≪ミルル視点≫
‐‐‐ブルルルル…。
ドライブ音が入る。
かなりの音かも知れない。
軍事パレードの日だから良いけど、結構…排気ガスが出てるんじゃないの?
って感じ。
ミルルはフードをした。
暑いけど…した方が、視界が他人から隠せるから。
≪本当に静かね…。
警備はないわけ?≫
〔ゲートの外にありますが…。
裏口を回りましょうか?
そちらにもありますが…。
私が持ってる通行書さえあれば…通れますがね…〕
≪裏を回ってくれないかしら?
それにしても…。
どういう風の吹き回し?
ミルルに手伝ってくれる理由は・?≫
〔将軍様の御令嬢には目を掛けてもらえば後々、好都合ですから…。
それ以外には単純な興味ですかね?
別に将軍様に通報をしても良いのですが…。
私の判断で貴女の運命が変わると言うスリル…。
たまりませんね…〕
≪そう…。
やはり、気が合わないわね…。
ミルルと貴方は…≫
〔光栄ですわ〕
この女…ノアが何を考えてるのか…。
ミルルは全く、読めない。
敵なのか…味方なのか…。
ここまで協力してもらってるから、ついうっかり…。
味方なのかと完全信用しそうになった。
≪もしかして…ミルルと一緒にこの国を抜けたい訳?
それなら…≫
〔私はこの国、大好きですわ。
好き勝手に出来ますから。
研究もはかどりますし・・。
動物と人間との人体実験から…クローンまで。
何でもアリですからね…。
その点、ターシャ国や平和国は法律に縛られてやりにくい。
将軍様には感謝してます…〕
≪それなら…なぜ・…。
ミルルをここまで…≫
〔悩んでるのですか?
悩みなさい。
貴方には私しか頼れる人間がいないのですから…。
クスクス〕
≪性格が悪いわけね…。
ミルルには分からないわ、この国の人間の感性…≫
〔裏口のゲートでは…。
私が持ってる、このカードを差し込み口へ入れれば…認識が始まります。
ターシャ国にある…駅、改札口へ切符を入れる時と同様な仕組みですね…〕
ノアは説明してる。
ゲート受付内部には監視員らしき黒装束の人間がこちらを見張ってる。
まるで…それは…空港にいるパスポートをチェックする監視員みたいに…。
でも、ノアもミルルも黒装束衣装に身を包んでるし…。
怪しまれることはないと思うけど…。
今日は邪神国祭りらしい・…。
パレードに参加せずに、外出することに関して不審に思わないのかしら?
黄色いカードを改札機に入れると…カードは元に戻ってくる。
そのまま、ノアは黄色いカードを手に入れて…その裏口ゲートを出た。
〔意外に手薄でしょう?
私は信用されていますからね…〕
≪毎日、ああやって・…監視員がチェックしてる訳?〕
〔チェックと言っても…。
服装チェックに近いですね…。
規則を守りさえすれば…。
特に文句はないです〕
≪どんな規則な訳?≫
〔制服は正規なものか…。
それから、着方は正しいか…。
行きには…銃は2丁、入ってるか…。
将軍様からお怒りを頂く着崩し方をしてないか…。
割りと将軍様は手厳しいので…。
外に出る時もしっかりと監視されてます〕
≪まるで、校則チェックじゃないの?
あの監視員…風紀委員な訳?≫
〔将軍様が潔癖症ゆえに…。
このようなことに…。
しかし、規律違反は…死刑なんですよ?
割りと…守るのも大変なんですがね…。
笑いごとで済まされないので…。
軍では規則が絶対です。
特に将軍様、お抱えの軍では…。
私は、軍事医療班に配属されてますが…長年、規則は守り続けてます〕
≪そう…。
そんな人間が…ミルルの実の父なの…。
信じたくもない話ね…≫
〔貴方も潔癖症なんでしょう?〕
≪さあ、どうかしら?
まあ…別に綺麗好きではあるけど…。
いろいろな件について…興醒めね…≫
〔さあ、囚人施設へ向かいましょうか?〕
☆☆☆
外に出れば…驚いた。
まだ将軍様の豪邸、庭園にいた時の方がずっと涼しかった。
外には大きな噴水や湖もあったし…。
裏口のゲートから離れるにつれて…。
とにかく暑い。
それなのに…砂埃で…太陽の光は入ってこない。
灰色の世界…。
地面が割れてる…。
まるで月のクレーターみたい。
空気がドライヤーの熱風…さっきより暑い…。
若干…車だから…助かってる。
風のお蔭で…。
でも、暑すぎる…。
≪何キロだったっけ?≫
〔たった10キロです〕
市場らしき場所を通ることになった。
恐ろしいことに、木は一本もないし…。
道端に山のように…積みあがってるのは人間の死体…。
それも腐敗してる。
そこに蠅すらたからない…。
暑すぎる。
そこへ人間が…水を求めて、死体に被りついて血液を吸ってる。
想像絶する光景が広がってる。
熱気にやられ、それに反応する余裕すらない瞬間…。
数名の人間が…ミルルが乗ってるオープンカーへ接近してきた。
‐‐‐水をくだせえ。
あの黒装束、軍の人間だ…−−−
向こうから勝手に発砲してくる。
〔ちょっと、黙ってないで。
撃ちなさいよ。
車のタイヤに撃たれたら…どうなるか…〕
ミルルは仕方なしに、その男性の地面へ発砲した。
的当ては…遊びでしたことあるけど…。
別に殺す気にならなかった。
威嚇を込めて、地面へした。
[水をくれ!]
