≪ミルル視点≫
いかにも常夏な国の遊女、一人はまさに裸婦って感じ、素っ裸…。
服すら来てない。
あれは…ペットなのかしら?
首に緑色の蛇を巻き付けて遊んでる…体は素っ裸。
ノアがミルルの前に手を大の字にして接近する5人の遊女から守った。
〔ミルル様、専属なメイドは私だけですから!
それから…その蛇、ミルル様には近付けないで下さいよ、毒蛇ですよね?〕
[あら?かわいいのに…グリーンは…大人しいのよ…。
ワレのお気に入り…。
昆虫しか食べないから餌代が高いけど…。
将軍様に恵んでもらってるの。
きっとワレのことを将軍様は気に入ってるんだから]
あの蛇…ラフグリーンスネークかもしれない。
つぶらな瞳に緑の体でペットに人気らしいけど…。
猛毒だって聞く。
〔ミルル様、それで…。
今日は私に何の用事ですか?
私で出来ることがあれば、助力しますよ。
それにしてもここは寝苦しいですわ。
昼間はミルル様の部屋で冷房設定22度強で慣れてますから・…。
勉強で分からないところがありましたか?
ミルル様の頭は優秀なのでそんなことはなさそうですが…。
さすがに政治の話は難しいですか?〕
≪違うのよ、ノア。
ゼロさん、知らないかしら?
【旅ヘ出ル。
サヨナラ。
他に良い男、見付ケロ】って…置手紙があって≫
ノアにゼロさんが部屋へ書置きした手紙を見せた。
途端にノアがカラカラ笑い出した。
〔ああ。
ハハハ。
きっと、ゼロなりのブラックジョークですわ。
この国ではブラックジョークが流通してますから〕
ミルルは必死にノアに詰め寄った。
≪どこにいるの?
【旅ヘ出ル。
サヨナラ。
他に良い男、見付ケロ】って言うのはデマ情報なの?
ゼロさんは…どこへ今、行ったのかしら?≫
〔ゼロですか?
どうせこの時間なら…射的の練習か…。
今日はメイド寮の男性部かもしれませんね。
あそこには将軍側近のSPや…それから将軍お抱えの調理師なども揃いますから。
妃様たちの宦官もいますが…。
ふわあ。
どうせ冷房の効いた部屋でしょう〕
長い豊かな黒髪に、褐色の肌なアラビア系美女…ノアは大欠伸をしてる。
≪どうしてミルルと一緒に寝てくれないわけよ?≫
〔ミルル様、振られたんじゃないですか?
痴情のもつれ話を私に相談するのは止めてくださいませ。
それなら、今日は私がミルル様と一緒にベットで添い寝いたしましょうか?
ミルル様のベッドはベッドだけで6畳はありそうなので…。
十分、ゴロゴロ寝まくれますし〕
確かにミルルの部屋は30畳ぐらいは普通にあるけど…。
部屋にはアメジストが施されたシャンデリアが煌めいてる。
≪ゼロさんは男性寮にいるのね。
走って行くわ≫
〔ふわあ…。
御気を付けて、女性は男性寮になんて潜入が許されないのですが。
まあ、ミルル様は王族。
どうせ、ゼロを呼び出せばすぐに出て来ざるおえないでしょう。
メイド寮の門番に尋ねてみればいかがでしょう?
私も一緒に行きましょうか?〕
5人の遊女たちもクスクス笑ってる。
あんな裸同然な服装では…さすがに男性寮へは行けないと思う。
ちょっと衝撃的な服装だった。
☆☆☆
ノアと共に、男性寮へ向かった。
女性寮の隣にある…水色で塗装された割りと広い館。
男性寮の門番へノアがゼロさんがいるかどうか尋ねてみればすぐ判明した。
門番さんは常に黒いフードで頭を隠していて顔は分からない、全身黒装束の男性。
その日は男性寮へゼロさんは早々に帰ったみたい。
ノアが門番にゼロさんを叩き起こすことを頼んだ。
ゼロさんは罰が悪そうな表情で出て来た。
ゼロさんは長身な体躯に褐色の肌と堅そうな黒髪、それから特徴的な緑の瞳を持つ異国の男性。
ゼロさんは現在、ミルルが制服代わりに来てる黒装束と同じポンチョのようなサリーにも似た衣装を着てる。
異国情緒が漂ってる。
《どうしてミルルと一緒に寝てくれないわけ?
