《ミルル視点》
海底に沈む潜水艦の窓から映る景色は色彩豊か。
廊下に続く丸い窓から海底が映り…魚が群れをなして泳いでる姿が見える。
ミルルは一人、夢中で窓の外に流れる熱帯魚達を眺めてた。
黄色に黒縞模様な魚が泳いでる。
真っ青な魚や、紅色魚…。
平和国海底は複数の生命で溢れてるみたい。
ココは…まるで竜宮城。
少し夢見心地になる。
瞼が垂れて来る…。
ゼロさんはいったい…何の会議を船員仲間と交わしてるのかしら?
そこは…気になる。
首がカクっと下へ垂れて、慌てて覚醒した。
潜水艦内部廊下に続く丸窓から十分、色鮮やかな魚を鑑賞し終わった後…。
そこを離れる。
ミルルだけ先に集合寝室へ進み、カプセルベッドに潜り込んだ。
ミルルを除けたメンバーで行う会議は何なのかしら?。
寝ぼけ眼で思考を巡らせる…。
眠気のせいで、意識が飛びそう。
ベッドの下に旅行鞄を起き、その中へ度入りサングラスを収納する。
それから、カプセルベッドでうたた寝を始める。
少し待てば…ゼロさんも来そうだけど、それまで忍耐が保てない。
就寝し、自分の寝息が聞こえてくる音を子守唄に…精神離脱する。
どこか別の世界へ彷徨う心地。
夢へ飛んで行く。
腰まで伸びた茶髪が…シーツの上でもつれる…。
早寝早起きはモットー。
潜水艦の中は揺れてるし、不思議な感覚。
そのまま、朝を迎えた。
早朝、瞼を開くと…。
ミルルが起きれば、既にゼロさんが隣で寝てた。
狭いカプセルベッドだけど…船員達も全員…大人しい。
周囲からイビキが聞こえる。
何時ぐらいまで会議をしてたのかしら?
起こしては駄目だし、ミルルは暫く…ベッドで微睡んだ。
ゼロさんは隙間時間に寝る体質だとは聞いたことあるから。
起こさないように配慮して…寝床を飛び出した。
それから、床に置いてある自分の旅行鞄から昨晩、収納した透明眼鏡を取り出した。
これで、視界が良く見渡せる。
度入りサングラスより、透明眼鏡の方が視界が遥かに明るい。
それから…渡り廊下へ進み、丸窓から魚の群れを眺めた。
いつの間にか…熱帯魚ではない。
イワシの群れに変わってる。
と言う事は…もう、ターシャ海の近辺へ近付いてるはず。
カラフルな生物がいないのが証拠…。
平和国とターシャ国の境目には寒暖差があり、海流があると聞く。
潜水艦は振動してる。
ココ、朝食が出ないみたい…。
昨晩はシッカリ食べて来て、正解だった。
船員達は疲れ果てたのか…死んだように熟睡してる。
ミルルは暇だから、丸窓が連なる渡り廊下へ座り…ポケットに入ったスマホを弄った。
電池残量が僅かになってる。
潜水艦内は節電がルールみたいで…。
壁に貼られたポスターには、 ――”小型電話、スマホ等…機械類充電は電力保持のため、極力禁止”――と表記されてる。
ターシャ国の自宅へ着いたら…。
スマホの充電がしたいかもしれない。
充電器は……持参した旅行鞄に入ってる。
着替えも同じく収納されてる。
現在、ミルルは……ゼロさんと平和国カジノ酒屋で再会した時と同じ洋服。
キセキさんに高級ブティックで見立てて貰った純白なパーティドレスと……。
その上に肩から黒いカーディガンを羽織ってる。
団子に束ねてた伸びた茶髪は、ゴムをほどき……背中へ流した。
明日も外出するなら……軽変装して歩かなければならない。
有名人故に外出時には気を払ってる。
ファンに見付かれば……サインを求められたり、変な噂を流される。
特にゼロさんと歩いていれば、絶対……ゴシップのネタになる。
朝は飛び越え…正午頃、潜水艦は目的地のターシャ国に着いたみたい。
その途端、船中からベルが鳴り渡り…船員達も慌てて、飛び起きる。
それにしても・・昨晩は何の会議をしてたのかしら?
