≪ミルル視点≫
『…』
「それなら僕にも教えてくれないか…?」
「私は今日も会うと思うから…。
キセキから私へメールを送ってくれないかしら?
アドレスは実は知らなくて…」
『…・・…』
マナナは上手に嘘を付けたらしい。
俺が隣で必死にマナナを無言で睨んだ…。
それが伝わったらしい。
ハッとした表情へマナナは変貌した。
巫女様のアドレスは俺のアドレスだ…。
同じアドレスだと、キセキにはすぐにバレルからだ。
「タリア…。
君は嫉妬してるのか?
そうか…。
君だけマナナが耳打ちした件について、何の話か…知らないんだな…。
君が祭りに毎年、来ないからこんなことになる。
僕は別に悪気はない」
「タリア…。
怒らないで・・。
勝手に話が進んで、ごめんね…」
『…』
俺は細い目になってマナナを凝視した、戻って来いと言う意味を込めて…。
「まあ、僕は機嫌が良い。
あの人に会えるのは七夕だからだ…。
許可が下りることを祈る」
「キセキ、計らってくれるの?
学習兄弟への件」
『……』
キセキを頼ることは面白くない。
「良いだろう…。
今、メールしとく…。
奴らから返信があり次第、マナナへ連絡しよう」
「ありがとう!
キセキ。
さすが、私の幼馴染」
『………』
今…猛烈に楽しくもない、やっぱり、結局…キセキと会話する気にならない…。
「HEIWACの勉強は大変だ…。
今日は塾でレイカさんに会えるはずだ…。
昨日より点数が稼げれば良いのだが…」
「頑張りなさいよ、さっきまで弱気だったけれど、女子たちの応援で元気が出たのね?
応援してるわよ…」
「HEIWACか…。
はあ…」
『…』
ミルルの前に緑の草むらが続く。
ミルルの前に黄緑色に萌える鮮やかな木がたくさん連なっている。
木の枝にオウムが止まってる、オウムは鮮やかで緑と桃色と黄色が交じり合う。
---【オマエはどうしてここへきたんだ?カカカカ…】---
オウムが鳴き出す。首をひねってる…。
オウムの瞳は緑…見つめられるとミルルは体が停止する、それはまるで…金縛り?
ミルルの下から突如、白い花が咲き乱れる…。
風がサワサワと吹き、ミルルのスカートが揺れる。
ミルルは撮影用でオレンジ色のノースリーブワンピースを着てたみたい…。
ミルルの前には綺麗な泉がある…水が透明で・…魚もたくさんいる。
その時、遠くから地響きが起きる・…。
----【カカカカ…。
知ってるぞ、知ってるぞ…。
オマエは・・オマエは…。
アハハハハ】---
鮮やかな緑を主体にした桃色や黄色交りのオウムが…羽を大きくバタ付かせる…。
その瞬間、ミルルの下に咲き誇っていた白いユリの花が一斉にユックリと枯れだす…。
それから木が何本もドンドン倒れていく…。
草も枯れて茶色になって行く…。
そして…全てが黒い粉へなって…風に飛ばされ宙へ舞う…。
一瞬で、目の前が…ここは砂漠になる。
太陽がギラギラ煌めいて眩しい…目を開けるのが辛いぐらい。
日傘が必要かもしれない…。
砂漠に強いつむじ風が舞う…。
ミルルの腰まで伸びた染めた茶髪は風に飛ばされ…髪型が乱れる…頭の上までなびきだす。
砂漠のど真ん中…そこに穴が開く…。
貝殻…それから…魚型の化石…。
アンモナイト…。
鮮やかな羽色をしたオウムが砂漠の真ん中へ飛ぶ。
オウムの笑ってる声が聞こえる・・。
---【オマエは来たいはずだ、ここでは勤まらない。
勤まる筈などない…。
オマエの居場所はどこだ?
オマエは何を悩んでる?
知っている…。
知らない世界を見たい癖に。
暴れ狂いたいのだろう…。
ハハハハハ-】--
オウムの声はゼロさんの声にそっくり。
緑のオウムは青空、高く羽ばたく、ミルルは叫ぶ…。
≪ゼロさん、ミルルは邪神国で…≫
☆☆☆
ふと気が付けば…ここは学校の教室で…。
ミルルは…机へ頭を乗せて、うたた寝してたみたい…。
お弁当箱を食べ終わって、邪神語の単語を覚えようとしてたところみたい…。
途中で勉強に疲れて、仮眠してた記憶が蘇ってくる・・。
今のは夢だったらしいわ。
あの日から…あのテロが起きた瞬間から何故かこんな夢ばかり見る…。
邪神国からミルルは夢の中で誘われてる…ゼロさんから勧誘されてる…。
赤い表紙な邪神教単語帳を見た。
今、邪神語の勉強をしてるせいで…余計に夢の中に現れるのかもしれない…。
確かに、ミルルは仕事やレッスンに忙しくて…。
寝る時間すら削って、ブログの更新などもしてる状況。
そこで…携帯をチェックする。
これは癖になってる。
時間があれば…今日、食べたものをアップしたり…。
ファンのためにミルルは頑張ってる。
そこで、ミルルにメールが来てるのが分かった。
着信履歴もある。
根性レポ子…ミルルのマネージャからだ。
ミルルは…メールボックスをチェックした。
新着メールはミルルにとって衝撃的だった。
FROM;根性レポ子
TO;ミルル
件名;ドラマの件
本文;=ミルル、あのドラマ…中止になったの…。
詳しくは電話で言おうとしたけど…。
大変なことになってるみたいで…。
ミルル、悪いけど…あの話はなかったことに=
ミルルは一瞬、ポカーンとなった。
慌てて、教室の外で出て、廊下からだいぶ離れて、電話をした。
全然、納得がいかないから。
電話に出るか分からない・・。
根性レポ子さんも忙しい女性。
でも運よくつながった、昼飯時だったみたい。
≪先ほど戴いたメールの件で…お話を…≫
=ミルル何してたの?=
≪少し昼寝を…。
邪神国言語の発音練習をしてる途中で…≫
=ミルル、ごめん…。
実は…あの話ね…なくなるみたいなの…=
≪嘘でしょう?
=えっとね…。
番組側としては放送したいんだけど…。
却下が下りて…=
≪どうしてなの?
