≪ミルル視点≫
〔それはダメでしょうが…。
まあ、行くなら、ココへ戻って来るなら…将軍様も怒りないでしょう。
ただ、逃したとなると…私が危険でしょう…〕
≪何故、この国はミルルを優遇する訳?
事情は何?
囚人施設へついて行ってくれるかしら?
ノアも≫
〔それは無理でしょう・・・。
行きたいのであれば、直接…貴女が将軍様から許可を得てから…〕
ミルルはここで考えを巡らした。
今、ミルルは手錠を白い看護用のベッドに縛り付けられてる。
それから、部屋の外にも監視員がいそうな気配。
確かにゼロさんには会いたいけど…。
その前にこの国の将軍様からの許可がいるらしい。
ミルルの勘が正しければ…。
もし、ミルルがこの国の将軍様に会えば…二度と、祖国の大地を踏むことはなくなりそうで、それが怖い。
理由は…世界中からこの国の将軍様の顔は黒幕写真で隠されている状況。
それを知った時点で…ミルルは…無事にターシャ国へ返還される可能性が格段に減りそう…。
そんな気がしてたまらない。
この国に関する情報は余り、知らない方が…。
首を突っ込まない方が身のためかもしれない。
ただ…ゼロさんに会いたいだけだから。
前回、年に一度…ターシャ国で開催されるターシャ祭りで…。
ミルルは邪神人から拉致誘拐されたものの…何故か無償で祖国へ返還された。
その時のことを覚えてる・・。
ゼロさん以外…全員が黒い装束に包んで姿がばれない様にしてた。
それから怪しい黒装束な集団、全員に変声機…。
台詞は邪神語で全くミルルは理解が出来なかった。
ミルルはあの時、会話が通訳できず…情報を知らずに済んだ。
だから、戻してくれたと考えてる…。
もし…機密情報でも知ろうものなら…。
それを…邪神国が果たして…ターシャ国へ無償で返すだろうか?
そんな訳ない気がして仕方ない。
≪ミルルは…会う気はないわ。
将軍様とやらには…≫
〔あら?
どうしてなの?
この国に来た人間は全員、会いたがるのよ?
何せ、この国のトップ…。
しかも…世界中からその正体については謎が包まれている存在ですからね?
この国では偉人なのよ?
教祖様的存在も良いところよ?
絶対君主なのよ?
貴方はこれからその人に遣える運命なのだけど…〕
≪目的はそこじゃないの…。
ミルルの目的は…。
ターシャ国に来た留学生ゼロさんに…。
会いたいだけなのよ…。
邪神国の情報が欲しいわけでもないし…。
会えば、すぐに帰る気よ…。
祖国へ。
彼に抱いた気持ちが忘れられないだけよ≫
半分、嘘…半分は本気。
毎回、台詞を選んでる。
敢えて聞かないように徹してる。
知りたいことがあれば…この女から聞かずに、自分で調べた方がマシ。
この女は…危険な匂いがする。
ミルルを駒にすると堂々と宣言した。
と言うことは…ミルルが話した会話の全てを他人に話す可能性が高そう。
芸能界でもこんな感じに性格の悪い仲間なら山のようにいる。
ミルルは常に他人に情報なんて与えない。
スキャンダルとして売られてしまうことぐらい警戒してるから。
〔まだそんなことを言ってるの?
往生際が悪いわね…。
貴方って予想に反して馬鹿ね?
本気なの?
そんな虚像に縛られて…。
まさか、ゼロのことを気に入ったわけなの?
意味が分からないわ〕
☆☆☆
≪ゼロさんのことは確かに気に入ったわ。
そうよ、恋心だけで飛び込んできた馬鹿な女子高生よ、ミルルは…。
それから…。
ミルルには…女優になる夢があるの、平和国で・…。
ビッグになるの。
ミルルの名前を世界中に轟かせるのよ≫
これで良い。
逆にこれぐらい馬鹿なぐらいの方が警戒心も揺らぎそう。
別にこの国の情報になんて興味はない。
地雷は踏む気にならない。
ただ、気になることばかりあるのは確か。
〔そう…。
それなのに・・。
ココへ貴方は来て馬鹿ね?
