御嬢様が怒ってるザます。
情けない、飛ぶザますよ!
死ぬことなんてないザますから”
「僕は…高所恐怖症だ」
大丈夫ザますよ!
飛ぶざます、男が情けないザますよ!”
☆「キセキさんなら出来るわよ。
バンジージャンプ、楽しいわよ?」
一瞬、レイカさんが…悪魔に見えてきた瞬間だ。
僕は嫌なのに…バンジージャンプを一番乗りにしなければ、ならないのだろうか?
ほぼ、半泣きになりかけてる。
やっぱり、レイカさんを諦めて…失恋をしかけてるマナナか、それとも傷心のミルルへ行くべきかと…。
頭がいろいろ錯乱し始める。
☆「出来るって!
やってみて!」
僕は今、レイカさんの平和国にあるセカンドハウスの庭にいて、庭の中央には突如設置された螺旋階段があり・・。
庭に臨時で設置された螺旋階段の真横に、レイカさんが婆ヤさんと共にいる。
その隣にスピーカーがあって、庭中…音声が響き渡ってる。
いつになくレイカさんが応援してる。
そう言えば・・マナナからも僕は応援されてる。
下は全く見ずに、根性で螺旋階段まで近づいて階段を登った…この階段、恐ろしいことに下が見える。
横の手すりも景色が丸見えだ。
下がないと思えば・・歩けるものらしい。
下の方にいるのだろうが…レイカさんの姿も見ないことに決めた。
目を瞑れば…飛んでる時も大丈夫だろう。
螺旋階段の頂上まで登りつめれば…待機していたスタッフの男性が僕へ命綱を付ける。
勘では、このスタッフ…レイカさん専属SPの一味だ。
その証拠に…タキシードを着て、レイカさん専属SP”という名札を胸へ付けてる。
レイカさん専属SPの仕事も…こんなことまでするらしい、大変だ。
螺旋階段の頂上に設置されていた灰色のスピーカーから…地上の声が流れて来る。
それでは。
スタッフが笛の音を鳴らしたら…。
下へ飛ぶザますよ!
はい!”
ーーーPIIIIII −−−
僕は飛びたくなかったが、目を閉じて飛ぶことにした。
目を閉じても、僕の天然茶髪が上へ舞ってるのが…分かった。
全て終わった後…呆然とした頭で眼を開けば、レイカさんは嬉しそうに笑っていた。
途中の記憶が今回もない…。
☆「バンジージャンプ、楽しかったでしょ?」
「そうですね…」
嘘も方便だ、嘘を吐いた。
来年の受験を受けずに済むと祈る。
今年こそ・・受かれば良い…。
頭がフラフラしてる…。
目を開けなくて、幸いだった…。
☆☆☆
最終試験になった。
面接試験だ。
僕はこれも苦手だったりする。
受験番号1番、来るザます”
レイカさんの自宅広間に設置されたスピーカーから音が流れれば、奥の部屋に入らなければならない。
僕は歩き出した。
猛烈に緊張する。
面接室のテーブル正面に座ってるのは…。
白髪を頂点で束ねた黒いメイド服を着た年配女性の婆ヤさんと…。
右隣で微笑んでいるのは…水色の御嬢様ワンピに茶髪ゆるフワ巻きミディアムな…レイカさんだ。
僕は指定された椅子へ腰かけた。
テーブルを挟んで、向こう岸に…婆ヤさんが僕を睨み、レイカさんは微笑してる。
受験番号、一番…。
この受験の動機は何ザますか?”
「純粋にレイカさんの自宅を警備するためです」
去年の模範解答を使わせてもらった。
☆「キセキさん…キセキさんがどうして、落ちるか…。
情報を与えてあげましょうか?」
「え…。
僕は今年は受かるんでしょう…レイカさん?
バンジージャンプを飛んだし…僕は…」
☆「キセキさん、ちょっと浮つきすぎてないかしら?
真剣さが足りないのよね?」
御嬢様の言うとおりです!
命を張って、御嬢様を守るという気迫がないザます!!
自宅を警備するのじゃないザます!
御嬢様のSP警備試験ザます!
解答が間違ってるザます!”
「僕は…レイカさんを警備します。
頑張ります」
本当ザますか?
恋人から電話が来ても、レイカさんの命令を優先できるザますか?
王族マモルはそうザます!
だいたい、チャラチャラして・・。
あたしゃ、気に食わないザますよ!
誠意が足りないザます!”
「僕には別に恋人は…」
レイカさんに近付く悪い虫は興信所で50万タ$ぐらい払えば…資産調査まで全部、出るザます!
スキャンダルだらけザますよ!
心に手を当てて考えるザます!
何人、恋人がいるざますか?
その恋人よりレイカさんの警備を優先できるザますかね?
王族マモルは一人しかいない恋人よりもレイカさんを優先して、忠実に働いてるザますよ!
そういう仕事ザます!”
☆「僕は別に…恋人は…」
この興信所からの調査によれば・・。
少なくとも、眼鏡ミルル…月神マリア…馬髪可憐…難波カンサイ…大和ナデシコ…異能マナナ…。
あたしゃ、誤魔化せないザます!
大嘘つきザますね!”
☆「それは濡れ衣だ、僕は…」
別にスキャンダルが6名いても良いザますよ?
しかし…誠意が足りないザます。
これが落ちた原因ザます。
来年に期待してるザます。
以上、ザます!”
☆「試験、おつかれさま」
レイカさん…誤解だ。
全員、僕の純粋なる友達だ。
交際してる訳では…”
はい、次・・。
受験番号2番。
入るざますよ!
1番は帰るザます!”
「レイカさん、いつから知ってたのですか?
興信所なんて…僕にいつ…」
☆「キセキさん…私へ近付く男性には、勝手に婆ヤが全員、興信所を付けるのよ?
別に意味なんてないわ…」
「レイカさん…まさか…。
僕が3年前に告白をしたあの日から…。
既にその情報を」
僕は3年前、レイカさんがお遊びでターシャ泉へレイカさんのペット、犬イルカ”ラッシー”を放流してるのを目撃した日に…。
初めて、レイカさんへは告白を果たした。
それ以来、少しはレイカさんと距離が縮まってると祈りたい…。
まさか、あの日になのか?
