ター
シャ泉の巫女E
『キセキの好きにしろよ。女子達もこう言ってるし、俺は別に怒ることもない。うるさいだけだ。決めてやれ、聞くのも疲れる、耳が腐る。クラスメイト全員の 迷惑だ。呆れてる』
「私はキセキが良い。お願い、キセキ。私にして? キセキ、覚えてる? 私が幼稚園の時、キセキと最初に会って……言ったこと。私とキセキの両親はもう仲 良しだし。私たち、
マナナは首を横へ動かし……肩揃えな黒髪を揺らし、キセキへ上目遣いした。――キセキの茶目がグルリと一周し、マナナの位置で止まった。
「分かった。僕はタリアとマナナの味方だ。付き合いも長い。マナナと付き合おう。それなら良いだろう」
「やった、うれしい。良いの? 私で」
マナナは黒い瞳を爛々と光らせ、若干ムチッとした
余程、嬉しいらしい。女子たち3名…眼鏡ミルル、大和ナデシコ、難波カンサイからは怒りの嵐だ。
腰まで伸びた茶髪を手で払い、ミルルは眼鏡を光らせ……薄い唇を
いつの間にか
≪どういう話よ? それ、ミルル、根性でも引き離すから?≫
||納得いかないわ。酷いわ、キセキ君…あたしだってね?||
Uなんでウチじゃないん? えっと。キセキくん、諦めへんで。
「キセキ、これからよろしく。まあ、ウチのお母さんとキセキのお母さんが仲良しなのは本当よ。だって…私がキセキを昔、
「はあ……結論も出た。去ってもらいたい。僕は今からタリアと”SF小説”同好会を開きたい。マナナなら別に良いかとも思う」
『……』
長年の決着はついたらしい。
『まあ、性格最悪女なのにキセキに選んで貰えたことを感謝するんだな、マナナ』
一応、祝ってはやった。
「うるさいわね。タリア。私は物事は自分で解決するわよ。あんたもミルルへちゃんとアタックしたら? 他人任せが酷過ぎでしょう?」
マナナが俺を睨み怒った。
「キセキ……またあとでね」
それからキセキに手を振って去った。キセキの席にある……数学のノートを写しに行ってるらしい。
||キセキ君、あたし……諦めないから。成績上位目指すから……。だから……。その。
Uキセキくん、ウチもそう。またあとで。今からキセキくんに認められるために……ウチ、頑張るで。はよう、
≪キセキさん、ミルル。次の数学で上手に黒板で解いて見せるから。それと……マナナとキセキさんは合わないと思うの。ミルル、死ぬほど……ショックよ。ミ ルルだってね? キセキさんとは幼稚園時代からの幼馴染だったのに…いつの間に、マナナと
ミルルは…腰まで伸びた茶髪をクネクネと蛇のように動かし、手で眼鏡をクイクイと上下に動かしながら…フン!とソッポを向く。
カンサイは頂点から伸びた黒いツインテールを揺らしながら…キャハっと顔をクシャクシャにさせて、笑い…キセキへ向かって手をバイバイと横へ振る。
ナデシコはおとなしそうな表情で首を下へ向けて地面を見詰め…キセキを横目だけで見て…腰まで伸びた黒髪を手に取って、枝毛を探し始めた様子だ。
3人はやっと……そのタイミングで無言で去って行ってくれた。
何だか、ミルルを含めた女子3人トリオでヒソヒソ会議をするらしい。どれだけキセキは、モテるんだ。ゲンナリもする。毎朝これだ。
異能マナナVS(眼鏡ミルル+大和ナデシコ+難波カンサイ)。この4名が俺の親友…灯台キセキを巡って恋の対決をしてる。この教室は……耳が痛くて、仕 方ない。見てるとアホらし過ぎる……。
「うるさくてごめん。昨日の”SF小説”の続きだが……タリアは最近、どんな小説に
『そうか。ありがとう』
「僕のこと、怒ってるか? 確かに漢字の勉強……邪魔になったな?」
『もう覚えた』
「そおか。女子3人トリオ、ナデシコやカンサイやミルルも……やっと去ってくれたらしい……。大変だった」
自慢されてるようにしか聞こえない。今日は疲れ切ってる。
『キセキ。悪いが俺は寝る』
「寝るのか? 今から”SF小説”同好会を始めるんじゃなかったのか? 僕は君の解説と切り口大好きなんだが…」
『おまえばかりモテて俺は
「そんなつもりは。そうだよな、確かに女子三人トリオまで君のことを貶してた。でも、僕は君って良い奴だと思う」
『寝るから去れよ』
「ここを離れればまた女子に絡まれる。まあ、マナナは今日から彼女だが。何だか不思議な気分だな、これは。これで僕は良かったんだろうか?