《ゼロさん…おはよう…。
えっと、昨晩…会議は何時まで…》
【チ…。
ウゼエ。
どうでも良いダロ?】
この調子で…ゼロさんは都合が悪いと、はぐらかす。
[ミルル様、それは黙秘でっせ。
ワテらの会議も白熱でっせ。
もうワテら今日の任務も大変でっせ。
えっと、ミルル様はこの潜水艦へ帰りも…乗らはるんかいな?。
んじゃ、予定では夜の9時だがな…。
んでも…何が起こるか不明なんで、夕方5時には現地集合でっせ]
《ありがとう・…その前にお手洗いに行かせてもらうわ》
[そうでっか。
じゃ、ワテらは先に行ってまっせ]
ミルルは会釈して、礼を述べた。
船員達も全員…慌てて、潜水艦の玄関から外へゾロゾロと飛び出していく。
《ゼロさん、ちょっとだけ待っててね。
着替えて来るから》
【チ。
早めに終ワレ】
ゼロさんに叱られながら、潜水艦の廊下中央にあるお手洗いへ入った。
着替える場所がなかったから。
ついでに、身だしなみも整えた。
手洗い場から出て、廊下へ進めば……ゼロさんが少し怒ったような表情。
ゼロさんはスケジュール通りな人間。
《待ったかしら?》
【チ……】
ゼロさんは振り返らずに潜水艦の玄関へ進んだ。
ミルルもそれに続いた。
ミルルは現在、柿色ワンピを着てる。
あと…透明眼鏡は止めて、軽変装のために度入りサングラスを装着してる。
長い茶髪は……下の方で縛ってポニーテールにした。
私生活を満喫してる最中にファンから街角で絡まれるのが、一番困る。
――(9月だからターシャ国はこれぐらいかしら?)――
と思った。
潜水艦から下りると…外は海が視界へ広がる洞窟。
割りとひんやりとして涼しい…。
《ここはどこなの?
えっと…》
【港街…パチンコ店の地下通路先にある人口洞窟ダ】
[そういうことでっせ。
ミルル様、邪神号の件に関しても黙秘を。
その他、諸々についても…御理解くだせえ]
黒装束衣装な浅黒い肌の中年船員は…ミルルをアアは言いつつ待ってくれてたみたい。
ミルルへ眼光を険しく睨み付けた。
それから更に鋭い眼光で、ゼロさんを見据えた。
――”もし、話そうものなら…処刑ノルマリストに入れる”――と言う意味かしら?
昨晩、そんな話をチラリと耳にしたから…。
《分かってるわ。
お仕事、応援してるわよ》
【チ…】
[くれぐれも、夜9時頃予定だがな…。
ワテらの任務が終了次第、去る話だし…。
早まる可能性もありまっせ。
夕方5時にはココへ集合でっせ。
ほいなら、あとで〜]
それから…船員達は慌ただしく立ち去った。
ミルルとゼロさんが岩洞窟に取り残された。
眼前に海水が波打ち、揺れてる。
《行ってしまったわね…。
えっと、暗にミルルは・…まさか…脅されてるのかしら?
口が弱いと信用されてないのかしら?
ミルル、結構口は堅いわよ?
これでも女優時代もゼロさんのことを含めて黙秘を貫いてきたわけだし。
クラスメイト全員が・・ゼロさんの件を聞くから大変だったわよ?
この三年間…》
【チ…】
《今日は…どうしても、ミルルはゼロさんへ渡したいサプライズがあるのよ?
ターシャ国へ到着して嬉しいわ?
えっと…。
ゼロさんは?》
【ウゼ】
《あの…。
サプライズが何か聞かないの?
ねえ》
【・・。
ハア。
エロであることを期待シヨウカ?】
《やあね!
そんな無粋な物じゃないわよ。
もっと素敵な物よ。
期待してちょうだい》
【ハア…】
《サプライズがしたいの、これこそあげたかった物なの》
黒装束衣装なゼロさんが肩で息をした。
それからミルルに率先して、洞窟を進んむ。
少し歩けば、洞窟の出口には階段がある。
それを登る。
ミルルもゼロさんの背後からついて行く。
柿色ワンピに度入りサングラスを装着して……突き進む。
今や、ミルルも有名女優……世界へ名前を轟かせてる。
身分を隠して忍び歩く、
その先は長いトンネルだった。
風がどこからか流れてるみたい…。
…下の方で結んだ茶髪のポニーテールが揺れた。
《ここを抜けるのね?