僕は…あの日、レイカさんのメイドさん…白髪を頂点で束ね、腰の曲がった年配の黒いメイド服を着た…王族婆ヤさんとの面識がある。
それ以外考えられない。
返答が欲しいが、面接室にいる婆ヤさんには冷たく無視をされた。
邪魔ザます。
受験番号2番が来たザます”
「レイカさん、少しだけ…弁解が…」
そこへ黒いタキシードを着込んだレイカさんSP警備員軍団が…僕へ接近して、体を引っ張った。
「レイカさん・・。
誓って、僕はレイカさんが本命なんです。
あとの人たちはオマケみたいなもので…。
交際してる訳じゃ…。
これは男性真理なんです…僕以外の男性も全員、そうに決まってます」
☆「キセキ君には幻滅したわ。
別にキセキ君なんてね?
私は好きじゃないわよ?
勝手にしたら?」
弁解をする暇さえ与えてもくれず…スタッフの方たちに面接室、裏口の外に出された。
[レイカ御嬢様に慣れ慣れしい。
帰れ。
来年、来い]
[全く…誠意のかけらもない。
全員、呆れてる]
[ま、レイカ御嬢様は諦めて…その他6名から探せ。
それが最良だ。
モテるだけで幸せだと思え。
おまえはズに乗り過ぎてる。
レイカさんは高嶺の花だ。
さすがに血迷い過ぎだ]
数名のSPたちが僕へ反論を面接室、扉の外でする。
扉の外は庭だ。
天井の空が青く見えた・・9月の空は澄み渡って、良い空気だ。
「僕は…その…興信所なんて、いつ…」
[SP達全員で調べ上げた。
レイカ御嬢様に近付く悪い虫を撃退するのも仕事だ]
[王族マモルも既に知ってる。
オマエ以外にも無謀なヤツは数名いる]
「あの…レイカさんへ他の6名は友達だと伝えて下さい…。
駄目でしょうか?」
[もう帰れ。
自宅に行け。
おまえに協力する気などない]
黒タキシードを着込んだレイカさんSP軍団に、無理やり引っ張られて…門の外へ出された。
御丁寧にも僕の荷物も一緒に。
門の前には…---レイカ御嬢様SP試験会場---と言う看板がある。
平和国の空は真っ青だ。
今年も受験料2000タ$を損したらしい。
この試験、大変過ぎる。
受かることなんてあるのか?
僕はもう諦めて、ターシャ国へ帰るべきなのか?
僕なりに高所恐怖症なのに今年は…バンジージャンプまでしたと言うのに…。
自宅に帰れば、愚痴りたくもなる。
僕なりに努力は続けている。
☆☆☆
壁面がレンガ煉瓦調の自宅マンションへ到着し、透明な玄関フロントの自動扉を飛び越えた。
マンションフロント玄関1階で…2台あるうち、1台のエレベーターへ飛び乗った。
僕の暮らす部屋は6階だ。
6階に到着して、エレベーターから降りたところで。
一瞬、ボーとなった。
失恋とは辛いモノだ、少しだけ放心してた。
その時だ、何秒か差レベルで、僕のよく知る女性が出現した。
「ミルルじゃないか!
今日は女優の仕事がないのか!
そうか…。
確か、今日は君の誕生日な筈だな…おめでとう」
今日は9月6日で…ミルルの誕生日だ。
ミルルは顔にはサングラス…頭には白い広い麦わら帽子、それから…黒い長そでパーカーの下は僕が見立てた純白のパーティドレス。
靴は白い靴…あとは首元には黒いハンカチーフを巻いている。
その隣に…いる人間に対して、僕は口をパクパクしかけた。
《お祝いの言葉…ありがとう、キセキさん。
で。
レイカさんのSP試験受かったのかしら?
まあ、その顔を見れば…一目瞭然だけど‥・》
「ハア…。
聞いてくれるか?
僕は面接で…酷い目にあった。
今、元気がない…」
まずはミルルへ報告をした。
《そうなの…。
キセキさん、辛いときは泣いても良いわよ?
今回は許してあげるわよ?》
ミルルの黒いサングラスが光った。
「ううう…。
ミルル、君は最近…働きすぎだ。
僕からの誘いも断って…僕は最近、寂しい思いをしてる…。
ところでだ…。
隣にいるその黒装束の男は…まさか、ゼロなのか?」
僕の瞳から涙が出た。
失恋で泣くのは当たり前のことだ、僕にとっては…。
部屋まで耐える気だったのに…こらえきれなかったらしい。
それより、黒装束の人間が気になる…。
長身、褐色の肌に…緑の瞳、黒い髪…どう見ても、奴そのものだ。
双子なのか?それとも…。
《そうよ!
ゼロさんよ!
ターシャ国の時に留学生として、来てたゼロさん!
相変わらず、イケメンでしょ?
ミルル好みの男よ!》
「何で、君の隣にゼロがいるんだ?」
《ミルルの彼氏なのよ!》
「嘘だろう?
本当なのか?
しかし…君は騙されてるだけじゃないのか?
ゼロにだ…」
【チ】
ゼロは舌打ちをして、声を低めて…ミルルへ一声した。
【ミルル、帰るゾ】
《ちょっと、待って。
まだ自慢したりないわ!
キセキさんは今からバイトなのね?
大丈夫よ、ゼロさんは亡命したのよ!
ミルルね、そのために女優として働いて来たのよ!
ゼロさんの亡命金、20億タ$はちゃんと邪神国に収めたのよ》
「ちょっと待て…。
君はそんなに稼いでいたのか?
嘘だろ…ゼロは本当に…亡命を?
君は騙されてるんじゃないのか?」
誰でも言うぞ、これは…。
僕でも見抜ける、馬鹿にしないでもらいたい。
《ううん、えっと…。
亡命金は半額にまけてもらったわ?