ミルル、邪神語の発音練習までしたのに…。
そんな…≫
=慌てないで聞いてちょうだい、こんなことは初めてよ。
でも…上の人から突然の判断なの…=
≪どういう意味よ?≫
=今、邪神国とターシャ国が最悪な仲なのは理解してるわよね?=
≪はい、ミルルも知ってます≫
=このドラマの出来次第では…。
邪神国から再度、テロ行為が起きかねないのよ。
戦争に突入するかもしれないから…。
却下が出たわ=
≪そんな…だって…≫
=まさか…テロが起きるなんて番組も予想してなかったのよ…。
ミルルがオーディションを受ける前…脚本家が台本を作成する時には…。
こんな緊迫した事態に発展するなんて思ってなかったみたいで…=
確かにミルルがこの役に抜擢されたのは…ターシャ祭りが開催される前日。
その時、モデル教室帰りのオーディションで見事、ミルルが最終選考へ選ばれた。
その翌日のターシャ祭りで勃発したテロでミルルは誘拐されたけど、何故かこの国へ…無事、生還出来た。
だからこそ、演じたい…。
ミルルは…そのために生かされたって信じてる。
ミルルを監禁してる時、奴らの邪神語は理解できなかったけど‥。
それまではあまり女優の仕事も乗り気じゃなかったけど…お母さんに説得されてる感じで・・。
ミルルにはこの役に関しては…使命感がある。
≪でも…だからこそ…このドラマは意味があるって思うんです…。
ミルルは・・≫
=そうね…。
確かに、番組としては放送したいみたいだけど…。
ドキュメンタリードラマとして…=
≪そんな報道なんて自由でしょ?
やっとミルルの主演が決まったのに…≫
=でもね…。
邪神国の日常を放送することについては…。
本国の人間から苦情が出ることが怖いみたいなの…。
落ち着いて聞いてちょうだい…。
怖いことが起きてるの…=
≪何なんですか?≫
=プロデューサーの元に…。
匿名でファックス用紙が送られたみたいで…。
それも非通知で…。
おそらく、海外から…=
≪なんて書かれてたのよ!≫
=ミルル、抑えて…貴女はテレビでは清純系なんだから…。
”番組を放送すれば…オマエは殺すって…”来たのよ!=
≪ふざけるな!ミルルがどんな思いで…邪神国言語を!
馬鹿にしないでよ!
=怒る気持ちも理解できるけどね?
前のターシャ祭りの時もそうだったけど‥。
これがデマだとは思えないのよ…。
だって、邪神国って何でもありでしょ?=
≪ふん!何なのよ!このタイミングに!
どうせアンチミルルファンでしょ!
ボコりに行きたいわ、ざけんじゃねえわよ!!≫
=抑えて、イメージが大切なのよ?
芸能人は…気持ちは分かるけどね?
だから…。
もう、プロデューサーが怖がってしまって…=
≪はあ?何言ってんですか?弱気なんですか?はあ??≫
=ミルル…。
邪神国は触れてはいけない話題なのよ…。
業界人にとっても…=
≪そんな…。
やっと取れた役なのに…この野郎、畜生めが!≫
=ミルル…恋愛ドラマとかどうかしら?
キスシーンが入るけど…=
≪そんな…ミルルはまだ誰とも…キスなんてしたことないのに…。
それはイヤよ!
一応、清純系なんだから!
違う子にさせてよ!
そんなことは!!≫
=ビジネスキスよ…。
別にラブシーンがある訳ではないから…。
ダメかしら?
キスだけよ・・。
これは真実よ…ね?=
≪仕事を考えさせてもらいます…≫
=そんなこと言って良いの?
みんな体を張って頑張ってるのよ、
私はミルルには期待してるわ…。
キスだけなんだから…耐えても…。
きっと、ミルルなら売れるって私の直感があるのよ=
≪時間をください、ミルルにだって拒否権があります。
そんな話認めません!≫
=そう…。
ドラマの件については残念だわ・…。
ミルルには戦争で好きな人を亡くして…祖国を不審に感じながら…逃亡を企てようとする女の子の役を演じてもらう気でいたわ…=
≪楽しみにしてたのに…≫
=ミルル…でも、これをテレビで流すと…邪神国から反感を猛烈に買うのよ…。
今ですら険悪な仲なのが…余計に増すでしょ?=
≪ふん!≫
=だから…自粛しろと上から命令が下ったのよ…。
私も悲しいのよ?でも…おとなな事情だけど仕方がないことなのよ…=
≪そうですかぁ…!?
ミルルは楽しみにしてたんですが…。
邪神国ならあり得そうだとも理解はしてます…。
悔しいわ!
はい、サヨナラ!!≫
ミルルはブチ切れて、自分から電話を切った。
本当にやってられない気分、ざけてんじゃねえよ!
足蹴りかましたい。
この国で邪神国のドキュメンタリー番組が放送されない理由がミルルには分かった気もする…。
でも本気で納得がいかない…。
せっかく、台本まで覚えたのに…。
ミルルがどんな気持ちで邪神語の発音までマスターしたと思ってるの?
ムカムカする。
☆☆☆
まだ、演技が下手とか他の理由なら納得いったけど…こんなのでは消化しきれないほどの怒りが沸く。
ミルルは学校の廊下…白い壁へ足蹴りをかました。
素が一瞬、出たみたい。
周囲にいる生徒たちがミルルを凝視したのを感じた。
[あれって…隣のクラスの眼鏡ミルルだよな?]
[テレビでは白いドレスで…
≪ミルルは清純系だから何もわからないの、あは♪
ダイアモンドの原石♪≫
とか言ってるけど…。
学校では全然、キャラが違うよな…]
[ちょっと性格悪い気がしねえか?]
[性格が悪いことは知ってる…でも、オリャ、何故かファンかもしれない…]
[ミルルだ…サイン貰おうか?]
[やめとけ?
≪アンタなんかに何でサインをミルルが書かなきゃダメなわけ?
ふん!≫
って断られたヤツ、クラス中で続出らしいから…]
[眼鏡ミルルか…本気で高嶺の花だよな…。
よく、月神タリアとかいう…ミルルの幼馴染も…全校生徒へ『協力してくれ』と頼めたものだ…。
ハッキリ言って…雲泥の差だろう…]
[いや、月神タリア…アイツ…。
留学生ゼロへミルルがアタックしてるのして・・もう自分には無理だと諦めたらしい…。
そのあと、どういう経緯か知らねえが…異能マナナと交際してるって、隣のクラス中でモッパラ噂されてる…]
[え?
あの根暗で…会話すらあまりしない変人で、しかも冴えない奴が…交際したって本当かよ?]
[そうらしい…。
その理由はクラス中が謎らしい…。
まるでミステリー・サークルらしい…]
[そうか…。
どんな天変地異だよ]
[えっと…。
異能マナナって…確か、眼鏡ミルルと険悪な仲で…灯台キセキと男、取り合ってたライバルじゃなかったのか?