戻れない橋よ?
低脳な女子高生なの?
この国で恋愛なんて話せば笑われるわよ?
理解できない単語だわ。
人間なんてただの商品と同様なんだから…。
これが将軍様の考え。
貴方はこの国にそぐわないようね?
愚かだわ…。
ただのミーハーだったわけ?
残念だわ…〕
≪いいえ、ミルルはこの経験を生かして…。
更に女優としてのし上がる気でいるわ。
確かにミルルの価値観はこの国では受け入れられないでしょうね?
でも、ミルルは行動派なのよ?
ここは本音よ?
最近、ドラマの仕事を依頼されてるけど…キスが入ってくる仕事が多いわけ。
ビジネスキスなんだけど…ミルルはファーストキスすらしたことないわけ。
最初ぐらい気に入った相手が良いけど、その相手には断られた訳。
二番手に上がったのが…ゼロさんなの≫
〔へ・…。
それで…〕
≪ミルルはゼロさんとファーストキスさえすればビジネスキスが入るドラマを演じられるわ。
そのために走って来たのよ≫
〔貴方、馬鹿じゃない?
ここがどういう国か知ってるの?〕
≪知ってるわ。
ミルルの記憶力を舐めないでくれる?
前は理解できなかったけど前回の会話の解読が終わったわよ?》
意味を理解したのか、ノアの顔が凍りついた。
確かにミルルは一度で台本なら覚えられる。
《要するに…。
【ミルルは…
ターシャ国へ帰すべきダ。
夢があるらしい、平和国でスターになるらしい】
〈ほう…そうか…。
邪神国へ迎えようかとも思ったが…それも良いだろう。
情報をありがとう〉
こういう意味よね?
もう一回、言ったけど…。
あの日から…まるで音楽のように邪神語が耳へこびり付いて離れなかったわ。
意味を分かるために真剣に学んだわ…≫
これは…前回、ミルルが邪神人から拉致されたときに…。
ゼロさんと誰かが交わした邪神語。
あの時は不明だったけど…。
あとから意味を理解した。
〔素晴らしい…。
さすが…。
情報を与えなくて正解だわ。
まさか、耳で聞いたことない言語の台詞を一度で覚えたと言うの?
嘘でしょう?〕
≪記憶力が良いって言うのは冗談よ。
実はトリックを話せば…。
たまたま…夢で…何回もあのシーンだけは見て…魘されたからよ…。
偶然よ。
あの事件、相当…ショックだったわ。
何回、夢に見たことか…。
ミルルにそんな能力はないけど・…。
そのお蔭で、助かったわ。
だって、邪神語を覚えてから、チェックが出来たから…≫
ミルルはここで右の瞳から涙を一滴、流した。
ミルルにとって泣くと言うのは…空気を吸うのと同じこと。
欠伸を我慢すれば、1滴ぐらい余裕で出るし、それから・…瞬きしなければ、普通に目も赤くなる。
これは自然現象。
ここに眉を寄せせば…泣きそうな顔の完成。
〔魘されてたの?
そう…。
まあ、確かに…ショックは酷かったでしょうけど…。
しかし…でも…〕
あのシーンを夢で何回も見たということは嘘。
ミルルに…一度で覚えられる能力があることは敢えて隠す。
これは別にモデル仲間にも話したこともない。
逆に言わない方が・・あとから役に立つから。
≪要するに平和国でスターになることに関して。
邪神国は寛容なのでしょう?
何が目的かは知らないわ。
それ以上は聞かないわ…。
あの事件が怖くて…・それでミルルは…覚えたのよ?