今日がミルルの誕生日だからね?
あまり邪神国のことは言えないけど…何があったか…。
でも…。
ゼロさんはもう悪人じゃないの。
ミルルが買ったも同然なの!
これから、ゼロさんのミルルへの恩返しが始まる筈なの》
「ちょっと待て。
僕は全然、納得いかない。
君は騙されているだけに決まってる」
【帰るゾ、コラ。
ミルル】
《自慢は終わったし…。
これだけね?
じゃ、ゼロさん…。
行きましょう?
えっと、キセキさん…バイト頑張ってね?》
「ミルル…君はなんて…見る目がない女なんだ…。
僕は呆れてる・…」
ミルルは眼にサングラスを掛けて、長い茶髪はお団子頭にまとめ…、首へ黒いスカーフを巻き、頭に麦わら帽子を被り、腕に黒いパーカーを羽織って、白いドレ スを下には着込んでる…。
ゼロは…、全身黒装束を身に纏い、褐色の肌と黒い短髪、緑の瞳…長身の男。
ミルルもゼロも…不審者、同然な服装だ…平和国では浮きすぎてる。
二人は仲良く、密着をしたまま…一緒にマンションの赤い螺旋階段へ足を伸ばして…僕から去ろうとする。
僕はさすがに…これはマンションの廊下で叫んでも良いのか…。
ミルルの女優としての評判を落とすかもしれないが…叫んでしまった…。
「君は何も知らない!
僕がどんな思いで…君が邪神国へ拉致された時に・・・。
向こうの政府から要求された君への返還金、16億タ$を募金活動までして…かき集めたか!
君はゼロに騙されているに決まってる!
早く目を覚ますんだ!
大反対に決まってる!
幼馴染として当たり前のことだ!
僕は君のことが心配だ!」
廊下で叫んでから、我に返った。
あまり、ここで言うと…ミルルの女優としての評判に関わる。
しかし、心配過ぎる。
《これで、キセキさんへの紹介は終わったわ?
ゼロさん、ごめんね?
キセキさんが勘違いしてるみたいだわ?
ターシャ国に帰ったら、今度はしっかりミルルのお母さんへ紹介してあげるから。
サプライズも用意してるから》
【ウゼ】
そのあと、ミルルは猛烈なスピードで、階段を降りてミルルが暮らすマンションの部屋鍵を開け…。
ゼロと共にミルルは…部屋へ入った。
僕だけ1階下の廊下に残されて…唖然とした。
よほど、ミルルの部屋のインターフォンを鳴らそうかとも思ったが…。
ミルルも一度、痛い目にあって…賢くなれば良い。
今日は僕は失恋のせいで…自室では泣きたい気分だ。
怒りを抑え…失恋の痛みにも耐え、赤い螺旋階段を登り、自宅の部屋の鍵を開けて…自分の時間を確保した。
レイカさん…いったい、僕のことをいつ…監視していたのですか?
どうして、僕とミルルのことを知っているのですか???
もう、僕はミルルは手におえない…自分のことだけで精一杯だ。
今日もまた振られてしまった…。
時間を確認するためにスマホを見れば…マナナからLINE連絡が来ていた。
☺ ---「キセキ…今日のSP試験、どうだったの?」---
☺ ---「残念ね。
聞いてくれる?
明後日なの!!
タリアと英子さんの見合いが…始まるの!!
私はどうしたら…」---
明後日…9月8日、見合いが開始されるらしい。
僕がコレを知ったのは、つい…ちょっと前だ。
ターシャ祭で、今年7月7日…帰国した時――この話は出なかった。
二人が破局の危機になったことは…最近、聞いてる…。
いったい、その間に何があったのか?
そこら辺は謎すぎる。
僕は傷心で、それどころではない。
失恋ゆえに…心が痛い。
落ち込んでる。
☺ ---「キセキ、ターシャ国へ帰国するんでしょう?
大学、休みだから。
早く帰って来てよ!
私を助けて…。
タリアのお母さんにバレたの…。
なんか、別れさせられそうな空気なの」---
☺ ---「私もよ…!
とにかく、キセキしか頼れる相手がいないのよ!
待ってるわ、キセキを…」---
☺ ---「馬鹿!!
懲らしめてやるぐらいで良いのよ!
キセキに復讐を手伝ってもらうわよ!!」---
☺ ---「うるさいわね!
とにかく、タリアはお母さんの言いなりなのよ!!
なんなの?
あれ?
見合い、断りなさいよ!!!
もう、カンカンも激怒の頂点も良いところよ!!
ムカつくわよ!!
愚痴りまくりたい気分よ!!
なんで、私のことを…紹介してない訳よ!!
酷いでしょ!
しかも、見合いに行くって言ってるのよ!
もう泥沼も良いところよ!
ショックも酷過ぎるわよ!
今、半泣き状態よ…さすがに怒って良いのか泣いて良いのか…。
はあ…」---
☺ ---「普通にデートしてたら、タリアのお母さんがやって来たから…私は向こうへ挨拶しただけよ。
それだけの話よ。
そのあと、すぐに…こんな話になったのよ…。
あり得ないでしょう…?
信じられないわよ…。
はああ。
こっちが解決したらね?
私…タリアに捨てられたら…。
キセキに戻るかもしれないわよ?
良いのかしら?」---
☺ ---「情けないわね…キセキも…。
タリアもミルル、諦めて・・私に来たわけだけど…。
私も我ながら、不憫よ!」---
☺ ---「は?
ゼロくん…転校したでしょ?
いつからよ?
再会したの、ミルル。
それはおめでとう」---
☺ ---「その根拠は?」---
☺ ---「その話…本当なの!!
ちょっと待ってよ、ゼロくん…亡命が成功して、成績優秀高校へ留学して来たんじゃなかったの?
なんで、ミルルがゼロくんの亡命金を…。
意味がわからないわよ、その話」---
☺ ---「ちょっと…それは…。
えっとね?
怪しすぎるわよ・…その話…。
しかも、10億タ$!!!???
