アナタノコトガスキデス

萌え妄想のまま走るいろいろ創作小説の予定。苦情無断転載禁止。

 

4部ミルルD

≪ミルル視点≫

‐‐‐ブルルルル…。

ドライブ音が入る。
かなりの音かも知れない。
軍事パレードの日だから良いけど、結構…排気ガスが出てるんじゃないの?
って感じ。
ミルルはフードをした。
暑いけど…した方が、視界が他人から隠せるから。

≪本当に静かね…。
警備はないわけ?≫

〔ゲートの外にありますが…。
裏口を回りましょうか?
そちらにもありますが…。
私が持ってる通行書さえあれば…通れますがね…〕

≪裏を回ってくれないかしら?
それにしても…。
どういう風の吹き回し?
ミルルに手伝ってくれる理由は・?≫

〔将軍様の御令嬢には目を掛けてもらえば後々、好都合ですから…。
それ以外には単純な興味ですかね?
別に将軍様に通報をしても良いのですが…。
私の判断で貴女の運命が変わると言うスリル…。
たまりませんね…〕

≪そう…。
やはり、気が合わないわね…。
ミルルと貴方は…≫

〔光栄ですわ〕

この女…ノアが何を考えてるのか…。
ミルルは全く、読めない。
敵なのか…味方なのか…。
ここまで協力してもらってるから、ついうっかり…。
味方なのかと完全信用しそうになった。

≪もしかして…ミルルと一緒にこの国を抜けたい訳?
それなら…≫

〔私はこの国、大好きですわ。
好き勝手に出来ますから。
研究もはかどりますし・・。
動物と人間との人体実験から…クローンまで。
何でもアリですからね…。
その点、ターシャ国や平和国は法律に縛られてやりにくい。
将軍様には感謝してます…〕

≪それなら…なぜ・…。
ミルルをここまで…≫

〔悩んでるのですか?
悩みなさい。
貴方には私しか頼れる人間がいないのですから…。
クスクス〕

≪性格が悪いわけね…。
ミルルには分からないわ、この国の人間の感性…≫

〔裏口のゲートでは…。
私が持ってる、このカードを差し込み口へ入れれば…認識が始まります。
ターシャ国にある…駅、改札口へ切符を入れる時と同様な仕組みですね…〕

ノアは説明してる。
ゲート受付内部には監視員らしき黒装束の人間がこちらを見張ってる。
まるで…それは…空港にいるパスポートをチェックする監視員みたいに…。
でも、ノアもミルルも黒装束衣装に身を包んでるし…。
怪しまれることはないと思うけど…。

今日は邪神国祭りらしい・…。
パレードに参加せずに、外出することに関して不審に思わないのかしら?

黄色いカードを改札機に入れると…カードは元に戻ってくる。
そのまま、ノアは黄色いカードを手に入れて…その裏口ゲートを出た。

〔意外に手薄でしょう?
私は信用されていますからね…〕

≪毎日、ああやって・…監視員がチェックしてる訳?〕

〔チェックと言っても…。
服装チェックに近いですね…。
規則を守りさえすれば…。
特に文句はないです〕

≪どんな規則な訳?≫

〔制服は正規なものか…。
それから、着方は正しいか…。
行きには…銃は2丁、入ってるか…。
将軍様からお怒りを頂く着崩し方をしてないか…。
割りと将軍様は手厳しいので…。
外に出る時もしっかりと監視されてます〕

≪まるで、校則チェックじゃないの?
あの監視員…風紀委員な訳?≫

〔将軍様が潔癖症ゆえに…。
このようなことに…。
しかし、規律違反は…死刑なんですよ?
割りと…守るのも大変なんですがね…。
笑いごとで済まされないので…。
軍では規則が絶対です。
特に将軍様、お抱えの軍では…。
私は、軍事医療班に配属されてますが…長年、規則は守り続けてます〕

≪そう…。
そんな人間が…ミルルの実の父なの…。
信じたくもない話ね…≫

〔貴方も潔癖症なんでしょう?〕

≪さあ、どうかしら?
まあ…別に綺麗好きではあるけど…。
いろいろな件について…興醒めね…≫

〔さあ、囚人施設へ向かいましょうか?〕

☆☆☆


外に出れば…驚いた。
 まだ将軍様の豪邸、庭園にいた時の方がずっと涼しかった。
 外には大きな噴水や湖もあったし…。
 裏口のゲートから離れるにつれて…。
 とにかく暑い。
 