邪神語を≫
ミルルは涙を流して震えた。
これも演技。
弱いフリをする。
女優の仕事なら子役からして来た。
馬鹿なフリをした方が、絶対に良い。
油断してもらえるから。
有能なフリは…ここではしない。
有能なフリをしたパターンでは…生かしてもらって…軍の役に立つために働かされるパターンがある。
それから…弱いフリをしたパターンでは・…無能と判断されて今すぐに処刑が決行されるパターンもある。
処刑されそうになれば、役に立つふりをすれば良い。
無能から有能だと、名誉挽回をすることは出来ても・…。
一度、能力を悟られた後に…馬鹿なフリは効かない。
弱い被害者のフリをする。
涙なら幾らでも出てくる…。
悲しくなくても、別に。
〔…同情なんてこの国では効かないわよ?
…。
本心で泣いてるの?
さっきまで包丁を持って、私の顔に足蹴りを食らわした癖に。
今更、か弱い女子高生なフリをするわけ?
笑わせるわね…。
貴方は確かに女優の器があるらしいわ…〕
ノアの顔が引き攣った。
この女、ミルルの勘では一癖も二癖もある…。
ミルルが泣いてるのを見て、顔が引き攣る…この意味は…。
探ってる、ミルルの本心を…。
これは…味方へ入れれそうないな雰囲気。
別にミルルは仲良くなる気はないけど…。
それから…やはり、一度…凶暴性を見せた後で、か弱い清純系なフリをしたところで効かない。
そう言うモノ…。
ミルルは確かに一度聞けば・・・特に好きな人の言葉や、衝撃的な事件なら…。
映像記憶で覚えられるし、それが普通の人も当たり前だと思ってるけど…。
世間一般より記憶は良い自覚がある。
その瞬間なら当たり前のようにスケッチが出来るレベルだと思う。
特に感情に結び付いた事件はそうだけど…全員そうだって思ってる。
好きな人の言葉なら意味が分からなくても…自宅に帰ってからも何回も映像で回想してしまうものだと思う。
例え、その言語が不明でも。
ノアは分からないみたいだけど…。
ゼロさんが言った台詞だからこそ、死にそうになった瞬間だったからこそ。
声で何度も聞こえてきたのは事実。
あまり女優仲間へ記憶の良さをひけらかす気にもならないし、結構…そんな人が女優仲間には多い。
台詞も一度で覚えられないと大変な世界だから、仲間にも数人いる。
こういうのを写真記憶か映像記憶って褒め称える風潮があるけど、理解できない。
事あるごとにお母さんはミルルをまるで洗脳して、働かせるように持って行った。
ミルルは自由に生きたかったのに…。
あまりこう言うことはひけらかしたこともない、ミルル以外にも芸能人仲間でも結構いる。
それより演技が命だって思うから。
サバン症候群までは別にいかないと思う。
耳で覚えてるし、映像も流れてくる。
好きな人のことは特に珍しくもなく…普通そう言うものだと思うけど、ノアには理解できないみたい。
≪さっきは死活問題で・…。
それで…。
アクションシーンならドラマで演じることもあったから…。
でも、本当は怖かったのよ…。
だって、ミルルは…。
本当に、清純系なの。
確かに、言葉が汚くなることもあるけど…。
男性経験なんて皆無だし…。
本当に怖かったのよ…ウウ≫
ココで泣く。
これを貫くぐらいで良い。
〔良いでしょう…。
残念ながら、私にはあなたが清純系には映りませんが…。
まだ女優の夢を諦めきれないようですね…。
それなら…将軍様にこのことを私、直々にお伝えしてから判断をあおぎましょう〕
≪その前に…ココは手洗いがないのかしら?
さすがに1時間も越えて…。
ミルルもお手洗いへ…≫
〔バケツを持ってきましょうか?
そこで・・〕
≪この国には手洗いがないわけ?≫
〔…〕
≪クーラーがあるということは下水道は通ってる筈よね?