行きと同じ仕組みなのね?》
【チ】
ゼロさんは血相を変えて、足が速い。
短気な処があるのは知ってる。
ミルルも急ぎ足で負けないように歩き出す。
そこからトンネルの奥へ進めば、地下階段があった。
地下階段を降りれば…エレベーターが目前にある。
《また何か…あるけど…。
ゼロさん…えっと、このエレベーターに乗るのかしら?》
【ソウダ】
ゼロさんがエレベーターへ入り、❶と表記されたボタンを押す…。
ついでにエレベーター内部に設置されてるモニターへ、指でパスワードを入力してる。
《このパスワード…失敗するとどうなるの?
ゼロさん…?》
【電気鰻並みの電流が放出され…エレベーターの床が開くダケダ。
鮫がイル海へ落下スル…】
《え…。
嘘でしょ》
【一回目の失敗デ…微弱電流。
2回目の失敗で…更に強い電流…。
3回目の失敗で…人間が最悪死ぬレベルな電流+床が開く。
船員にも多忙でミスはアル。
3回まで許サレテル・・】
《そうなの…。
入力は3回までなのね…》
【パスワードは20桁ダ。
月一更新で念入りダ。
これだけは邪神号に乗る船員の記憶義務ダ】
《20桁…》
ミルルは絶句した。
毎回、凄い仕組みだと感動する。
月一更新ってことは…ゼロさんが邪神国から手を切った今。
来月は使用できないって意味らしい・・。
エレベーターが上昇する…。
扉が開けば、そこは…パチンコ店の1階フロントだった。
エレベーターの前には”関係者以外立入禁止”と表示された看板が立っている。
《ここが港街パチンコ店なのね…。
ターシャ国際空港付近の港町は物騒な遊楽街で、学生は遊んじゃダメだって学則でもあるけど…》
【チッ…黙レ。
ココでは静かにシロ…。
ッたく。
さっき、説明した筈ダ…】
一応、パチンコ店の客に・…”関係者以外立入禁止エレベーター”の先について触れなかったけど。
その件に関して、ゼロさんは警戒してるみたい。
でも、確かに…”関係者以外立入禁止エレベーター”からゼロさんの様な邪神人が出没したら・・。
不審に思う客も存在するかもしれない。
ミルルは声を潜めるべきなのかも。
ここの規模は平和国、カジノ店より広くはない。
周囲には、パチンコ台と睨めっこしてるお客様ばかり。
タバコの匂いが立ち込める。
空気が煙で灰色に曇ってる。
赤い水着と網タイツ姿なバニーガールはいない。
毎回、新鮮で感動してしまう。
ゼロさんは静かに…パチンコ店の自動ドアを通過し、外へ出た。
ターシャ国にヤシの木はない。
車で混雑して、空気が秋らしく…涼しくなってる。
母国は懐かしい景色。
平和国は年中、床夏だから不思議な感覚。
【デ…。
この国で何をする気ナンダ?】
《それは役所へ着いてからのお楽しみよ。
印鑑は持ってるかしら?》
【アア】
ミルルはゼロさんを先導して歩き始めた。
したいことは簡素。
役所へ付き、婚姻届の用紙を頂き…事務員に分からない要項は尋ねながら、手続きを進める。
終了するのは結構、呆気なかった。
役所から出て、ミルルは伸びをした。
まだ何かを終えた実感が湧かない。
【マサカ…コレなのカ?】
《これで、ターシャ国籍が手に入ったでしょう?
必要なステップでしょ?》
【ア…ソ】
反応は薄かった。
《まだ実感が湧かないけど…どうしても行きたい場所が他にもあるのよ?
