【ゼロ視点】
料理の味は悪くねえ。
最近、格段に食事のレベルが上がった。
真面目にウメエ。
食は進む。
食事をしてる間はミルルはオレを見詰めず、真剣に書物を読んデル。
邪神教の歴史書だ。
ミルルは集中力があるラシイ。
真剣な表情だ。
少しオレから緊張がほどける。
食い終われば、オレはスプーンを机に置き、食器を持って…、厨房へ向かうことにした。
皿を返却するのは各自銘々ダ。
ノアがミルルの分は皿を持って返却口へ向かったが、オレの分は持たずに去った。
畜生、あの糞ババアッ。
本当、ザけんじゃネエよ…。
ったく…。
オレの分も持って帰れ、ボケナスが!
殴り倒してやろうか?
アアアア?
オメエは…舐めてんのか?
コォラァ?
王族へはメイドが料理を持ってくる仕組みダッ…。
張り倒してやりてえ…蹴りまくりてえ…オレはヤツは女と認めねえ…殺してえええ…。
ノア、オメエはいろいろ…あり得ねえダロ?ふざけんじゃネエよ!
チッ…。
息が怒りで切れそうにナッタ…一瞬。
アイツとオレは合わねえ。
ノアだ、畜生目ガ。
アイツのせいでガス室送りされて…死を覚悟した瞬間以来…ヤツを見れば…。
理不尽なことでも…自動的に怒りが沸いて来るらしい。
ミルルはその間ですら、食いついたように本へ齧りついてる。
凄い集中力がアル女ラシイ。
皿を持って、厨房へ向かった。
厨房は5階にあるが…王族専用のエレベーターが使えるのが救いダ。
冷房が館内効いてるからダ。
☆☆☆
大きな全身鏡と椅子が5つあるエレベーターを越え、下りた先…5階、目前に厨房がある。
そこの返却口に食器を入れた。
その時、コックと面会した。
[ゼロか。
ミルル様は俺ッチ特性のサソリの唐揚げ…御口に合わなかったんだってな。
ノア大佐から聞いた。
で、ミルル様とは…。
ゼロから見て、どういう人間なんだ?
ノア大佐は女帝になれる器な人間だとしきりと言って来るが…。
俺ッチは…実際、見てみたいものだ]
ノアはミルルを祖国へ帰る気がねえラシイ。
オレとしては何とか、ターシャ国へ帰そうと計らっているのだが。
【ハン?
まだ分からねえ…。
会って間もねえしな…。
チッ…。
平和国で女優になりてえラシイが…】
[俺ッチも、そんな話も聞いたことがアル。
しかし、自らこの国へその足で走って来たんだろう?
何が目的なんだ?
やはり、女帝になる気なのか?
ミルル様と言うお方は…]
このままでは…この国の将軍様の長男イチミル、次男ニミルを他とする、派閥からミルルが命を狙われかねない。
奴らは自分の上司を次期将軍にさせることに対して、全力を注いでるからダ。
【ハン?
この国へ走った理由はそれではねえラシイ…。
ミルルの考えてることは全く理解できねえ。
しきりと、ターシャ国へ帰ると宣言しテル。
オメエも手伝いやがれ、このボケナスが】
[そうか…。
どっちが本当なんだ?
俺ッチにはサッパリだ。
ノア大佐はミルル様は女帝になると宣言してると広めてる。
違うのか?]
【ウゼエ。
オメエ、ミルルへ飯出すときはサソリは粉砕して、サボテンと混ぜて、ポテトサラダレベルにしやがれ。
ボケナスが…。
頭、沸いてるのか?
タコが・・。
食えねえダロ?
当たりメエダロ?
低脳ガ】
[そうか、その手があったか…。
精進料理の域だな…。
何とか、頑張ろう・・。
ミルル様にも俺ッチが頑張ってること、ヨロシク伝えてくれよな?
ヘヘヘヘ]
コックは長いちょび髭を揺らして、不気味に笑ってる。
褐色の肌に濃い眉毛、つぶらな瞳。
頭には白いコック帽子に白い料理服着た…割りと腕の良い王族専用のコックだ。
今日の飯も最高だった。
【ジャナ】
[また、助言頼むぜ。
ゼロ。
俺ッチのこと、ミルル様へ伝えてくれよな?
女帝になった際にはヨロシク頼むぜ!]