何が不服なの!!
あの置手紙はどういう意味なの!
説明して頂戴!
納得なんていってないわよ!》
【他に良い奴を当たれ】
《どうしてなの?
はあ?
ミルルの何が悪いって言うの!
どうして抱き枕になってくれないの?
ミルルのこと、好きじゃないの?
今までは大人しく従ってくれたじゃない?
何なの?
来るもの拒まずな性格じゃなかったわけ!
今日も一緒に寝るわよ!
別に添い寝で良いんだから!
変なことしないわよ、寝ましょうよ。
一緒に》
〔ほら、ミルル様。
ゼロもこう言ってますし…。
今日は私が一緒に添い寝を…。
ゼロは別にミルル様が好きじゃないと判明しましたし…。
【旅ヘ出ル。
サヨナラ。
他に良い男、見付ケロ】
って置手紙までしてましたし…諦めるべきです。
私が一緒に寝ましょうか?〕
ミルルはボタボタ泣いた。
突然、サヨナラなんて認められる訳がない。
ノアがミルルの腕を引っ張ったけど、それは払いのけて…ミルルはゼロさんに接近して、抱擁した。
ゼロさんは寝ぼけ眼をしてる。
本当に寝ていた雰囲気。
≪ゼロさん…どうして?
ミルルのこと、どう思ってる訳よ?
ねえ…?
ミルルはゼロさんが好きなんだけど…≫
ゼロさんは黒装束ポンチョ衣装。
褐色の肌がミルルとは違ってて、それから肩幅が広くて背丈があって…男らしくて。
これを抱き締めて寝るとミルルは安眠できる。
とても人肌が暖かくて癒される。
ホノボノした心地に浸れる。
【今までアリガトナ】
ゼロさんは高揚がない低い声で棒読み。
《ハア?》
置き手紙を読んでも理由が分からなかった。
ミルルは瞬きを何回もした。
《ねえ、どうしてなの?》
ミルルはゼロさんの髪を触ってみた。
割りと髪が堅そうに見えて…触ると、柔らかい。
癖のある髪をしてる。
ミルルとは毛質が違ってて癒される。
【オメエは誰でも良いのか?
添い寝してくれりゃ。
他に構ってもらえる奴を探すべきだ】
《はあ?》
ゼロさんの頬を手で触ってみた、髭剃り跡がある。
なんというか男性らしくてココも好きかもしれない。
ミルルは触るの大好き。
ゼロさんの緑の瞳は何の感情も伝えてこない。
不思議な魅力がある瞳をしてる。
【将来の結婚相手にオメエがエロを取っておくって意味は。
要するにオメエ自身がオレじゃねえと思ってるってこった。
ワリィことは言わねえから他にしとけ。
オレはオメエに合わせることが疲れた。
ノアでも、他の男でも…別に誰でも良いから。
今日は寝ヤガレ、アホらしい】
ミルルはゼロさんに抱擁をした。
とても癒される、こんなペットが欲しかった。
と言えば…確かに叱られることも分かってる。
でも、一緒に添い寝がしたい。
ミルルの黒装束ポンチョをツンツンとノアが引っ張って来る。
〔そうですよ、ゼロは止すべきです。
それは私からも同意です。
別にエロなんてしなくて良いです。
ミルル様は結婚まで純潔で良いのですから。
私と一緒に今日は寝ますか?
添い寝ですよ。
広い部屋が憧れですから・・〕
《ちょっと待ってよ。
ミルルはゼロさんって思ってるわよ?
どういうことなの?