ええ?」---
☺ ---「高いわよ、半額でも!!!」---
☺ ---「やりかねないわ…。
だって…昔、ミルルを拉致しといて…そのあとに身代金要求をして…。
あり得かねないわ…。
あの国なら…。
ゼロくん、亡命してなかったの?
昔に…」---
☺ ---「とにかく、ミルルが邪神国に二度と拉致されないように、キセキも見張ってよ!
ミルルはね、ああ見えて…ガラスのハートなんだから!」---
☺ ---「ミルルね…。
心配だわ…。
ゼロくんよりまだキセキの方がマシよ。
それか…共演俳優のハン=サムにしといたら?
ミルルがなの…。
でも、そっとしてあげといたら?
ミルル、結構…ガラスのハートだから…」---
☺ ---「駄目よ!
無理やりは駄目、シコリが残るわよ!」---
平和国からコンニチハ5
目次
平和国からコンニチハ7
「はあ…僕は平和国へ行くのか…。
実は、平和国で・…レイカさんの警備をするバイト求人があると知った。
しかし、最難関らしい。
僕が受かると思うか?
君たちは…」
『キセキ…。
ダメもとで頑張れ。
ダメならターシャ国へ帰って来い』
「そうよ、応援してるわよ。
ダメなら帰ってらっしゃいよ。
私、慰めるから」
「マナナ…君は天使だ。
タリア…君は僕の親友だ」
少し会話は省略したが…二人からは激励を受けている。
年に一度の試験が明日だ。
僕にとっては、これが3回目の試験になる。
☆☆☆
試験当日は晴れだった。
雨天もあるわけだが…。
面接と実技が僕は特に苦手かもしれない。
試験会場はレイカさんの自宅だ。
そこに今年、レイカさん専属の自宅でSPになりたい人が集まる。
レイカ御嬢様の一番の側近、SP…王族マモルは、ヤクザの御曹司から養子として迎えたザます。
大昔から教育が施されていて、警察試験は他…ターシャ国の臨時外交官も兼ねるザます。
女優眼鏡ミルルが邪神国から返還される際には…有能なレイカ御嬢様のSPが警備員としても駆り出されたザます。
あれは稀だザますが…レイカ御嬢様が頷けば、どこの警備にも回される運命な仕事ザますよ。
あのようなドスが効いた場面では、王族マモルぐらいしか…邪神国と太刀打ちが出来ないと、
レイカ御嬢様が判断を下して…。
出向くように命令をしたザます。
このレイカ御嬢様SP任務は…レイカ御嬢様がいる国に事件が起きた際にも出航するザます。
今、レイカ御嬢様は平和国にいるザますが…ターシャ国へ行けば、ターシャ国にも付いてくるザます。
それぐらいの意気込みが欲しいザます。
最近のSPは王族マモルと違って、生ぬるいザます!
レイカ御嬢様専属のSPで実力No.1は王族マモルザます!
王族マモルを越えるレベルの忠誠心があるSPを探してるザます!
命を懸けられるザますか!”
今日のテスト前にもいろいろ小話がレイカさんの自宅大広間でスピーカー越しから流れる。
この声は…レイカさんの側近、白い髪を頂点で結って腰が曲がった年配女中・…婆ヤさんだ。
性格が猛烈に怖い。
僕は婆ヤさん、苦手かもしれない…。
レイカさんの用心棒は…大変そうだ、レイカさんの一言で…まさか…そんな…。
レイカさんがいる国で起きた事件まで走るなんて僕には無理そうだ。
ビビりそうに毎年なることが流れて来る。
ヤクザぐらいの根性が欲しいザます!
王族マモルを見習うザますよ!
それでは…ペーパー試験、開始ザます!”
試験問題の方がまだマシかもしれない。
試験問題には…心理テストみたいな問題まである。
YES OR NO だ。
【Q】貴方はレイカさんのために命を張ってレイカさんがいる場所近辺を守れますか?
命懸けです!
→YES OR NO!
これは序の口だ、これをNOを選べば…絶対に落選すると去年の過去問にも乗っていた。
半分以上、嘘でも心理テストにも挑まなければならない・・。
心理テスト以外にも普通のテストもあるが、これはまだ難しいが…頑張れば解ける。
しかし、一番の問題は…実技試験にある。
僕はこれが毎年、苦手すぎる…。
☆☆☆
次は実技試験ザます!
寄ってくるザますよ!
開始ザます!”
この試験で…僕のまた最大関門が来た。
僕は毎年、実技試験が苦手すぎる…。
今年の実技は…この20メートルの塔からバンジージャンプをするザます!
だいたい…マンション5〜6階ザます!
命綱はあるし、下にレスキュー隊と巨大なトランポリンがあるざます!
網もあるザます!
度胸を見せるザます!
パラシュートを開くザますよ!”
今年もなのか?
去年は・・これが出来たら・・100万タ$という番組にそっくりな施設に向かわされて・…。
どこまで行けるか…競う試験だった…。
今年は更に酷い気がする。
僕は高所恐怖症だ。
ちゃんとチェックしてるザますよ!
落ちる時のスタイルフォームを見てるザます。
点数を付けるザます!
下にトランポリンがあるから大丈夫ざます!
レスキュー隊も待機してるザます!
幸運をいのるざますよ!”
レイカさんの庭園に突如、設置された…階段付きの施設…。
入試会場へ来た時から何だろうか?
去年はなかったと…不思議がってたが、理解した。
あの螺旋階段のマンション6階レベルから、庭に向けて落ちるだけの試験…。
僕には無理だ、投身自殺じゃあるまいし。
頭がパニックになりかけてる。
大丈夫ザます!
死ぬことはないザます!
命綱があるざます!
しかし、命を張るぐらいの気持ちで挑んでほしいザます!
試験開始ザます!
受験番号順に順次、飛んでいくザます!”
僕は…この時、後悔した…。
縁起担ぎに、受験番号を1番にしてしまったことをだ。
今年の願書を取りに行くのが早過ぎた…。
一番、最後に願書を取れば・・良かった。
まさか、昨日の段階でレイカさんはこの試験内容を知っていたのか?