ノアのせいで…軍内部に変な噂が流れてるらしい。
オレは今日から偽造貨幣工場へ配属されたから知らなかったが…。
ノアが勝手に話を進めてるラシイ…。
あのババアめ。
ブッ殺す、夏の暑さにやられて、死ねばいい!
オメエは何様のつもりじゃ、ボケが!
っざけんなよ、カスがッ!
ミルルの命が変な人間に狙われねえかだけ心配だ。
イチミルは14歳。
ニミルは10歳。
まだ、ミルルを殺すなど…そんなたい逸れたことを考える性格ではねえがッ…。
その母、イチ妃と二妃は険悪で…。
何するか、分からねえ。
遊女上がりの女ダ。
やはり…ノアはオレの思惑通り、何やるか分からねえ人種ダ。
アイツは危険だ…。
一度、殺してやりてえ。
殴る程度じゃ気が済まねえ。
何べん、裏切れば気が済むんだ、あの女・・。
蹴り倒してやろうか?
畜生めがッ!
ザコが!
冷房の効く部屋に行くためには手段など選ばねえ、ミルルを根性で女帝にするつもりラシイガ。
そのせいで…ミルルが命を狙われかねないことに関しては…完全無視してヤガル。
ミルルの事情を考えれば、ターシャ国へ返還するのに力を注ぐ方が得策に決まっテル。
自分のことだけしか考えてねえラシイ、あの女は…常にソウダ。
それが悪気がないつもりラシイのが、余計にタチが悪イ…罪悪感すら存在しねえ女ダ。
損得勘定しか、あの女にはネエ。
口が達者なだけにミルルは騙されてる…。
どんどんミルルはノアの手中へ転落してる気がスル。
完全信用させねえように始終、ミルルには説得をカケル気ダ。
ミルルは馬鹿なレベルに純粋ダ…頭が良いのかは知らねえが…後先、考えなさ過ぎダ。
そこは驚愕してる。
戦地へ飛び込んできた理由が安易すぎて、ドン引きレベルだ。
もう少しマトモな理由で来るならまだしも…かなり頭の中がメルフェンだ。
この国の人間ではあり得ねえ、アレは…天然記念物ダ。
オレは常に警戒を巡ラセル。
この国にはコトワザがある…馬鹿は早死にする。
ミルルはもう少し、骨がある人間だと思ってただけに…。
そこは失望に近い、暗殺されねえように祈る。
周囲全員、ミルルが女帝になるか・…ならねえかで、命を張ってる雰囲気だ。
厨房で今の会話をした瞬間、普通に…数名以上の軍人と目が合致した。
奴らも血眼になって情報を探ってるラシイ。
後継者争いほど、血生臭いモノもネエ。
最悪、暗殺される。
オレは真面目に疑ってる…。
本気で17年前・…将軍様の家族全員が…病死したのかを・・・。
この国は悪意に満ち溢れテル。
悪く考えれば、毒を盛らなくても…調理法を少し変えるだけで。
病原菌が多い国だ、人を死へ追いやれる。
邪神海に広がる…養殖ミール貝の病死で腐りかけたモノを濃い味付けをして、生煮えで食卓へ盛れば…一発だ。
激性肝炎を発症するウィルスもここでは普通にアル…。
寄生虫もウジャウジャだ。
年に一度、軍では、邪神祭りの時に…虫下し薬を飲むことが義務付けられてる。
それぐらい流通してる。
本気でミール貝に当たって…0157で6名とも死亡したのか…。
謎で仕方ねえ。
これからは貝の生煮えだけはチェックする。
ミルルがばれない様に毒殺されかねない。
☆☆☆
エレベーターを経由して6階へ帰る。
本当に王族は贅沢の塊だ。
あの厨房へ食器を返却してる軍人の大半は…。
軍人用の寮で寝るはずだ。
冷房温度は29度弱までと制限があり、6畳一間に2階立てベッドが3つ並ぶ…6人部屋だ。
ただし、軍事施設の中だけに、職場まで1分で王族ご用達の軍人は…特別優遇はされてる。
暑い中庭を歩く時間がお蔭で少ねえ筈ダ。
これから暑い季節が到来する。
夜は外は35℃程度で比較的涼しい。
これが夜でも40℃を越える季節が来ると思うと、全員の表情が暗くもなる。
電力事情が悪い国だけに…全員が自分の派閥を次期、将軍にさせようと躍起になってることが伝わって来る。
☆☆☆
6階、最奥の棺桶部屋に戻れば…とても涼しい。
冷房が効いてる。
楽園だ。
ミルルは食卓でまだ真剣に歴史書を読んでる。
信じられないレベルの集中力ラシイ。
オレが食器を下げてる瞬間ですら反応もなかった。
一度、読書を開始すると…本の世界へ転がり込むタイプらしい。
さすが、オレが認めただけの女だと、そこは感心する。
秀才だ。
しかし、部屋に入って来ても接近しねえのはつまらねえ。
今日は癒されたい気分だ。
ベッドに横になってみた。
そろそろ気が付けば良い。
ここまで集中力が凄い女は初めて見た。
≪あ?
