ター
シャ泉の巫女D
翌朝、教室で見た光景は――いつも通りだ。
今日は火曜日だ。昨晩、マナナから土下座されて、一問だけ数学の問題を解いてはやったが……。クラスを見渡せ ば。
「キセキ、昨日の数学の宿題。写させて」
「またか? マナナ…。仕方ないな……」
茶髪茶目長身色男―――キセキの席でこんな会話してるのが、聞こえてきた。イチャイチャムードが流れてる。
「えっと……。一問は解けたけど……他が全然分からなくて……」
「一問、解けたのか。偉いな、マナナ」
ドン引きだ。このために昨日、俺に質問したのか? と言うノリだ。昨日、俺が泉の巫女姿へ変貌してる時に解いた問題を利用して……どうも、マナナはキセ キに点数
「だって。キセキ、いつも学校が終わるとすぐ帰宅するでしょ? 塾に忙しいみたいだし……。今しかないからノート写させてよ」
「仕方ないな。数学の時間までに返せよ」
「ありがとう。キセキって優しいね。大好き。
毎日がこのノリだ。俺も見飽きてる。自分の席へ鎮座して、漢字暗記勉強に集中する。
次の時間は、漢字の小テストがある筈だ。全員、着席してる。
向こ う岸で女子がヒソヒソ噂話をしてる。
≪マナナって。生意気よね? 幼馴染だからってキセキさんにばかり宿題写させて貰って。ミルル、ムカつく。だいたいね? ミルルだってキセキさんと幼稚園 時代から親交があるのよ? どうして、マナナだけ特別扱いなわけよ?≫
眼鏡ミルルは、長身スレンダーモデル体型。茶髪ロングな眼鏡をかけた知的女子だ。キセキを崇拝する三人トリオ、主犯格だ。しかし……オカッパ黒髪低身長 巨乳系女子――マナナもキセキ派だ、もう4人トリオにしても良い気がするが。キセキがマナナだけを特別扱いしてる。
他の女子……ミルルとナデシコ、カンサイは……そのせいで3人トリオを結成して、マナナと毎朝……対抗してる。お蔭で耳がうるさくて仕方ない。ミルルと マナナとは合わないらしい。よく二人は喧嘩をしてる。
眼鏡ミルルと俺、異能マナナと灯台キセキ。
4人は一体、どういう因果か……一応、幼稚園時代から何故か同じ高校に入ってしまった関係だ。その割に、 俺は二人の女子と、仲良しではない。
まず、マナナはモテ男キセキが好きでアタックしてる女子だし……。ミルルも同じでキセキを最初は
しかし、マナナには嫌われてるらしいが。眼鏡系女子ミルルにはマナナほど、嫌われてはない空気が漂ってる。俺がミルルを好きって言う噂は、もうクラスに 流れてしまってる。男子達から……カラかわれるのも、もう慣れっこだ。
||本当よね? ミルル。腹立つわ、あたしのキセキ君なのに||
特徴は薄いが…。クラスにいる大和撫子的存在の女子だ。身長、胸も平均的で……ストレートな黒髪が背中まである。キセキを前にした時だけ多弁になる。幼 稚園、小学校は別だが……ナデシコとは中学から面識があるようになった。名前は…大和ナデシコって名だ。
怒らせると怖い。普段はおとなしい。
Uナデシコも同じ気持ち? ムカついてたまらないわ。あの子、何様のつもりなん? ウチのキセキくんに……U
高校から編入で…関西から転校してきた女子だ。見た目は黒髪ツインテールだ。背が低くて幼児体型かもしれない。
難波
||ちょっと、キセキ君。あたしたちにも宿題、写させてよ||
そこから突然、
≪昨日の問題がミルルには解けなくて。マナナばかり
「え? 君たちは…成績そこまで悪くなかった筈だけど。難しかったか? 特にミルル、君は…タリアに聞けばいい…」
Uえっと…ウチ、数問だけ……分からへんから……教えてくれや。てへ♪U
||あ、あの……あたしの成績が上がったら……付き合ってくれないかしら? キセキ君……||
≪ミルルは成績もう上位だから。キセキさんと付き合っても良いわよね?≫
「ダメよ、私が先にキセキに約束してるんだから。大昔から」
ミルルは眼鏡をギラギラに光らせ、腰まで伸びた茶髪をしならせ……茶髪茶眼長身男、キセキへ密着し。負けずにマナナが接近する。