全く教えてくれなかった…。
一番、まだざますか?
灯台キセキ!
来るザます!
根性を出すザます!”
「僕には無理だ。
今年は棄権する!」
僕は叫んだ。
やっぱり無理だ。
僕は高所恐怖症だ。
向こうの方で…ゆるフワ巻きミディアムヘアーの茶髪な水色御嬢様系ワンピを着たレイカさんが僕を見詰めてる。
それでも無理だ。
来年にするつもりだ。
その時、レイカさんが…珍しいことをした。
☆「キセキさん、頑張って!」
声を上げて、応援してくれてる…レイカさんがいつになく嬉しそうに微笑んでる。
しかし・・やっぱり無理だった。
「申し訳ない…。
僕には無理だ。
今年は…」
そこでレイカさんは豹変した、叱りつけたような黒い瞳だ。
☆「そうなの?
じゃ…永久にキセキさんのことは振るから。
みっともないわ。
飛びなさいよ」
レイカ御嬢様が怒ってるザます。
情けない、飛ぶザますよ!
死ぬことなんてないザますから”
「僕は…高所恐怖症だ」
大丈夫ザますよ!
飛ぶざます、男が情けないザますよ!”
☆「キセキさんなら出来るわよ。
バンジージャンプ、楽しいわよ?」
一瞬、レイカさんが…悪魔に見えてきた瞬間だ。
僕は嫌なのに…バンジージャンプを一番乗りにしなければ、ならないのだろうか?
ほぼ、半泣きになりかけてる。
やっぱり、レイカさんを諦めて…失恋をしかけてるマナナか、それとも傷心のミルルへ行くべきかと…。
頭がいろいろ錯乱し始める。
☆「出来るって!
やってみて!」
僕は今、レイカさんの平和国にあるセカンドハウスの庭にいて、庭の中央には突如設置された螺旋階段があり・・。
庭に臨時で設置された螺旋階段の真横に、レイカさんが婆ヤさんと共にいる。
その隣にスピーカーがあって、庭中…音声が響き渡ってる。
いつになくレイカさんが応援してる。
そう言えば・・マナナからも僕は応援されてる。
下は全く見ずに、根性で螺旋階段まで近づいて階段を登った…この階段、恐ろしいことに下が見える。
横の手すりも景色が丸見えだ。
下がないと思えば・・歩けるものらしい。
下の方にいるのだろうが…レイカさんの姿も見ないことに決めた。
目を瞑れば…飛んでる時も大丈夫だろう。
螺旋階段の頂上まで登りつめれば…待機していたスタッフの男性が僕へ命綱を付ける。
勘では、このスタッフ…レイカさん専属SPの一味だ。
その証拠に…タキシードを着て、レイカさん専属SP”という名札を胸へ付けてる。
レイカさん専属SPの仕事も…こんなことまでするらしい、大変だ。
螺旋階段の頂上に設置されていた灰色のスピーカーから…地上の声が流れて来る。
それでは。
スタッフが笛の音を鳴らしたら…。
下へ飛ぶザますよ!
はい!”
ーーーPIIIIII −−−
僕は飛びたくなかったが、目を閉じて飛ぶことにした。
目を閉じても、僕の天然茶髪が上へ舞ってるのが…分かった。
全て終わった後…呆然とした頭で眼を開けば、レイカさんは嬉しそうに笑っていた。
途中の記憶が今回もない…。
☆「バンジージャンプ、楽しかったでしょ?」
「そうですね…」
嘘も方便だ、嘘を吐いた。
来年の受験を受けずに済むと祈る。
今年こそ・・受かれば良い…。
頭がフラフラしてる…。
目を開けなくて、幸いだった…。
☆☆☆
最終試験になった。
面接試験だ。
僕はこれも苦手だったりする。
受験番号1番、来るザます”
レイカさんの自宅広間に設置されたスピーカーから音が流れれば、奥の部屋に入らなければならない。
僕は歩き出した。
猛烈に緊張する。
面接室のテーブル正面に座ってるのは…。
白髪を頂点で束ねた黒いメイド服を着た年配女性の婆ヤさんと…。
右隣で微笑んでいるのは…水色の御嬢様ワンピに茶髪ゆるフワ巻きミディアムな…レイカさんだ。
僕は指定された椅子へ腰かけた。
テーブルを挟んで、向こう岸に…婆ヤさんが僕を睨み、レイカさんは微笑してる。
受験番号、一番…。
この受験の動機は何ザますか?”
「純粋にレイカさんの自宅を警備するためです」
去年の模範解答を使わせてもらった。
☆「キセキさん…キセキさんがどうして、落ちるか…。
情報を与えてあげましょうか?」
「え…。
僕は今年は受かるんでしょう…レイカさん?
バンジージャンプを飛んだし…僕は…」
☆「キセキさん、ちょっと浮つきすぎてないかしら?
真剣さが足りないのよね?」
御嬢様の言うとおりです!
命を張って、御嬢様を守るという気迫がないザます!!
自宅を警備するのじゃないザます!
御嬢様のSP警備試験ザます!
解答が間違ってるザます!”
「僕は…レイカさんを警備します。
頑張ります」
本当ザますか?
恋人から電話が来ても、レイカさんの命令を優先できるザますか?
王族マモルはそうザます!
だいたい、チャラチャラして・・。
あたしゃ、気に食わないザますよ!
誠意が足りないザます!”
「僕には別に恋人は…」
レイカさんに近付く悪い虫は興信所で50万タ$ぐらい払えば…資産調査まで全部、出るザます!
スキャンダルだらけザますよ!
心に手を当てて考えるザます!
何人、恋人がいるざますか?
その恋人よりレイカさんの警備を優先できるザますかね?
王族マモルは一人しかいない恋人よりもレイカさんを優先して、忠実に働いてるザますよ!
そういう仕事ザます!”