灯台キセキか…。
アイツとは親交ないけど…いつも、女子がアイツの周りに何故かいるよな…。
何なんだ?
あれは…]
[女子達も差別しすぎだよな…。
何でアンナ態度豹変するんだよ、どこが違うって言うんだ?
同じ人間なのに…]
[確か…あれ、ミルルが何故か負けて…言い寄られた年数の長さから…キセキがマナナを選んだって…。
だから、ミルルのことに関しては…他の男子たちにもチャンスがあるって…。
一瞬、ミルル人気が学年で白熱したのに…。
別れたらしいな…奴らは…]
[そうらしい…。
その理由が謎すぎて…隣のクラス中、いろいろな噂が飛び交ってるらしい…]
[ミルルちゃんと近づけるチャンスがあるのか?]
[ミルル様は毒のある花だ、テレビで抱く幻想とは正反対だ…]
[ミルルさんが…売春してるって、ネットでの書き込み、本当なのか?]
[それはどうせモテない女子の嫉妬じゃないか?
そう願ってる…。
美人可愛いのには甘い…信じない…]
[楽屋でモデル同士、髪の毛を引っ張り合う…取っ組み合いの喧嘩になったって話…。
本当なのか?]
[さあ…。
サインが今日こそ、貰えたらなあ…]
言いたいこと言いまくってる。
ミルルは男子からは優しいけど、モテない女子にはことごとく理解されず、叩かれてる。
だいたい、気もないのに優しくするなんて、勘違いされる。
ミルルほどの美貌があれば…変質者へ転落して、どこまでもミルルを妨害しかねない。
キッパリ振るのも優しさだと思う、別に愛想笑いをする気に外ではならない。
≪ふん!≫
しかし…この学園の中にいる生徒、誰かが…。
連日、ネットでミルルは清純系じゃないってアンチミルルしてる可能性があることも知ってる。
[ミルル様、機嫌が悪いらしいな…]
[今日はミルルさんにサイン色紙を頼むのは止めとこう]
[隣のクラスは良いよな、女子のレベルが高くて…。
CM流出級の芸能人がいるとか…凄いよな…]
≪うるせえんだよ!≫
ミルルは更に廊下の白い壁へ足蹴りをかました、ドンドン音が鳴った…。
これぐらい小さい暴れ方、許してもらいたい…。
確かにミルルは…性格が凶暴かもしれないけど、別にヤリマンじゃない!
それなのに…根も葉もない噂…売春してるなんて、出てるのを知った時は…更にミルルを機嫌悪くさせた。
マネージャーには
=ネットは充てにしない方が良い=
と諭されてるけど、ミルルとしてはやりきれない気分。
暴れ狂いたいって思う。
ミルルは…本性を押し隠して、いつも良い子さん過ぎてる!
誰もミルルのことなんて、分かってくれる訳ない!
ミルルのお母さんも…外では良い人面し過ぎてる…。
足蹴りしまくりたい、ムカムカする…。
☆☆☆
≪…っ!≫
舌打ちをしそうになって止めた、ミルルは清純系で売ってる身だから。
自宅での出来事を思い出して、更に怒ったような顔になってる自分の顔が廊下の窓へ鏡映りした。
外は…雨が降りそう。
最近、天候が怪しいことが多い。
曇りだけど分からない、折り畳み傘なら鞄に収納はしてるけど…。
☆☆☆
それは最近のこと、この心臓が誰より強いミルル様を震撼させることが起きた。
ミルルが子役時代から稼いだお金って、かなりある筈だって思ってた。
ミルルには未成年だから、子役で稼いだ金を自由に使える権利がないことなら…もう知ってる。
それなのに、お母さんがそれを利用して、整形手術なんてするって言いだした。
≪お母さん、嘘でしょ?
何で?
なのよ!≫
少しどころではなくブチ切れた。
[ミルル、ごめんね。
長年、私がミルルに全く似てない容姿だって…近所中で散々に貶されて辛かったのよ]
≪冗談でしょ?
全身整形手術なんて…≫
[これが成功したら、私のヌード写真集でも出版して…。
ミルルにはお金を返してあげる気でいるから…]
≪馬鹿にしないでしょ!
誰が61歳女性のヌード写真集なんて買うのよ!!≫
[最近テレビに引っ張りダコな眼鏡ミルルの母、その私小説と写真集ってことで、売れたらなあって…。
別に私だけじゃなくてこういう話、結構あるみたいだし…。
他の芸能人の方も…。
そんな話が・・来たときは嬉しくて…]
≪どれだけ守銭道なの!?
ミルルの気持ちなんてお母さん、全然…分かってない!
ざけんなよ、テメー…。
クオリャ!!!!
オメエはここで、足蹴りかまそうか???
土下座して、ミルルへ謝りやがれ、このボケナスが!!≫
[ミルル、怒らないで…。
お母さんだって一回しかない人生…一度はミルルみたいにチヤホヤされたいだけなのよ!]
≪ふざけないで頂戴!!
冗談でしょ!!≫
[前からミルルがキスシーンが入るドラマは自粛して断ってる件も…。
それから、接待も断って逃げてる件も知ってるわ。そのせいで芽が大きく出てないことも。
ミルル、キスシーンぐらいビジネスキスなら、お笑いの方でも耐えてるわ…。
ミルルも頑張って…]
≪オメエはミルルに喧嘩売ってるのか?
テメエは何様のつもりじゃ!
蹴り倒そうか?
ミルルを侮辱しやがって!!≫
[お母さんにも欲が…。
ミルル、芸能界で頑張って…]
☆☆☆
≪ハアア…。
あの守銭道のババアめが…。
ハアア…≫
ミルルは、その時のことを…思い出して溜息を吐いた。
ビジネスキスが入るドラマシーンについては…今回だけじゃない。
ミルルのマネージャ、茶髪巻き髪ロングの上下白スーツの女性…根性レポ子さんからも…数回説得されかけてる。
けど、ミルルは逃げてる状況にある。
清純系で売ってるミルルですら、これだから…他の芸能関係の仲間はもっと酷いかもしれない…。
ミルルはそういうシーンが入るドラマはちょっと遠慮したい…。
だって、ミルルはまだ好きな人とキスをしたことすらないから…。
---キンコンカンコーン、キンコンカンコーン…キンコンカンコーン、キンコンカンコーン…---
チャイムが鳴り渡る…。
5時間目の授業が始まったみたい…。
[今日は…ミルル様…最強に機嫌悪かったな…]
[ミルル様のブログにはコメントを入れてるんだが・・。
何故か…不適切な発言として…削除されるんだが…]
[オマエ、気持ち悪いことを書きすぎなんじゃないのか?]