男性は暴れ狂ってる…。
ミルルも熱くて頭が働かない…。
タイヤの下に死体が何度も踏みながら進んでる…。
それに反応する余裕すらないレベルに暑い。
50℃を越えてるらしい…。
ちょっと、怒る元気も沸かない。
さっき、水をガブ飲みして、正解だったと思う。
〔殺さないんですね…。
将軍様なら…普通に殺しますがね…〕
≪暑いわ…。
どうでも良いわよ…。
まだ、なの?≫
〔そうですか…。
しかし、それぐらいの度胸では…この国では務まらないかもしれませんね…。
将軍様の血を受け継いでるだけに期待してたのですが…。
あれを殺せないレベルでは…。
今、ココで私が…あの世へ送ってあげた方が…〕
≪変なことを考えると…。
アンタはここで撃つわ≫
〔あの住民は撃てないのに…。
私は撃つとおっしゃる…。
不思議な方ですね…〕
≪うるさいわね‥。
暑いの…。
思考力も落ちるわ…。
50℃でしょう?≫
〔まだ、マシです。
これから暑い季節がやってきます〕
≪嘘でしょう?≫
車で走ってる人間なんて…ミルルぐらい…。
数名の人は…数頭の極限まで痩せ細ったラクダに何かを運ばせてる…。
ミルルの頭には黒いフード…。
髪までビッシリ汗だく状態・…。
≪あれは…。
何なの?
ラクダに人が乗ってないわよ…。
背中に何を背負ってるの?
あのラクダたちは…≫
〔塩です。
これが我が国の資源です。
この国には塩で出来た大地がありますから…〕
≪塩は要らないわよ。
水が欲しいわよ≫
〔わがままですね…。
まだここは都市なんですよ。
なんせ、首都ですから…。
今日は50℃ですが…。
涼しい日は40℃になりますし、朝は30℃ぐらいな日も稀にありますから・・。
それから…将軍様の庭園にはオアシスがありますし…〕
≪あの死体の海は…。
何なの?
あれは…≫
〔将軍様に歯向かったものの末路です。
大方、山羊の餌になるでしょう…〕
≪山羊…。
人間なんて食べるの?
草食じゃないの?≫
〔この国の山羊は家畜です。
海水も飲みますし、亡くなった人間も粉砕すれば…餌として食べます。
他国で山羊は草食とされてるようですが…草のない台地なので、独自の進化を遂げたようですね…。
割りと、獰猛で…賢く、家の屋根にも登ります。
断崖絶壁な直角の壁でも…山羊は登れます。
ここは暑いので、自然として生息してるのは…超高層山になりますが…。
超高層山は邪神国一高い山です。
そこには塩湖がありますので…〕
≪超高層山には塩湖があるの?
どうしてそこで住まないわけよ?≫
〔真水はここだけなので…。
涼しい場所ではありますが…水の運搬通路には適さないので…。
崖崩れが頻繁に起き、土壌が良くないので…〕
≪それにしても…
暑いわ…。
まだなの?
水…が高価なのは覚えたわよ・・・。
山羊なんて、路上で見ないけど‥〕
ミルルは黒装束に身を包み、フードを頭から被って…車の助手席に座ってる。
運転してるのはノア…。
それからノアの体へは銃を付き付けてる。
路上から邪神国を見れば・…。
ラクダばかり歩いてる…背中に石煉瓦のような真っ白な塩を背負ってる。
ラクダは痩せてる。
それから…市場が遠くにあるらしく、焼き鳥みたいな何かが…打ってるのが見れた…。
豚の丸焼きみたいな…毛がない動物が…屋台にいる。
そこに数名の人間が群がってる。
〔あの屋台で姿焼きで売ってるのは…。
まさしくそうですね。
山羊の肉は高価で売れ、軍事施設のメニューでよく出ます〕
≪豚かと思ったら、山羊の丸焼きだったの?
平和国のヴァカンス島にも似たようなメニューがあるから…。
てっきり、豚の丸焼きだって思ったけど…≫
〔わが国では豚は食べません。
山羊を食べます。
それから…山羊の皮は水筒に…。
山羊のミルクは貴重な水分源になります。
全ては循環して生が繋がれているのです…。
邪神教ではそう言うふうに載ってます…〕
言ってる意味が分からず、ミルルはノアを見詰めた…。
この黒装束衣装には目だけ出るように二つの穴が開いてる…。
こんな衣装でノアは運転できるなんて凄いと思う。
眼鏡のお蔭で砂風が目に入らずに済んでる…。
よく見れば、ノアのまつ毛は異様に長い。
ラクダみたい…。
そう言えば…ゼロさんのまつ毛も長かった…。
砂埃が外は凄すぎる・・。
〔この国に・・・人間を埋葬する文化はありません…。
知っていましたか?
死ねば…親族に食べられるか…。
家畜の餌になるのが…大半ですね。
そうして、死んだ後も生が繋がれていると…聖書には載っています…。
貴方はターシャ国では珍しく、無信教者なようですが…〕
≪冗談ばかり、止めてよ…≫
冗談じゃないことは知ってる。
暑くて、思考力が落ちてるだけ。
邪神人が食人族だってことは・…噂で聞いたこともある。
獰猛な未開発地区の人間だって。
それをゼロさんですら否定しなかったから…。
そんな噂はニュースでもやってたけど…。
確かに、この国の人…何を食べて生きてるんだろうっていう感想。
暑すぎる…。
地面が…クレーターのようにヒビが割れてる。
もう、地球じゃないイメージ。
火星に上陸した気分。
〔囚人施設はもうすぐです…〕
≪虫も飛んでないわね…ここ…≫
〔虫も…暑いのには弱いみたいで…〕
ミルルは耐えきれずに…。
ポンチョから、魔法瓶を出して、水を飲んだ。
それを羨ましそうな顔で…路上の人が見詰めた。
しかし、そんなことは言ってられない。
この地で生まれてない分…これは酷い。
暑すぎる…。
〔夜は涼しいんですがね…。
あの看板を右手です〕
邪神語で‐‐‐この先、囚人施設‐‐‐と表示された木目調の看板がある。
ノアはハンドルを右にまわした。
たった、15分もなかったと思うのに…ミルルは暑さで、倒れそうになった。
更に水をがぶ飲みした。
水は貴重なことは覚えたけど…。
髪の毛まで滴るレベルの塩の汗が出てる。
〔到着ですよ〕
囚人施設は灰色の巨塔って言うイメージ。
しかも、コンクリート…。
見るからにあつそう。
靴が溶けそうなイメージ。
≪ここにゼロさんがいるの?