確かに。 毎朝、
しかも、もう僕の両親までマナナのことについては認めてる。
僕が気が多いことも知ってる。まだ、もう少しだけ遊んでいたいのも本音だが……」
『一人身に自慢は痛い。寝るから』
俺にだって……勉強頑張れば、20歳になれば…会える
「ごめん。
『……』
もう本気で寝ることにした。ふて寝ともいう。
「タリアは夜、何時ぐらいにいつも寝てるんだ? あまり寝てないのか?」
キセキが何か話しかけてるが…頭には入らない。楽しくはない。
「大きい声では言えないが。タリアは、密かにこっそりミルルが好きなんだってな。昔から聞いてる。……三人トリオ――カンサイやナデシコやミルルだけは選 ばない様にしてやった。ミルルは確かにマナナとは性格も正反対だな。君のこと応援してる。タリアなら出来る
『…』
俺は本当にモテてない。ミルルは…長身スレンダーモデル体型。茶髪ロング、眼鏡をかけた知的女子だ。マナナとは合わない様子で喋ってる姿を見たことすら ない。
「ミルルが僕に言い寄って来るたびにどう反応すればいいのか。お蔭で僕は困ってる君の好みは本当にマナナとは見た目も性格も特徴まで正反対なんだな。ミル ルはAB型、マナナはO型。全てにおいて正反対過ぎる、よほどミルルが嫌いなんだな。タリアは」
『……』
「まあ、
俺はモテるこいつ、嫌いに決まってる。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
学校が終わった後は。いつものミサだ。今日の学校は本当に見苦しいも良いところだった。あまり元気すらない。
ターシャ泉半径1kmに入れば、俺の体は女体化する。ターシャ泉半径1km東側は、関係者以外立ち入り禁止区域に当たる。そこに6畳程度の高床式青い鉄 筋テントもあるが。そこで、サッサと着替えを済ませる。
青いテント内部の全身鏡で見れば……厳かな深い水色の光に身をまとった天女がそこにいる。
華奢な体躯……長い睫に縁どられた淡い瞳、白い肌、何色にも 変わる金色の長い髪、細い鼻筋、薄紅色の唇。何故か……あまり人間味のしない宗教画が更に線が細く なった女がそこにいる。
―――(自分は美目麗しき妖精だ)―――
脳裏に叩付ける。今日も仕事を済ませなければならない。小雨がチラついてる。どんな日もミサへ出勤し なければならない。
台風の日もだ。サボったことは生まれてこの方ない。これをサボれば、この村に災いが訪れるらしい。真相は謎だ。しかし……両親から コンコンと言い聞かされてる。
青いテントで純白なドレスと透明なベール。それとファイクの花輪を頭にかざして。泉の上へ架かる”関係者以外立入禁止橋”を渡る。橋下に映るターシャ 泉は、夜で暗い。しかし、雨で水滴が揺れてる。雨音が深まっている。
小雨だが、傘が要るかもしれない。自分の周囲だけ神聖な深い水色の光に包まれてる。外は雨で夜だし、視界は暗い。
赤いテントがある。泉の中心地まで足を進める。今日は雨がチラついてる……。
髪が濡れた。赤いテントにある、タオルで煌めく金髪を拭く。客が少なけ れば幸いだ。
―――(今は6時30分ぐらいか。今日も早めに訪れた)―――
どうせ他に楽しみがある訳でもないし。待ってれば。
百日参りならぬ……10年近く参りする女はヤツだ。
と言うか。今日も尋ねてきたことに驚いた。報告でもしていく気なのか。
「今日もお勤めですか?」