ついてきてくれるかしら?》
【チ】
《ミルル、キセキさん以外にマナナも月神さんも幼稚園5歳以来の幼馴染みだけど…。
実はキセキさんしか住所知らないの。
マナナとも最近になって、サインをしてあげられる程度の仲になったくらいだから。
マナナはミルルの家を知ってるらしいけど。
キセキさんだけミルルの初恋の人だったから根性で突き止めたけど。
今では、人に貸してるらしいのよ。
だから、今日はこの件を…ミルルのお母さんにだけ紹介しましょう…》
【マタカ?】
《大丈夫よ。
キセキさんは予想外に強く反対したけど。
やっぱり彼氏ぐらい紹介したいわ…ミルル的には。
あ、もう・・。
彼氏じゃないのね。
婚姻届終わったから。
不思議な感覚だわ。
夫婦って、紙切れ一枚なのね》
【チ…。
オレは別にテメエの親なんぞに会いたくもネエ。
言われる事、分かってんだろガ?
ぼけカ…。
オメエ、一人で行って来イ。
オレにプレッシャーを与えんナ】
《やあね!
ゼロさんったら、照れちゃって。
とにかく、一緒に行きましょう》
【ウゼ】
ゼロさんは意外におとなしく従ってくれる。
もっと嬉しそうに反応してくれるかと期待したけど、それはゼロさんのスキルでは難しいみたい。
きっと喜んではいてくれてる筈、信じてる。
ゼロさんが、ここで涙を流して熱い抱擁を交わすような性格をしてないことぐらい理解してる。
反応は薄い。
でも多分……点数が稼げたんじゃないかしら?
ミルルはツカツカと自宅への道を歩んだ。
二階建て普通の家屋――――少しボロい。
お母さんも女手一つでミルルを育ててはくれた。
報告はしたい。
《ここよ。
ミルルの自宅は》
【ソッカ…。
早く終ワレ】
《取りあえず、今日は紹介だけするから・・。
ゼロさんは隣で黙って見てて》
【了解ダ。
用件まとめろヨ。
ハアアアア】
ミルルは実家の呼び鈴を鳴らした。
ーーー♪ピンポーン♪―――
インターフォン越しに音声が流れる。
[はい。
眼鏡ですが…。
どちら様でしょうか?]
番外の外3
目次
番外の外D
廊下に続く丸い窓から海底が映り…魚が群れをなして泳いでる姿が見える。
ミルルは一人、夢中で窓の外に流れる熱帯魚達を眺めてた。
黄色に黒縞模様な魚が泳いでる。
真っ青な魚や、紅色魚…。
平和国海底は複数の生命で溢れてるみたい。
ココは…まるで竜宮城。
少し夢見心地になる。
瞼が垂れて来る…。
ゼロさんはいったい…何の会議を船員仲間と交わしてるのかしら?
そこは…気になる。
首がカクっと下へ垂れて、慌てて覚醒した。
潜水艦内部廊下に続く丸窓から十分、色鮮やかな魚を鑑賞し終わった後…。
そこを離れる。
ミルルだけ先に集合寝室へ進み、カプセルベッドに潜り込んだ。
ミルルを除けたメンバーで行う会議は何なのかしら?。
寝ぼけ眼で思考を巡らせる…。
眠気のせいで、意識が飛びそう。
ベッドの下に旅行鞄を起き、その中へ度入りサングラスを収納する。
それから、カプセルベッドでうたた寝を始める。
少し待てば…ゼロさんも来そうだけど、それまで忍耐が保てない。
就寝し、自分の寝息が聞こえてくる音を子守唄に…精神離脱する。
どこか別の世界へ彷徨う心地。
夢へ飛んで行く。
腰まで伸びた茶髪が…シーツの上でもつれる…。
早寝早起きはモットー。
潜水艦の中は揺れてるし、不思議な感覚。
そのまま、朝を迎えた。
▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙
早朝、瞼を開くと…。
ミルルが起きれば、既にゼロさんが隣で寝てた。
狭いカプセルベッドだけど…船員達も全員…大人しい。
周囲からイビキが聞こえる。
何時ぐらいまで会議をしてたのかしら?