熱中症で死んでない?≫
〔大丈夫でしょう…〕
ノアは平然としてる…ミルルはダウンしそう。
ミルルは体力にだけは自信ある方だけど‥。
さすがに50℃のサウナを歩くのはキツイ。
脳が沸騰しそうなレベル…。
〔貴方は…ゼロについて…誤解をしてるようですが…。
現在の彼は…手が付けられない状況なので…。
話し合いができるとも思えません〕
≪どういう意味よ?≫
〔精神的錯乱を起こして…。
監禁してる状況です。
軍として使い物にならないのだけは確かです…〕
≪意味が分からないけど・…。
ゼロさんに何があったの?
精神的錯乱って…ゼロさんによほどの何かが?
それとも…病気なの?
尿毒症なの?
やっぱり…。
飲む水の量が少ないから…腎臓でこしきれずに…毒が脳に回って…≫
そんな病気をミルルはテレビで聞いたことがある…。
水を制限されたら、誰でも頭がフラフラしそう・・・。
最悪、脳梗塞にもなってしまう…。
ミルルは体中、汗だく状態。
〔水の問題ではありません…。
彼は…。
まあ、これ以上は黙っておきましょう…。
私は…医者として、患者なら何人も見送って来ましたが…。
彼のように軍事施設において、精神錯乱を起こす人間は・・珍しくもないので・…〕
≪良いわ。
それでも会ってあげようじゃないの?
ミルルは別に良いわよ。
ただ、この暑さだけは何とかしてほしいものだわ≫
〔甘いですね…。
精神錯乱がどういうものか…理解してらっしゃらない。
私は将軍様の判断が正しいと思ってます。
あれでは…使い物にならないでしょう…〕
≪言葉の意味は分かるんでしょう?
精神錯乱って…ミルルには無縁だわ。
何なのか分からないけど…。
ゼロさんがどうしてそんなことに…。
囚人施設って・…ゼロさんは…将軍様に反抗でもして、収容された訳?≫
〔違いますね・…。
彼には鎮静剤は打っていますが…。
暴れ出したのは確かです。
それも理由もなく…。
お蔭で軍事施設の私物が破損したのも事実です…〕
≪ゼロさんが…。
どうして…≫
〔彼のことを追報したのは、私です。
勝手に薬をターシャ国立病院から盗みましたし…。
それ以外にもいろいろ記憶障害が出て来てるのを認めましたので・…。
一人、罪人を発見した分…お蔭で、私の位が少し…上がったわけですが…。
今回、将軍様の娘を施設から逃がしたとなれば…私は命が危ないですね…〕
≪何が目的なの?
ミルルに何をさせたいの?≫
混乱が生じた・・。
ノアは全身黒装束で顔が相変わらず、見えない。
黄色いカードを出してきた。
〔このカード、役に立つんですよ。
軍用の施設もこれさえあれば…侵入できるので〕
≪囚人施設でもこれがないと無理だったの?≫
〔貴方は私の背後へ…。
さきほどの質問…。
敢えて、答えるなら…興味ですかね…。
平和国で女優になりたいらしいですが…。
まあ、将軍様へは貴女から私が役に立つと証言して下されば・…。
恐らく、私は更にこの国で位が上がるでしょう…。
生きるのが大変ですからね…。
自爆テロ係だけは、誰しも遠慮願いたいので〕
ノアは灰色の巨塔、囚人施設にあるカード―キーへ黄色いカードを入れた。
すると、自動ドアの要領で…ドアが上に上がった。
その場所を通れば…中は意外に涼しい。
≪あれ?
意外だわ・・。
中は涼しいのね…≫
〔この国では悪は尊いとされてますし…。
それから、死刑囚には…つかの間の余暇を与えるように配慮がされてるので…。
冷房ですね…〕
ノアはここでやっとフードを外した。
その表情は…少しだけ悲しげに見えた。
☆☆☆
収容施設は思いのほか涼しい。
牢屋のような檻に数名の人間が収容されてる。
不思議な感覚。
ミルルにはさっぱり分からない。
何名かの人たちがざわめいてる。
壁に向かってブツブツ会話してる人や…
牢屋の中で木の棒を転がして遊んでる人など…いろいろいる。
牢屋の部屋は・…それぞれ…個室みたい…。
〔監視員が普段はいるんだけど…。
今日は年に一度の邪神祭りで軍事パレードということもあり、警備が手薄だわ。
一人ぐらいしか、いないのね…〕
牢屋の廊下には…監視員らしき人が床に寝転んでる。
周辺には酒の瓶カスが散乱してる。
〔結構、この場所は手薄だわ…〕
一番、奥の独房でミルルは再会を果たした。
会う前にはミルルなりに緊張してたけど…。
ゼロさんは横を向いて寝てる。
≪本当に…ゼロさん、体調が悪いの?
そんなふうに見えないけど…≫
〔まあ、今は鎮静剤で抑えてるから…。
大丈夫だけど…一時は大変だったのよ〕
≪そうなの…≫
ゼロさんの牢屋を見てみた。
壁に何故か…血痕らしきものがへばり付いてる。
ゼロさんは牢屋の灰色の地面で横たわって寝ている。
≪あの…壁にへばりついてる…血痕は何なの?