☆「僕は別に…恋人は…」
この興信所からの調査によれば・・。
少なくとも、眼鏡ミルル…月神マリア…馬髪可憐…難波カンサイ…大和ナデシコ…異能マナナ…。
あたしゃ、誤魔化せないザます!
大嘘つきザますね!”
☆「それは濡れ衣だ、僕は…」
別にスキャンダルが6名いても良いザますよ?
しかし…誠意が足りないザます。
これが落ちた原因ザます。
来年に期待してるザます。
以上、ザます!”
☆「試験、おつかれさま」
レイカさん…誤解だ。
全員、僕の純粋なる友達だ。
交際してる訳では…”
はい、次・・。
受験番号2番。
入るざますよ!
1番は帰るザます!”
「レイカさん、いつから知ってたのですか?
興信所なんて…僕にいつ…」
☆「キセキさん…私へ近付く男性には、勝手に婆ヤが全員、興信所を付けるのよ?
別に意味なんてないわ…」
「レイカさん…まさか…。
僕が3年前に告白をしたあの日から…。
既にその情報を」
僕は3年前、レイカさんがお遊びでターシャ泉へレイカさんのペット、犬イルカ”ラッシー”を放流してるのを目撃した日に…。
初めて、レイカさんへは告白を果たした。
それ以来、少しはレイカさんと距離が縮まってると祈りたい…。
まさか、あの日になのか?
僕は…あの日、レイカさんのメイドさん…白髪を頂点で束ね、腰の曲がった年配の黒いメイド服を着た…王族婆ヤさんとの面識がある。
それ以外考えられない。
返答が欲しいが、面接室にいる婆ヤさんには冷たく無視をされた。
邪魔ザます。
受験番号2番が来たザます”
「レイカさん、少しだけ…弁解が…」
そこへ黒いタキシードを着込んだレイカさんSP警備員軍団が…僕へ接近して、体を引っ張った。
「レイカさん・・。
誓って、僕はレイカさんが本命なんです。
あとの人たちはオマケみたいなもので…。
交際してる訳じゃ…。
これは男性真理なんです…僕以外の男性も全員、そうに決まってます」
☆「キセキ君には幻滅したわ。
別にキセキ君なんてね?
私は好きじゃないわよ?
勝手にしたら?」
弁解をする暇さえ与えてもくれず…スタッフの方たちに面接室、裏口の外に出された。
[レイカ御嬢様に慣れ慣れしい。
帰れ。
来年、来い]
[全く…誠意のかけらもない。
全員、呆れてる]
[ま、レイカ御嬢様は諦めて…その他6名から探せ。
それが最良だ。
モテるだけで幸せだと思え。
おまえはズに乗り過ぎてる。
レイカさんは高嶺の花だ。
さすがに血迷い過ぎだ]
数名のSPたちが僕へ反論を面接室、扉の外でする。
扉の外は庭だ。
天井の空が青く見えた・・9月の空は澄み渡って、良い空気だ。
「僕は…その…興信所なんて、いつ…」
[SP達全員で調べ上げた。
レイカ御嬢様に近付く悪い虫を撃退するのも仕事だ]
[王族マモルも既に知ってる。
オマエ以外にも無謀なヤツは数名いる]
「あの…レイカさんへ他の6名は友達だと伝えて下さい…。
駄目でしょうか?」
[もう帰れ。
自宅に行け。
おまえに協力する気などない]
黒タキシードを着込んだレイカさんSP軍団に、無理やり引っ張られて…門の外へ出された。
御丁寧にも僕の荷物も一緒に。
門の前には…---レイカ御嬢様SP試験会場---と言う看板がある。
平和国の空は真っ青だ。
今年も受験料2000タ$を損したらしい。
この試験、大変過ぎる。
受かることなんてあるのか?
僕はもう諦めて、ターシャ国へ帰るべきなのか?
僕なりに高所恐怖症なのに今年は…バンジージャンプまでしたと言うのに…。
自宅に帰れば、愚痴りたくもなる。
僕なりに努力は続けている。
☆☆☆
壁面がレンガ煉瓦調の自宅マンションへ到着し、透明な玄関フロントの自動扉を飛び越えた。
マンションフロント玄関1階で…2台あるうち、1台のエレベーターへ飛び乗った。
僕の暮らす部屋は6階だ。
6階に到着して、エレベーターから降りたところで。
一瞬、ボーとなった。
失恋とは辛いモノだ、少しだけ放心してた。
その時だ、何秒か差レベルで、僕のよく知る女性が出現した。
「ミルルじゃないか!
今日は女優の仕事がないのか!
そうか…。
確か、今日は君の誕生日な筈だな…おめでとう」
今日は9月6日で…ミルルの誕生日だ。
ミルルは顔にはサングラス…頭には白い広い麦わら帽子、それから…黒い長そでパーカーの下は僕が見立てた純白のパーティドレス。
靴は白い靴…あとは首元には黒いハンカチーフを巻いている。
その隣に…いる人間に対して、僕は口をパクパクしかけた。
《お祝いの言葉…ありがとう、キセキさん。
で。
レイカさんのSP試験受かったのかしら?
まあ、その顔を見れば…一目瞭然だけど‥・》
「ハア…。
聞いてくれるか?
僕は面接で…酷い目にあった。
今、元気がない…」
まずはミルルへ報告をした。
《そうなの…。
キセキさん、辛いときは泣いても良いわよ?
今回は許してあげるわよ?》
ミルルの黒いサングラスが光った。
「ううう…。
ミルル、君は最近…働きすぎだ。
僕からの誘いも断って…僕は最近、寂しい思いをしてる…。
ところでだ…。
隣にいるその黒装束の男は…まさか、ゼロなのか?」
僕の瞳から涙が出た。
失恋で泣くのは当たり前のことだ、僕にとっては…。
部屋まで耐える気だったのに…こらえきれなかったらしい。
それより、黒装束の人間が気になる…。
長身、褐色の肌に…緑の瞳、黒い髪…どう見ても、奴そのものだ。
双子なのか?それとも…。
《そうよ!
ゼロさんよ!
ターシャ国の時に留学生として、来てたゼロさん!