それから・…ミルルにだけ無償でターシャ国へ返還して、それから…。
何故かミルルが平和国で女優になることを…。
この国の人間が望んでる。
この国がミルルを優遇する気でいることは…。
ミルルが冷房が効いた部屋へ通された段階で知ったわ…。
そんなミルルへバケツでトイレなんてさせて言い訳?≫
〔…。
仕方ありませんね。
私が連行しましょう〕
ノアが目を細めた。
ミルルの勘では絶対、ここまで優遇されるのはおかしすぎる。
何かある。
でも、知らない方が…祖国へ返還される率が上がりそう。
ミルルはノアに対して、足蹴りまで食らわして…ノアの顔には痣になってる。
普通なら、ここでミルルの頬へ刀で傷を付けて来そうなものだけど。
威嚇をするところか…ミルルを駒にしようとノアはした。
ということは…ミルルの体に傷すらつけれない理由がの兄はあると言う意味。
一度、拉致誘拐されて…そこから無傷でミルルが戻された時も感じた違和感。
何か・・ある。
でも、聞かない方がきっと良い、首は突っ込まない。
この国は…入国するのは簡単そう。
しかし、祖国へ帰るのは…至難技な気がする。
この瞬間、やっとミルルの手錠が一端、ベッドから離された。
それからアラビア風の顔立ちな癖毛な黒髪ロング女性ノアの腕と、ミルルの腕とが手錠で繋がれた。
このノア…何歳ぐらいなんだろう?
ミルルより3歳ぐらいは上に見える。
どうすれば…ミルルはこの女の弱みを握れるのだろう?
味方が必要だと感じる。
ここからは何でも利用するぐらいの気でいないとダメ。
取り合えず、武術の腕前はミルルがこの女より勝ってた。
それだけでは従わせることなんて出来ない。
この女は…どうも、この国の将軍と繋がってる雰囲気。
例え、足で顔に痣が出来るレベルに蹴ったところで…ノアはミルルの体へ傷さえ付けれない身分らしい。
と言うことは…ノアが死ぬレベルにミルルはノアを裏で足蹴りして、こちらの味方へ脅して落とすと言う方法もあるけど…。
これはすぐにノアに出来た体中の痣で、邪神国の住民共へバレル。
こんな方法はつかいたくない。
ミルルはどうすれば…。
この女には話が通じなさそうな雰囲気が漂ってる。
味方に入れるのは無理かもしれない…。
☆☆☆
目を閉じれば思い出す。
【黙れ…オメエは監禁されテル】
【帰れる筈ダ、オレのことは忘れろ…
テメエとオレは交わることのねえ線にいるようダ。
警察には多くを語るな、テメエは常に邪神国から狙われる身ダ。
オメエが一言言葉を漏らせば…テメエの体は大破するかもしれねえ…。
それぐらいの気でいやがれ…】
【それを全員、お望みダ。
他言不要ダ。
命が欲しくば…】
【一つだけ情報を与えてやろう、オメエの兄…オレが最初に食った人間ダ】
【それには薬が入ってる…オメエは寝るべきダ…。
忘れろ…】
【オメエは兄に見た目がソックリだが…性格は似てねえらしいな…】
ゼロさんが語った台詞、あの瞬間…。
それからゼロさんの死んだような瞳。
まさか…あの時、自らの足で邪神国へ来るとも思ってなかった。
でも、あれから数度…ミルルの夢に何故か、ゼロさんが現れてる。
何故か、気になるみたい。
ミルルは…この頃、ターシャ国にいても楽しくない。
日常に刺激が足りない、飽き飽きしてる。
何かが足りなくて…ここまで来た。
ミルルは自分の元へゼロさんの心を落としたい。
手中にしたい。
モノにしたい。
☆☆☆
手洗い場までミルルはノアに連行される。
手洗い場にもこの施設は冷房が効いてる。
これは意外。
手洗い場の窓の外から見える景色は…灰色。
砂嵐が飛び交ってる。
それから、太陽が濁ってる、地上まで光が届かない世界みたい…。
これは情報通り。
外では…軍隊らしき人たちが脚を揃えて全員、整列して、歩いてる…。
射的場があるのか・…頻繁に銃声がする。
ノアは…ミルルが手洗いをしてる最中ですら、ミルルとノアに繋がった手錠を外してくれない。
≪ミルルは今からトイレをするから、後ろを向いてくれないかしら?
まさか、ミルルがおしっこをするのを見る気?