嫌よ、一緒に今日も寝ましょうよ》
ミルルは盛大にゼロさんに抱擁をしてスリスリした。
それからゼロさんの手を握ってみた。
掌が大きい、これを触るのも割りと大好き。
一時、やせ細ってたけど、ゼロさんは…ここ一か月で持ち直した雰囲気。
【オレが言える事はコレだけダ…距離を置きたい】
ゼロさんは口では拒みつつ、ミルルになされるがまま。
ミルルはそれも手伝って、抱擁や触りまくれる。
特に掌を触るのがお気に入り。
ノアは隣で大あくびをしてる。
〔別れ話ですか?
でも、それが良いです。
ミルル様、もう諦めるべきです。
だいたい、私は許してませんでしたから。
さあ、ミルル様・…ココから離れて私を冷房完備なキンキンに冷えた広いお部屋へ…。
メイド寮は冷房が29度設定弱までで寝苦しいったら…。
その点、ミルル様のお部屋は扇風機まであって、快適ですから〕
《ハア?
どうしてなの?
いやよ…。
ゼロさん、ミルル…。
ゼロさんに何か悪いことした?》
【サヨナラだ】
ミルルはゼロさんに甘えまくってる。
甘えるの好き、ゼロさんの肩幅が広いのがとてもツボ。
ゼロさんは口では拒んでも、ずっと動きはしない。
今日も頑張れば、文句を言いつつ抱き枕になってくれそう。
この国に来てから確かに寂しい。
環境に慣れてないのもある。
ゼロさんと一緒に寝るとミルルはホッとする。
ミルルのポンチョを引っ張って来るのはノア、ちょっと邪魔かも。
〔ほら、ミルル様…ゼロから離れるべきです。
また、ゼロが殺人を犯しても駄目ですし・・。
はああ…。
それに考えても見てください。
ゼロは、別に一人でも寝れます、ミルル様を鬱陶しいと思ってる可能性もありますよ?
彼自らミルル様から去るようですし、ミルル様も他へ目移りされたら?
【他に良い男、見付けろ】と彼自身、言ってますし…。
あと、私は最初から反対してましたからね…?
子供が出来たら、どうするんですか?
ミルル様はこの国の姫様なのですから!〕
《ちょっと待ってよ!
ミルルの何が悪いわけ?
ゼロさん、怒るわよ!
ミルルはカンカンよ!
ミルルのこと、好きじゃないの?
何で、【他に良い男…見付けて】て残酷なことを言う訳?
嘘でしょう?
ねえ、振られたの?
ミルルは》
ミルルはゼロさんへガッシリ抱擁した。
ノアは溜息を吐いた。
ゼロさんは眠そうな顔をしてる。
〔それにミルル様は一つ大きな勘違いをしてます。
ゼロは別に今までも何人ともエロならやったことがある人間ですから。
純情な奴でもないですよ、止すべきですわ。
ミルル様にはもっと相応しい殿方がいらっしゃいます。
ゼロ自身、またどこかで女を落としてる可能性も…〕
≪え?
ゼロさん…初めてじゃないの?≫
〔そうですよ…。
彼、何人・・今までいたか…分からないレベルですよ。
100人切りも越えてますよ。
いろいろ良くない人間ですし、止すべきですね。
まあ、この国は別に貞操観念なんて全員、緩いわけですし・・。
私も普通にありますが。
ミルル様みたいなのが逆に天然記念物ですがね?
ミルル様の綺麗な体に私ですら、触れる時には一応、配慮したんですよ?
私の方が思えば・・ミルル様の全てを知ってる訳ですし…。
冷房の効いた涼しい部屋で寝る権利があるのは私ですよね?〕
≪何を言ってるの?
あれってただの検査でしょう?≫
〔まあ、私も今まで仕事として、何人も検査として・・体の中の構造を調べたことならありますが…。
ミルル様はまだ処女ですよね?
ゼロは普通にスパイとしてもスケこましとして今まで働いてもらってますから・…。
お良しになるべきです〕
≪嘘でしょう?