マナナは……オカッパ黒髪を猫のように逆立てて、水色セーラー服から突き出てる巨乳をキセキへブチ当ててる。
ミルルとマナナの視線が閃光を放って合致してる。
女子ども4人――ミルル、マナナ、ナデシコ、カンサイから、キセキを巡るバトルが開始される。それは、キセキが座る席の前で始まってる。見苦しい。
マナナは確かに、そんな約束をしてたのは知ってるが。結局、昔からずっと成長などない。
「マナナとした約束は。
僕の成績をマナナが一回でも越えたらという約束だ。
つまり、君たちなら学年一番を一年間キープするぐらい難しい約束だ」
そうだ、昔……俺の前でマナナとキセキがした約束はそれだ。結局、10年間……一度もどのテストでもマナナはキセキを越えることなどない。少し、キセキ もマナナには難しすぎる試練を与えすぎだとは思う。
キセキはマナナに脈がないのかもしれない。どうなのだろうか? そこら辺は分からない。
||えっと? それは……その……どういうことなのかしら?||
≪ミルル、やるわ。やりとげるわ。楽勝よ。成績なら常にトップだから≫
Uキセキくんを手に入れるためならウチ、猛烈に頑張るで〜。よっしゃ♪U
ミルルを含む女子たちはやる気になってるらしい…。
「ダメよ。私が越えるんだから。ねえ? キセキ。私のために次の小テスト、一回でも良いから手抜きしてよ」
「それでは意味がないだろう」
「ええ……」
マナナの黒目はビックリ
「ねえ? キセキを越えるのはさすがに難しすぎると思うの。私のこと、キライじゃないって前、言ったよね? 私の成績があと10番上がったら……ダメか な?」
さすがにそれは甘すぎだろう。
「そうだな。マナナとは10年も約束してるし、ここら辺で少しだけハードル低くしても良いか」
「え? 良いの? やった♪」
≪なんなのよ? それは? マナナだけなの? ミルルはどうする気よ?≫
||酷いわ……あたしを振るなんて……あんまりだわ||
Uウチらは? どう言うことや? これは?U
「僕はクラスメイトの女子、平等に愛してる。しかし……この中では一番、マナナとの約束が長く、付き合いも長い」
「え? じゃあ」
「しかも……あのマナナが今日は数学の問題を一問、自力で解いた。僕と付き合いたいから、マナナは必死に勉強してる。ココはいじらしい。そういうことだ。 好評価かもしれない。よくやった、マナナ。僕は嬉しい、褒めてやる」
「キセキ。ありがとう。優しい、大好き」
どういう理屈だ、それは。キセキ、おまえ…マナナに甘すぎだろ…。毎朝、宿題までマナナにノート丸写しにさせて…。
||あたし……納得いかないわ……絶対に||
Uそりゃ、ウチは……キセキくんと知り合って1年もないけどな? 転校生やし……でもや……U
≪ミルルはキセキさんのことこんなに好きなのに……うぅ≫
ミルル含む女子3人トリオ……ミルル、ナデシコ、カンサイから非難轟轟だ。他にも口にしないだけで、じっとり何名かの女子が……キセキを狙ってる。
もうウルサイ。勉強が頭に入らない。というか……そんなにマナナが好きならもう付き合ってやれよ、キセキ。茶番劇見るよりはマシだ。
「それじゃ、僕はタリアの席に行く」
「え? またタリアの席? どうしてよ? ええ?」
「ここにノートは置いておく。勝手に写せ」
「ええ? タリアのところに行かないで。私、タリアは苦手なの。いっつも怒ってる」
「まあ、僕も男友達も必要だ」
「嫌よ、キセキ。ねえ。私と付き合ってよ。そしたら……」
「僕は君が好きか謎だ。確かに昔から幼馴染だが。それでも良いのか? 僕はクラスメイトの女子全員好きらしい。誰がとは決めにくい」
「それでも良い。まず付き合ってから考えよう……」
何だか……。凄い話になってる。モテ男は思考回路が変だ。性に荒れてる。まあ、マナナ以外のクラスメイトの女子全員好きだと言うのは共感できる。俺も悪 いが同じだ。しかし、ハッキリそれを言っても良いのか?