相変わらず、イケメンでしょ?
ミルル好みの男よ!》
「何で、君の隣にゼロがいるんだ?」
《ミルルの彼氏なのよ!》
「嘘だろう?
本当なのか?
しかし…君は騙されてるだけじゃないのか?
ゼロにだ…」
【チ】
ゼロは舌打ちをして、声を低めて…ミルルへ一声した。
【ミルル、帰るゾ】
《ちょっと、待って。
まだ自慢したりないわ!
キセキさんは今からバイトなのね?
大丈夫よ、ゼロさんは亡命したのよ!
ミルルね、そのために女優として働いて来たのよ!
ゼロさんの亡命金、20億タ$はちゃんと邪神国に収めたのよ》
「ちょっと待て…。
君はそんなに稼いでいたのか?
嘘だろ…ゼロは本当に…亡命を?
君は騙されてるんじゃないのか?」
誰でも言うぞ、これは…。
僕でも見抜ける、馬鹿にしないでもらいたい。
《ううん、えっと…。
亡命金は半額にまけてもらったわ?
今日がミルルの誕生日だからね?
あまり邪神国のことは言えないけど…何があったか…。
でも…。
ゼロさんはもう悪人じゃないの。
ミルルが買ったも同然なの!
これから、ゼロさんのミルルへの恩返しが始まる筈なの》
「ちょっと待て。
僕は全然、納得いかない。
君は騙されているだけに決まってる」
【帰るゾ、コラ。
ミルル】
《自慢は終わったし…。
これだけね?
じゃ、ゼロさん…。
行きましょう?
えっと、キセキさん…バイト頑張ってね?》
「ミルル…君はなんて…見る目がない女なんだ…。
僕は呆れてる・…」
ミルルは眼にサングラスを掛けて、長い茶髪はお団子頭にまとめ…、首へ黒いスカーフを巻き、頭に麦わら帽子を被り、腕に黒いパーカーを羽織って、白いドレ スを下には着込んでる…。
ゼロは…、全身黒装束を身に纏い、褐色の肌と黒い短髪、緑の瞳…長身の男。
ミルルもゼロも…不審者、同然な服装だ…平和国では浮きすぎてる。
二人は仲良く、密着をしたまま…一緒にマンションの赤い螺旋階段へ足を伸ばして…僕から去ろうとする。
僕はさすがに…これはマンションの廊下で叫んでも良いのか…。
ミルルの女優としての評判を落とすかもしれないが…叫んでしまった…。
「君は何も知らない!
僕がどんな思いで…君が邪神国へ拉致された時に・・・。
向こうの政府から要求された君への返還金、16億タ$を募金活動までして…かき集めたか!
君はゼロに騙されているに決まってる!
早く目を覚ますんだ!
大反対に決まってる!
幼馴染として当たり前のことだ!
僕は君のことが心配だ!」
廊下で叫んでから、我に返った。
あまり、ここで言うと…ミルルの女優としての評判に関わる。
しかし、心配過ぎる。
《これで、キセキさんへの紹介は終わったわ?
ゼロさん、ごめんね?
キセキさんが勘違いしてるみたいだわ?
ターシャ国に帰ったら、今度はしっかりミルルのお母さんへ紹介してあげるから。
サプライズも用意してるから》
【ウゼ】
そのあと、ミルルは猛烈なスピードで、階段を降りてミルルが暮らすマンションの部屋鍵を開け…。
ゼロと共にミルルは…部屋へ入った。
僕だけ1階下の廊下に残されて…唖然とした。
よほど、ミルルの部屋のインターフォンを鳴らそうかとも思ったが…。
ミルルも一度、痛い目にあって…賢くなれば良い。
今日は僕は失恋のせいで…自室では泣きたい気分だ。
怒りを抑え…失恋の痛みにも耐え、赤い螺旋階段を登り、自宅の部屋の鍵を開けて…自分の時間を確保した。
レイカさん…いったい、僕のことをいつ…監視していたのですか?
どうして、僕とミルルのことを知っているのですか???
もう、僕はミルルは手におえない…自分のことだけで精一杯だ。
今日もまた振られてしまった…。
時間を確認するためにスマホを見れば…マナナからLINE連絡が来ていた。
☆☆☆
異能マナナ☺ ---「キセキ…今日のSP試験、どうだったの?」---
既読
---「落ちた」---
---「落ちた」---
☺ ---「残念ね。
聞いてくれる?
明後日なの!!
タリアと英子さんの見合いが…始まるの!!
私はどうしたら…」---
明後日…9月8日、見合いが開始されるらしい。
僕がコレを知ったのは、つい…ちょっと前だ。
ターシャ祭で、今年7月7日…帰国した時――この話は出なかった。
二人が破局の危機になったことは…最近、聞いてる…。
いったい、その間に何があったのか?
そこら辺は謎すぎる。
既読
---「それは大変だな…」---
---「それは大変だな…」---
僕は傷心で、それどころではない。
失恋ゆえに…心が痛い。
落ち込んでる。
☺ ---「キセキ、ターシャ国へ帰国するんでしょう?
大学、休みだから。
早く帰って来てよ!
私を助けて…。
タリアのお母さんにバレたの…。
なんか、別れさせられそうな空気なの」---
既読
---「僕も傷心してる…。
失恋でだ」---
---「僕も傷心してる…。
失恋でだ」---
☺ ---「私もよ…!
とにかく、キセキしか頼れる相手がいないのよ!
待ってるわ、キセキを…」---
既読
---「分かった…。
マナナももう諦めたらどうだ?
僕も今…暗い気分だ…」---
---「分かった…。
マナナももう諦めたらどうだ?
僕も今…暗い気分だ…」---
☺ ---「馬鹿!!
懲らしめてやるぐらいで良いのよ!
キセキに復讐を手伝ってもらうわよ!!」---
既読
---「マナナも失恋を認めないのか?」---
---「マナナも失恋を認めないのか?」---
☺ ---「うるさいわね!
とにかく、タリアはお母さんの言いなりなのよ!!
なんなの?