ええ…。
ゼロさんに性病を持ってる可能性は…≫
〔ゼロとは言い難いですね…。
ただ、彼はエイズにだけはならない珍しい型ですが・…。
お蔭で輸血として血を抜いて売ることも、臓器の転売も無理ですが…〕
≪この国って…知らなかったけど…。
自分の血液が…売れる訳?≫
〔売れますよ。
普通に需要がありますから…〕
ミルルが知らない文化ばかりで…ずっとカルチャーショックの連続。
だって、邪神国に関する情報はミルルの祖国、ターシャ国へは全く入ってこない状態だから。
ずっと、ビックリの連続で。
心臓が7つあっても足りないレベル。
それなのに…どうしてなのか、ミルルはゼロさんに惹かれてる。
国際結婚に憧れてた訳じゃないけど…。
もう一目惚れとしか、言いようがない。
ゼロさんに抱擁をすれば物凄く癒されることを知ってる。
【そう言うことダ。
オメエはこの国では務まらネエ。
ターシャ国へ根性でカエルベキダ】
≪ゼロさん…。
そんな…。
ミルル以外に…今もいるの?
新たな女が…。
嘘でしょう?
性病なんて…≫
【ウゼエ…】
ミルルは必死でゼロさんに抱擁してる、ミルルのポンチョを横からノアが引っ張って来る。
〔ゼロの気持ちを尊重すべきですわ。
ミルル様。
それでは…ゼロ、もう寮へ帰りなさい。
邪魔ですから、貴方〕
【ジャナ…】
ゼロさんがミルルの前から去っていく。
衝撃的な話を…ゼロさんの口から直接じゃなく、ノアから告げられて…。
ミルルは頭が停止してる。
ミルルは股の緩いヤリチン男なんて大嫌いなのに…性的なことに関しては真面目で潔癖症だから。
頭痛を起こした。
≪ちょっと、待って!!
ゼロさん!!≫
ミルルが水色ペンキで塗装された王族職員寮へ入ろうとすると…門番の方から注意された。
―――申し訳ございませんが…。
ここは男性寮なので…。
ミルル様とはアナタなんですか?
しかし、ここは御通しできません…―――
≪ちょっと、ミルルは王族なのよ!
一応、そうでしょう?≫
―――そうですが…。
規則と言うものがございます。
それから、庭園ではなるべくフードをして、顔を隠してくださりませ。
将軍様からの許可が出たのですか?―――
≪うるさいわね!
ゼロさんは明日、何時にここから出てくるわけ?
どこの任務なの?≫
―――それは不明です。
どこの任務かは…将軍様からの命令で各自動いてますので…―――
≪ザけんじゃねえわよ!
ちょっと、明日の朝までミルルがここで待ってても言いわけ?
倒れたら、あんた…叱られるわよ!
ミルルの言うこと聞かないと…足蹴りを100回はかますわよ!
このッ、馬鹿野郎!≫
―――怒りを鎮めて下さりませ、これ以上は口を慎みます。
恐れ多い―――
ミルルは水色ペンキで塗装された男性寮の壁面に看板が張り付けられてるのを発見した。
ポスターで、”熱期バス時刻表、朝;5時…夜;9時着”と書いてある。
≪このバスの時刻表は何なわけ?
しっかり説明しなさいよ。
足蹴りするわよ、痛いわよ…。
ミルルの足力は…牢屋の鉄檻を変形させるレベルなんだからね…≫
―――それは…えっと…その…。
ノア大佐、ミルル様を頼む―――
監視員がノアに手を揃えて、拝み、頼み込む。
ノアがニコヤカに微笑した。
〔ミルル様?
ここは男性寮…去るべきですわ…。
規則があるので…。
その代り、お部屋で…ゼロの情報を与えても良いですよ?〕
ミルルは仏頂面になって、壁へ足蹴りを一回だけした。
一回したから、壁が少しだけ凹んだ。
それから、白目を向いてノアに尋ねた。
怒りで倒れそうになってる…。
≪ゼロさんがスケこましをしてたって本当なの?