[いやあ…正直な気持ちを綴っただけで…]
☆☆☆
ミルルは慌てて、教室へ駈け出した。
それにしても…廊下の窓に映る…ミルルの顔が今日は凶暴…。
ミルルだって、ストレスが溜まりまくってる…。
何で、ミルルだけこんなことに耐えなきゃならないの?
きっと、ミルルのことなんて全く誰も理解してくれない。
お母さんだって高齢でだけど、弁護士になったんだからもっと働けばいいのに・・。
最近、何か…ミルルを充てにしてる…。
それを感じてムカムカする。
ミルルって考えてみれば…もう物心が付く前から、子役で売ってた。
その頃の方が今より売れてたかもしれない。
その時はミルルの母が必死でミルルへ台本を読んで、ミルルが暗記をした記憶もある…。
当時は、演技が年齢に合わず…子供の癖に出来ると言うだけで珍しく、ドラマの役がたくさん貰えた。
同級生の子には到底演技なんてダメそうだったから…キスシーンが入るドラマを斡旋される年齢になってからは…ずっと断ってる。
最近、ちょっとスランプかもしれない。
芸能人として進むことについて悩んでる…だって、ミルル、自分の意志じゃないから…お母さんの意志。
雑誌では看板モデルの話も上がって来てるけど…ちょっと反抗したい気分になって来てる・…。
最近、邪神国の夢ばかり見る。
染めた茶髪を背中に棚引かせて細い脚をバタバタ走らせ、ミルルが遅れて教室へ入って来たらしい。
5時限目の授業は平和国言語だ。
これは学年でミルルが一番だ、予習も果たしているんだろう。
先生から当てられたが、マナナが訳せないのはいつものことだ。
マナナの前の席にいるミルルが訳せるのも常日頃なことだ。
5時限目が終了して、休憩時間へ突入したところで小さな事件が起きた。
☆☆☆
「タリア…結局、当てられたけど分からなかったわ。
今日の宿題の答えを…」
マナナが肩揃えな黒髪が一瞬揺らしながら、俺の席へ接近する…。
「ダメなの?ねえ…?」
マナナが俺に密着する…水色セーラー服からもろに巨乳が当たってる。
少し他力本願過ぎる。
俺は溜息を吐いた。
『それでは宿題の意味がないだろう…』
そこへ…嬉しそうに近づいて来る茶髪碧眼長身の男は…もうすぐ留学しようかと悩んでいるらしい、キセキだ。
「僕が教えても良いかもしれない…。
僕はもうすぐ留学するかもしれない身だ。
ほんのしばらくは…君たちのために時間を費やしたい」
「キセキ…優しい」
「マナナも少し他力本願なのは同意するが・・。
タリア…まさか、怒ってるのか?
僕もココで一緒に勉強をしても良いだろうか?
僕たちは幼馴染3人組なのだから」
「良いわよ。
タリアもきっとそう思ってるわよ」
『…』
そこへまた客がやって来る。
キセキ関係で近付く女と言えば…ミルルしかない
≪キセキさん…。
お話があるの…≫
ミルルは眼鏡の奥から、キセキを見据えた。。
「ミルルか…。
まさか、怒ってるのか?
僕が君を幼馴染として、認めない件に関して…」
≪確かに怒ってるわ。
ミルルだってね、キセキさんとは幼稚園以来の仲なのよ…。
ミルルはキセキさんと二人っきりで幼馴染って認めてるわ。
もう、この席は離れなさいよ!
ミルルの席へ近付くべきだわ!≫
たまにはミルルにも正論が言えるらしい、喜ばしい話だ。
俺はじっとりとキセキを見詰めた。
「ミルル…だって、君は…。
僕とどうせ平和国までついて来る気なんだ…。
僕は…悲しいことにもしかしたら…マナナやタリアとは平和国へ飛べば…。
一生、離れる可能性だって…。
君はどうせ女優になるために…平和国まで、僕のところへ近づくんだろう?」
「ミルル…。
えっと…。
キセキは…私に未練があるとかじゃないみたいで…。
サヨナラがしたいみたいなの…」
『…』
≪そう!
ふん…。
ミルルは…。
はあ…。
キセキさんに頼みがあるの≫
ミルルは鼻を鳴らしてソッポを向き、それから大きく肩で溜息を吐いた。
ミルルの眼鏡が光った。
「何なんだ?」
≪キセキさん、私にキスをしてくれないかしら?≫
ミルルが威圧的な態度でジリジリキセキへ接近した。
キセキの茶色い眉が大きく上へ動いた。
「はあ?」
「どうしたの?
ミルル、突然じゃないの?
いつもだけど…」
マナナもビックリしたような表情だ、オカッパな黒髪が猫のように逆立った。。
『…』
≪もうすぐ…。
最近ね…キスシーンのあるドラマを斡旋されそうになるのよ。
マネージャーは…ミルルにビジネスキスだからって耐えろって言うけど…。
やっぱり最初はね?
ある程度は好きな人じゃなきゃ?
…。
キセキさん…出来るわよね?
ミルルが女優としてテレビに出ることをアンタたち応援してるんでしょ?
ほら?
頼むわよ…。
ビジネスキスだって思って…≫
ミルルが眼鏡を光らせ…高圧的な態度でどんどんキセキへ近付く。
キセキは茶色い瞳を左右に動かし…脚を後退させ、少しずつミルルとの距離を取ってる。
「ミルル…。
済まない・・。
僕には無理だ…。
僕も最初はある程度は好きな人じゃなきゃ…」
≪ビジネスキスだって言ってるでしょ!
キセキさん!
蹴りまくるわよ!
それでも良いの?
今回は股間を足蹴りするわよ!
ブチ切れが始まってるわよ!≫
ミルルは眼鏡の奥から睨み付けて、長い脚で……キセキを横蹴りした。
モロに攻撃を喰らったキセキは……茶色い瞳から一粒だけ落涙した。
キセキは横腹を抑えて…本格的に泣くのを耐えてる様子だ。
「怒らないで聞いてくれ…。
悪気はないんだ…。
僕は…」
『…』
キセキは今にもビビって、大泣きしそうだが…。
これは良い展開かも知れない。
キセキも…もう、レイカさんのことは諦めて、ミルルとくっ付けば良いと願う。
俺の力を入れる儀式ですら、ダメだったと言うことは…。
もう…可能性は限りなく0に近い筈だ。
第4部タリアC
目次
第4部タリアE
「それなら僕にも教えてくれないか…?」
「私は今日も会うと思うから…。
キセキから私へメールを送ってくれないかしら?