趣味、最悪ね?≫
〔すぐに済ませないさいよ〕
ノアは溜息を吐き、背後を向いた。
ミルルは流水しながらトイレをする。
片手でパンツをおろし、用は済ませる。
本気でトイレに行きたいとも思ってたから。
そのあと、この手洗いには誰もいない。
周囲を確認した。
≪今は全員、何をしてるの?
窓の外で・…≫
〔軍事パレードの練習よ。
手洗いは終わったの?〕
ミルルの視界から、ノアの長い漆黒な後ろ髪が映ってる。
そこで、背後から思いっきり、ミルルはノアを蹴り倒した。
ノアはトイレの床に倒れた…。
〔何を…〕
ノアは焦った顔になり、床へ這いつくばったまま…首を後ろに向け、ミルルを睨んだ。
ミルルはノアの上に乗ってる。
ミルルの方が体術が上なのは…先ほどの闘いで判明した。
ミルルはノアの上に乗しかかったまま、それから口をまず手で塞いだ。
大声を出され、外にいる人間へバレルのはダメだから。
≪命令するわ、手錠を外しなさい≫
ノアの顔が引き攣った。
力さえ上なら、誰も監視員が…手洗いの中にはいない。
ノアの黒装束な衣装から使えそうなものを取り出した。
黒装束な内側には…ライフルガン…。
それ以外にも凶器がいっぱい。
これは…また麻酔銃な可能性もあるけど…。
≪鍵をくれないなら…ここで撃つわ≫
〔…〕
ノアの顔がいがんでる、ノアの頬にはウネって長い黒髪が張り付いてる。
麻酔銃ではないらしい。
よく…ミルルが、その黒い銃を見れば…注射針のようなものは刺さってない。
映画で見たことのある銃に似てる。
≪手錠の鍵は…これよね?≫
繋がった右手で…ミルルはノアの口を抑えつけた。
それから、残った自分の左手で…ノアの腕と繋がってる右手の手錠へ鍵を差し込み、開錠した。
その間もノアの空いた左手は…ミルルの髪を引っ張って威嚇してたけど…。
足で思いっ切り…ノアの股を蹴れば、大人しくなって…抵抗を止めた。
やっぱりミルルは悪役アクションの方が合う気がする。
それから…ノアの上に跨って、ミルルはノアの顔へ銃を向けた。
≪案内してくれるかしら?
その牢屋へ…。
断れば、今…ここで撃つから≫
〔・…〕
ノアの両腕を背中に廻し、手錠をハメた。
ミルルは銃を右手に隠し持ち、ノアの左脇腹へ銃を密着させた。
それからノアに立つように促した。
≪このまま、立つのね…≫
〔…〕
≪叫べば撃つから≫
ノアへは銃を向けたまま、全身黒装束を着せてる…。
この黒装束があれば、ノアの両手に手錠が嵌まってることが分からない。
手も隠れるし…足も隠れる。
ノアの黒装束衣装からライフルガンが2丁も見つかったし、それ以外にもタマも発見した。
それをミルルはブラジャーやパンツの中に入れた。
ミルルはノースリーブの服、隠す場所が少なすぎる。
ポケットにはタマを詰めた。
〔さすがですね…〕
ミルルが手洗いで銃を脇腹に当ててる間もまだ、ノアはまだ…口を閉じない。
≪撃つわよ?
舐めてる訳?
本気よ?
馬鹿にしないでくれる?≫
〔ハハハ…〕
ノアは笑い出した。
≪笑いのツボが謎だけど…本気で、撃つわ。
ミルルに歯向かう者、それは…邪魔でしかないから≫
〔さすがです、貴女は…もうこの国にいるべきでしょう…。
情報を与えましょうか?
貴方はまだ、分かってないようですね…。
あの国に帰るなどと…。
自分はこの国と無関係だと…〕
≪引き金を引いても言い訳?≫
何故か…ミルルの頭が最高に冴えて来る。
この緊張感がたまらない。
癖になりそう。
まるでジェットコースターに乗ってる時に似てる。
この興奮感。
ミルルは今、夢の中にいる心地。
ミルルはここで笑顔になった。
≪あはあは、アハハハ。
ビビってんの?