ゼロさん…。
帰って来たのね?≫
オレが厨房へ食器を返却したことについては理解はしてたラシイ・…。
≪ミルル、一度、本を読むと続きが気になってたまらないタイプで…。
もう歴史書って楽しくてたまらなくて…。
読んでたら、寝不足になりそうだわ≫
【アア?
邪神国の歴史は面白いノカ?】
≪そうよ、もう…。
胸が高鳴るわよ!≫
ミルルはオレへ抱擁してくる。
ミルルの乳房が当たってる。
服の上からも柔らかさが分かる。
オレはベッドに寝転がってて、ミルルは上に乗っかって、オレへ腕を回してる。
どう考えても、これから事が始めるのだとしか考えようもネエ。
今日は仕方ねえから、避妊具を買ってポケットには入れてる。
期待値が上がる。
≪ミルル、ゼロさんの肩幅…大好きよ。
広くて、ミルルがこうやって腕を絡めてみると…。
ほら、ミルルがスッポリ入るでしょう?
癒されるわよ?≫
【ソウカ…】
≪今日も一緒に寝れて嬉しいわ。
ミルル、感激してるわよ…≫
【ソウカ…】
≪それからね‥・。
ゼロさんのこの手。
ミルルよりずっと大きいでしょう?
これを触るのもミルル、好きなの≫
ミルルはオレの掌を握ったりして遊んでる。
【ソウカ…】
≪あとね、ゼロさんの黒髪。
固そうに見えて、触ると柔らかいの…。
さわり心地が良くて、癒されるわ…】
ミルルはオレと同じようにベッドに入って、嬉しそうに髪を触ってる。
【ソウカ、ソウカ…】
≪じゃ、明日に備えて寝ましょう?
おやすみ・・・。
ゼロさん、好きよ。
こうやって、抱擁してるとね?
ミルル、とても癒されてホッとするんだから…≫
【ハア?】
ミルルはベッドへ眼鏡だけ置いて、オレへ必死に抱擁をして…。
信じられねえことに今日もすぐに寝息を立て始める。
寝顔は可愛いが。
ミルルは抱擁しても恐るべきことに何も感じねえのか?
そこは謎だ。
スヤスヤ寝息を立ててる。
【ミルル…。
他にもスルことが…あるだろ?
ホラ・・】
≪何なの?
分からないわよ…。
おやすみ、ゼロさん≫
これは何なのだろうか?
昨日は謎だったが…。
まさか、冗談抜きでミルルは結婚するまで…。
何もしない気なのだろうか?
【おい、ビジネスキス…嫌なんだろう?
キスぐらいならしてヤッテモだな…】
≪もう良いのよ、ミルル…。
実は結婚するまでキスも嫌なの。
誰と一緒になるか将来は未定だけど…。
これぐらいが好きよ。
ミルルはね、将来の結婚相手にファーストキスとエロは捧げるって子供の頃から夢見てるの。
まだ、ゼロさんって確証もないわけだし。
ずっと後でも良いと思ってるの。
だって、将来は未定でしょう?
その夢を叶えたいの、素敵な夢でしょう?≫
【ハアア?】
≪ゼロさん、気に入ってるわ。
おやすみ≫
【オメエは何を考えてるんダ?
アア?】
≪ミルルはね、エロは別にどうでも良いの、あまり興味ないし。
でも、ゼロさんは好きなの。
こうやって寝るのが一番、好きなの。
別に子供なんて試験管ベービーでも良いんだから…≫
ミルルはオレに抱擁したまま…寝言で返事してる。
【真面目なのか?
冗談…か。
ターシャ国式のジョークなのか?