起こしては駄目だし、ミルルは暫く…ベッドで微睡んだ。
ゼロさんは隙間時間に寝る体質だとは聞いたことあるから。
起こさないように配慮して…寝床を飛び出した。
それから、床に置いてある自分の旅行鞄から昨晩、収納した透明眼鏡を取り出した。
これで、視界が良く見渡せる。
度入りサングラスより、透明眼鏡の方が視界が遥かに明るい。
それから…渡り廊下へ進み、丸窓から魚の群れを眺めた。
いつの間にか…熱帯魚ではない。
イワシの群れに変わってる。
と言う事は…もう、ターシャ海の近辺へ近付いてるはず。
カラフルな生物がいないのが証拠…。
平和国とターシャ国の境目には寒暖差があり、海流があると聞く。
潜水艦は振動してる。
ココ、朝食が出ないみたい…。
昨晩はシッカリ食べて来て、正解だった。
船員達は疲れ果てたのか…死んだように熟睡してる。
ミルルは暇だから、丸窓が連なる渡り廊下へ座り…ポケットに入ったスマホを弄った。
電池残量が僅かになってる。
潜水艦内は節電がルールみたいで…。
壁に貼られたポスターには、 ――”小型電話、スマホ等…機械類充電は電力保持のため、極力禁止”――と表記されてる。
ターシャ国の自宅へ着いたら…。
スマホの充電がしたいかもしれない。
充電器は……持参した旅行鞄に入ってる。
着替えも同じく収納されてる。
現在、ミルルは……ゼロさんと平和国カジノ酒屋で再会した時と同じ洋服。
キセキさんに高級ブティックで見立てて貰った純白なパーティドレスと……。
その上に肩から黒いカーディガンを羽織ってる。
団子に束ねてた伸びた茶髪は、ゴムをほどき……背中へ流した。
明日も外出するなら……軽変装して歩かなければならない。
有名人故に外出時には気を払ってる。
ファンに見付かれば……サインを求められたり、変な噂を流される。
特にゼロさんと歩いていれば、絶対……ゴシップのネタになる。
▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙
朝は飛び越え…正午頃、潜水艦は目的地のターシャ国に着いたみたい。
その途端、船中からベルが鳴り渡り…船員達も慌てて、飛び起きる。
それにしても・・昨晩は何の会議をしてたのかしら?
《ゼロさん…おはよう…。
えっと、昨晩…会議は何時まで…》
【チ…。
ウゼエ。
どうでも良いダロ?】
この調子で…ゼロさんは都合が悪いと、はぐらかす。
[ミルル様、それは黙秘でっせ。
ワテらの会議も白熱でっせ。
もうワテら今日の任務も大変でっせ。
えっと、ミルル様はこの潜水艦へ帰りも…乗らはるんかいな?。
んじゃ、予定では夜の9時だがな…。
んでも…何が起こるか不明なんで、夕方5時には現地集合でっせ]
《ありがとう・…その前にお手洗いに行かせてもらうわ》
[そうでっか。
じゃ、ワテらは先に行ってまっせ]
ミルルは会釈して、礼を述べた。
船員達も全員…慌てて、潜水艦の玄関から外へゾロゾロと飛び出していく。
《ゼロさん、ちょっとだけ待っててね。
着替えて来るから》
【チ。
早めに終ワレ】
ゼロさんに叱られながら、潜水艦の廊下中央にあるお手洗いへ入った。
着替える場所がなかったから。
ついでに、身だしなみも整えた。
手洗い場から出て、廊下へ進めば……ゼロさんが少し怒ったような表情。
ゼロさんはスケジュール通りな人間。
《待ったかしら?》
【チ……】
ゼロさんは振り返らずに潜水艦の玄関へ進んだ。
ミルルもそれに続いた。
ミルルは現在、柿色ワンピを着てる。
あと…透明眼鏡は止めて、軽変装のために度入りサングラスを装着してる。
長い茶髪は……下の方で縛ってポニーテールにした。
私生活を満喫してる最中にファンから街角で絡まれるのが、一番困る。
――(9月だからターシャ国はこれぐらいかしら?)――
と思った。
潜水艦から下りると…外は海が視界へ広がる洞窟。
割りとひんやりとして涼しい…。
《ここはどこなの?