アハハハ。
ハハ…。
馬鹿じゃないの?
ハハハ・…。
クハハハ…≫
一度、笑いだすと止まらない。
だって、あんなに怯えた顔で見て来るから。
黒い肌をした漆黒の瞳・…それが目を細めて、ミルルを感情のない瞳で見詰めて来る。
≪クふふふふ…。
あはっは≫
何なの?
これ?
キセキさんから泣きながら見詰められる瞬間に似てる。
ミルルはこの女性、割りと気に入ったかも。
可愛いともっと苛めてその顔を恐怖に怯えた顔に豹変させてみたいと感じる…。
相反する感情、この衝動…。
たまらない。
殺意は少し、失せた。
〔はあ…。
私は貴女の役に立つでしょう…。
情報ならたくさん持ってますから。
そんな人材を失っても良いのですか?
ゼロへの情報を与えたのも私…。
私を殺せば、後悔するでしょう…〕
≪…。
別にミルルはこの国の情報には興味ないわ?
好奇心ならあるけどね?≫
〔私を殺せば、貴女がターシャ国へ帰還する確率が…グンと下がるでしょう…。
貴方が本気で帰りたいなら…生かすべき人材でしょう〕
ノアは自信満々な口調…ハッタリな可能性も高い。
どこからこんな自信が出るのかも謎。
≪たいした、自信じゃないの?≫
〔貴方は自分の本当の父を知ってますか?〕
≪は?≫
〔精子バンク…。
貴方の父は…この国の将軍様です。
本当に似てらっしゃる…。
それでもなお、将軍様が…貴女を無償でターシャ国へ返還すると考えですか?
貴方はこの国に相応しい人材…。
私は側近として、貴女に遣えましょう…。
私が貴女の教育係としての配属が決定しました〕
≪…。
嘘でしょう?≫
ミルルは一瞬、頭が停止した。
〔この頬に出来た痣は…忠誠の誓いだと受け取りましょうか?
数日で消えるでしょうけど…〕
≪何が魂胆で…そんな情報をミルルへ渡す訳?≫
〔ここまで知って…果たして、将軍様が無償で貴女をターシャ国へ返還許可しなさると思いですか?
浅はかですね…〕
≪…≫
〔この国に詳しい内通者がいないと…この先、貴女は生きることも出来ないでしょう…。
ここで私を殺せば…この先、死が待っているはずです。
脅しではありません。
ゼロの処刑は目前です。
それでも撃つのですか?〕
≪…チッ≫
ミルルは舌打ちをして、それからトイレの壁へ足蹴りを食らわした。
壁に亀裂が入った。
≪ミルルの父が…本気で、この国の将軍って…本当なわけ?≫
〔父が恋しいですか?〕
≪ミルルの兄をゼロさんが…食べたって…≫
これは…。
邪神国から来た留学生のゼロさんと・…ミルルが一番最後に交わした会話で教えてくれた情報。
この詳細が気になってたまらない。
ミルルに兄がいるのか・・。
ミルルの父は…お母さんが高齢出産で精子バンクを介した父。
その父がまさか…この国の将軍なんて、衝撃的すぎる事実で。
ミルルは愕然としてる。
〔ああ、その件に関しては私は詳しくないのですが…。
とにかく、ミルル様は…将軍様が良い材料だとお喜びです〕
≪そう…。
ノアは…。
知らないの?
ミルルの兄ってことは…。
どういう話なの?
将軍の息子…。
最近、テレビで第三男のサンミル3歳が処刑されたって報道されてたけど…。
ミルルの弟で…。
兄ではないわよね?
誰のことなのかしら?…》
〔さあ?
私もその事は知らないので。
何のことだか…。
とにかく、貴女は…邪神国の現将軍様の娘であることは確かですわ〕
《冗談じゃないわ…。
そんな性格の男が…ミルルの父なわけ。
期待外れも良いところだわ・・・≫
第4部ミルルA
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第4部ミルルC