オレには意味が分からねえが…】
≪ゼロさん…まさか、したいの?
ごめんね…。
でも、ミルルは嫌いだわ…ああいうの不潔でしょう?
興味ないわ。
ミルルは女だから…全然、興味ないの。
でも、ミルル…ゼロさんは好きなの…。
理解してね…≫
【ハアア…】
ミルルはオレの胸元に今日も頭を擦り付けてるが…。
邪神語を喋ってる筈なのに…何故か、壁があるラシイ。
少し聞いてると胸が痛い…全然、癒されネエ。
≪男の人って不思議だわ、好きじゃなくても抱けるんでしょう?
ミルルはね…好きでもエロが嫌いなの、抵抗あるわよ。
悪気はないのよ…。
別に結婚するまでで良いでしょう?
エロなんて不潔よ、子供が出来たらどうするの?
だって、結局…困るのは女じゃない?
ミルルが妊娠して困る訳でしょう?
しない方が女にとっては良いに決まってるわよ。
シッカリした女ならそれぐらい分かってるわよ≫
ミルルは盛大にオレへ甘えてる。
ミルルの体の柔らかさが伝わって来る。
しかし、考え方が理解できねえ…固すぎると感じる。
【それなのに、何故・・。
オメエはオレへ甘えて来る?
今も何故、抱き枕にスル?】
ミルルはオレの胸元で嬉しそうに顔を乗せて密着をシテル。
今、ベッドで抱き合ってる状態だが。
≪好きだからよ。
おやすみ。
理由はないけど、ミルルはゼロさんのことが何故か好きみたい。
それだけよ…。
ゼロさんはミルルのこと、好きなの?
ねえ?≫
【ウゼエ】
≪ミルルは好きよ。
好きになってくれるまで根性で落とすわよ。
ミルルの結婚相手、ゼロさんであれば…良いなとは思ってるわよ…。
おやすみ≫
ミルルは真面目に目を瞑りながら、会話してる。
目を瞑る姿は天使だが。
価値観が全然、違うらしい。
ちょっと震撼してる。
オレには少し重荷かもシレネエ。
オレは今、癒されタイ。
別に抱擁だけで癒される訳でもねえ。
オレだけ手洗いで自己処理なハメらしい。
あとどれだけこれが続くんだ?
アア?
そんなノリが1ヶ月近くも実に続いた。
8月11日になる。
ミルルが祖国ターシャ国を出たのが…7月11日、こっちに飛行機を跨いで到着したのが…7月12日…。
再会したのも7月12日だったらしい。
1ヶ月近くそうだったらしいことに今朝になって気が付いた。
今朝、寝ぼけ声なミルルとした会話でだ…。
仕返しもしたくもなった。
ミルルは猛烈にグッスリ寝てる、8月に入ってから熱期の到来で状況が更に酷い。
ここ11日間は…帰宅しても殆ど会話がネエ。
ミルルはグッスリ寝てヤガル…。
これがまさかあとどれだけ続くノカ…?
馬鹿は察せば良いとも感じた。
懲らしめてやりたい気持ちも沸いた。
机の上に分かりやすく、早朝…4時半頃、去り際に置き手紙を置いた。
【旅ヘ出ル。
サヨナラ。
他に良い男、見付ケロ】
これで苦しめば良い。
真面目にそう感じた。
どうせ追いかけて来るだろうとはすぐに予想が付いた。
ミルルが祖国を飛び出した1ヶ月目の朝、とうとう限界値を越えて、これだけ書いて…職場へ向かった。
偽造貨幣工場の監視役も1ヶ月が経過し、誰もが嫌がる熱期の到来ダ。
外は60℃近い。
今頃、あの悪女とドロボウの共犯が…宿を発見できたのかそこは知らねえ。
死んでもオレは真面目にどうでも良い。
むしろ死ねば良い。
暑過ぎて、さすがに外を警備する気になれねえ。
50℃と60℃では大違いだ。
さすがに60℃の熱期は・・・軍事施設では外回りは休みに入る。
盆で忙しい。
夏休みが多い分、ココは冬休みが殆どねえ。
あの60℃の中、歩くのは脚の裏が火傷で溶ける感覚だ。
焼石の上に脚を乗せる感覚で…一瞬で体が蒸発して死にそうになる。
誰もが食事より冷房を求める。
内回りの仕事は楽だが、休みなのに働くことに不服なのか・…。