えっと…》
【港街…パチンコ店の地下通路先にある人口洞窟ダ】
[そういうことでっせ。
ミルル様、邪神号の件に関しても黙秘を。
その他、諸々についても…御理解くだせえ]
黒装束衣装な浅黒い肌の中年船員は…ミルルをアアは言いつつ待ってくれてたみたい。
ミルルへ眼光を険しく睨み付けた。
それから更に鋭い眼光で、ゼロさんを見据えた。
――”もし、話そうものなら…処刑ノルマリストに入れる”――と言う意味かしら?
昨晩、そんな話をチラリと耳にしたから…。
《分かってるわ。
お仕事、応援してるわよ》
【チ…】
[くれぐれも、夜9時頃予定だがな…。
ワテらの任務が終了次第、去る話だし…。
早まる可能性もありまっせ。
夕方5時にはココへ集合でっせ。
ほいなら、あとで〜]
それから…船員達は慌ただしく立ち去った。
ミルルとゼロさんが岩洞窟に取り残された。
眼前に海水が波打ち、揺れてる。
《行ってしまったわね…。
えっと、暗にミルルは・…まさか…脅されてるのかしら?
口が弱いと信用されてないのかしら?
ミルル、結構口は堅いわよ?
これでも女優時代もゼロさんのことを含めて黙秘を貫いてきたわけだし。
クラスメイト全員が・・ゼロさんの件を聞くから大変だったわよ?
この三年間…》
【チ…】
《今日は…どうしても、ミルルはゼロさんへ渡したいサプライズがあるのよ?
ターシャ国へ到着して嬉しいわ?
えっと…。
ゼロさんは?》
【ウゼ】
《あの…。
サプライズが何か聞かないの?
ねえ》
【・・。
ハア。
エロであることを期待シヨウカ?】
《やあね!
そんな無粋な物じゃないわよ。
もっと素敵な物よ。
期待してちょうだい》
【ハア…】
《サプライズがしたいの、これこそあげたかった物なの》
黒装束衣装なゼロさんが肩で息をした。
それからミルルに率先して、洞窟を進んむ。
少し歩けば、洞窟の出口には階段がある。
それを登る。
ミルルもゼロさんの背後からついて行く。
柿色ワンピに度入りサングラスを装着して……突き進む。
今や、ミルルも有名女優……世界へ名前を轟かせてる。
身分を隠して忍び歩く、
その先は長いトンネルだった。
風がどこからか流れてるみたい…。
…下の方で結んだ茶髪のポニーテールが揺れた。
《ここを抜けるのね?
行きと同じ仕組みなのね?》
【チ】
ゼロさんは血相を変えて、足が速い。
短気な処があるのは知ってる。
ミルルも急ぎ足で負けないように歩き出す。
そこからトンネルの奥へ進めば、地下階段があった。
地下階段を降りれば…エレベーターが目前にある。
《また何か…あるけど…。
ゼロさん…えっと、このエレベーターに乗るのかしら?》
【ソウダ】
ゼロさんがエレベーターへ入り、❶と表記されたボタンを押す…。
ついでにエレベーター内部に設置されてるモニターへ、指でパスワードを入力してる。
《このパスワード…失敗するとどうなるの?