それなのに…砂埃で…太陽の光は入ってこない。
 灰色の世界…。
 地面が割れてる…。
 
まるで月のクレーターみたい。
 空気がドライヤーの熱風…さっきより暑い…。
 若干…車だから…助かってる。
 
風のお蔭で…。
 でも、暑すぎる…。
 
≪何キロだったっけ?≫
 
〔たった10キロです〕
 
市場らしき場所を通ることになった。
 恐ろしいことに、木は一本もないし…。
 道端に山のように…積みあがってるのは人間の死体…。
 それも腐敗してる。
 そこに蠅すらたからない…。
 
暑すぎる。
 そこへ人間が…水を求めて、死体に被りついて血液を吸ってる。
 想像絶する光景が広がってる。
 
熱気にやられ、それに反応する余裕すらない瞬間…。
 
数名の人間が…ミルルが乗ってるオープンカーへ接近してきた。
 
‐‐‐水をくだせえ。
 あの黒装束、軍の人間だ…−−−
 
向こうから勝手に発砲してくる。
 
〔ちょっと、黙ってないで。
 撃ちなさいよ。
 車のタイヤに撃たれたら…どうなるか…〕
 
ミルルは仕方なしに、その男性の地面へ発砲した。
 的当ては…遊びでしたことあるけど…。
 別に殺す気にならなかった。
 威嚇を込めて、地面へした。
 
[水をくれ!]
 
男性は暴れ狂ってる…。
 ミルルも熱くて頭が働かない…。
 
タイヤの下に死体が何度も踏みながら進んでる…。
 それに反応する余裕すらないレベルに暑い。
 
50℃を越えてるらしい…。
 ちょっと、怒る元気も沸かない。
 さっき、水をガブ飲みして、正解だったと思う。
 
〔殺さないんですね…。
 将軍様なら…普通に殺しますがね…〕
 
≪暑いわ…。
 どうでも良いわよ…。
 まだ、なの?≫
 
〔そうですか…。
 しかし、それぐらいの度胸では…この国では務まらないかもしれませんね…。
 将軍様の血を受け継いでるだけに期待してたのですが…。
 あれを殺せないレベルでは…。
 今、ココで私が…あの世へ送ってあげた方が…〕
 
≪変なことを考えると…。
 アンタはここで撃つわ≫
 
〔あの住民は撃てないのに…。
 私は撃つとおっしゃる…。
 不思議な方ですね…〕
 
≪うるさいわね‥。
 暑いの…。
 思考力も落ちるわ…。
 50℃でしょう?≫
 
〔まだ、マシです。
 これから暑い季節がやってきます〕
 
≪嘘でしょう?≫
 
車で走ってる人間なんて…ミルルぐらい…。
 数名の人は…数頭の極限まで痩せ細ったラクダに何かを運ばせてる…。
 ミルルの頭には黒いフード…。
 髪までビッシリ汗だく状態・…。
 
≪あれは…。
 何なの?
 ラクダに人が乗ってないわよ…。
 背中に何を背負ってるの?
 あのラクダたちは…≫
 
〔塩です。
 これが我が国の資源です。
 この国には塩で出来た大地がありますから…〕
 
≪塩は要らないわよ。
 水が欲しいわよ≫
 
〔わがままですね…。
 まだここは都市なんですよ。
 なんせ、首都ですから…。
 今日は50℃ですが…。
 涼しい日は40℃になりますし、朝は30℃ぐらいな日も稀にありますから・・。
 それから…将軍様の庭園にはオアシスがありますし…〕
 
≪あの死体の海は…。
 何なの?
 あれは…≫
 
〔将軍様に歯向かったものの末路です。
 大方、山羊の餌になるでしょう…〕
 
≪山羊…。
 人間なんて食べるの?
 草食じゃないの?≫
 
〔この国の山羊は家畜です。
 海水も飲みますし、亡くなった人間も粉砕すれば…餌として食べます。
 他国で山羊は草食とされてるようですが…草のない台地なので、独自の進化を遂げたようですね…。
 割りと、獰猛で…賢く、家の屋根にも登ります。
 断崖絶壁な直角の壁でも…山羊は登れます。
 ここは暑いので、自然として生息してるのは…超高層山になりますが…。
 超高層山は邪神国一高い山です。
 そこには塩湖がありますので…〕
 