アドレスは実は知らなくて…」
『…・・…』
マナナは上手に嘘を付けたらしい。
俺が隣で必死にマナナを無言で睨んだ…。
それが伝わったらしい。
ハッとした表情へマナナは変貌した。
巫女様のアドレスは俺のアドレスだ…。
同じアドレスだと、キセキにはすぐにバレルからだ。
「タリア…。
君は嫉妬してるのか?
そうか…。
君だけマナナが耳打ちした件について、何の話か…知らないんだな…。
君が祭りに毎年、来ないからこんなことになる。
僕は別に悪気はない」
「タリア…。
怒らないで・・。
勝手に話が進んで、ごめんね…」
『…』
俺は細い目になってマナナを凝視した、戻って来いと言う意味を込めて…。
「まあ、僕は機嫌が良い。
あの人に会えるのは七夕だからだ…。
許可が下りることを祈る」
「キセキ、計らってくれるの?
学習兄弟への件」
『……』
キセキを頼ることは面白くない。
「良いだろう…。
今、メールしとく…。
奴らから返信があり次第、マナナへ連絡しよう」
「ありがとう!
キセキ。
さすが、私の幼馴染」
『………』
今…猛烈に楽しくもない、やっぱり、結局…キセキと会話する気にならない…。
「HEIWACの勉強は大変だ…。
今日は塾でレイカさんに会えるはずだ…。
昨日より点数が稼げれば良いのだが…」
「頑張りなさいよ、さっきまで弱気だったけれど、女子たちの応援で元気が出たのね?
応援してるわよ…」
「HEIWACか…。
はあ…」
『…』
≪ミルル視点≫
ミルルの前に緑の草むらが続く。
ミルルの前に黄緑色に萌える鮮やかな木がたくさん連なっている。
木の枝にオウムが止まってる、オウムは鮮やかで緑と桃色と黄色が交じり合う。
---【オマエはどうしてここへきたんだ?カカカカ…】---
オウムが鳴き出す。首をひねってる…。
オウムの瞳は緑…見つめられるとミルルは体が停止する、それはまるで…金縛り?
ミルルの下から突如、白い花が咲き乱れる…。
風がサワサワと吹き、ミルルのスカートが揺れる。
ミルルは撮影用でオレンジ色のノースリーブワンピースを着てたみたい…。
ミルルの前には綺麗な泉がある…水が透明で・…魚もたくさんいる。
その時、遠くから地響きが起きる・…。
----【カカカカ…。
知ってるぞ、知ってるぞ…。
オマエは・・オマエは…。
アハハハハ】---
鮮やかな緑を主体にした桃色や黄色交りのオウムが…羽を大きくバタ付かせる…。
その瞬間、ミルルの下に咲き誇っていた白いユリの花が一斉にユックリと枯れだす…。
それから木が何本もドンドン倒れていく…。
草も枯れて茶色になって行く…。
そして…全てが黒い粉へなって…風に飛ばされ宙へ舞う…。
一瞬で、目の前が…ここは砂漠になる。
太陽がギラギラ煌めいて眩しい…目を開けるのが辛いぐらい。
日傘が必要かもしれない…。
砂漠に強いつむじ風が舞う…。
ミルルの腰まで伸びた染めた茶髪は風に飛ばされ…髪型が乱れる…頭の上までなびきだす。
砂漠のど真ん中…そこに穴が開く…。
貝殻…それから…魚型の化石…。
アンモナイト…。
鮮やかな羽色をしたオウムが砂漠の真ん中へ飛ぶ。
オウムの笑ってる声が聞こえる・・。
---【オマエは来たいはずだ、ここでは勤まらない。
勤まる筈などない…。
オマエの居場所はどこだ?
オマエは何を悩んでる?
知っている…。
知らない世界を見たい癖に。
暴れ狂いたいのだろう…。
ハハハハハ-】--
オウムの声はゼロさんの声にそっくり。
緑のオウムは青空、高く羽ばたく、ミルルは叫ぶ…。
≪ゼロさん、ミルルは邪神国で…≫
☆☆☆
ふと気が付けば…ここは学校の教室で…。
ミルルは…机へ頭を乗せて、うたた寝してたみたい…。
お弁当箱を食べ終わって、邪神語の単語を覚えようとしてたところみたい…。
途中で勉強に疲れて、仮眠してた記憶が蘇ってくる・・。
今のは夢だったらしいわ。
あの日から…あのテロが起きた瞬間から何故かこんな夢ばかり見る…。
邪神国からミルルは夢の中で誘われてる…ゼロさんから勧誘されてる…。
赤い表紙な邪神教単語帳を見た。
今、邪神語の勉強をしてるせいで…余計に夢の中に現れるのかもしれない…。
確かに、ミルルは仕事やレッスンに忙しくて…。
寝る時間すら削って、ブログの更新などもしてる状況。
そこで…携帯をチェックする。
これは癖になってる。
時間があれば…今日、食べたものをアップしたり…。
ファンのためにミルルは頑張ってる。
そこで、ミルルにメールが来てるのが分かった。
着信履歴もある。
根性レポ子…ミルルのマネージャからだ。
ミルルは…メールボックスをチェックした。
新着メールはミルルにとって衝撃的だった。
FROM;根性レポ子
TO;ミルル
件名;ドラマの件
本文;=ミルル、あのドラマ…中止になったの…。
詳しくは電話で言おうとしたけど…。
大変なことになってるみたいで…。
ミルル、悪いけど…あの話はなかったことに=
ミルルは一瞬、ポカーンとなった。
慌てて、教室の外で出て、廊下からだいぶ離れて、電話をした。
全然、納得がいかないから。
電話に出るか分からない・・。
根性レポ子さんも忙しい女性。
でも運よくつながった、昼飯時だったみたい。
≪先ほど戴いたメールの件で…お話を…≫
=ミルル何してたの?=
≪少し昼寝を…。
邪神国言語の発音練習をしてる途中で…≫
=ミルル、ごめん…。
実は…あの話ね…なくなるみたいなの…=
≪嘘でしょう?
=えっとね…。
番組側としては放送したいんだけど…。
却下が下りて…=
≪どうしてなの?