昔からあったの?≫
壁に真っ赤な血がついてる。
気になって仕方ない。
〔それはね…。
言うべきかしら…。
ゼロが自分で腕を切った時に・…。
自ら、壁に擦り付けて…〕
≪リストカットな訳・・≫
ミルルはボケーとなった…。
頭が付いていかない心地。
〔信じられないでしょうけど‥。
ある日、突然、発狂したのよ…。
私も手を付けられなくて…。
自殺するなら自殺するで無視してもよかったんだけど…。
器物破損だけは防がなきゃならないから…〕
≪…。
ゼロさんが…嘘でしょう?≫
ミルルは少ししか、ゼロさんには会ってないけど…。
どうしてこんなことになってるのか不思議でたまらない。
確かに壁には・・血が吐いてる。
それから…ゼロさんの頭からも何故か…血が出てる。
≪頭の傷は…。
誰かに殴られたのかしら?
ミルルがノアに足蹴りをくらわしたみたいに…≫
〔違うのよ・・。
ゼロはね…。
二重人格の気があるのかもしれないわ…〕
≪は?≫
〔暴れた瞬間のことを覚えてないらしいのよ…。
あの頭の傷も…自分で壁へ頭突きをして・…〕
≪…。
あれも…そうなの?
何で、そんなことになってるわけ?
話が見えないんだけど…≫
〔ゼロなりに確かに・・。
今までストレス続きだったことは認めるわね…。
さて、貴女はどうする気?〕
その時、背後から声がした…。
‐‐‐おい、勝手に何を入ってるんだ?
オミャー、ここを牢屋と知ってるのか?---
黒装束の酔っ払い・…。
牢屋の監視員が目を覚ましたみたい…。
黒装束のフードをしてないから、顔が見えた…。
痩せぎすで頬がこけて、目が小さく…ネズミのような髭が生えてる。
右手には…鬼が持つような金色の棍棒を持ってる。
発音が・…邪神教にしては訛り過ぎて聞き取りにくい…。
何と言うか…邪神教でも訛があるみたい…。
≪訛が酷くて…聞き取りにくいわ…。
邪神語なの?≫
〔彼は…邪神国でも西部出身なので・…〕
≪関西弁みたいなモノかしら?
私の祖国にも関西からやって来た女子高生がいるけど…。
男性の声ね…≫
〔邪神国の西部の町…西部都市から来た牢屋の監視官です…。
ネズミチュウ太郎と言うあだ名ですが…。
西部都市は田舎なので…この邪神国の首都より暑い街です…。
彼はそこから涼を求めて、この職にありついたわけです。
ここは冷房完備ですから…〕
黒装束から出てる顔…それは何と言うか見たことがないレベルの出っ歯…。
確かにチュウネズミってあだ名が相応しい。
顔も何だか細くて・…体も痩せてる・…。
それから…なんというか…いかにもネズミな雰囲気な男。
因みに可愛いハムスターではない。
どうみてもドブネズミ…。
目の下に大きな隈を抱えてる…。
まつ毛だけが…この国の人間に相応しく長い…。
目が異様につぶらで小さい…肌は浅黒く頬は赤い。
☆☆☆
アラビア系の顔立ちをしたノアは…結構美人な部類に入ると思うけど…。
浅黒い肌にノアはラクダのようなまつ毛、それから豊かでうねった黒髪…。
細くて割りとスレンダー。
この国の人、全員が容姿が良いわけじゃないらしい・・。
ネズミチュウ太郎は…喜劇に出てくるレベルな顔立ちをしてる。
ゼロさんも割りと顔立ちは良いのに…。
−−−通報するぞ、何の用事やねん…。
チュウ−−−
ネズミチュウ太郎は怒った表情で、右手に金の金棒を持ってる。
〔寝てらしたので…。
勝手に入らしてもらいました。
私はこのカードーキーがありますし…〕
ノアは黄色いカードをネズミチュウ太郎に見せ付けた。
すると、突然…ネズミチュウ太郎の顔が輝いた。
−−−オミャ…ノアか?
まあ、背中でそうかとは思ったで?
でも何や?
何のようや、オミャみたいな奴が…。
ここに来るなんて、珍しいな…。
メッチャ、久しぶりやんケ?
アア?
クック−−−
〔仕事サボってらしたのですね。
これを将軍様へ密告すれば・・私は将軍様からお金と位を頂けるのですが…。
いったいどうすれば…〕
−−−なんや?
用事は金かいな?
オリャ、金…最近、ないで。
それから仕事は…オリャ…サボらしてもらうで。
チュウー。
酒飲んで寝てたこと、告げ口すんなよ・…。
チュウー…。
今、酔ってんねんで!
寝さしてくれや!−−−
ネズミチュウ太郎が焦ってるのが伝わって来る。
目を瞬きして、眉毛がヒクヒクと動いてる…。
体まで痙攣して震えあがった表情をしてる。
ミルルは知らなかったけど、ノアって、割りとこの国では上の位の人間らしい。
それから、この人の発音が悪すぎて…聞き取りにくすぎる。
多分、こういうふうに言ってるんだと思う…。
これで訳があってるのかも謎…。
主語と…特に動詞の発音が悪くて…。
末尾にチュウ‐が毎回、付いてる…。
邪神国の西部都市って…末尾にチュウ‐が付いてるのかしら?
それとも・…この人だけなの?・…。
≪えっと…末尾にチュウーが付いてるけど…。
あれは…西部都市訛りってヤツなのかしら?
全く、知らないけど…≫
〔そうですか…。
確かに他国の人にこの国の訛は難しいかもしれませんが…。
末尾にチュウ‐が付くのは確かに…西部都市訛りです…〕
−−−なんやその女は・・。
誰やねん、チュウ。
オリャのこと馬鹿にしてんのかいな?
アア?
囚人施設の監視員ほど、高級職はないねんで。
オリャ、この仕事になるためにな…。
全財産を売ったんやで−−−
何と訳せばいいのか分からなくて…混乱が生じてる…。
〔ミルル様は知らないでしょうが…。
この国で囚人施設の監視員は…ターシャ国で言う神父の仕事並みに割りと人気です。
なんせ、冷房完備ですから。
ネズミチュウ太郎はそのためだけに、窃盗を続け、金の力でこの仕事にありつけたらしいですね…〕
第4部ミルルC
目次
第4部ミルルE
ドライブ音が入る。
かなりの音かも知れない。
軍事パレードの日だから良いけど、結構…排気ガスが出てるんじゃないの?