≪超高層山には塩湖があるの?
 どうしてそこで住まないわけよ?≫
 
〔真水はここだけなので…。
 涼しい場所ではありますが…水の運搬通路には適さないので…。
 崖崩れが頻繁に起き、土壌が良くないので…〕
 

≪それにしても…
 暑いわ…。
 まだなの?
 水…が高価なのは覚えたわよ・・・。
 山羊なんて、路上で見ないけど‥〕
 
ミルルは黒装束に身を包み、フードを頭から被って…車の助手席に座ってる。
 運転してるのはノア…。
 それからノアの体へは銃を付き付けてる。
 
路上から邪神国を見れば・…。
 ラクダばかり歩いてる…背中に石煉瓦のような真っ白な塩を背負ってる。
 ラクダは痩せてる。
 
それから…市場が遠くにあるらしく、焼き鳥みたいな何かが…打ってるのが見れた…。
 豚の丸焼きみたいな…毛がない動物が…屋台にいる。
 そこに数名の人間が群がってる。
 
〔あの屋台で姿焼きで売ってるのは…。
 まさしくそうですね。
 山羊の肉は高価で売れ、軍事施設のメニューでよく出ます〕
 
≪豚かと思ったら、山羊の丸焼きだったの?
 平和国のヴァカンス島にも似たようなメニューがあるから…。
 てっきり、豚の丸焼きだって思ったけど…≫
 
〔わが国では豚は食べません。
 山羊を食べます。
 それから…山羊の皮は水筒に…。
 山羊のミルクは貴重な水分源になります。
 全ては循環して生が繋がれているのです…。
 邪神教ではそう言うふうに載ってます…〕
 
言ってる意味が分からず、ミルルはノアを見詰めた…。
 この黒装束衣装には目だけ出るように二つの穴が開いてる…。
 こんな衣装でノアは運転できるなんて凄いと思う。
 眼鏡のお蔭で砂風が目に入らずに済んでる…。
 
よく見れば、ノアのまつ毛は異様に長い。
 ラクダみたい…。
 そう言えば…ゼロさんのまつ毛も長かった…。
 砂埃が外は凄すぎる・・。
 
〔この国に・・・人間を埋葬する文化はありません…。
 知っていましたか?
 死ねば…親族に食べられるか…。
 家畜の餌になるのが…大半ですね。
 そうして、死んだ後も生が繋がれていると…聖書には載っています…。
 
貴方はターシャ国では珍しく、無信教者なようですが…〕
 
≪冗談ばかり、止めてよ…≫
 
冗談じゃないことは知ってる。
 暑くて、思考力が落ちてるだけ。
 邪神人が食人族だってことは・…噂で聞いたこともある。
 獰猛な未開発地区の人間だって。
 それをゼロさんですら否定しなかったから…。
 
そんな噂はニュースでもやってたけど…。
 確かに、この国の人…何を食べて生きてるんだろうっていう感想。
 暑すぎる…。
 地面が…クレーターのようにヒビが割れてる。
 
もう、地球じゃないイメージ。
 火星に上陸した気分。
 
〔囚人施設はもうすぐです…〕
 
≪虫も飛んでないわね…ここ…≫
 
〔虫も…暑いのには弱いみたいで…〕
 
ミルルは耐えきれずに…。
 ポンチョから、魔法瓶を出して、水を飲んだ。
 それを羨ましそうな顔で…路上の人が見詰めた。
 
しかし、そんなことは言ってられない。
 この地で生まれてない分…これは酷い。
 暑すぎる…。
 
〔夜は涼しいんですがね…。
 あの看板を右手です〕
 
邪神語で‐‐‐この先、囚人施設‐‐‐と表示された木目調の看板がある。
 ノアはハンドルを右にまわした。
 たった、15分もなかったと思うのに…ミルルは暑さで、倒れそうになった。
 更に水をがぶ飲みした。
 水は貴重なことは覚えたけど…。
 髪の毛まで滴るレベルの塩の汗が出てる。
 