マナナの黒い瞳は輝き、上目遣いだ。肩揃えな黒髪は雨で若干濡れて、少しだけ水色セーラー服も濡れて……服が透けてる。ブラジャーは見えそうで見えな い。俺の瞳は暗い。
「えと。昨日は数学の問題、教えてくれてありがとうございます。今日はお蔭で助かりました」
『……』
俺から光る色が赤、紫、深い水色と変貌する。不思議生物ここにありって雰囲気ではある。どう返事すればいいのか。溜息が漏れた。
「泉の巫女様って素敵ですね。発光して色が変わったり、綺麗なだけするだけじゃなく。数学の問題まで解けるのですね、もう感動して。次は……英語の宿題で も……」
『ここは塾ではございません』
俺の体から放つ光が赤になり、そこから紫になり……また深い水色へ移行する。
まだ開始30分前だ。非情に慣れ慣れしすぎる。こんなことをするのはマ ナナぐらいだ。
「いつ見ても、光り方が本当に綺麗ですね。ここへ来るお客様全員が巫女様を見て癒され、喜ぶのも分かります。見た目も凄い綺麗ですし、ずっと見てたくなり ます」
『……』
俺は赤い後光に包まれてる。ユラユラ光り方が変わるクラゲのようだ。まあ、人間には見えないだろう。鏡で確認しても自分でもそう感じてる。
「すいません。入館料も払わず、会話だけ。お母さん辺りに何か頼みごとがあるか聞いてきますから。やっぱり、私……思うんです。泉の巫女様には不思議な力 があるって」
俺の周囲に纏う光が赤から紫。そして、神聖なる深い水色へと変わる。俺は発光体だ。微妙に光ってる。
今日、学校でキセキと付き合えた話のことだろうか。それしかない筈でもあるが。その話をすれば突っ込まれるに決まってる。――――何故、知ってるのか と。寡黙を貫き通す。
『どこまで暇なんですか?他にすることないのですか?』
キセキのところへ行って来いと言う意味だ。業務妨害にもなってる。
「えと……。家にいてもどうせ勉強なんて分からないし。ココにいた方が楽しいし」
こんな空気で衝撃発言ばかりだ。もう頭が痛くなってくる。周りに漂う光が黄色にもなり、緑にもなり、紫に変わる。
『好きな方とかいないんですか? 男性の……』
知ってるが。知らないフリをして語りかける。
「えと……その……」
『私にばかり絡まないでください。私は神に仕える身。あなたはその方の元へ走るべきです』
正論だろう。
と言うかもう願い事なら今日、叶った筈だ。これ以上、俺の元へ通い詰める理由もないだろう。絡む発光が紫から……厳かな深い水色になる。
「えと……。どうなんだろう。あっと……」
何だかはぐらかれてる。まさか……あのあと、やはりすぐ振られたのか? まあ、あり得るかもしれない。この通り、マナナは性格が良いとは言い難い。俺か ら放つ光が深い水色から緑に変わり……紫へと変わる。
『失恋なさったのですか? その言葉のよどみは……』
またマナナに頼まれるかもしれない。力を与えて欲しいと。マナナに力を与えるのは気が進まない。というか……祈祷したところで、”0に近い確率を成功率 6割へ上げる”と言うのが謳い文句だ。効くのかどうかも不明でもある。
「えと。あ……」
マナナの頬が心なしか赤い。これはどちらの意味なのか? 照れてるのか?
『私には関係のないことですね』
俺から出てる光が灰色だ。本当に俺は七変化の光を放つ不思議生物で、妖精そのものだ。俺は地面へ視線を注いだ。溜息を吐いた。空気が重すぎる。
←『D』
小説目次
→『F』