工場従事者は時々、手をあからさまに休める。
そこだけが問題だ。
一応、ノルマがアル。
将軍様は厳しい御方だ。
しかし、ここは涼しいことだけは救いだ。
軍事施設までの送迎バスも一応、ある。
この熱期を乗り切れるか乗り切れないかで、邪神国で生きる際には…今年の生死が決まる。
これが2〜3か月程度は続く。
この熱期の救いは…。
夜に急激に温度が下がることだ。
と言っても、35℃程度に下がる。
しかし、強風の35℃は割りと涼しい。
体感温度が30℃程度だ。
夜道は歩ける。
昼夜の温度差が30℃近い。
さすがに全員がふら付いて来る。
この季節はドロボウが増える。
外から軍事施設などの涼を求めて…。
昼間、冷房施設へ侵入し…夜に野宿を考える貧民も多い。
見張りを徹底しなければならない季節だ。
どこに泥棒が隠れてるか分からない…。
全員死活問題だから、クローゼットの中や倉庫や…。
冷房の効いた部屋の見えにくいところから発見する事もアル。
実は今日も発見をした。
突き出せば、将軍様から金が貰える。
ココでは任務を全うシテル。
☆☆☆
夕飯時までに帰れるのが良いところだ。
夜は涼しい。
朝も日が昇る前までは涼しい。
その時間帯に送迎バスが出てる。
昼間は冷房が効かないレベルの暑さだからダ。
帰宅が9時ぐらいになる。
7時ですら日がまだ高いからダ。
もちろん、腹も減るが…。
暑い時間に帰る勇気は全員ねえ。
バスが涼しいのが救いダ。
外が60℃近いのと35℃なのとで…中の冷房の効きは大違いダ。
☆☆☆
帰宅してすぐにオレはすぐに王族御用達の職員寮へ向かった。
初めて利用することになる。
今まで、ミルルの部屋で添い寝状態だったからダ。
入ってみて聞いてた通りに冷房の温度は29度弱まで。
それから6畳ベッドに2段ベッドが3つあり、カーテンがそれぞれのベッドにある寮ダ。
一応、男女別の塔になってる。
男性寮は壁が水色。
女性寮は壁が桃色。
コンクリートの四角い建物が王宮の中庭にある。
夜は外が35℃程度で強風が吹き荒れてる。
歩きやすい気候だ。
男性寮の1階がオレの指定部屋ラシイ。
入って行くなり、声を掛けられた。
@[オラ、ワンって名前だべ。
ゼロは…偽造貨幣製造工場監視員で勤務者の名前、全員…知ってるっぺか?
オマエ、ミルル様のお気に入りなんだってな?
オラ、聞いたべ]
A[ボクチンはツーって名前サ。
ニミル派だけどサ‥。
あ…ボクチンたち…顔ソックリさ。
だって、5つ子だからさ。
生まれてすぐ、親が育てきれないからサ。
地方の私学軍事寮へ出したからさ。
兄弟全員…育った場所が違うから、方言がそれぞれ違うけどさ。
一卵性5つ子ださ]
B[ワイ…スリーっちゅう、名前やサカイ。
全員、あまりにも工場仲間が…ワイらの名前間違うサカイ、黒装束に名札付けてるさかい…。
あと、兄弟全員…サングラスしてるサカイ。
これは趣味さかい。
あと、全員、スキンヘッドなのも趣味さかい。
お蔭で汗かいても楽やサカイ
ワイ、元ミミル派やさかい…。
だってミミル様、処刑されたさかい…]
C[オイラ、フォーだけん…。
無所属はだケン]
D[ボカァ、ファイブって名前、無所属派タイ。
ヨロシクたい。
クククク]
全員褐色の肌にスキンヘッド、顔にはサングラス…黒装束には名札。
それから、方言が違う。
これは…5つ子なんていう予定外の出産で…両親が手を焼いて、育てきれず…。
銘々全員、地方私学へ別の軍事寮に入隊したラシイ。
今、邪神国の首都へ全員集合し…感動の再会をしてるラシイ…。
この国では将軍様から名前を戴くが…。
かなり適当な名前が多い。
【一篇に喋んな、コラ。
耳が潰レル】
A[ゼロさ…。
ずっと1ヶ月間もココだけ空いてたさ…。
来たニャさ?]