ミルル、邪神語の発音練習までしたのに…。
そんな…≫
=慌てないで聞いてちょうだい、こんなことは初めてよ。
でも…上の人から突然の判断なの…=
≪どういう意味よ?≫
=今、邪神国とターシャ国が最悪な仲なのは理解してるわよね?=
≪はい、ミルルも知ってます≫
=このドラマの出来次第では…。
邪神国から再度、テロ行為が起きかねないのよ。
戦争に突入するかもしれないから…。
却下が出たわ=
≪そんな…だって…≫
=まさか…テロが起きるなんて番組も予想してなかったのよ…。
ミルルがオーディションを受ける前…脚本家が台本を作成する時には…。
こんな緊迫した事態に発展するなんて思ってなかったみたいで…=
確かにミルルがこの役に抜擢されたのは…ターシャ祭りが開催される前日。
その時、モデル教室帰りのオーディションで見事、ミルルが最終選考へ選ばれた。
その翌日のターシャ祭りで勃発したテロでミルルは誘拐されたけど、何故かこの国へ…無事、生還出来た。
だからこそ、演じたい…。
ミルルは…そのために生かされたって信じてる。
ミルルを監禁してる時、奴らの邪神語は理解できなかったけど‥。
それまではあまり女優の仕事も乗り気じゃなかったけど…お母さんに説得されてる感じで・・。
ミルルにはこの役に関しては…使命感がある。
≪でも…だからこそ…このドラマは意味があるって思うんです…。
ミルルは・・≫
=そうね…。
確かに、番組としては放送したいみたいだけど…。
ドキュメンタリードラマとして…=
≪そんな報道なんて自由でしょ?
やっとミルルの主演が決まったのに…≫
=でもね…。
邪神国の日常を放送することについては…。
本国の人間から苦情が出ることが怖いみたいなの…。
落ち着いて聞いてちょうだい…。
怖いことが起きてるの…=
≪何なんですか?≫
=プロデューサーの元に…。
匿名でファックス用紙が送られたみたいで…。
それも非通知で…。
おそらく、海外から…=
≪なんて書かれてたのよ!≫
=ミルル、抑えて…貴女はテレビでは清純系なんだから…。
”番組を放送すれば…オマエは殺すって…”来たのよ!=
≪ふざけるな!ミルルがどんな思いで…邪神国言語を!
馬鹿にしないでよ!
=怒る気持ちも理解できるけどね?
前のターシャ祭りの時もそうだったけど‥。
これがデマだとは思えないのよ…。
だって、邪神国って何でもありでしょ?=
≪ふん!何なのよ!このタイミングに!
どうせアンチミルルファンでしょ!
ボコりに行きたいわ、ざけんじゃねえわよ!!≫
=抑えて、イメージが大切なのよ?
芸能人は…気持ちは分かるけどね?
だから…。
もう、プロデューサーが怖がってしまって…=
≪はあ?何言ってんですか?弱気なんですか?はあ??≫
=ミルル…。
邪神国は触れてはいけない話題なのよ…。
業界人にとっても…=
≪そんな…。
やっと取れた役なのに…この野郎、畜生めが!≫
=ミルル…恋愛ドラマとかどうかしら?
キスシーンが入るけど…=
≪そんな…ミルルはまだ誰とも…キスなんてしたことないのに…。
それはイヤよ!
一応、清純系なんだから!
違う子にさせてよ!
そんなことは!!≫
=ビジネスキスよ…。
別にラブシーンがある訳ではないから…。
ダメかしら?
キスだけよ・・。
これは真実よ…ね?=
≪仕事を考えさせてもらいます…≫
=そんなこと言って良いの?
みんな体を張って頑張ってるのよ、
私はミルルには期待してるわ…。
キスだけなんだから…耐えても…。
きっと、ミルルなら売れるって私の直感があるのよ=
≪時間をください、ミルルにだって拒否権があります。
そんな話認めません!≫
=そう…。
ドラマの件については残念だわ・…。
ミルルには戦争で好きな人を亡くして…祖国を不審に感じながら…逃亡を企てようとする女の子の役を演じてもらう気でいたわ…=
≪楽しみにしてたのに…≫
=ミルル…でも、これをテレビで流すと…邪神国から反感を猛烈に買うのよ…。
今ですら険悪な仲なのが…余計に増すでしょ?=
≪ふん!≫
=だから…自粛しろと上から命令が下ったのよ…。
私も悲しいのよ?でも…おとなな事情だけど仕方がないことなのよ…=
≪そうですかぁ…!?
ミルルは楽しみにしてたんですが…。
邪神国ならあり得そうだとも理解はしてます…。
悔しいわ!
はい、サヨナラ!!≫
ミルルはブチ切れて、自分から電話を切った。
本当にやってられない気分、ざけてんじゃねえよ!
足蹴りかましたい。
この国で邪神国のドキュメンタリー番組が放送されない理由がミルルには分かった気もする…。
でも本気で納得がいかない…。
せっかく、台本まで覚えたのに…。
ミルルがどんな気持ちで邪神語の発音までマスターしたと思ってるの?
ムカムカする。
☆☆☆
まだ、演技が下手とか他の理由なら納得いったけど…こんなのでは消化しきれないほどの怒りが沸く。
ミルルは学校の廊下…白い壁へ足蹴りをかました。
素が一瞬、出たみたい。
周囲にいる生徒たちがミルルを凝視したのを感じた。
[あれって…隣のクラスの眼鏡ミルルだよな?]
[テレビでは白いドレスで…
≪ミルルは清純系だから何もわからないの、あは♪
ダイアモンドの原石♪≫
とか言ってるけど…。
学校では全然、キャラが違うよな…]
[ちょっと性格悪い気がしねえか?]
[性格が悪いことは知ってる…でも、オリャ、何故かファンかもしれない…]
[ミルルだ…サイン貰おうか?]
[やめとけ?
≪アンタなんかに何でサインをミルルが書かなきゃダメなわけ?
ふん!≫
って断られたヤツ、クラス中で続出らしいから…]
[眼鏡ミルルか…本気で高嶺の花だよな…。
よく、月神タリアとかいう…ミルルの幼馴染も…全校生徒へ『協力してくれ』と頼めたものだ…。
ハッキリ言って…雲泥の差だろう…]
[いや、月神タリア…アイツ…。
留学生ゼロへミルルがアタックしてるのして・・もう自分には無理だと諦めたらしい…。
そのあと、どういう経緯か知らねえが…異能マナナと交際してるって、隣のクラス中でモッパラ噂されてる…]
[え?
あの根暗で…会話すらあまりしない変人で、しかも冴えない奴が…交際したって本当かよ?]
[そうらしい…。
その理由はクラス中が謎らしい…。
まるでミステリー・サークルらしい…]
[そうか…。
どんな天変地異だよ]
[えっと…。
異能マナナって…確か、眼鏡ミルルと険悪な仲で…灯台キセキと男、取り合ってたライバルじゃなかったのか?