嘘でしょう?≫
〔ミルル様…何度も言いますが…。
この国を舐めてらっしゃる…。
ここはミルル様がいらっしゃったメルフェンのような国ではないのですよ。
私たちにとってはこれが現実ですから〕
≪ありえないわ。
フィクションでしょう?≫
〔ターシャ国はそれに対して、いろいろ甘すぎる。
別にお金のためなら普通に体ぐらい全員売ってますわ。
天から与えられたモノを売るのも才能のうちですわ。
ネズミチュウ太郎のような売りようのない不細工は…仕方なしに窃盗で生計を立てざるおえないのが現実ですが…。
ネズミチュウ太郎が死なずに現在、23歳まで生きれてるのは…冷房完備な囚人施設で働いてるお蔭に決まってますわ…〕
≪嘘でしょう?
アイツ、皺皺だったわよ。
23歳には見えなかったわ…≫
〔生きるのは大変なんですよ。
なんせ暑いし、食べ物が粗末ですからね…。
それから、まあ…過去を話せば…私もですわ〕
≪嘘でしょう?
ノアまで…≫
ノアまでそうだと知って、身震いしそうになった。
ミルルはヤリマンなんて最低だと思って生きて来たのに…。
特にマナナの母がそうだって知った時から、差別的じゃないけど‥蔑んでたのも確か。
マナナを旧友なんて認めてない、ヤリマンの娘なんて最低。
変な子に決まってる…そう思い続けて生きてきた。
向こうは親友って勘違いしてるみたいだけど…。
ミルルは堅物でお金のために体を売る人種なんて大嫌いなのに…何故か、今…ミルルの周りにいるのはそんな人間ばかり…。
衝撃的すぎる事実。
どうしても嫌悪感が込み上げてくる、考えただけでゾゾっとする。
〔ささ、ミルル様は寝室へ戻るべきですわ。
私が添い寝をしましょうか?
外から刺客や暴漢が訪れても大変なので。
ミルル様がお嬢様なのが今日の一件でよく分かりましたから…〕
≪遠慮するわよ、ミルルの方がノアより体術が上なんだから・・≫
〔そうですか…。
女同士で話がしたい気分なんですがね…。
ゼロの情報もたんまり教えますよ?〕
≪本当?ゼロさんの?≫
〔前払いに情報を渡しましょうか?
ゼロは…従軍慰安婦は買いませんが。
この国には従軍慰安婦もたくさんいますよ?〕
≪ええ…≫
〔というか…この軍施設にいる女性は殆ど、そう言う関係の人間ですね…。
夏になると思いだします。
私の初産は14歳ぐらいでしたかね?
全員、そんなものですが。
流産でしたよ…性別は不明ですね…〕
≪誰だったのよ?
相手は…売春な訳?≫
〔似たようなものですかね…。
やっぱり冷房の効いた部屋で過ごしたいと思ったので。
特に8月の60℃はやってられませんね…。
ただ、それだけの理由でした。
相手が軍の方だったので、私の頭の良さが認められ、お蔭で教育を受けられ…。
今に至る訳です。
元夫とも呼べますね〕
≪元夫ってことは…結婚して、それから…離婚したの?
どうして?≫
〔いろいろありましてね…。
二人目は17歳でミルル様と同じ歳の頃でしたね。
夏の暑さにやられて…1年を満たない内に…娘は死にました。
この年に夫が戦死しました…。
だから、元夫です〕
≪そうなの…≫
〔と言っても、この国では子供ができて、子供が認知されて初めて夫と呼べるのですが…。
ミルル様は勘違いしてますね…。
相手にも私以外に複数の奥さまがいましたが…一夫多妻なので…我が国は〕
≪恋人じゃないの?≫
ミルルは目をパチクリとした。
ノアは盛大に溜息を吐いた。
〔どうでしょうかね?
毎年、夏が来れば…私は冷房が効いた部屋に過ごしたいがために男女問わず、誰彼なしにアタックしてますよ?
死活問題ですからね?〕
≪そうなの…≫
ちょっとココら辺はついて行けない価値観。
でも、夏の暑さだけは同意する。
これは確かに…死活問題だとは思う。
〔三人目は…今年です。
去年は夏が暑かったので、とある高級職の方と…従軍慰安婦ではありませんが、出勤しました。
これは・・子供ができてることを相手も知らないでしょうが…。
だから、子供が認知されてないので夫とは呼べませんね…。
あ…お金はたんまり貰いましたよ?