って感じ。
ミルルはフードをした。
暑いけど…した方が、視界が他人から隠せるから。
≪本当に静かね…。
警備はないわけ?≫
〔ゲートの外にありますが…。
裏口を回りましょうか?
そちらにもありますが…。
私が持ってる通行書さえあれば…通れますがね…〕
≪裏を回ってくれないかしら?
それにしても…。
どういう風の吹き回し?
ミルルに手伝ってくれる理由は・?≫
〔将軍様の御令嬢には目を掛けてもらえば後々、好都合ですから…。
それ以外には単純な興味ですかね?
別に将軍様に通報をしても良いのですが…。
私の判断で貴女の運命が変わると言うスリル…。
たまりませんね…〕
≪そう…。
やはり、気が合わないわね…。
ミルルと貴方は…≫
〔光栄ですわ〕
この女…ノアが何を考えてるのか…。
ミルルは全く、読めない。
敵なのか…味方なのか…。
ここまで協力してもらってるから、ついうっかり…。
味方なのかと完全信用しそうになった。
≪もしかして…ミルルと一緒にこの国を抜けたい訳?
それなら…≫
〔私はこの国、大好きですわ。
好き勝手に出来ますから。
研究もはかどりますし・・。
動物と人間との人体実験から…クローンまで。
何でもアリですからね…。
その点、ターシャ国や平和国は法律に縛られてやりにくい。
将軍様には感謝してます…〕
≪それなら…なぜ・…。
ミルルをここまで…≫
〔悩んでるのですか?
悩みなさい。
貴方には私しか頼れる人間がいないのですから…。
クスクス〕
≪性格が悪いわけね…。
ミルルには分からないわ、この国の人間の感性…≫
〔裏口のゲートでは…。
私が持ってる、このカードを差し込み口へ入れれば…認識が始まります。
ターシャ国にある…駅、改札口へ切符を入れる時と同様な仕組みですね…〕
ノアは説明してる。
ゲート受付内部には監視員らしき黒装束の人間がこちらを見張ってる。
まるで…それは…空港にいるパスポートをチェックする監視員みたいに…。
でも、ノアもミルルも黒装束衣装に身を包んでるし…。
怪しまれることはないと思うけど…。
今日は邪神国祭りらしい・…。
パレードに参加せずに、外出することに関して不審に思わないのかしら?
黄色いカードを改札機に入れると…カードは元に戻ってくる。
そのまま、ノアは黄色いカードを手に入れて…その裏口ゲートを出た。
〔意外に手薄でしょう?
私は信用されていますからね…〕
≪毎日、ああやって・…監視員がチェックしてる訳?〕
〔チェックと言っても…。
服装チェックに近いですね…。
規則を守りさえすれば…。
特に文句はないです〕
≪どんな規則な訳?≫
〔制服は正規なものか…。
それから、着方は正しいか…。
行きには…銃は2丁、入ってるか…。
将軍様からお怒りを頂く着崩し方をしてないか…。
割りと将軍様は手厳しいので…。
外に出る時もしっかりと監視されてます〕
≪まるで、校則チェックじゃないの?
あの監視員…風紀委員な訳?≫
〔将軍様が潔癖症ゆえに…。
このようなことに…。
しかし、規律違反は…死刑なんですよ?
割りと…守るのも大変なんですがね…。
笑いごとで済まされないので…。
軍では規則が絶対です。
特に将軍様、お抱えの軍では…。
私は、軍事医療班に配属されてますが…長年、規則は守り続けてます〕
≪そう…。
そんな人間が…ミルルの実の父なの…。
信じたくもない話ね…≫
〔貴方も潔癖症なんでしょう?〕
≪さあ、どうかしら?
まあ…別に綺麗好きではあるけど…。
いろいろな件について…興醒めね…≫
〔さあ、囚人施設へ向かいましょうか?〕
☆☆☆
外に出れば…驚いた。
まだ将軍様の豪邸、庭園にいた時の方がずっと涼しかった。
外には大きな噴水や湖もあったし…。
裏口のゲートから離れるにつれて…。
とにかく暑い。
それなのに…砂埃で…太陽の光は入ってこない。
灰色の世界…。
地面が割れてる…。
まるで月のクレーターみたい。
空気がドライヤーの熱風…さっきより暑い…。
若干…車だから…助かってる。
風のお蔭で…。
でも、暑すぎる…。
≪何キロだったっけ?≫
〔たった10キロです〕
市場らしき場所を通ることになった。
恐ろしいことに、木は一本もないし…。
道端に山のように…積みあがってるのは人間の死体…。
それも腐敗してる。
そこに蠅すらたからない…。
暑すぎる。
そこへ人間が…水を求めて、死体に被りついて血液を吸ってる。
想像絶する光景が広がってる。
熱気にやられ、それに反応する余裕すらない瞬間…。
数名の人間が…ミルルが乗ってるオープンカーへ接近してきた。
‐‐‐水をくだせえ。
あの黒装束、軍の人間だ…−−−
向こうから勝手に発砲してくる。
〔ちょっと、黙ってないで。
撃ちなさいよ。
車のタイヤに撃たれたら…どうなるか…〕
ミルルは仕方なしに、その男性の地面へ発砲した。
的当ては…遊びでしたことあるけど…。
別に殺す気にならなかった。
威嚇を込めて、地面へした。
[水をくれ!]