〔到着ですよ〕
 
囚人施設は灰色の巨塔って言うイメージ。
 しかも、コンクリート…。
 見るからにあつそう。
 靴が溶けそうなイメージ。
 
≪ここにゼロさんがいるの?
 熱中症で死んでない?≫
 
〔大丈夫でしょう…〕
 
ノアは平然としてる…ミルルはダウンしそう。
 ミルルは体力にだけは自信ある方だけど‥。
 さすがに50℃のサウナを歩くのはキツイ。
 脳が沸騰しそうなレベル…。
 
〔貴方は…ゼロについて…誤解をしてるようですが…。
 現在の彼は…手が付けられない状況なので…。
 話し合いができるとも思えません〕
 
≪どういう意味よ?≫
 
〔精神的錯乱を起こして…。
 監禁してる状況です。
 軍として使い物にならないのだけは確かです…〕
 
≪意味が分からないけど・…。
 ゼロさんに何があったの?
 精神的錯乱って…ゼロさんによほどの何かが?
 それとも…病気なの?
 
尿毒症なの?
 やっぱり…。
 飲む水の量が少ないから…腎臓でこしきれずに…毒が脳に回って…≫
 
そんな病気をミルルはテレビで聞いたことがある…。
 水を制限されたら、誰でも頭がフラフラしそう・・・。
 最悪、脳梗塞にもなってしまう…。
 ミルルは体中、汗だく状態。
 
〔水の問題ではありません…。
 彼は…。
 まあ、これ以上は黙っておきましょう…。
 私は…医者として、患者なら何人も見送って来ましたが…。
 彼のように軍事施設において、精神錯乱を起こす人間は・・珍しくもないので・…〕
 
≪良いわ。
 それでも会ってあげようじゃないの?
 ミルルは別に良いわよ。
 ただ、この暑さだけは何とかしてほしいものだわ≫
 
〔甘いですね…。
 精神錯乱がどういうものか…理解してらっしゃらない。
 私は将軍様の判断が正しいと思ってます。
 あれでは…使い物にならないでしょう…〕
 
≪言葉の意味は分かるんでしょう?
 精神錯乱って…ミルルには無縁だわ。
 何なのか分からないけど…。
 ゼロさんがどうしてそんなことに…。
 囚人施設って・…ゼロさんは…将軍様に反抗でもして、収容された訳?≫
 
〔違いますね・…。
 彼には鎮静剤は打っていますが…。
 暴れ出したのは確かです。
 それも理由もなく…。
 お蔭で軍事施設の私物が破損したのも事実です…〕
 
≪ゼロさんが…。
 どうして…≫
 
〔彼のことを追報したのは、私です。
 勝手に薬をターシャ国立病院から盗みましたし…。
 それ以外にもいろいろ記憶障害が出て来てるのを認めましたので・…。
 一人、罪人を発見した分…お蔭で、私の位が少し…上がったわけですが…。
 今回、将軍様の娘を施設から逃がしたとなれば…私は命が危ないですね…〕
 