お陰でキンキンに冷えたヤギのミルクが去年の夏を毎日楽しみ、去年は高級冷房完備マンションを借りましたが。
今年にはお金が尽きてたので弱ってたんですよ。
今、快適ですね〕
≪ノア…冷房の効いた部屋で過ごすためには何でもする訳?
プライドってものがないの?
ドン引きだわ≫
〔ミルル様は知らないでしょうが…。
この国でお金がないと言うことは…死ぬって意味なんですよ?
60℃の熱期に政府は見殺しですよ。
路上でなんて生活してて死ぬに決まってます。
生きれるのは将軍様に目を掛けてもらうしか道がないわけです。
この意味を理解できますか??
この国自体、財政事情が悪いですし…。
自分の身は自分で守るがポリシーですから。
人を殺しても強盗しても売春しても生きようと庶民は必死です。
この国にいる1%の人間が軍に携わり…99%は庶民ですから。
私は何も悪いことをしてると思ったこともございません。
むしろ、庶民出身で、ここまで無事に生きて来れたことを猛烈に誇りに思ってます。
大抵は庶民に関しては…14歳までに死亡してますから…。
一部の特権階級が平均寿命を上げてるのが現状です〕
≪しんじられないわ…ミルルには…≫
〔私の二人目の子…。
1年目の夏を越えられずに…ちょうど今頃ですわ。
夏の暑さに負けて死にましたわ。
ちょうど私が17歳の夏の話でした…。
当時の私は…ミルル様と同じ歳でしたわ。
それから…3人目は…今年…。
赤ちゃんポストなるターシャ国の機関へ入れたのですが…。
今頃、どうしてることか…。
夏になれば色々思い出しますわ。
私の子供はターシャ国にいます、それが誇りですね…〕
≪そう…≫
〔遊女や踊り子へなれる資格が、17歳以下の処女。
それになれないのだけが残念ですわね…。
将軍様一族も好みがうるさいので…〕
いろいろミルルが知らない世界ばかり。
麻薬の密売まで許されてる国だから、それはあるかとも…ミルルも思ってた。
というか…。
ゼロさんって…ミルルのこと、どう思ってるんだろう?
〔この話をしたのはミルル様が初めてですわ‥。
実は1ヶ月ほど前の、ターシャ祭りのクーデターで…。
私もターシャ国へ飛べることになって…。
邪神国では黙ってたのですが、妊娠してまして、ちょうど産み月で…。
3人目の子をターシャ国の赤ちゃんポストへ投函してきたのです。
ターシャ国ってターシャ公園にあるターシャ山のターシャ滝が綺麗で…。
水道水がとてもおいしい国ですね〕
ターシャ国は世界で一番水道が美味しい国。
この国の水は海水の味が少しする。
≪え?
今年だとは聞いてたけど…。
1ヶ月前だったの?
ターシャ滝なんて地元では見飽きてて、小学生がターシャ山で学校から強制的に行かされる登山以外で…。
見学することはないけど…。
外人や観光としては名所なのかしら?
驚愕だわ≫
〔邪神国は水が貴重ですからね…。
それから…これなら邪神国人が外へ逃亡したことも分かられませんし…。
マイクロチップも入ってませんから…。
良いタイミングでした。
巫女様へは…親に隠れて売春をした人間のふりをして…。
[親に黙って売春しました。
今、子供がいます…どうしようか悩んでます。
赤ちゃんバンクへ走りそうです…親にだけはばれない様に…。
どうか私に力をください…。
こんな私でも友達になって下さい、マナナって言う子とは友達になったって…滅茶苦茶みんな、批判散々です。
私だってなりたいです!]