男性は暴れ狂ってる…。
ミルルも熱くて頭が働かない…。
タイヤの下に死体が何度も踏みながら進んでる…。
それに反応する余裕すらないレベルに暑い。
50℃を越えてるらしい…。
ちょっと、怒る元気も沸かない。
さっき、水をガブ飲みして、正解だったと思う。
〔殺さないんですね…。
将軍様なら…普通に殺しますがね…〕
≪暑いわ…。
どうでも良いわよ…。
まだ、なの?≫
〔そうですか…。
しかし、それぐらいの度胸では…この国では務まらないかもしれませんね…。
将軍様の血を受け継いでるだけに期待してたのですが…。
あれを殺せないレベルでは…。
今、ココで私が…あの世へ送ってあげた方が…〕
≪変なことを考えると…。
アンタはここで撃つわ≫
〔あの住民は撃てないのに…。
私は撃つとおっしゃる…。
不思議な方ですね…〕
≪うるさいわね‥。
暑いの…。
思考力も落ちるわ…。
50℃でしょう?≫
〔まだ、マシです。
これから暑い季節がやってきます〕
≪嘘でしょう?≫
車で走ってる人間なんて…ミルルぐらい…。
数名の人は…数頭の極限まで痩せ細ったラクダに何かを運ばせてる…。
ミルルの頭には黒いフード…。
髪までビッシリ汗だく状態・…。
≪あれは…。
何なの?
ラクダに人が乗ってないわよ…。
背中に何を背負ってるの?
あのラクダたちは…≫
〔塩です。
これが我が国の資源です。
この国には塩で出来た大地がありますから…〕
≪塩は要らないわよ。
水が欲しいわよ≫
〔わがままですね…。
まだここは都市なんですよ。
なんせ、首都ですから…。
今日は50℃ですが…。
涼しい日は40℃になりますし、朝は30℃ぐらいな日も稀にありますから・・。
それから…将軍様の庭園にはオアシスがありますし…〕
≪あの死体の海は…。
何なの?
あれは…≫
〔将軍様に歯向かったものの末路です。
大方、山羊の餌になるでしょう…〕
≪山羊…。
人間なんて食べるの?
草食じゃないの?≫
〔この国の山羊は家畜です。
海水も飲みますし、亡くなった人間も粉砕すれば…餌として食べます。
他国で山羊は草食とされてるようですが…草のない台地なので、独自の進化を遂げたようですね…。
割りと、獰猛で…賢く、家の屋根にも登ります。
断崖絶壁な直角の壁でも…山羊は登れます。
ここは暑いので、自然として生息してるのは…超高層山になりますが…。
超高層山は邪神国一高い山です。
そこには塩湖がありますので…〕
≪超高層山には塩湖があるの?
どうしてそこで住まないわけよ?≫
〔真水はここだけなので…。
涼しい場所ではありますが…水の運搬通路には適さないので…。
崖崩れが頻繁に起き、土壌が良くないので…〕
≪それにしても…
暑いわ…。
まだなの?
水…が高価なのは覚えたわよ・・・。
山羊なんて、路上で見ないけど‥〕
ミルルは黒装束に身を包み、フードを頭から被って…車の助手席に座ってる。
運転してるのはノア…。
それからノアの体へは銃を付き付けてる。
路上から邪神国を見れば・…。
ラクダばかり歩いてる…背中に石煉瓦のような真っ白な塩を背負ってる。
ラクダは痩せてる。
それから…市場が遠くにあるらしく、焼き鳥みたいな何かが…打ってるのが見れた…。
豚の丸焼きみたいな…毛がない動物が…屋台にいる。
そこに数名の人間が群がってる。
〔あの屋台で姿焼きで売ってるのは…。
まさしくそうですね。
山羊の肉は高価で売れ、軍事施設のメニューでよく出ます〕
≪豚かと思ったら、山羊の丸焼きだったの?
平和国のヴァカンス島にも似たようなメニューがあるから…。
てっきり、豚の丸焼きだって思ったけど…≫
〔わが国では豚は食べません。
山羊を食べます。
それから…山羊の皮は水筒に…。
山羊のミルクは貴重な水分源になります。
全ては循環して生が繋がれているのです…。
邪神教ではそう言うふうに載ってます…〕
言ってる意味が分からず、ミルルはノアを見詰めた…。
この黒装束衣装には目だけ出るように二つの穴が開いてる…。
こんな衣装でノアは運転できるなんて凄いと思う。
眼鏡のお蔭で砂風が目に入らずに済んでる…。
よく見れば、ノアのまつ毛は異様に長い。
ラクダみたい…。
そう言えば…ゼロさんのまつ毛も長かった…。
砂埃が外は凄すぎる・・。
〔この国に・・・人間を埋葬する文化はありません…。
知っていましたか?
死ねば…親族に食べられるか…。
家畜の餌になるのが…大半ですね。
そうして、死んだ後も生が繋がれていると…聖書には載っています…。
貴方はターシャ国では珍しく、無信教者なようですが…〕
≪冗談ばかり、止めてよ…≫
冗談じゃないことは知ってる。
暑くて、思考力が落ちてるだけ。
邪神人が食人族だってことは・…噂で聞いたこともある。
獰猛な未開発地区の人間だって。
それをゼロさんですら否定しなかったから…。
そんな噂はニュースでもやってたけど…。
確かに、この国の人…何を食べて生きてるんだろうっていう感想。
暑すぎる…。
地面が…クレーターのようにヒビが割れてる。
もう、地球じゃないイメージ。
火星に上陸した気分。
〔囚人施設はもうすぐです…〕
≪虫も飛んでないわね…ここ…≫
〔虫も…暑いのには弱いみたいで…〕
ミルルは耐えきれずに…。
ポンチョから、魔法瓶を出して、水を飲んだ。
それを羨ましそうな顔で…路上の人が見詰めた。
しかし、そんなことは言ってられない。
この地で生まれてない分…これは酷い。
暑すぎる…。
〔夜は涼しいんですがね…。
あの看板を右手です〕
邪神語で‐‐‐この先、囚人施設‐‐‐と表示された木目調の看板がある。
ノアはハンドルを右にまわした。
たった、15分もなかったと思うのに…ミルルは暑さで、倒れそうになった。
更に水をがぶ飲みした。
水は貴重なことは覚えたけど…。
髪の毛まで滴るレベルの塩の汗が出てる。
〔到着ですよ〕
囚人施設は灰色の巨塔って言うイメージ。
しかも、コンクリート…。
見るからにあつそう。
靴が溶けそうなイメージ。
≪ここにゼロさんがいるの?