灯台キセキか…。
アイツとは親交ないけど…いつも、女子がアイツの周りに何故かいるよな…。
何なんだ?
あれは…]
[女子達も差別しすぎだよな…。
何でアンナ態度豹変するんだよ、どこが違うって言うんだ?
同じ人間なのに…]
[確か…あれ、ミルルが何故か負けて…言い寄られた年数の長さから…キセキがマナナを選んだって…。
だから、ミルルのことに関しては…他の男子たちにもチャンスがあるって…。
一瞬、ミルル人気が学年で白熱したのに…。
別れたらしいな…奴らは…]
[そうらしい…。
その理由が謎すぎて…隣のクラス中、いろいろな噂が飛び交ってるらしい…]
[ミルルちゃんと近づけるチャンスがあるのか?]
[ミルル様は毒のある花だ、テレビで抱く幻想とは正反対だ…]
[ミルルさんが…売春してるって、ネットでの書き込み、本当なのか?]
[それはどうせモテない女子の嫉妬じゃないか?
そう願ってる…。
美人可愛いのには甘い…信じない…]
[楽屋でモデル同士、髪の毛を引っ張り合う…取っ組み合いの喧嘩になったって話…。
本当なのか?]
[さあ…。
サインが今日こそ、貰えたらなあ…]
言いたいこと言いまくってる。
ミルルは男子からは優しいけど、モテない女子にはことごとく理解されず、叩かれてる。
だいたい、気もないのに優しくするなんて、勘違いされる。
ミルルほどの美貌があれば…変質者へ転落して、どこまでもミルルを妨害しかねない。
キッパリ振るのも優しさだと思う、別に愛想笑いをする気に外ではならない。
≪ふん!≫
しかし…この学園の中にいる生徒、誰かが…。
連日、ネットでミルルは清純系じゃないってアンチミルルしてる可能性があることも知ってる。
[ミルル様、機嫌が悪いらしいな…]
[今日はミルルさんにサイン色紙を頼むのは止めとこう]
[隣のクラスは良いよな、女子のレベルが高くて…。
CM流出級の芸能人がいるとか…凄いよな…]
≪うるせえんだよ!≫
ミルルは更に廊下の白い壁へ足蹴りをかました、ドンドン音が鳴った…。
これぐらい小さい暴れ方、許してもらいたい…。
確かにミルルは…性格が凶暴かもしれないけど、別にヤリマンじゃない!
それなのに…根も葉もない噂…売春してるなんて、出てるのを知った時は…更にミルルを機嫌悪くさせた。
マネージャーには
=ネットは充てにしない方が良い=
と諭されてるけど、ミルルとしてはやりきれない気分。
暴れ狂いたいって思う。
ミルルは…本性を押し隠して、いつも良い子さん過ぎてる!
誰もミルルのことなんて、分かってくれる訳ない!
ミルルのお母さんも…外では良い人面し過ぎてる…。
足蹴りしまくりたい、ムカムカする…。
☆☆☆
≪…っ!≫
舌打ちをしそうになって止めた、ミルルは清純系で売ってる身だから。
自宅での出来事を思い出して、更に怒ったような顔になってる自分の顔が廊下の窓へ鏡映りした。
外は…雨が降りそう。
最近、天候が怪しいことが多い。
曇りだけど分からない、折り畳み傘なら鞄に収納はしてるけど…。
☆☆☆
それは最近のこと、この心臓が誰より強いミルル様を震撼させることが起きた。
ミルルが子役時代から稼いだお金って、かなりある筈だって思ってた。
ミルルには未成年だから、子役で稼いだ金を自由に使える権利がないことなら…もう知ってる。
それなのに、お母さんがそれを利用して、整形手術なんてするって言いだした。
≪お母さん、嘘でしょ?
何で?
なのよ!≫
少しどころではなくブチ切れた。
[ミルル、ごめんね。
長年、私がミルルに全く似てない容姿だって…近所中で散々に貶されて辛かったのよ]
≪冗談でしょ?
全身整形手術なんて…≫
[これが成功したら、私のヌード写真集でも出版して…。
ミルルにはお金を返してあげる気でいるから…]
≪馬鹿にしないでしょ!
誰が61歳女性のヌード写真集なんて買うのよ!!≫
[最近テレビに引っ張りダコな眼鏡ミルルの母、その私小説と写真集ってことで、売れたらなあって…。
別に私だけじゃなくてこういう話、結構あるみたいだし…。
他の芸能人の方も…。
そんな話が・・来たときは嬉しくて…]
≪どれだけ守銭道なの!?
ミルルの気持ちなんてお母さん、全然…分かってない!
ざけんなよ、テメー…。
クオリャ!!!!
オメエはここで、足蹴りかまそうか???
土下座して、ミルルへ謝りやがれ、このボケナスが!!≫
[ミルル、怒らないで…。
お母さんだって一回しかない人生…一度はミルルみたいにチヤホヤされたいだけなのよ!]
≪ふざけないで頂戴!!
冗談でしょ!!≫
[前からミルルがキスシーンが入るドラマは自粛して断ってる件も…。
それから、接待も断って逃げてる件も知ってるわ。そのせいで芽が大きく出てないことも。
ミルル、キスシーンぐらいビジネスキスなら、お笑いの方でも耐えてるわ…。
ミルルも頑張って…]
≪オメエはミルルに喧嘩売ってるのか?
テメエは何様のつもりじゃ!
蹴り倒そうか?
ミルルを侮辱しやがって!!≫
[お母さんにも欲が…。
ミルル、芸能界で頑張って…]
☆☆☆
≪ハアア…。
あの守銭道のババアめが…。
ハアア…≫
ミルルは、その時のことを…思い出して溜息を吐いた。
ビジネスキスが入るドラマシーンについては…今回だけじゃない。
ミルルのマネージャ、茶髪巻き髪ロングの上下白スーツの女性…根性レポ子さんからも…数回説得されかけてる。
けど、ミルルは逃げてる状況にある。
清純系で売ってるミルルですら、これだから…他の芸能関係の仲間はもっと酷いかもしれない…。
ミルルはそういうシーンが入るドラマはちょっと遠慮したい…。
だって、ミルルはまだ好きな人とキスをしたことすらないから…。
---キンコンカンコーン、キンコンカンコーン…キンコンカンコーン、キンコンカンコーン…---
チャイムが鳴り渡る…。
5時間目の授業が始まったみたい…。
[今日は…ミルル様…最強に機嫌悪かったな…]
[ミルル様のブログにはコメントを入れてるんだが・・。
何故か…不適切な発言として…削除されるんだが…]
[オマエ、気持ち悪いことを書きすぎなんじゃないのか?]