D[ミルル様が女帝になるって本当かいな?
ノア大佐が言ってたタイ]
C[コックからも聞いてるケン…。
どうなんだケン?]
B[ワイ…サンミル様とサン妃様は処刑されたサカイ…。
もう出世の望みはないサカイ…。
ミルル様の容姿次第やサカイ。
で、どんな方なん?]
@[コックからも聞いてるっぺ…。
どうなんだべ?
オラ、イチミル派だべ?
ミルル様が女帝になるって本当だべか?
ノア大佐が言ってたべ]
全員がこのノリだ。
予想は付いてた。
【ミルルはターシャ国へ帰りたいラシイ。
オメエらも協力すべきだ、コラ。
聞き分けならねえボケナスが】
B[何だ、ツメテエ奴さかい…?
そうサカイ?
ワイ、興味あるサカイ]
C[な、ミルル様とお前、どんな関係だケン?
噂になってるケン]
D[ミルル様、御前のことスキだって、ノア大佐が言ってたタイ。
ノアは御前がミルル様を陥れようとしてるに決まってると、怒って反対してるタイ。
どうなんだタイ?]
A[ボクチン…ノア大佐が言う話が本当だったら、それは困るッサ。
なんせサァー…ワテ、ニミル派だからサァー。
本当にサァー、ミルル様はサァー…ターシャ国へ帰りたいのか?
それはサァー…ワテ、賛成ニャさ]
@[オラ、とにかくミルル様の容姿だけが知りたいッペ。
で、美人っぺか?
かわい子ちゃんだっぺか?
将軍様に似てる容姿らしいっぺ?…。
ノアが言うには容姿は申し分なく、しかも秀才で…それから運動神経に長けて、度胸もあって。
女帝の器が数段にあるとベタ褒めだっぺ?
実物見たいっぺ!]
【ウゼエ、いっぺんに喋んな。
コラ。
オレは寝ル】
カーテンを閉めて、ベッドに横になった。
29弱設定、布団を被らなければ・・眠れないこともないレベルな温度だ。
暑いから男性寮は全員がパンイチにランニングシャツ状態だ。
確かに暑い、ランニングシャツ持ってねえからパンイチで寝る。
黒装束衣装を脱げば、そうなる。
確かに隣の音も気になるが、まあ…寝不足が祟ってる。
眠れねえこともネエ。
暫く寝させて貰った。
周囲の奴らが何か騒がしいが。
殺気を感じれば、自動的に目が覚めるように今ではなってる。
どうせ、オレの噂話だろう。
どうでも良い。
☆☆☆
ノアが門番にオレを叩き起こすように頼んだらしい。
2段ベッドの下の段で寝てたら…門番が目前に立ってた。
カーテンは開けてた…。
29弱冷房の部屋に男6人は…暑すぎる。
カーテンがない方がまだ、涼しい。
―――おい、ゼロ!
起きろ!
ミルル様直属メイドにこのたび、決定し…幹部へ昇進したノア大佐が…ゼロを呼んでる。
起きやがれ!―――
この男性寮の門番は…常に頭に黒装束のフードを被って、隠してる。
昔、戦地で異端派から硝酸にやられ…ほぼ顔が崩れてないらしい、包帯を巻いてると聞く。
殉職をしたわけではねえが優遇サレテル。
男性寮で見張り住み込みと…比較的で特典がある仕事を…将軍様がお与えにナッタ。
この門番はオレが邪神教異端派の息子であることは知らねえ。
オレも去年、知った。
一部の昔、戦地へ向かった連中だけ…当時のことを知ってるラシイ…。
【ウゼエ!
ノアか?
用はねえと伝言しろ、夜は寝る。
糞ババア目が…。
チッ…】
起き抜けは最高に機嫌が悪い。
周囲から非難の声が上がる。
B[何だ、ノア大佐から呼び出されたん?
ワイ、興味あるさかい]
C[な、ノア大佐とお前、どんな関係だケン?
ノア大佐…オマエの悪口ばかりだケン]
D[ノア大佐タイ?…。
ゼロ、御前悪いことしたタイか?]
A[ぼくちん…寝てたサー。
ウルサイから、早く去るニャサ…。
明日も早いさ。
ノア大佐なのか?]