≪何が目的なの?
 ミルルに何をさせたいの?≫
 
混乱が生じた・・。
 ノアは全身黒装束で顔が相変わらず、見えない。
 黄色いカードを出してきた。
 
〔このカード、役に立つんですよ。
 軍用の施設もこれさえあれば…侵入できるので〕
 
≪囚人施設でもこれがないと無理だったの?≫
 
〔貴方は私の背後へ…。
 さきほどの質問…。
 敢えて、答えるなら…興味ですかね…。
 
平和国で女優になりたいらしいですが…。
 まあ、将軍様へは貴女から私が役に立つと証言して下されば・…。
 恐らく、私は更にこの国で位が上がるでしょう…。
 
生きるのが大変ですからね…。
 自爆テロ係だけは、誰しも遠慮願いたいので〕
 
ノアは灰色の巨塔、囚人施設にあるカード―キーへ黄色いカードを入れた。
 すると、自動ドアの要領で…ドアが上に上がった。
 
その場所を通れば…中は意外に涼しい。
 
≪あれ?
 意外だわ・・。
 中は涼しいのね…≫
 
〔この国では悪は尊いとされてますし…。
 それから、死刑囚には…つかの間の余暇を与えるように配慮がされてるので…。
 冷房ですね…〕
 
ノアはここでやっとフードを外した。
 その表情は…少しだけ悲しげに見えた。
 


☆☆☆
 


収容施設は思いのほか涼しい。
 牢屋のような檻に数名の人間が収容されてる。
 不思議な感覚。
 ミルルにはさっぱり分からない。
 何名かの人たちがざわめいてる。
 
壁に向かってブツブツ会話してる人や…
 牢屋の中で木の棒を転がして遊んでる人など…いろいろいる。
 牢屋の部屋は・…それぞれ…個室みたい…。
 
〔監視員が普段はいるんだけど…。
 今日は年に一度の邪神祭りで軍事パレードということもあり、警備が手薄だわ。
 一人ぐらいしか、いないのね…〕
 
牢屋の廊下には…監視員らしき人が床に寝転んでる。
 周辺には酒の瓶カスが散乱してる。
 
〔結構、この場所は手薄だわ…〕
 
一番、奥の独房でミルルは再会を果たした。
 会う前にはミルルなりに緊張してたけど…。
 ゼロさんは横を向いて寝てる。
 
≪本当に…ゼロさん、体調が悪いの?
 そんなふうに見えないけど…≫
 
〔まあ、今は鎮静剤で抑えてるから…。
 大丈夫だけど…一時は大変だったのよ〕
 
≪そうなの…≫
 
ゼロさんの牢屋を見てみた。
 壁に何故か…血痕らしきものがへばり付いてる。
 ゼロさんは牢屋の灰色の地面で横たわって寝ている。
 
≪あの…壁にへばりついてる…血痕は何なの?
 昔からあったの?≫
 
壁に真っ赤な血がついてる。
 気になって仕方ない。
 
〔それはね…。
 言うべきかしら…。
 ゼロが自分で腕を切った時に・…。
 自ら、壁に擦り付けて…〕
 
≪リストカットな訳・・≫
 
ミルルはボケーとなった…。
 頭が付いていかない心地。
 
〔信じられないでしょうけど‥。
 ある日、突然、発狂したのよ…。
 私も手を付けられなくて…。
 自殺するなら自殺するで無視してもよかったんだけど…。
 器物破損だけは防がなきゃならないから…〕
 
≪…。
 ゼロさんが…嘘でしょう?≫
 
ミルルは少ししか、ゼロさんには会ってないけど…。
 どうしてこんなことになってるのか不思議でたまらない。
 確かに壁には・・血が吐いてる。
 それから…ゼロさんの頭からも何故か…血が出てる。
 
≪頭の傷は…。
 誰かに殴られたのかしら?
 ミルルがノアに足蹴りをくらわしたみたいに…≫
 
〔違うのよ・・。
 ゼロはね…。
 二重人格の気があるのかもしれないわ…〕
 
≪は?≫
 
〔暴れた瞬間のことを覚えてないらしいのよ…。
 あの頭の傷も…自分で壁へ頭突きをして・…〕
 
≪…。
 あれも…そうなの?
 何で、そんなことになってるわけ?
 話が見えないんだけど…≫
 
〔ゼロなりに確かに・・。
 今までストレス続きだったことは認めるわね…。
 さて、貴女はどうする気?〕
 
その時、背後から声がした…。
 
‐‐‐おい、勝手に何を入ってるんだ?
 オミャー、ここを牢屋と知ってるのか?---
 
黒装束の酔っ払い・…。
 牢屋の監視員が目を覚ましたみたい…。
 黒装束のフードをしてないから、顔が見えた…。
 痩せぎすで頬がこけて、目が小さく…ネズミのような髭が生えてる。
 右手には…鬼が持つような金色の棍棒を持ってる。
 
発音が・…邪神教にしては訛り過ぎて聞き取りにくい…。
 何と言うか…邪神教でも訛があるみたい…。
 
≪訛が酷くて…聞き取りにくいわ…。
 邪神語なの?≫
 
〔彼は…邪神国でも西部出身なので・…〕
 
≪関西弁みたいなモノかしら?
 私の祖国にも関西からやって来た女子高生がいるけど…。
 男性の声ね…≫
 
〔邪神国の西部の町…西部都市から来た牢屋の監視官です…。
 ネズミチュウ太郎と言うあだ名ですが…。
 西部都市は田舎なので…この邪神国の首都より暑い街です…。
 彼はそこから涼を求めて、この職にありついたわけです。
 ここは冷房完備ですから…〕
 