「そうだな……。まあ。別に良いかもしれない。女なら誰でも、僕は……」
「ええ? じゃあ?」
||ちょっと、ダメに決まってるでしょ?||
U何言ってるん? キセキくん…ウチは?U
≪キセキさん? ミルルのことは?≫
「…」
「お願い、キセキ。私と付き合って……」
マナナが水色セーラー服から突き出た巨乳を……キセキの学ラン胸元へ密着させ……正面からベッタリくっ付いて。頼み込んでる。キセキが自分の茶髪をボリ ボリとかきむしる、少し照れてる様子だ。―――いろいろ凄すぎる図だ。
ひたすら、教室で地上のハーレムを形成してる……。他の男子達も暗に嫌そうな表情を浮かべてる。
「まあ、退いてくれ。マナナ」
キセキはマナナを引きはがし…俺の席へ接近する。アレは女子軍団から逃げたと言う意味なのか? 俺の席、目前に3人女子トリオやマナナまで来る。
「タリア、頼む。今、僕は絡まれてる。助けて欲しい……。それから、ミルルは君が落とせ。好きなんだろ?」
『……』
キセキの茶色い瞳が困ったように濡れてる。おまえ、情けなさすぎだろ。俺は返事すらしない。
「キセキ、タリアの席は私、イヤよ。目が腐るから」
『帰れよ』
オカッパ黒髪低身長巨乳女子―――マナナがこれば俺は冷たい。長年、そのノリだ。これを利用してキセキは
「ねえ、キセキ。お願い、私じゃダメなの? とにかく、何でもいいから適当に……付き合ってから」
「誰か決められないのに、マナナは本当に良いのか? 僕はクラスメイト女子全員好きだ。ほら、タリア。ミルルと会話しろ」
『……』
俺は絶句もする。
ハッキリ言ってる。
そうだろう、俺も悪いが…マナナ以外の女子全員好きだ。
女好きだ、俺は。
「そっか。でも、やっぱりクラスの男子では私、一番……キセキが好きかも」
≪ミルルもよ。当たり前でしょう?≫
腰まで伸びた茶髪を背中で揺らし、ミルルは上から目線で眼鏡を光らせる。
対して、マナナは肩揃えな黒髪を揺らし……上を向いて、水色セーラー服の胸を突 出する。
ミルルとマナナは、険悪ムードで睨めっこをしてる――視線がバチバチだ。
Uキセキくん、この席から離れへん? 何か睨まれたわ。ウチ……U
||この席、怖いから。えっと……キセキ君……あたしなんて……どうかしら?||
『もう、キセキ。誰でも良いから決めとけよ。毎朝、うるさすぎる。俺はもうおまえとSF小説について語る気にはならない。疲れてる』
これも本音だ。
「え? タリア。漢字勉強の邪魔か? ほら、ミルルいるから君もミルルに話せ。シャイだな、君って……」
『当たり前だろ。そこにいる女子でも誰でもマナナでも決めとけ。合わなければ別れれば終わるだろ? マナナにも答えをやれ。こんな性格最低女、好きになれ ない気持ちは同感だが』
ミルルのことはスルーした。常通り、からかわれてるだけだ。
「お願い、キセキ。私にして。まずはお試しで」
||あたしにしてよ、キセキ君。愛情はたっぷりで、あたしは料理に嵌まってて性格も良いわよ?||
≪キセキさん、ミルルにしなさい≫
Uキセキくん…ウチではダメなん? ウチもキセキくんのこと好きやし……もうええやろ? ウチでU
「そうだな……。本気で誰か、僕は決めかねるが。強いて言えば、一番長い付き合いはマナナだ。タリアはマナナが嫌いらしいし。マナナもタリアが嫌いらし い。他の女子を選べば僕はタリアから怒られそうな感じもする。『またおまえのせいでクラスから女子が減った』とタリアに僕が責められかねない」
俺の机の前に立つキセキの茶色い瞳が……左右に動き、ヤツは茶髪を掻き毟った。
||何の話よ? キセキ君…。えっと……||
ナデシコが長い黒髪を触りながら、反論し始めた。
普段はおとなしめな和風女子なのに、白目をカッと向き始めてる。
≪月神さんのことなんてどうでも良いでしょ? ミルルにしなさい! ミルルは…キセキさんとは幼稚園時代から親交があるのよ? 忘れたなんて言わせないわ よ? ミル ルがキセキさんへ与えた愛の記憶を……。キセキさんが毎度、情けないから蹴って躾けてたでしょう? 誰のお蔭で今のキセキさんがあると思ってるの? ミル ルのお蔭でしょう!!≫
ミルルは腰まで伸びた茶髪をしならせ、眼鏡の奥から蛇のようにキセキを見詰めてる。
Uお願い、キセキくん。ウチにしてや。ウチ、純情やで? そりゃ……高校から突然、転校して来たし、親交は浅いけどな? 愛ってそう言うもん、ちゃうで。 ウチはキセキくんだけやで!U
低身長ロリ体型なカンサイはドングリ眼で甲高い声だ、ウサギのようにツインテールが揺れた。3名の金切り声が合唱し、耳が痛い。
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