@[ノア大佐か…。
まあ、美人だが…寝るっぺよ。
オラ、明日も早いっぺ]
―――集合部屋で集団の規則を乱す奴は糞野郎だ。
おい、ゼロ!
ノア大佐の言うことを聞きやがれ!
ついでに…名は明かせねえが面会人もいる。
ゼロだけで良い。
他の連中は寝ろ!―――
【ウゼエ…。
ノアかよ…。
ダリイ…。
面会人付きかよ】
B[早く行ってきて良いさかい?ゼロよ?
ワい、寝るさかい]
C[明日も早いし任務に支障が出るケン?
寝さしてもらうケン]
D[もう寝るタイ?…。
おやすみタイ…]
A[ちょっとウルサイサ…。
ボクチン…暑いサー。
行って来いサ、ゼロ?]
@[おやすみだっぺ]
【チ…】
集合部屋から苦情が出たから、舌打ちをして…仕方なしに出ることに決めた。
☆☆☆
寝ボケ眼で、王宮職員男性寮から…門番と共に出てみれば…。
そこにいたのは…。
予想通り、ノアとやはり…ミルルらしいガ。
明日も早い、早朝だ…。
猛烈に眠い。
《どうしてミルルと一緒に寝てくれないわけ?
何が不服なの!!
あの置手紙はどういう意味なの!
説明して頂戴!
納得なんていってないわよ!》
【他に良い奴を当たれ】
《どうしてなの?
はあ?
ミルルの何が悪いって言うの!
どうして抱き枕になってくれないの?
ミルルのこと、好きじゃないの?
今までは大人しく従ってくれたじゃない?
何なの?
来るもの拒まずな性格じゃなかったわけ!
今日も一緒に寝るわよ!
別に添い寝で良いんだから!
変なことしないわよ、寝ましょうよ。
一緒に》
〔ほら、ミルル様。
ゼロもこう言ってますし…。
今日は私が一緒に添い寝を…。
ゼロは別にミルル様が好きじゃないと判明しましたし…。
【旅ヘ出ル。
サヨナラ。
他に良い男、見付ケロ】
って置手紙までしてましたし…諦めるべきです。
私が一緒に寝ましょうか?〕
ミルルはボタボタ泣いてる。
ノアがミルルの腕を引っ張ったが…。
ミルルはそれを、払いのけて…オレに突進して、抱擁してくる。
本気で寝てた、寝不足が祟ってる。
目の下に隈が発生してる。
≪ゼロさん…どうして?
ミルルのこと、どう思ってる訳よ?
ねえ…?
ミルルはゼロさんが好きなんだけど…≫
ミルルはまるでヌイグルミに抱き付くかのノリで、オレに抱擁をする。
これが一晩続き…一か月も経過した。
【今までアリガトナ】
猛烈に眠い。
そろそろ言わなくても察するべきだと感じる。
少しは反省すべきだとも感じる。
少しは悲しめば良い。
《ハア?》
ミルルはまるで童女のように瞬きをしてる。
《ねえ、どうしてなの?》
ミルルはオレの髪を触ってる。
それもまるで…ペットの毛並みを撫でるかのように映って来るが・…。
これは被害妄想なのだろうか?
犬か何かと勘違いされてる気がスル。
【オメエは誰でも良いのか?
添い寝してくれりゃ。
他に構ってもらえる奴を探すべきだ】
《はあ?》
ミルルは掌でオレの頬を上目づかいに触ってる。
とても嬉しそうだ。
このまま何年もまさか続くのか?
それは疲れる。
【将来の結婚相手にオメエがエロを取っておくって意味は。
要するにオメエ自身がオレじゃねえと思ってるってこった。
ワリィことは言わねえから他にしとけ。
オレはオメエに合わせることが疲れた。
ノアでも、他の男でも…別に誰でも良いから。
今日は寝ヤガレ、アホらしい】
ミルルはオレに抱擁をしてる…。
少し眠い。
ミルルの黒装束ポンチョをノアが強引に引っ張って来る。
ノアは不服ラシイ。
〔そうですよ、ゼロは止すべきです。
それは私からも同意です。
別にエロなんてしなくて良いです。
ミルル様は結婚まで純潔で良いのですから。
私と一緒に今日は寝ますか?
添い寝ですよ。
広い部屋が憧れですから・・〕
ここでちょっとブチ切れ欠けてる。
この尼を一回、殴れば・・気が済むダロウカ?
ゼロA
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ゼロC