熱中症で死んでない?≫
〔大丈夫でしょう…〕
ノアは平然としてる…ミルルはダウンしそう。
ミルルは体力にだけは自信ある方だけど‥。
さすがに50℃のサウナを歩くのはキツイ。
脳が沸騰しそうなレベル…。
〔貴方は…ゼロについて…誤解をしてるようですが…。
現在の彼は…手が付けられない状況なので…。
話し合いができるとも思えません〕
≪どういう意味よ?≫
〔精神的錯乱を起こして…。
監禁してる状況です。
軍として使い物にならないのだけは確かです…〕
≪意味が分からないけど・…。
ゼロさんに何があったの?
精神的錯乱って…ゼロさんによほどの何かが?
それとも…病気なの?
尿毒症なの?
やっぱり…。
飲む水の量が少ないから…腎臓でこしきれずに…毒が脳に回って…≫
そんな病気をミルルはテレビで聞いたことがある…。
水を制限されたら、誰でも頭がフラフラしそう・・・。
最悪、脳梗塞にもなってしまう…。
ミルルは体中、汗だく状態。
〔水の問題ではありません…。
彼は…。
まあ、これ以上は黙っておきましょう…。
私は…医者として、患者なら何人も見送って来ましたが…。
彼のように軍事施設において、精神錯乱を起こす人間は・・珍しくもないので・…〕
≪良いわ。
それでも会ってあげようじゃないの?
ミルルは別に良いわよ。
ただ、この暑さだけは何とかしてほしいものだわ≫
〔甘いですね…。
精神錯乱がどういうものか…理解してらっしゃらない。
私は将軍様の判断が正しいと思ってます。
あれでは…使い物にならないでしょう…〕
≪言葉の意味は分かるんでしょう?
精神錯乱って…ミルルには無縁だわ。
何なのか分からないけど…。
ゼロさんがどうしてそんなことに…。
囚人施設って・…ゼロさんは…将軍様に反抗でもして、収容された訳?≫
〔違いますね・…。
彼には鎮静剤は打っていますが…。
暴れ出したのは確かです。
それも理由もなく…。
お蔭で軍事施設の私物が破損したのも事実です…〕
≪ゼロさんが…。
どうして…≫
〔彼のことを追報したのは、私です。
勝手に薬をターシャ国立病院から盗みましたし…。
それ以外にもいろいろ記憶障害が出て来てるのを認めましたので・…。
一人、罪人を発見した分…お蔭で、私の位が少し…上がったわけですが…。
今回、将軍様の娘を施設から逃がしたとなれば…私は命が危ないですね…〕
≪何が目的なの?
ミルルに何をさせたいの?≫
混乱が生じた・・。
ノアは全身黒装束で顔が相変わらず、見えない。
黄色いカードを出してきた。
〔このカード、役に立つんですよ。
軍用の施設もこれさえあれば…侵入できるので〕
≪囚人施設でもこれがないと無理だったの?≫
〔貴方は私の背後へ…。
さきほどの質問…。
敢えて、答えるなら…興味ですかね…。
平和国で女優になりたいらしいですが…。
まあ、将軍様へは貴女から私が役に立つと証言して下されば・…。
恐らく、私は更にこの国で位が上がるでしょう…。
生きるのが大変ですからね…。
自爆テロ係だけは、誰しも遠慮願いたいので〕
ノアは灰色の巨塔、囚人施設にあるカード―キーへ黄色いカードを入れた。
すると、自動ドアの要領で…ドアが上に上がった。
その場所を通れば…中は意外に涼しい。
≪あれ?
意外だわ・・。
中は涼しいのね…≫
〔この国では悪は尊いとされてますし…。
それから、死刑囚には…つかの間の余暇を与えるように配慮がされてるので…。
冷房ですね…〕
ノアはここでやっとフードを外した。
その表情は…少しだけ悲しげに見えた。
☆☆☆
収容施設は思いのほか涼しい。
牢屋のような檻に数名の人間が収容されてる。
不思議な感覚。
ミルルにはさっぱり分からない。
何名かの人たちがざわめいてる。
壁に向かってブツブツ会話してる人や…
牢屋の中で木の棒を転がして遊んでる人など…いろいろいる。
牢屋の部屋は・…それぞれ…個室みたい…。
〔監視員が普段はいるんだけど…。
今日は年に一度の邪神祭りで軍事パレードということもあり、警備が手薄だわ。
一人ぐらいしか、いないのね…〕
牢屋の廊下には…監視員らしき人が床に寝転んでる。
周辺には酒の瓶カスが散乱してる。
〔結構、この場所は手薄だわ…〕
一番、奥の独房でミルルは再会を果たした。
会う前にはミルルなりに緊張してたけど…。
ゼロさんは横を向いて寝てる。
≪本当に…ゼロさん、体調が悪いの?
そんなふうに見えないけど…≫
〔まあ、今は鎮静剤で抑えてるから…。
大丈夫だけど…一時は大変だったのよ〕
≪そうなの…≫
ゼロさんの牢屋を見てみた。
壁に何故か…血痕らしきものがへばり付いてる。
ゼロさんは牢屋の灰色の地面で横たわって寝ている。
≪あの…壁にへばりついてる…血痕は何なの?