あれ?
見合い、断りなさいよ!!!
もう、カンカンも激怒の頂点も良いところよ!!
ムカつくわよ!!
愚痴りまくりたい気分よ!!
なんで、私のことを…紹介してない訳よ!!
酷いでしょ!
しかも、見合いに行くって言ってるのよ!
もう泥沼も良いところよ!
ショックも酷過ぎるわよ!
今、半泣き状態よ…さすがに怒って良いのか泣いて良いのか…。
はあ…」---
既読
---「そっちも大変そうだな…。
僕のことも協力してほしい気分だ・・。
で、どういう経緯でバレたんだ?」---
---「そっちも大変そうだな…。
僕のことも協力してほしい気分だ・・。
で、どういう経緯でバレたんだ?」---
☺ ---「普通にデートしてたら、タリアのお母さんがやって来たから…私は向こうへ挨拶しただけよ。
それだけの話よ。
そのあと、すぐに…こんな話になったのよ…。
あり得ないでしょう…?
信じられないわよ…。
はああ。
こっちが解決したらね?
私…タリアに捨てられたら…。
キセキに戻るかもしれないわよ?
良いのかしら?」---
既読
---「もうそれでも良い気もする…。
僕はレイカさんを…諦めつつあるらしい。
はあ…。
タリアのお母さんに君は会ったのか…。
僕もタリアのお母さんには…何度も会ったことがある。
タリアのお母さんは、かなり息子激愛家だと感じた。
それは…知ってる…」---
---「もうそれでも良い気もする…。
僕はレイカさんを…諦めつつあるらしい。
はあ…。
タリアのお母さんに君は会ったのか…。
僕もタリアのお母さんには…何度も会ったことがある。
タリアのお母さんは、かなり息子激愛家だと感じた。
それは…知ってる…」---
☺ ---「情けないわね…キセキも…。
タリアもミルル、諦めて・・私に来たわけだけど…。
私も我ながら、不憫よ!」---
既読
---「ところでだ・・。
ミルルが…君は覚えてるか?
ゼロと交際した」---
---「ところでだ・・。
ミルルが…君は覚えてるか?
ゼロと交際した」---
☺ ---「は?
ゼロくん…転校したでしょ?
いつからよ?
再会したの、ミルル。
それはおめでとう」---
既読
---「君は呑気だな…。
僕はゼロにミルルが騙されてると思う」---
---「君は呑気だな…。
僕はゼロにミルルが騙されてると思う」---
☺ ---「その根拠は?」---
既読
---「それがだ…。
ミルルが女優で稼いだ金…10億タ$をゼロの亡命金のために、邪神国へ収めたらしい」---
---「それがだ…。
ミルルが女優で稼いだ金…10億タ$をゼロの亡命金のために、邪神国へ収めたらしい」---
☺ ---「その話…本当なの!!
ちょっと待ってよ、ゼロくん…亡命が成功して、成績優秀高校へ留学して来たんじゃなかったの?
なんで、ミルルがゼロくんの亡命金を…。
意味がわからないわよ、その話」---
既読
---「そうだろ。
というか…僕の考え通り、あの当時…3年前…。
ゼロは亡命なんて成功してなかったんじゃないか?
だって、あの国から亡命なんてあり得ないだろう?」---
---「そうだろ。
というか…僕の考え通り、あの当時…3年前…。
ゼロは亡命なんて成功してなかったんじゃないか?
だって、あの国から亡命なんてあり得ないだろう?」---
☺ ---「ちょっと…それは…。
えっとね?
怪しすぎるわよ・…その話…。
しかも、10億タ$!!!???
ええ?」---
既読
---「半額にまけてもらえたらしい…。
当初の亡命金は20億タ$だったらしい」---
---「半額にまけてもらえたらしい…。
当初の亡命金は20億タ$だったらしい」---
☺ ---「高いわよ、半額でも!!!」---
既読
---「絶対…。
ミルルは邪神国政府とゼロに騙されてる…。
僕はそう思う。
しかし…、ミルルは気が付いてない…。
僕はどうしたら…」---
---「絶対…。
ミルルは邪神国政府とゼロに騙されてる…。
僕はそう思う。
しかし…、ミルルは気が付いてない…。
僕はどうしたら…」---
☺ ---「やりかねないわ…。
だって…昔、ミルルを拉致しといて…そのあとに身代金要求をして…。
あり得かねないわ…。
あの国なら…。
ゼロくん、亡命してなかったの?
昔に…」---
既読
---「してるわけないだろう?
あれは嘘に決まってる。
そして、今またミルルを利用して…金を巻き上げようとしてる。
それなのに、ミルルがアホなんだ。
どうしたら…」---
---「してるわけないだろう?
あれは嘘に決まってる。
そして、今またミルルを利用して…金を巻き上げようとしてる。
それなのに、ミルルがアホなんだ。
どうしたら…」---
☺ ---「とにかく、ミルルが邪神国に二度と拉致されないように、キセキも見張ってよ!
ミルルはね、ああ見えて…ガラスのハートなんだから!」---
既読
---「そうだ、僕はしっかりする。
ミルルとゼロの件だが…別れさせるべきなのか?
ミルルはもうゼロを邪神国から買ったも同然だと宣言してる…」---
---「そうだ、僕はしっかりする。
ミルルとゼロの件だが…別れさせるべきなのか?
ミルルはもうゼロを邪神国から買ったも同然だと宣言してる…」---
☺ ---「ミルルね…。
心配だわ…。
ゼロくんよりまだキセキの方がマシよ。
それか…共演俳優のハン=サムにしといたら?
ミルルがなの…。
でも、そっとしてあげといたら?
ミルル、結構…ガラスのハートだから…」---
既読
---「僕には見守ることしか出来ないのか…。
無理やり別れさせようかと…」---
---「僕には見守ることしか出来ないのか…。
無理やり別れさせようかと…」---
☺ ---「駄目よ!
無理やりは駄目、シコリが残るわよ!」---
既読
---「そういうものか?」---
---「そういうものか?」---
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