黒装束から出てる顔…それは何と言うか見たことがないレベルの出っ歯…。
 確かにチュウネズミってあだ名が相応しい。
 顔も何だか細くて・…体も痩せてる・…。
 
それから…なんというか…いかにもネズミな雰囲気な男。
 因みに可愛いハムスターではない。
 どうみてもドブネズミ…。
 目の下に大きな隈を抱えてる…。
 まつ毛だけが…この国の人間に相応しく長い…。
 目が異様につぶらで小さい…肌は浅黒く頬は赤い。
 
☆☆☆
 
アラビア系の顔立ちをしたノアは…結構美人な部類に入ると思うけど…。
 浅黒い肌にノアはラクダのようなまつ毛、それから豊かでうねった黒髪…。
 細くて割りとスレンダー。
 
この国の人、全員が容姿が良いわけじゃないらしい・・。
 ネズミチュウ太郎は…喜劇に出てくるレベルな顔立ちをしてる。
 
ゼロさんも割りと顔立ちは良いのに…。
 
−−−通報するぞ、何の用事やねん…。
 チュウ−−−
 
ネズミチュウ太郎は怒った表情で、右手に金の金棒を持ってる。
 
〔寝てらしたので…。
 勝手に入らしてもらいました。
 私はこのカードーキーがありますし…〕
 
ノアは黄色いカードをネズミチュウ太郎に見せ付けた。
 すると、突然…ネズミチュウ太郎の顔が輝いた。
 
−−−オミャ…ノアか?
 まあ、背中でそうかとは思ったで?
 でも何や?
 何のようや、オミャみたいな奴が…。
 ここに来るなんて、珍しいな…。
 メッチャ、久しぶりやんケ?
 アア?
 クック−−−
 

〔仕事サボってらしたのですね。
 これを将軍様へ密告すれば・・私は将軍様からお金と位を頂けるのですが…。
 いったいどうすれば…〕
 
−−−なんや?
 用事は金かいな?
 オリャ、金…最近、ないで。
 それから仕事は…オリャ…サボらしてもらうで。
 チュウー。
 酒飲んで寝てたこと、告げ口すんなよ・…。
 チュウー…。
 今、酔ってんねんで!
 寝さしてくれや!−−−


ネズミチュウ太郎が焦ってるのが伝わって来る。
 目を瞬きして、眉毛がヒクヒクと動いてる…。
 体まで痙攣して震えあがった表情をしてる。
 ミルルは知らなかったけど、ノアって、割りとこの国では上の位の人間らしい。
 
それから、この人の発音が悪すぎて…聞き取りにくすぎる。
 多分、こういうふうに言ってるんだと思う…。
 これで訳があってるのかも謎…。
 
主語と…特に動詞の発音が悪くて…。
 末尾にチュウ‐が毎回、付いてる…。
 邪神国の西部都市って…末尾にチュウ‐が付いてるのかしら?
 それとも・…この人だけなの?・…。
 
≪えっと…末尾にチュウーが付いてるけど…。
 あれは…西部都市訛りってヤツなのかしら?
 全く、知らないけど…≫
 
〔そうですか…。
 確かに他国の人にこの国の訛は難しいかもしれませんが…。
 末尾にチュウ‐が付くのは確かに…西部都市訛りです…〕
 
−−−なんやその女は・・。
 誰やねん、チュウ。
 オリャのこと馬鹿にしてんのかいな?
 アア?
 囚人施設の監視員ほど、高級職はないねんで。
 オリャ、この仕事になるためにな…。
 全財産を売ったんやで−−−
 
何と訳せばいいのか分からなくて…混乱が生じてる…。
 
〔ミルル様は知らないでしょうが…。
 この国で囚人施設の監視員は…ターシャ国で言う神父の仕事並みに割りと人気です。
 なんせ、冷房完備ですから。
 ネズミチュウ太郎はそのためだけに、窃盗を続け、金の力でこの仕事にありつけたらしいですね…〕
 











































































第4部ミルルC


目次

第4部ミルルE




↑---ネズミチュウ太郎---






inserted by FC2 system