[いやあ…正直な気持ちを綴っただけで…]
☆☆☆
ミルルは慌てて、教室へ駈け出した。
それにしても…廊下の窓に映る…ミルルの顔が今日は凶暴…。
ミルルだって、ストレスが溜まりまくってる…。
何で、ミルルだけこんなことに耐えなきゃならないの?
きっと、ミルルのことなんて全く誰も理解してくれない。
お母さんだって高齢でだけど、弁護士になったんだからもっと働けばいいのに・・。
最近、何か…ミルルを充てにしてる…。
それを感じてムカムカする。
ミルルって考えてみれば…もう物心が付く前から、子役で売ってた。
その頃の方が今より売れてたかもしれない。
その時はミルルの母が必死でミルルへ台本を読んで、ミルルが暗記をした記憶もある…。
当時は、演技が年齢に合わず…子供の癖に出来ると言うだけで珍しく、ドラマの役がたくさん貰えた。
同級生の子には到底演技なんてダメそうだったから…キスシーンが入るドラマを斡旋される年齢になってからは…ずっと断ってる。
最近、ちょっとスランプかもしれない。
芸能人として進むことについて悩んでる…だって、ミルル、自分の意志じゃないから…お母さんの意志。
雑誌では看板モデルの話も上がって来てるけど…ちょっと反抗したい気分になって来てる・…。
最近、邪神国の夢ばかり見る。
『タリア』
染めた茶髪を背中に棚引かせて細い脚をバタバタ走らせ、ミルルが遅れて教室へ入って来たらしい。
5時限目の授業は平和国言語だ。
これは学年でミルルが一番だ、予習も果たしているんだろう。
先生から当てられたが、マナナが訳せないのはいつものことだ。
マナナの前の席にいるミルルが訳せるのも常日頃なことだ。
5時限目が終了して、休憩時間へ突入したところで小さな事件が起きた。
☆☆☆
「タリア…結局、当てられたけど分からなかったわ。
今日の宿題の答えを…」
マナナが肩揃えな黒髪が一瞬揺らしながら、俺の席へ接近する…。
「ダメなの?ねえ…?」
マナナが俺に密着する…水色セーラー服からもろに巨乳が当たってる。
少し他力本願過ぎる。
俺は溜息を吐いた。
『それでは宿題の意味がないだろう…』
そこへ…嬉しそうに近づいて来る茶髪碧眼長身の男は…もうすぐ留学しようかと悩んでいるらしい、キセキだ。
「僕が教えても良いかもしれない…。
僕はもうすぐ留学するかもしれない身だ。
ほんのしばらくは…君たちのために時間を費やしたい」
「キセキ…優しい」
「マナナも少し他力本願なのは同意するが・・。
タリア…まさか、怒ってるのか?
僕もココで一緒に勉強をしても良いだろうか?
僕たちは幼馴染3人組なのだから」
「良いわよ。
タリアもきっとそう思ってるわよ」
『…』
そこへまた客がやって来る。
キセキ関係で近付く女と言えば…ミルルしかない
≪キセキさん…。
お話があるの…≫
ミルルは眼鏡の奥から、キセキを見据えた。。
「ミルルか…。
まさか、怒ってるのか?
僕が君を幼馴染として、認めない件に関して…」
≪確かに怒ってるわ。
ミルルだってね、キセキさんとは幼稚園以来の仲なのよ…。
ミルルはキセキさんと二人っきりで幼馴染って認めてるわ。
もう、この席は離れなさいよ!
ミルルの席へ近付くべきだわ!≫
たまにはミルルにも正論が言えるらしい、喜ばしい話だ。
俺はじっとりとキセキを見詰めた。
「ミルル…だって、君は…。
僕とどうせ平和国までついて来る気なんだ…。
僕は…悲しいことにもしかしたら…マナナやタリアとは平和国へ飛べば…。
一生、離れる可能性だって…。
君はどうせ女優になるために…平和国まで、僕のところへ近づくんだろう?」
「ミルル…。
えっと…。
キセキは…私に未練があるとかじゃないみたいで…。
サヨナラがしたいみたいなの…」
『…』
≪そう!
ふん…。
ミルルは…。
はあ…。
キセキさんに頼みがあるの≫
ミルルは鼻を鳴らしてソッポを向き、それから大きく肩で溜息を吐いた。
ミルルの眼鏡が光った。
「何なんだ?」
≪キセキさん、私にキスをしてくれないかしら?≫
ミルルが威圧的な態度でジリジリキセキへ接近した。
キセキの茶色い眉が大きく上へ動いた。
「はあ?」
「どうしたの?
ミルル、突然じゃないの?
いつもだけど…」
マナナもビックリしたような表情だ、オカッパな黒髪が猫のように逆立った。。
『…』
≪もうすぐ…。
最近ね…キスシーンのあるドラマを斡旋されそうになるのよ。
マネージャーは…ミルルにビジネスキスだからって耐えろって言うけど…。
やっぱり最初はね?
ある程度は好きな人じゃなきゃ?
…。
キセキさん…出来るわよね?
ミルルが女優としてテレビに出ることをアンタたち応援してるんでしょ?
ほら?
頼むわよ…。
ビジネスキスだって思って…≫
ミルルが眼鏡を光らせ…高圧的な態度でどんどんキセキへ近付く。
キセキは茶色い瞳を左右に動かし…脚を後退させ、少しずつミルルとの距離を取ってる。
「ミルル…。
済まない・・。
僕には無理だ…。
僕も最初はある程度は好きな人じゃなきゃ…」
≪ビジネスキスだって言ってるでしょ!
キセキさん!
蹴りまくるわよ!
それでも良いの?
今回は股間を足蹴りするわよ!
ブチ切れが始まってるわよ!≫
ミルルは眼鏡の奥から睨み付けて、長い脚で……キセキを横蹴りした。
モロに攻撃を喰らったキセキは……茶色い瞳から一粒だけ落涙した。
キセキは横腹を抑えて…本格的に泣くのを耐えてる様子だ。
「怒らないで聞いてくれ…。
悪気はないんだ…。
僕は…」
『…』
キセキは今にもビビって、大泣きしそうだが…。
これは良い展開かも知れない。
キセキも…もう、レイカさんのことは諦めて、ミルルとくっ付けば良いと願う。
俺の力を入れる儀式ですら、ダメだったと言うことは…。
もう…可能性は限りなく0に近い筈だ。
第4部タリアC
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