ゼロさん…?》
【電気鰻並みの電流が放出され…エレベーターの床が開くダケダ。
鮫がイル海へ落下スル…】
《え…。
嘘でしょ》
【一回目の失敗デ…微弱電流。
2回目の失敗で…更に強い電流…。
3回目の失敗で…人間が最悪死ぬレベルな電流+床が開く。
船員にも多忙でミスはアル。
3回まで許サレテル・・】
《そうなの…。
入力は3回までなのね…》
【パスワードは20桁ダ。
月一更新で念入りダ。
これだけは邪神号に乗る船員の記憶義務ダ】
《20桁…》
ミルルは絶句した。
毎回、凄い仕組みだと感動する。
月一更新ってことは…ゼロさんが邪神国から手を切った今。
来月は使用できないって意味らしい・・。
エレベーターが上昇する…。
扉が開けば、そこは…パチンコ店の1階フロントだった。
エレベーターの前には”関係者以外立入禁止”と表示された看板が立っている。
《ここが港街パチンコ店なのね…。
ターシャ国際空港付近の港町は物騒な遊楽街で、学生は遊んじゃダメだって学則でもあるけど…》
【チッ…黙レ。
ココでは静かにシロ…。
ッたく。
さっき、説明した筈ダ…】
一応、パチンコ店の客に・…”関係者以外立入禁止エレベーター”の先について触れなかったけど。
その件に関して、ゼロさんは警戒してるみたい。
でも、確かに…”関係者以外立入禁止エレベーター”からゼロさんの様な邪神人が出没したら・・。
不審に思う客も存在するかもしれない。
ミルルは声を潜めるべきなのかも。
ここの規模は平和国、カジノ店より広くはない。
周囲には、パチンコ台と睨めっこしてるお客様ばかり。
タバコの匂いが立ち込める。
空気が煙で灰色に曇ってる。
赤い水着と網タイツ姿なバニーガールはいない。
毎回、新鮮で感動してしまう。
ゼロさんは静かに…パチンコ店の自動ドアを通過し、外へ出た。
ターシャ国にヤシの木はない。
車で混雑して、空気が秋らしく…涼しくなってる。
母国は懐かしい景色。
平和国は年中、床夏だから不思議な感覚。
▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙
【デ…。
この国で何をする気ナンダ?】
《それは役所へ着いてからのお楽しみよ。
印鑑は持ってるかしら?》
【アア】
ミルルはゼロさんを先導して歩き始めた。
したいことは簡素。
役所へ付き、婚姻届の用紙を頂き…事務員に分からない要項は尋ねながら、手続きを進める。
終了するのは結構、呆気なかった。
▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙
役所から出て、ミルルは伸びをした。
まだ何かを終えた実感が湧かない。
【マサカ…コレなのカ?】
《これで、ターシャ国籍が手に入ったでしょう?
必要なステップでしょ?》
【ア…ソ】
反応は薄かった。
《まだ実感が湧かないけど…どうしても行きたい場所が他にもあるのよ?
ついてきてくれるかしら?》
【チ】
《ミルル、キセキさん以外にマナナも月神さんも幼稚園5歳以来の幼馴染みだけど…。
実はキセキさんしか住所知らないの。
マナナとも最近になって、サインをしてあげられる程度の仲になったくらいだから。
マナナはミルルの家を知ってるらしいけど。
キセキさんだけミルルの初恋の人だったから根性で突き止めたけど。
今では、人に貸してるらしいのよ。
だから、今日はこの件を…ミルルのお母さんにだけ紹介しましょう…》
【マタカ?】
《大丈夫よ。
キセキさんは予想外に強く反対したけど。
やっぱり彼氏ぐらい紹介したいわ…ミルル的には。
あ、もう・・。
彼氏じゃないのね。
婚姻届終わったから。
不思議な感覚だわ。
夫婦って、紙切れ一枚なのね》
【チ…。
オレは別にテメエの親なんぞに会いたくもネエ。
言われる事、分かってんだろガ?
ぼけカ…。
オメエ、一人で行って来イ。
オレにプレッシャーを与えんナ】
《やあね!
ゼロさんったら、照れちゃって。
とにかく、一緒に行きましょう》
【ウゼ】
ゼロさんは意外におとなしく従ってくれる。
もっと嬉しそうに反応してくれるかと期待したけど、それはゼロさんのスキルでは難しいみたい。
きっと喜んではいてくれてる筈、信じてる。
ゼロさんが、ここで涙を流して熱い抱擁を交わすような性格をしてないことぐらい理解してる。
反応は薄い。
でも多分……点数が稼げたんじゃないかしら?
ミルルはツカツカと自宅への道を歩んだ。
二階建て普通の家屋――――少しボロい。
お母さんも女手一つでミルルを育ててはくれた。
報告はしたい。
《ここよ。
ミルルの自宅は》
【ソッカ…。
早く終ワレ】
《取りあえず、今日は紹介だけするから・・。
ゼロさんは隣で黙って見てて》
【了解ダ。
用件まとめろヨ。
ハアアアア】
ミルルは実家の呼び鈴を鳴らした。
ーーー♪ピンポーン♪―――
インターフォン越しに音声が流れる。
[はい。
眼鏡ですが…。
どちら様でしょうか?]
番外の外3
目次
番外の外D