昔からあったの?≫
壁に真っ赤な血がついてる。
気になって仕方ない。
〔それはね…。
言うべきかしら…。
ゼロが自分で腕を切った時に・…。
自ら、壁に擦り付けて…〕
≪リストカットな訳・・≫
ミルルはボケーとなった…。
頭が付いていかない心地。
〔信じられないでしょうけど‥。
ある日、突然、発狂したのよ…。
私も手を付けられなくて…。
自殺するなら自殺するで無視してもよかったんだけど…。
器物破損だけは防がなきゃならないから…〕
≪…。
ゼロさんが…嘘でしょう?≫
ミルルは少ししか、ゼロさんには会ってないけど…。
どうしてこんなことになってるのか不思議でたまらない。
確かに壁には・・血が吐いてる。
それから…ゼロさんの頭からも何故か…血が出てる。
≪頭の傷は…。
誰かに殴られたのかしら?
ミルルがノアに足蹴りをくらわしたみたいに…≫
〔違うのよ・・。
ゼロはね…。
二重人格の気があるのかもしれないわ…〕
≪は?≫
〔暴れた瞬間のことを覚えてないらしいのよ…。
あの頭の傷も…自分で壁へ頭突きをして・…〕
≪…。
あれも…そうなの?
何で、そんなことになってるわけ?
話が見えないんだけど…≫
〔ゼロなりに確かに・・。
今までストレス続きだったことは認めるわね…。
さて、貴女はどうする気?〕
その時、背後から声がした…。
‐‐‐おい、勝手に何を入ってるんだ?
オミャー、ここを牢屋と知ってるのか?---
黒装束の酔っ払い・…。
牢屋の監視員が目を覚ましたみたい…。
黒装束のフードをしてないから、顔が見えた…。
痩せぎすで頬がこけて、目が小さく…ネズミのような髭が生えてる。
右手には…鬼が持つような金色の棍棒を持ってる。
発音が・…邪神教にしては訛り過ぎて聞き取りにくい…。
何と言うか…邪神教でも訛があるみたい…。
≪訛が酷くて…聞き取りにくいわ…。
邪神語なの?≫
〔彼は…邪神国でも西部出身なので・…〕
≪関西弁みたいなモノかしら?
私の祖国にも関西からやって来た女子高生がいるけど…。
男性の声ね…≫
〔邪神国の西部の町…西部都市から来た牢屋の監視官です…。
ネズミチュウ太郎と言うあだ名ですが…。
西部都市は田舎なので…この邪神国の首都より暑い街です…。
彼はそこから涼を求めて、この職にありついたわけです。
ここは冷房完備ですから…〕
黒装束から出てる顔…それは何と言うか見たことがないレベルの出っ歯…。
確かにチュウネズミってあだ名が相応しい。
顔も何だか細くて・…体も痩せてる・…。
それから…なんというか…いかにもネズミな雰囲気な男。
因みに可愛いハムスターではない。
どうみてもドブネズミ…。
目の下に大きな隈を抱えてる…。
まつ毛だけが…この国の人間に相応しく長い…。
目が異様につぶらで小さい…肌は浅黒く頬は赤い。
☆☆☆
アラビア系の顔立ちをしたノアは…結構美人な部類に入ると思うけど…。
浅黒い肌にノアはラクダのようなまつ毛、それから豊かでうねった黒髪…。
細くて割りとスレンダー。
この国の人、全員が容姿が良いわけじゃないらしい・・。
ネズミチュウ太郎は…喜劇に出てくるレベルな顔立ちをしてる。
ゼロさんも割りと顔立ちは良いのに…。
−−−通報するぞ、何の用事やねん…。
チュウ−−−
ネズミチュウ太郎は怒った表情で、右手に金の金棒を持ってる。
〔寝てらしたので…。
勝手に入らしてもらいました。
私はこのカードーキーがありますし…〕
ノアは黄色いカードをネズミチュウ太郎に見せ付けた。
すると、突然…ネズミチュウ太郎の顔が輝いた。
−−−オミャ…ノアか?
まあ、背中でそうかとは思ったで?
でも何や?
何のようや、オミャみたいな奴が…。
ここに来るなんて、珍しいな…。
メッチャ、久しぶりやんケ?
アア?
クック−−−
〔仕事サボってらしたのですね。
これを将軍様へ密告すれば・・私は将軍様からお金と位を頂けるのですが…。
いったいどうすれば…〕
−−−なんや?
用事は金かいな?
オリャ、金…最近、ないで。
それから仕事は…オリャ…サボらしてもらうで。
チュウー。
酒飲んで寝てたこと、告げ口すんなよ・…。
チュウー…。
今、酔ってんねんで!
寝さしてくれや!−−−
ネズミチュウ太郎が焦ってるのが伝わって来る。
目を瞬きして、眉毛がヒクヒクと動いてる…。
体まで痙攣して震えあがった表情をしてる。
ミルルは知らなかったけど、ノアって、割りとこの国では上の位の人間らしい。
それから、この人の発音が悪すぎて…聞き取りにくすぎる。
多分、こういうふうに言ってるんだと思う…。
これで訳があってるのかも謎…。
主語と…特に動詞の発音が悪くて…。
末尾にチュウ‐が毎回、付いてる…。
邪神国の西部都市って…末尾にチュウ‐が付いてるのかしら?
それとも・…この人だけなの?・…。
≪えっと…末尾にチュウーが付いてるけど…。
あれは…西部都市訛りってヤツなのかしら?
全く、知らないけど…≫
〔そうですか…。
確かに他国の人にこの国の訛は難しいかもしれませんが…。
末尾にチュウ‐が付くのは確かに…西部都市訛りです…〕
−−−なんやその女は・・。
誰やねん、チュウ。
オリャのこと馬鹿にしてんのかいな?
アア?
囚人施設の監視員ほど、高級職はないねんで。
オリャ、この仕事になるためにな…。
全財産を売ったんやで−−−
何と訳せばいいのか分からなくて…混乱が生じてる…。
〔ミルル様は知らないでしょうが…。
この国で囚人施設の監視員は…ターシャ国で言う神父の仕事並みに割りと人気です。
なんせ、冷房完備ですから。
ネズミチュウ太郎はそのためだけに、窃盗を続け、金の力でこの仕事にありつけたらしいですね…〕
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