こんなふうに頼み込んで、我が子が元気でいられるように力を貰いましたわ。
クスクス…。
面白い遊びでしたわ。
…もちろん、将軍様万歳、邪神国に幸あれですけど…〕
≪マナナと巫女様が友達になってる噂…ノアも知ってた訳?≫
〔邪神国はターシャ国をスパイしてましたから・・。
それも兼ねての出張ですね…。
結局、デマだと判明しましたがね…〕
≪マナナね…、巫女様のファンらしいのよね…。
ミルルのこともドラマ出演を応援してるくせに…。
ミーハーな奴よ。
マナナはミルルを親友と勘違いしてるみたいだけど…。
ミルルは認めたことなんてないわよ?
で…。
ノアは…子供についてどう思ってる訳?
育てようと思えなかったの?≫
〔そうですね。
私としては子供の幸せ優先なので。
きっとこれで正解だったと思ってます。
ただ…胸が頻繁に張って3時間おきぐらいに母乳が出る際には、これで良かったのか…自問自答が起きるんですよ…〕
ミルルはターシャ国にいる自分の母親を思い出した。
お母さんは…ミルルを愛してくれたのかどうか…。
今頃、どうしてるだろう?
ミルルは…性的には潔癖症なはずなんだけど。
何でだろ?
どうしてこんなにゼロさんが好きなのかしら?
今日も一緒に寝れたらなぁ…。
ゼロさん、帰ってこないかしら?
外は空は見えなく、夜だと言うのに30℃は越えてそれから強風が荒れまくって空気は乾燥して灰色。
水色の男性寮からは少し離れてから、その方角を背後を振り返って確認すれば…門番の方が溜息ついてる姿が見える。
今日はゼロさんはあそこで泊まるみたい…。
ちょっと寂しすぎる。
これで振られたら…ミルルは何のために邪神国まで根性で走って来たのか分からなくなる。
そんな結末で終わられる訳にはいかない、ここは正念場…頑張る気。
でも、 今日はノアと一緒に添い寝でも良いかもしれないとミルルは思い出してる。
同情したわけじゃない、ゼロさんの情報を聞き出したいから。
≪今日はミルルの部屋で寝ても良いわ?
その代りミルルへ情報を流しなさいよね?≫
〔あれ?
良いのですか…。
それは光栄ですわ〕
≪その代り、全面的にミルルとゼロさんの恋を取り持ちなさいよね?
協力するのよ≫
〔まあ、冷房の効いた部屋で寝させて貰えてからそれは考えましょう。
今は庭園・…外は珍しく35℃で涼しいですが・…。
冷房の効いた部屋には変えられないので〕
≪そうね…≫
ミルルは王宮の庭園を抜け、王室専用1階ロビーからエレベーターへ乗り、6階のボタンを押した。
エレベーターは動き出す。
その間、ノアは静か。
ミルルは聞いてみた。
≪ねえ…ノアはゼロさんがミルルのこと、どう考えてるって思う?
率直な意見が聞きたいわ≫
〔さあ…私には。
それはミルル様の寝室に着いてから話しましょう…〕
≪どうして…ゼロさんは昼間、ミルルと一緒にいてくれないわけ?
将軍から何を頼まれてるって言うの?
それから…いったい、ミルルに隠れてノアはこそこそと・…。
ゼロさんと喋ってるみたいね?
あれは何な訳?
今、全く情報が入らないんだけど…。
ターシャ国はどうなってるの?≫
〔6階へ着きましたわ〕
ノアは淡々としてる。
6階の最奥の果て、棺桶部屋と呼ばれる部屋がミルルの寝室。
そこへ向かえば、冷房が効いてる。
部屋にはカラオケもあるし、テーブルや、ソファーや、6畳はあるベッド。
それから墓が並んでる。
この墓の前でゼロさんは沈黙してることが何故か多い。
ノアは冷房の風が流れると同時に嬉しそうな表情へと変貌して、すぐさまベッドの中へ転がり込んできた。
≪呆れるわね?
そこまで冷房が好きなわけ?≫
〔暑がりですので。
ここは快適だわ。
さすが姫様の部屋だけあるわね‥。
本題だけど…。
本気でゼロのどこが好きなわけ?〕
第4部ミルルH
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第4部ミルルJ